2話 学園生活の始まり④
昼食時間が終わると、学生たちは編入生たちとの顔合わせになる。
4年A組もまた同様に顔合わせをしていた。
「フレデリク・ズワールトです。得意な事は雷魔法と神聖魔法、それと剣術です」
男子生徒がオオオオと盛り上がる。フレデリクはその盛り上がりの意味を理解し、即座にこう切り返す。
「ちなみに性別は男子です」
ぴたりと声が止まる。嘘でしょ?みたいな空気になり、フレデリク本人は諦めの心境だった。。
「な、言ったろ。絶対に必要だって」
マインラートがゲラゲラと笑ってフレデリクの肩を叩き、その隣でアルバンがうんうんと頷いている。
「ちなみに、フレデリク君は既に紅玉級冒険者なので、同学年ですが皆の先輩冒険者でもあります。冒険者として分からない事があったら彼に聞いてください。本学では校長の次に高い冒険者の階位なので」
「そう言えば帝国に紅玉級以上って少ないんだっけ」
フレデリクは溜息を吐く。
「ヘレントルにも2人いますよ。冒険者パーティ『黄金の剣』のリーダーをしている<白き閃光>とソロ迷宮探索者<深紅の死神>がいますから」
「紅白で目出度さそうですね」
「死神の異名は目出度くは無いと思うよ」
フレデリクが教師の言葉に首を傾げると、即座に周りの生徒が突っ込むのだった。
突っ込んだ生徒がふと自己紹介をして無い事に気付き、
「あ。折角だから編入生たちの最期になるが、僕も自己紹介をしておこう。去年まで男子のまとめ役をしていたエリアス・フォン・リューネブルクだ。リューネブルクと言っても五男の庶子で、使用人の母に育てられただけの子供だから平民と変わらない。学校で分からない事があったら頼ってもらって問題ないよ。勿論、冒険者として頼られても困っちゃうけど」
金髪碧眼の優男が礼儀正しく貴族の儀礼に乗っ取った礼をして自己紹介をする。ちょっとしたジョークを入れるあたりでクラスメイト達がどっと笑い、この少年がクラス代表であり、クラスのまとめ役だった事がよく分かる。
「うん。よろしく。」
「ちなみにBクラスには第2夫人の四男がいるから気を付けた方が良いぜ。こっちは綺麗なリューネブルクだけど、向こうは面倒臭いリューネブルクがいるからな」
ゲラゲラと笑う男子生徒に、顔を引き攣らせて周りに抑えるように訴える優男だった。多分、彼が綺麗なリューネブルクなのだろうと、初見の全員が理解するのだった。
「席はたくさんあるので自由に座ってください。A組は48人教室を30人で使っているので」
「何故、そんなに人を少なくしてるんですか?」
「ウチの学校は毎年のように規格外に優秀な生徒が入ってくるんで、48人もいるとついていけなくなる生徒が多数出て、教師の目が届きにくくなるんです。A組の中は格差がかなりでるので」
学生レベルに合わせさせろよ、とフレデリクは突っ込みたかったが、恐らく実力主義の名のもとに能力を伸ばすべくガンガンやらせたのだろう。
「それじゃあ、空いてる席についてください」
「リッちゃん、リッちゃん」
アレクサンドラは手を振ってフレデリクの方を呼びかける。
フレデリクは苦笑して、そっちの方へと歩き出す。
「じゃ、僕は向こうらしいので」
「くっ、お前のような奴は爆ぜてしまえ」
「爆ぜさせる奴に言われるとちょっと怖いな」
「確かに」
アルバンも苦笑しながら空いている席へと歩いていく。
***
「や、よろしく」
「ヴァイスフェルト嬢、お久しぶりです」
「畏まらなくていいぞ。大体、男子はヴァイスフェルトさんで統一されているからな」
「じゃあ、そうさせて貰おうかな。ヴァイスフェルトさん」
「ところで旦那様」
「旦那様やめて」
僕らが席に着くや、遠くから席替えしに来たのはレーアだった。レーアに付き従うように赤い髪の今時風な少女がやって来る。
「むー、何て呼べばいい?リッちゃん?」
「普通にフレデリクが良いです」
レーアがプクッと膨れてフレデリクは溜息を吐く。
「えー、本当に男なの?」
「男だったぞ?」
ジルフィアが口にするとリリーはポッと頬を赤らめて
「じ、ジルフィってば、何で知ってるの。まさか浮気?浮気なの?」
「んな訳あるか。帝都で神眼の鏡の前に立ったからな、フレデリクは。帝都の英雄と帝都の聖女の息子で、迷宮攻略者で、賢者で、ちゃんと男だった」
「まあ、ジルフィは頭は良いけど、目が良いとは限らないし」
「どこまでも信じて貰えないんだけど」
「仕方ない。だってリリーだから」
レーアは諦めるように言うので、フレデリクはそう言う子なのだろうと諦めるのだった。
「諦めが早いな」
「昨年、三週間ほど女社会の生き方を教えてくれた姉さんがいてね。女は理不尽なもので、理不尽を受け入れて生きて行けば大体上手く行くって言ってた」
「あー」
アレクサンドラは、以前聞いた娼館潜入時にお世話になった一流娼婦のお姉さんだと理解する。
「さて、皆さん。特に編入生の子たちは、大変だったと思いますが、今年の4年A組の編入生は非常に優秀だという事で校長からちょっとハードな試練を受けたと聞いています。ですが、このクラスの大半の生徒さんは1年の頃に同じ試練に遭遇しているので、そう言う意味では、異なった環境で生きて来ても皆さん同じ脅威から生き残った仲間です。仲良くやっていきましょう」
マリア教師が口にして、フレデリクは迷宮での事を思い出す。
わざと迷宮でモンスタパレードを起こすとかやめて欲しいと思うだけだが、甘さが少し抜けたようにも感じる。それが狙いなのだろうか。
「明日からは選択教科の体験会があります。皆さんには全学科を体験してもらい、実際にどこにするかを1週間後に決めて貰いますので、どこの選択教科を取るか考えて講義を受けてください」
様々な学業に対する注意事項や、高等部の単位制度についての説明が1時間ほどされる。
「それでは最後にクラス委員2名を決めたいと思います。立候補者はいますか?」
「クラス委員って何?」
フレデリクはアレクサンドラに訊ねる。
「学校全体の集会があるんだけど、クラスの代表として参加して、何があったのかをクラスに説明したり、クラスの要望を集会で学校に伝えたりする役職だよ」
「初等部までは私とリューネブルクで受け持っていたんだ。アイツは人当たりが良いから、グロスクロイツや品性のないリューネブルクの方がBクラスに異動したおかげで、アイツがクラス委員になって、クラスの風通しも仲も良くなったからな」
アレクサンドラの回答にジルフィアが付け加える。
エリアスの兄は面倒臭くて品性が無いのか、とフレデリクは別の所に引っ掛かるがクラス委員のやる仕事に関しては理解を示す。
「推薦はありますか?」
するとエリアスが手を上げる。
「はい、エリアス君」
「ズワールト君が良いのではないでしょうか?高位冒険者で、雷華の騎士と言えばギレネの軍勢を指揮した経験もあると聞きます」
「な、なるほど」
マリア教師は黒板にフレデリクと名前を書く。
「はい」
フレデリクは挙手をする。
「フレデリク君」
「去年からやっていたリューネブルク君が良いのではないでしょうか?クラス委員の仕事は、聞けば中間管理職や高位官僚の仕事に近いと思います。ぶっちゃけ、僕は領主教育を受けていたので目線が領主や指揮官で、同格の相手と調整し合う業務は向いていないかと。何より将来が決まっているので、こういうキャリアは平民になる人の方が良いキャリアになると思います。僕は今平民でも将来は貴族以上になるのは決まっているので」
「他に推薦者はいませんか?女子の方も推薦者はいませんか?」
「はーい。女子はジルフィで良いと思います」
一人の生徒が推薦をすると他の女子もうんうんと頷く。
「他にいないようなら決を取ります」
マリア教師は周りを見渡して他に推薦者が出なかったので多数決を取る事にする。
結果はジルフィアとエリアスの二人に決定するのだった。
「では今年もよろしくお願いします」
「「はい」」
「さて、後は…そうですね。今年の外征演習の場所が決まりましたよ」
「がいせいえんしゅう?」
編入生たちは首を捻る。
「外征演習とは実際に魔物の出る訓練場で、キャンプを張って魔物と戦う訓練を積むことです。実際、我が学園は入学しても迷宮に入らず冒険者として稼ぐこともできるので、戦闘経験が薄くても卒業までこぎつけてしまえるんですよね。その為、一度は外征演習を行なって、戦闘経験の単位を取得します。我が校の学費は、B組を除けば自身の冒険者活動による稼ぎから還元されるシステムですので。ちなみに既に中等部時代の稼ぎをそのまま収めて高等部の学費を支払い済みの子もいますよ。編入生はこれからですね」
「冒険者時代の稼ぎを当てられるの?前に稼いだ額を収めたら終わり?」
「フレデリク君。学生になってからの稼ぎにしてください。」
「そう言えば、袋いっぱいの金貨を稼ぎとして持ち歩いていたな……」
ジルフィアはフレデリクをジト目で見る。
「で、所で既に学費を収め済みって誰?」
「アレと、私とサラとアレクサンドラの4人だな」
ジルフィアがアレと言って差したのは件のリューネブルクだった。
「優秀なの?」
「大体なんでもできる上、B組の兄貴に課題を押し付けられて二人分の課題を出していたり、その取り巻きに単位を奪われたりしてるが、勉強ではサーシャと互角だし実技もほとんどが優秀な成績だから。こう言っては何だが、生まれのせいで損をしてるがリューネブルク家で一番出来が良いかもしれない」
「まあ、男の中では悪い奴じゃないわね」
「馬鹿な。ラウテンさんに褒められるだと」
「リッちゃん、そんな珍しい話じゃないよ」
アレクサンドラは否定するが、
「いや珍しいでしょ」
「うんうん」
リリーとレーアが即座に突っ込む。
***
学園初日のホームルームが終わり、解散となる。
「リッちゃん、帰ろ。ニナちゃんが迎えに来るまで待ってよう」
「うん。そうだね」
すると僕らの前にギレネの3人組がやって来る。
褐色の肌を持つエキゾチックな美貌を持つファビアン・クラウフェルト、同じく褐色の肌を持つ背の高いいかつい顔をしたお付の騎士ヤン・ハウアー、同じく褐色の肌をした綺麗な顔立ちをした侍女のミルテ・フェルメーレンの3人だ。
「やあフレデリク。それに貴殿がアレクサンドラ・ルミヤルヴィ嬢かい?」
朗らかに声をかけて来るのはファビアンだった。
「ん、そうだけど……誰?」
「ギレネのクラウフェルト侯爵の息子でファビアン・クラウフェルト。父上の方とは一緒の戦場で立って、かなり頼れる騎士だったね。実力的に言えば僕の剣の師匠の一人でもあるゲオルクさんと同じくらい強い人だった」
「それは凄い」
アレクサンドラは帝国屈指の実力者と並ぶ程強い人がいると聞いて驚く。
「雷華の騎士に褒められるとは父上も流石だと言っておこう」
「僕だけじゃなくアルノルトさんもギレネ騎士達の強さに舌を巻いてたよ」
「ハハハハッ。我が父上は果報者だな。時にアレクサンドラ様。ヘンドリカ様は息災でしょうか?」
「お母さん?あ、そうか、ギレネのお姫様だった」
「アレクサンドラ様は、女王陛下の末妹ヘンドリカ様の息女であらせられますから」
「お母さんなら元気だったよ。リッちゃんと仲良しなのは小さい頃から一緒だし、婚約者だからだよ」
「婚約者?」
「そうらしい。僕もつい最近まで知らなかったけど、両親同士で成立してたらしいから」
「なるほど。となると僕らは義理の従兄弟にもなるかもしれないのか」
「義理の従兄弟?」
「ファビアン様は第二王女アントニア様の息女リサ様の婚約者なのです」
「あー、そういう事。ギレネに行った時は気にした事なかったけど、アントニア様はそう言えばヘンドリカ様の姉君か」
「アントニア様には会っていたんですか?」
「いや、あの人、スタンピードの時最前線で戦ってたでしょ。あんな恐ろしい女騎士始めてみたと思っていたら、聞けば第二王女だったとか。冒険者なら紅玉級だった人だって聞いたよ。一瞬、アルノルトさんの妹か何かだと思ったもん」
「フレデリク、女性に失礼だろ」
ジト目で見るジルフィアだった。
「いや、剛腕殿と体格で負けない女性だからな。ギレネ王族は女ながらも腕力に優れた女性が多いんだ。その中でも歴代屈指の実力者だから。むしろヘンドリカ様やリサ様の様な小柄な方の方が珍しい」
「ヘンドリカ様も小柄ってほどじゃないだろ?」
ジルフィアは顔を引きつらせる
「ギレネ女王は背が高いから。ラウテンさんくらいあるんだ。スラっと背が高くて綺麗な人だったよ。ヘンドリカ様が小柄だというのも分かる。ラオウルの冒険でもラオウルの肩位の背丈だって言うけど、ラオウル自身がかなり大柄な人だからね。ヘンドリカ様はラオウル以外の男から生まれた子供だから小柄だって話だけど、上の二人は背が高かったし」
フレデリクはラオウルの冒険で描かれていた通り、ラオウルは元々ギレネのお姫様を欲してメルシュタインを統一して次期女王フローチェとの間に二人の子供を儲ける結末で終わる物語だ。その過程で多くの浮名を流しまくっていて、メルシュタイン王国を作ったのもその過程で起こった話でもある。
「あんのくそジジイあちこちに子供孕ませやがって」
「いや、サラ。ラオウルの冒険は大半が女に惚れて正義を成して男女として結ばれていくという英雄色を好むを地で行く話だからな」
サラの腹立たしさはともかく、ラオウルの冒険とはそう言う話だとばっさり切り捨てるジルフィアだった。
フレデリク、アレクサンドラ、サラ、ジルフィアに加え、ファビアン、ヤン、ミルテの3人が集まって話している中、更に褐色というよりは日焼けをした健康的な小麦色の肌をした一人の少女がやって来る。
「ねえねえ、今、ウチのお祖父ちゃんの話してた?」
「お祖父ちゃん?」
「うん、お祖父ちゃん。ラオウル」
首を傾げるサラの言葉を肯定するのはやって来た小柄な少女だった。
「確かヴェルメイレン・ズワールトさんだったか」
「うん。そう、それ」
フレデリクと握手をしてぶんぶんと振る。
「僕はフレデリク・ズワールト。もしかしてヴェルメイレンさんてメルシュタインにある密林に住むアマゾネス部族の人?」
「そうだよ。アマゾネスのズワールト氏族の長ルイーセ女男爵の孫娘が僕なんだ」
「やっぱりそうなんだ。僕のお父さんがズワールト氏族だったって話を聞いてたからさ。もしかして同じ部族の人かなって」
「男の子生まれるの珍しいんだよ。外に出た人なんて、あまり居なかったと思うけど」
「父さんがアマゾネスの部族から逃げて来たって話は聞いてるよ」
「あははは。だよね。まあ、にげるよねー。私のお父さんもどこかの冒険者だったらしいんだけど、女たちに惚れられて死ぬまで搾り取られそうになって逃げたんだって母さんが言ってたから」
遠くを眺めるフレデリクだった。女に襲われて逃げたという父の言葉を理解する。
するとジルフィアが好奇心を持って話に加わる。
「アマゾネスってどういう部族なんだ?女ばかりだとは文献や本で聞いていたが」
「多分そのままだと思うよ。僕はちょっと変わり者でね。ウチの部族は気に入った男に群がるんだけどね。僕はお父さんが置いて行った本に夢中になってね。勉強をしてみたいと言ったら、お祖父ちゃんが昔の友達の経営してる学園を紹介してくれたんだ」
「お祖父ちゃんって校長の友達なの?」
「そうだよ。お祖父ちゃんは僕らの集落がある土地を収めてる王様だから。ラオウルでしょ?お父さんが置いて行った本にも書かれてたし」
「ズワールト氏族の子供がラオウルの子供ってのは本当だったんだ」
と驚いた様子でアレクサンドラが呟く。
「どういう事?」
「お父さんがずっと気にしてたんだよ。昔ラオウルとアマゾネスに行った事があるって。その頃のお父さんは子供だったけど、ラオウルはアマゾネスの長ズワールトとの間に子供を作ったんだって。その子供がヴォルフ様かもしれないて」
「ヴォルフ叔父さんのこと知ってるの?お母さんのお兄ちゃんで10歳くらいの頃に逃げ出したって。生きてたんだ」
「え、ちょい待て。ヴェルメイレンさんってヴォルフの姪っ子?って事は僕の従兄妹!?」
「え」
フレデリクはまさか自分の親戚がいて、この学校で会うとも思ってさえ無かった。
「ヴォルフの子供だけど」
「うそ。ホント?えー、何か全然ウチの部族っぽく無いけど……」
「リッちゃんはお母さん似だから。性別以外全部そっくり。確かに小父さんはお母さんに似てちょっと肌が浅黒かったよね」」
「ただ、ルミヤルヴィは寒いから、ヘンドリカ様も父さんも肌の地がちょっと濃いかなって感じで、ヴェルメイレンさんほど焼けてはないかな」
「民族が違うのもそうだが、こっちは陽ざしが弱いからねぇ」
「過ごしやすいですね」
「でも寒い」
「確かに寒いですね」
「僕からするとここは暖かいけど。まだ3月なのにね」
「うん。そう」
フレデリクが温かいと言って、うんうんと頷くアレクサンドラだった。
「さてと、アレクサンドラ様に挨拶も出来たので、我々はこの辺で帰らせて貰うよ」
「ああ、またね」
ファビアンは手を振って去り、それに続く二人の従者たち。
「アレクサンドラ様、お迎えに参りました」
「ニナちゃんいらっしゃい。それじゃ、帰ろうかリッちゃん」
「そうだね。それじゃ、僕らも帰るよ」
こうして慌ただしい入学初日が幕を閉じるのだった。




