2話 学生生活の始まり②
ヘレントル高等学園のクラス分けは成績順である。
学力と専門技術を足した成績がクラス分けの要素になる。Aクラスから成績順で上位から男女関係なく並ぶ。
ただし、Bクラスは貴族や商人の子弟という高所得層が寄付金を払う事で成績を公表しないと同時に実力に関係なく配属される。その為、Bクラスは人数が少ない時と多い時がある。1クラス30名で、魔法を高く評価するので魔法能力で入学する女性が多いので、上位クラスは女子比率が高い。
Bクラスの中の生徒はAクラスより成績が高いケースもあるし、最低クラス以下でも卒業だけは出来てしまうという問題もあった。
1~3年生が初等部で4~6年生が高等部となっているこの学校において、高等部4年A組では30人定員の内の半数がクラスにいた。
「去年までAクラスにいた生徒が随分減ったね」
「ほとんどBクラスかCクラスに移動したみたい」
アレクサンドラにレーアが頷く。
「今年は優秀な留学生が多く来てるらしい。さっき、職員室で先生から聞いた」
ジルフィアはクラス代表として既に情報を仕入れていた。
「そう言えば、リリーはA組に入れて浮かれたわね」
「3年かけてG組からの下克上だから」
サラが苦笑して遠くで他の女子と話しているリリーを見ながら苦笑し、レーアが頷く。
「リリーはともかく、話題になる程、優秀な人が来てるの?」
「フェルディナント校長が実技試験を行なって、満点を出した生徒が二人いたらしい」
「マジで?」
サラはジルフィアの出した情報に驚きを見せる。校長は時折学生の戦闘訓練を見るが、辛口な事が有名だった。他の先生たちがその評価を10倍にするほどだからだ。
「一人はリッちゃんだよ。剣だと手も足も出なかったけど、隙を狙って勝って来たって」
「まあ、予想通りだけど。私の旦那様は別格」
アレクサンドラが口にして、レーアはうんうんと頷く。
満点どころか人類最強の剣士を相手に試験で勝利を奪って来るとは、とジルフィアも呆れてしまうのだった。サラも少し悔しそうにしていた。
「まあ、人類の頂点に近い紅玉級の化物だからな。しかも功績を考えれば金剛級でも問題ないレベル。問題はもう一人、満点を与えられた学生がいるという点だ。今年の我々の世代、黄金時代を超えるかもしれないと評判だ」
ジルフィアは苦笑するように説明する。
「黄金時代が何だって言うのよ」
サラがふんと鼻で笑う。
「黄金時代は皇帝陛下に加え、帝都の英雄、後の帝国十剣と金剛級冒険者、帝国七大魔導の5人がいるからな」
「現時点でアレクサンドラは七大魔導に入れる実力者よ?」
「というか、入ってないだけで、元白狼騎士団の連中のレベルの高さを見たが、あの連中が全員帝国十剣と七大魔導を埋めていてもおかしく無かっただろ」
「確かに、サーシャが戦力扱いされない領地とかありえないと思ったけど、実際あの連中はおかしい」
ジルフィアとサラは顔を引きつらせて元白狼騎士団の面々の練度を思い出す。アレクサンドラは彼女たちを連れて墓参りに行った際にリンノイトゥスでスタンピードが起こったが、元白狼の連中は圧倒的戦闘力で魔物を蹂躙していた。
「旦那様は?」
「あとで編入生たちと一緒に合流するらしい。午前、編入生はダンジョン見学があるらしいからな」
「懐かしいね」
「うん」
3年前に彼女たちが通った道でもある。
「あいつに見学なんて必要ないでしょうに」
サラは肩を竦める。
「フレデリクだけなら必要ないだろうが、編入生の大半はダンジョンを知らないのだから」
「それもそうね」
ちなみに、学園における魔法の査定、特に治療系魔法の査定は大きい。その為、魔法技術においては男女平等の習得速度を持つ為、どうしても男だけにならない要因となっている。実際、治療系魔法使いの需要は高いのだ。それはこの迷宮都市だけではなく、冒険者パーティに1チームに必ず一人は欲されるのだから。
***
ヘレントル高等学園4年編入メンバーは500人を超える。A組とC組は30人、B組は希望者で人数が決まってないが、他は48人というクラス構成だ。10クラス近く人が増えているのだから凄い人数でぞろぞろとダンジョン見学に向かう。
「通常のダンジョンはスタンピードを起こし、近隣付近の街を滅ぼしたりする危険な存在であるが、実はこの地獄迷宮ヘレントルはスタンピードが存在しない」
ダンジョンの説明をしながら歩くのは実技講師のベルント・エーベルヴァインだった。高い背丈に分厚い肉体、巨大な盾と剣を持って前を歩きながら説明をする。
「何でか分かる奴はいるか?」
エーベルヴァインの問いにスッと手を挙げたのは褐色の肌をした美しい顔立ちをした青年だった。
「えーと、クライフェェルトだったな。答えて見ろ」
「はい。母国の資料には地獄迷宮は深く大きいため、命令された魔物が迷宮の外に出るところまで命令を忘れる為と聞いてます」
「実の所、それも一つの説であり、実際の所は多くの説があって分かっていない。一つ分かっていることは迷宮が大きすぎて、スタンピードを起こせない。その代わり、この迷宮では他の迷宮に無い現象が発生する。それがモンスターパレードだ」
「モンスターパレード?」
首を傾げる外国から来ている学生達。フレデリクはヴィルヘルムに教わっていた為、事前知識は持っていた。
「ダンジョン内に小規模なスタンピードが起こるんだ。これは魔物の移動によっておこる自然発生的スタンピードと同じように起こったりもする。予想つかないから初心者がばったり出くわして終わってしまうなんていう悲劇がよくある程でな。どんなパーティ編成でも、どんな浅い階層であろうと関係なく起こるから、この迷宮は最も悪辣だと言われている」
エーベルヴァインの言葉にフレデリクは悪辣の意味を理解する。
基本、迷宮は砂漠迷宮も西部迷宮も魔神の眷属が世界へ攻撃する拠点だった。
だが、ここの迷宮は明らかに攻撃拠点ではなく、中に来たものを食らう場所であり、外へ攻撃する為のものではないのだ。
だから、こちらの攻撃に対して無防備な迷宮と異なり、こっちの迷宮はこちらの攻撃を封じるための迷宮なのだ。
「面白いね。魔神の眷属にも人格があるんだろうな。一括りに考えてはダメか。僕は西部迷宮の為に育てられてきた一族に習ってきたから、そう言う技能に特化していたし、継戦能力を求められてきたけど、砂漠迷宮はむしろ一度に大量の敵と戦う戦闘力を求められる。風魔法LV10、大量虐殺魔法として有名な<風刃竜巻>は確かギレネの初代女王が開発したと聞く」
「君、詳しいね。ギレネに来たことが?」
ファビアンはフレデリクに訊ねる。
警戒するようにファビアンに付き添っている女生徒が、ファビアンとフレデリクの間に入って睨んでくる。
「?……僕はルミヤルヴィの現辺境伯アレクサンドラ様の幼馴染でね。アレクサンドラ様の母君はヘンドリカ様だから砂漠迷宮の事は聞いた事がある。前辺境伯様はルミヤルヴィは雷華の賢者だから」
「ああ。なるほど」
うんうんと頷くファビアンだが
「ちなみにこいつ、男だぜ」
「嘘だろ!?」
マインラートがふと突込み、ファビアンは盛大に驚くのだった。
フレデリクはどこか悟った顔であきらめの溜息を一つ吐く。
「とはいえ、まさか学園にギレネの人が、しかも侯爵家の人と出会うとは思わなかった」
「あははは。ウチは武門の家だからね。近い将来迷宮攻略に乗り出す予定なんだ。その為、僕は迷宮攻略に関して最も知見の広いこの学園に来たわけなんだけど………僕が侯爵令息って言ったっけ?」
ファビアンは不思議そうにフレデリクを見る。
「去年の叙勲式の夜会でクラウフェルト候に挨拶されたからさ。令息かは知らないけど、多分、閣下の血縁かなと」
「去年の叙勲?…………あっ!……ま、まさか」
フレデリクは自分の口元に指をあてて静かにするようにジェスチャーをする。
「あまり肩書とかで威張ったりしたく無いから、隠すつもりもないけどあまり口にして欲しくないかな」
「分かった。OKだ。しかし、驚いた。アレクサンドラ嬢の幼馴染か。あの魔法の理由が分かったよ」
「僕もそちらと一緒。近々西部迷宮攻略に乗り出すつもりなんだ。3年前、父や領主様が乗り出そうとして火竜王に襲われて挑む前に終わったけど、僕が音頭を取って挑もうと思ってる」
「貴殿がか?」
「一応、アレクサンドラ様を守り、実質的な後継として育てられているからね。」
「ならばこちらも負けてられないな」
ファビアンはニヤリと笑う。
「ファビアン様、あの優男と何を話していたんですか?」
侍女の様に立っていた女性が浮気を問い詰めるように主に駆け寄って問いただしていた。
「いや、噂には聞いていたが、まさか我が国の英雄が同級生だと思いもしなかったからね」
「えいゆう?」
胡散臭そうな顔で侍女の少女はフレデリクを一瞥するのだった。フレデリクは肩を竦めて苦笑する。
「ヤンは知ってたのかい?」
ファビアンは全く警戒する様子の無かった護衛兼幼馴染の友人に訊ねる。背の高い友人は武骨そうな顔で表情一つ変えずに答える。
「父に連れられてその夜会に出ていましたので。ルミヤルヴィの姫君の幼馴染だったとは知りませんでしたが。ファビアン様の婚約者の従姉妹の幼馴染、というよりは……雷華……なのですから放っておきますまい」
「留学で迷宮調査などと思ったが、存外に面白くなってきたな」
フレデリクの名前は帝国よりギレネの方が鳴り響いているのは間違いなかった。
「何話してたの?」
アルバンはフレデリクとファビアンの会話を聞いて首を捻っていた。
「3年程冒険者をして世界中を旅してたんだ。ギレネで大きい勲章を貰ってね。その時知り合ったギレネの高位貴族と同じ苗字だったからちょっと話してみたら息子さんだったって話」
「マジかよ。あのイケメン、デカい奴と綺麗な女を侍らしてると思ったら…」
「護衛と侍女だろうね。あの国の武系貴族はめちゃくちゃ強かったから彼らは砂漠迷宮攻略の為に、地獄迷宮探査をしに来てるんだと思うよ。僕もその類だし」
「あ、ルミヤルヴィは西部迷宮か」
アルバンは思い出したように手を打つ。
「そういう事」
「でもさ、ルミヤルヴィやギレネはいて、何でリヒトホーフェンの奴らは来ないんだ?あいつらも確か迷宮に苦しんでるだろ?」
マインラートは首を捻る。
「苦しんでるけど、そもそも攻略が難しいでしょ。リヒトホーフェンが悩まされているのは海底迷宮。ぶっちゃけ、迷宮内の攻略以前に迷宮に入る方法から探る場所だから」
フレデリクの言葉にアルバンはうんうんと頷く。
「迷宮都市に来る前にそこら辺って習わなかった?」
「習わねーよ。教会の神父さんに勉強教わって、魔法の才能があるっていうんでこの学校に推薦されて来ただけだし」
「僕の生まれとか、アルバンの貴族に拾われたとか、それ以上にマインラートの方が凄くない?」
「その経歴でAクラスに入れる人っているんだ……。結構、かなり教育を詰め込まれてギリギリAクラスには居れた感があったんだけど、平民でここをAクラスはかなり凄いと思う」
「お前だってほぼほぼ平民だろ」
「ほぼほぼ平民だから僕らも平民がどういう教育を受けているか、貴族がどういう教育なのか知っているんだよ」
アルバンは呆れるように溜息を吐く。
「ある意味、普通過ぎる経歴の方がA組にいる事がおかしいよ」
そう、マインラートはよくありがちな村の駐在神父に義務教育を成されて成人年度になったあるある一般生だった。
「そんなにおかしいか?」
「僕は平民でもそこらの貴族より稼ぎの良い元貴族と、一代限りの成り上がり貴族な両親に育てられて、大貴族の息女と同じ教育を受けているからね。普通に超エリート教育だって今なら分かるよ」
「僕も剣術の腕を買われて貴族の養子入りしたけど、かなり勉強や作法を詰め込まれたからね。」
「ある意味、どこにでもいる経歴が、Aクラス生だという事が奇妙」
フレデリクは苦笑気味に突っ込む。
「ふっ……俺は天才だからな」
マインラートはクイクイと眼鏡を中指でおし上げながらにやりと笑う。
「ところでさっきギレネから来てる人と何話してたの?」
「ああ、冒険者しながらぐるっと大陸東部を回っていてね。ギレネで功績をあげて彼の父親に会った事があったんだ。まさかギレネの侯爵の令息とは思って無くてちょっと驚いただけ」
「何でそんな偉い奴が留学なんてしてんのかよ」
「砂漠迷宮攻略のための修行だってさ。迷宮攻略経験としてはこの迷宮が一番良いらしいよ。僕も父からそう聞いてたから。僕も西部迷宮の為の修行で来てるし」
「ダンジョンで苦しめられるっていう感覚がよく分かんねーんだよな」
「確かに、そういう所はあるね」
マインラートの言葉にうんうんと頷くアルバン。
フレデリクは平和じゃないのは迷宮近隣に住んでいる人だけなんだと理解する。魔神の眷属に生み出された理知ある魔物が大きい穴に住み着いている事がある。
その穴が深く迷宮に達すると手が出なくなるわけだが、一般人には洞穴と迷宮の区別もつかないのが普通だった。
「ところで先生。こんなに集団で迷宮に入って良いのでしょうか?危険だと聞いた事があるのですが」
ワインレッドの長い髪をした綺麗な女子が挙手して訊ねる。
「うむ。良い質問だな」
エーベルヴァインは頷き周りを見る。
「実は本日400人程で新四年生が迷宮見学の為に入る事を知っている為、見ての通り冒険者はほとんどここに来ていない。半月前からここの冒険者ギルドにも迷宮見学の為に今日は迷宮探査する事を止めている。普段はこの位の低階層なら人があちこちいるんだがな」
へえと多くの生徒が迷宮の貸し切りだと笑っていたりする。
「あの、先生、それってもしかして」
フレデリクは半眼でエーベルヴァインを睨む。
「さすがは編入して即座に冒険者の階位で学園トップに立った男だな。ヴォルフ先輩の息子なだけはある」
ニヤリと笑うエーベルヴァインにフレデリクは忌々しそうに顔を歪めるのだった。
「この迷宮主は魔神の眷属の一角、邪眼王バルバロスと言われている。この迷宮に突然大量の人間が入ると軍隊の侵入と考え、モンスターパレードを引き起こす。今年のA組の編入生は主に実技方面で優秀な学生が多いと聞いている。校長曰く、黄金期に匹敵するとな。だから……平和ボケして遊びに来た気になっている諸君に見せようじゃないか。この迷宮の恐怖を」
「!」
フレデリクは頭を抱えるのだった。
「どういう事だ?」
「どうもこうもない。生徒がたくさん来ているのを良い事にわざとモンスターパレードを起こして体験させるつもりだ!」
ずん……と足元が小さく揺れる。
「教師諸君。学生が慌てて逃げないよう注意しろ。来るぞ!これがヘレントル名物モンスターパレードだ!」
「そんなもん、名物に出すな!」
フレデリクは呆れるように叫ぶのだった。
学校による態と起こしたモンスターパレードの足音が徐々に近づいて来るのが分かる。
2階層や1階層にいる魔物の群れが大量に集まって走って来るので大きな揺れが徐々に近づいて来るのが分かる。
ピヨッ!
あとがき担当のヒヨコだぞ。ピヨちゃんと呼んでくれ。
あんた、バカァ?違うのはカラーリングだけじゃないのだ。零号機や初号機はプロトタイプとテストタイプ。けどヒヨコこそ世界初の本物の不死鳥なのだ!そんじょそこらのカラーヒヨコと一緒にしては困るぞ。
ヒヨコ界のセカンドチルドレンとはヒヨコの事だ!
ついに始まるフレデリクの学園生活。そしてやって来るモンパレ。
作者は当初、モンパレをモンスタートレインとしようとしていたが、電車が無い世界でトレインっておかしくね?という疑問から、パレードに変わったらしいぞ。迷宮ものの作品でモンスタートレインと聞いた事があるのだが、その世界には明らかにトレインが無いので、あれはどういう過程でトレインがついたのか不思議だ。
ちなみに、魔神の眷属の居なくなった世界を生きるヒヨコ達は、未だに魔物駆逐が出来ずにいる為、ヘレントルの中はでモンパレと出会った事があるし、メルシュタインでは人工的に作られたスタンピードに遭遇した事もあるぞ。
魔神の眷属達は侵略ではなく、世界の乗っ取りが目的だからな。既存の世界を自分の生み出した魔物で乗っ取るのが目的だから、魔神や眷属を滅ぼしても大量の魔素を浴びて魔物化した動植物達は決して消えないのだ。
本作では帝国の悪い部分が描かれることになるが、実際に昔から行われていることを引き継いでいる為、既存の動物の保護活動とか、ちゃんと継続しているあたり悪の一言では語れない部分がある事を覚えておいて欲しい。
というか、駿介(異世界の勇者)はちゃんと帝国初期の英雄達とで、彼らがいなくなっても回る国造りや法律作り、魔物に食い物にされた野生動物の保護活動など、後世に残る仕事をしてたんだな。
………あのバカがそんな崇高な事をしていたなんて………。
では、次回予告だぞ。次回は『ピヨ・ホライズン』でお送りするぞ。それじゃあ、またな!
※次回予告はヒヨコの出鱈目です。本作品とは一切関係ありません。




