4話 フレデリク、次期皇帝との出会い・前
~帝暦250年4月初頭 ローゼンブルク帝国皇領ヘレントル市~
フレデリク達が入学してから1月が経つ。
学期後半にある外征演習の班分けの参考として実力テストが行われた。外征演習は4~5年生で行われるが、全学年が同じ試験を行なうため、4~6年生の全高等学園生の成績が公開されてしまうのである。
試験範囲は義務教育範囲、学科は言語、数学、自然科学、一般社会、魔法の5科目に加え、冒険と実技の合計7科目が行われる。
この日は試験結果の開示とその上位20名の発表があった。
ちなみにこの試験、学習範囲は義務教育範囲なので、義務教育5科目は赤点を取ると補習確定である。
1位 700点 ジルフィア・フォン・ヴァイスフェルト(4-A)
2位 698点 フレデリク・ズワールト(4-A)
6位 685点 アレクサンドラ・ルミヤルヴィ(4-A)
11位 682点 エリアス・フォン・リューネブルク(4-A)
12位 680点 フローラ・ヴィフレア(4-A)
14位 678点 ファビアン・クラウフェルト(4-A)
17位 668点 レーア・ミュラー(4-A)
20位 666点 マインラート・バウアー(4-A)
フレデリクの知る限り高等部の上位20名で4年生が9人も入るのは凄いことに思える。
「あっぶな」
「負けた」
全校掲示板に張り出されており多くの学生が集まっていた。
ジルフィアはホッと安堵の溜息を吐き、フレデリクは肩を落とす。
「実技で足引っ張った」
肩を落とすレーアだった。冒険者学校において、実技が苦手というのはかなりの弱点である。成績を競うとどうしても万能タイプが成績上位に来てしまう。
「女子に成績上位者が多いね。」
「学問の採点比率が高いからな。実技比率が高くなると、男子が増えて来る。戦闘系科目は男子ばかりになるからな。去年の初等部の頃はもっと露骨に勉強が得意なものが上に来ていた」
ジルフィアがフレデリクに説明を加える。
「レーアは何ダメだった?」
「実技で80点取ったから」
「実技が無ければアーちゃんに勝てるというのは確かだったね」
アレクサンドラは魔法だけで実技を100点に達する優等生である。
「でもリッちゃんならジルちゃんに勝てると思ったのに」
アレクサンドラはジルフィアにフレデリクが負けた事に肩を落としていた。
「フレデリク、何間違えたんだ?」
「……社会の選択問題と数理の足し算引き算の場所をケアレスミスで」
「何でそこで間違えるんだ?」
頭を抱えて唸るジルフィアだった。
「あれだけたくさん問題が出て来て、1問たりともミスをしない方がおかしいんだと思うよ」
フレデリクが間違えたのは2問。1点しかつかないたくさんある問題のケアレスミスだけだ。
「ある意味、リッちゃんらしい」
「そうなの?」
レーアは首を傾げてアレクサンドラを見る。
「リッちゃんは昔から頭が良いし発想も凄くてお父さん達を驚かせたりしてたけど、どこか詰めが甘くてうっかりする。誰も出来ない事をする半面で子供出来る場所をシレッと失敗する」
「この手の試験だと完ぺきにこなすジルフィに勝つには厳しいね」
レーアとアレクサンドラが自分達の婚約者についてを話していた。
フレデリクがジルフィアと話していると、
「あらあら、流石はジルフィですね」
背後からおっとりした感じの声が聴こえてくる。ジルフィアは既知の先輩のようで頭を下げながら挨拶をする。
「クラウディア先輩」
フレデリクが振りむくと、そこにはウェーブ掛かった長い金髪の女性がそこに立っていた。見ただけで貴族だと分かるような女性だ。
「3位の先輩だよ」
「ウチの学校で一番迷宮の深い場所に潜ってる先輩」
フレデリクは誰だろうと思えば、アレクサンドラとレーアはすぐに答えを教えてくれる。
確かに順位表の上から3番目にクラウディア・フォン・グロスクロイツの名があった。6年A組の生徒のようである。
グロスクロイツと言うと大貴族、始祖三大侯爵家の一翼を担う家だ。
「お初にお目にかかります、フレデリク・ズワールトと申します」
「あら、丁寧。帝都の英雄の息子が入って来たと聞いてどんな子かと思えば随分と可愛らしくて礼儀正しいのね」
「帝都の英雄の悪名が酷いですから」
「貴族達がわざと流してましたからね。昔、本人に会った事がありましたが、礼儀正しい騎士らしい方でしたよ。むしろうちの父の方が酷い位です」
クラウディアはにこやかに笑う。
「確か同期でしたっけ?」
ジルフィアが思い出すように尋ねる。
「ええ。並べてどっちが貴族かと聞かれたら間違いなく、私は父が平民だと勘違いする自信があります」
「伯爵に失礼ですよ」
溜息を吐くジルフィアだった。
「伯爵?グロスクロイツは侯爵領では?」
フレデリクはコテンと首を傾げる。
「ああ、私の父は次男で、グロスクロイツ領の東にあるベルクハーフェンを治めているグロスクロイツ伯爵です」
「ああ、なるほど」
「ベルクハーフェンってそう言えば火竜王に襲われた場所だったな。もしかしてフレデリク、行った事あるんじゃないか?」
ジルフィアはフレデリクを見る。
「あるよ。帝国騎士団にはがっかりさせられたから覚えてる。金獅子騎士団の連中が民を見捨てて街から真っ先に逃げたんだ。僕の知る騎士団と全然違うからビックリした。アルノルトさんが『これが帝国騎士団のスタンダードだぞ』と教えてくれた」
フレデリクは肩を竦める。
ルミヤルヴィにいる白狼騎士団は最後尾となったフレデリクとザシャを逃がし、最後まで戦ったうえで、
「父が偶々来訪してたアルノルト達に住民避難をしてもらって被害は最小で収められたと聞いてましたが、フレデリク君もいたんですね」
「正確には僕が火竜王討伐の為に追いかけていたから、偶々ではないし、戦うには住民避難が先だと判断しただけだよ」
「フレデリクは割と常識人なんだよな」
ジルフィアはぼやくとフレデリクはどこら辺が常識人に見えなかったのだろうかと首を傾げる。
「普通は復讐を優先させて、街中で人命無視して火竜王と戦うと思う」
「リッちゃんはその辺、お父さんや両親の教えが染み付いているから」
レーアの言葉にアレクサンドラはその程度で一線を踏み越えるような人格じゃないと保証する。
「帝都の英雄の息子ですか。私としては今度の迷宮探査でフレデリク君に手を貸してもらいたいですね」
「迷宮探査?ここのですか?」
「私はこの地で歴代最高記録に並ぶ15層まで辿り着きたいと思っています。今の在校生のグループは我々の10階層が最高記録です。」
クラウディアは大きい事を言い出す。見てくれも貴族らしい貴族令嬢が、意外な野望を持っていることにフレデリクは驚くのだった。
あの成績だと実技の評価基準が低くてもそれなりに戦えるだろう事は分かっていた事だが。貴族のお嬢様が迷宮攻略?
「何で、ですか?かなり困難であると聞いてますが」
「私にはグロスクロイツの継承争いに加わる資格さえ与えられてません。大した能力もない従兄弟や弟がその地位に立っていて、女だからという理由で外れているのです。だからこそ、女であっても力がある事を示したい。その為の活動です」
「んー、であれば、尚更ダメじゃないでしょうか?」
「ダメとは?」
「僕は紅玉級冒険者です。そんな冒険者が入ってしまえば、それはもうクラウディア様の手腕だと認めて貰えないのではないかと思います。少なくとも、僕がグロスクロイツ候であれば『男を取り込む力が長けてるなら、政略結婚させよう。上手く懐柔しろ』と自分の望みと遠い提案を出してくるように思いますが」
「否定できませんね」
フレデリクの言葉にクラウディアは肩を竦める。
「迷宮を潜る手助け自体はしても構いません。僕も迷宮を潜るつもりがありますから。ですが、結果として、クラウディア先輩の目的を果たす事は出来ないと思いますよ」
フレデリクは首を横に振る。
「残念ですね。私が浅慮でした。ですが、フレデリク君はここの迷宮攻略を考えてるんですか?」
「3年前、西部迷宮攻略をしようとしていた父にここで経験をして来いと言われて学園に行く予定でした。今夏、僕は父に代わって領軍を率いて西部迷宮挑戦するつもりです。その前に、ここを本気で挑戦するつもりです」
さらりと父に代わって偉業に挑戦すると言うフレデリクの言葉に周りの女子達はほうっと溜息を吐く。
あまりにも自然に、帝国最大の英雄に代わって偉業を為そうとする姿は親の権威を引き継いで威張り散らすダメ貴族ばかりを見て来た人間達にとって、現在最高の冒険者の一人に名を挙げた男の志の尊さに感じ入るモノがあった。
「だが、その割には何もしてないな?」
ジルフィアは首を捻る。
入学してからフレデリクはクラスに馴染むよう交友を広げていたが、まだ迷宮には入っていない。
「準備は着々と進めてるよ?冒険者時代は全部師匠が用意してくれてたから、いつでも迷宮に突っ込めたんだよ。準備を全部自分でしてるから時間が掛かる。物資も集めてるし、パーティメンバーも集めたいし」
「私も行きたい」
アレクサンドラが挙手する。フレデリクはアレクサンドラを見て少し考える。
「経験不足はともかく体力がなぁ……」
「むー」
「アーちゃんの探索には付き合うからさ。僕の探索には付き合わせられないけど」
フレデリクは自分の探索はかなり密度の濃いものにするつもりのようだ。
そして、フレデリクのペースについていくのは厳しいとアレクサンドラも諦めざるを得なかった。
「過去の情報を集めて、どこまで行けるのか自分を試したいんだ。そう言う意味ではクラウディア先輩のやろうとしている事自体は同じ目的とも言える。手を貸せるならしたいけど、どう考えても目的から遠ざかりそうだし。僕の名前は大きすぎる」
「それでしたら、私のチームルームに来ませんか?ヴォルフ様達の残した資料の写しが全部あります。まあ、資料は全て皇帝陛下が書き残したそうですが」
「皇帝陛下が?」
「皆、戦うメンバーばかりで、彼らを制御し、指示を出しながら方針を決める仕事を陛下がしていたそうです」
「父はかなり暴れん坊だったらしいですから。勝手に突っ走って困らされてたって母さんから聞いています。領主様は『俺も同じ判断を下していただろうが、俺が賢者でヴォルフが野獣と言われていたのは、日頃の行いと、説得する努力をしたかどうかだな』と言っていました。父さんはヴィルヘルム様の下で足りないものを教わりしっかりした騎士団長になったそうです。きっと陛下も当時の説明できない父に振り回されたのでは?」
「私の知る騎士の中の騎士とも言うべきヴォルフ様はヴィルヘルム様の教育の賜物だったんですね」
「リッちゃんはそう言う先達と教師に習っているから、とっても優秀」
「ルミヤルヴィは安泰そうですね。つい先日まで滅びるかもしれないと言われていたとは思えない程に」
そんなクラウディアの言葉に、ジルフィアやサラは苦笑する。
その滅びるギリギリの状況を押し返して安泰させる程の力を見せた男が目の前にいるからだ。
無茶をしがちなアレクサンドラを火竜王が現れる前まで一人で支えていた男、それがフレデリクである。サラが男嫌いであっても、認めざるを得ない力の持ち主だと理解していた。
そんな、実力試験の発表を眺めている多くの生徒が集まっている中、学生たちが慌てて廊下の端に寄りだす。
フレデリクは何だろうと思って周りを見ると廊下をズンズンと歩いてくる男達の一団が視界に入って来る。
エトヴィン・フォン・ローゼンブルク第二皇子殿下、帝国宰相ザルム公の次男ミヒャエル・フォン・ザルム、軍務卿リューネブルク公の三男アントン・フォン・リューネブルク、大貴族グロスクロイツ候の嫡孫ペーター・フォン・グロスクロイツ、そして皇領伯爵家の嫡男にして15歳にして帝国十剣に名を連ねるヘルムート・フォン・ヒンデンブルクの5人組だった。




