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雷華の騎士 ~やがて支配帝(ハーレム帝)と呼ばれる男~  作者:
第2章 雷華の騎士と地獄迷宮
33/34

1話 フレデリクの新生活①

~帝暦250年2月 ローゼンブルク帝国フェルトブルク皇領ヘレントル~


 フレデリクはレーベンベルク伯が治める迷宮都市ヘレントルへとやって来た。今年度からヘレントル高等学園に入る面々と一緒に馬車が辿り着く。

 婚約者であるアレクサンドラ・ルミヤルヴィ辺境伯に加えて、エルッキ・レフトラ子爵令息と妹のニナ・レフトラ子爵令嬢の兄妹に加えて、2月初頃からランジランタに滞在していた、ジルフィア・フォン・ヴァイスフェルト侯爵令嬢とサラ・ラウテン子爵令嬢、そして新たに婚約者になったレーア・ミュラーの6人だ。

 ちなみにシルッカは一度実家に戻ってからこっちの寮に先についているらしい。


 街の中にある大きい建物、ヘレントル学園の学生寮の前に馬車を止める。

 ジルフィアとサラ、エルッキがおりていく。ニナは使用人見習いとしてアレクサンドラの辺境伯邸に滞在するのでフレデリクらと一緒に移動する。

 レーアは途中でヘレントルのボーデンフェルト伯邸で降り、馬車は最後にルミヤルヴィ辺境伯邸へと向かう。



 馬車が邸に辿り着く。

「おかえりなさいませ、お嬢様」

 恭しく迎えるのは齢50になりそうなベテラン執事だ。ライトブラウンの髪を七三に分けて眼鏡をかけている。

 代々、ルミヤルヴィに仕えているヤルヴィネン家の出で、当主である兄の爵位は子爵である。ルミヤルヴィを支え、使用人を統括している家なのでかなり高い身分だった。

「シモンさん、ただいま」

「お久し振りです」

「おお、何と。フレデリクお嬢様が生きていたとは。それは朗報ですな」

「朗報じゃねーよ!誰がお嬢様だ、誰が!」

 執事のシモンがとんでもない事を言い出し、フレデリクは即座に突っ込む。

 この一族、フレデリクに遠慮なく弄って来るので、実は当主の兄や彼の甥っ子からもお嬢様扱いされていた。

「申し訳ございません。性別は男でしたね。マルヤーナお嬢様が学園から実家に帰る際に毎度の如く、フレデリク様に着せるドレスを悩んでいたので、うっかり」

 分かってやってるから文句を言ってもダメージが無いし、マルヤーナがフレデリクのドレスを買って来るのも事実なので文句も言い難い。

「リッちゃんはお嬢様じゃないよ。リッちゃんはリッちゃんという性別だから」

 フレデリクは幼馴染のとんでもない理論展開に困惑する。

「それにしても3年の間よくぞ生きておられました。サーシャ様譲りの銀髪と美貌、3年前よりも増した色気、国の一つや二つ傾けさせそうなお姿はまごう事なきフレデリク様でございます」

「絶対にわざとだよね?国を傾ける予定はないよ!」

 一瞬、ドキリとしたがしっかりといつものように反論をしておく。

 ヴィフレアで娼婦見習いをしていた時、傾国様などというあだ名をつけられていたのは忘れたい過去だからだ。

「リッちゃんならできるよ!」

「期待した目で見ないで!この国、僕の伯父さんが治めてる国でしょ!?傾けちゃダメでしょ」

「ある意味、既に傾いているから、良い感じに傾け返してくれると助かりますね」

「さすがフレデリク様です」

「ニナちゃん、僕に変な期待しないで!?」

 フレデリクはいつもこんな感じで周りに弄られていたことを思い出す。忘れていたかったのは、もしかしてこっちの事実だったのではなかろうかと若干思わなくもなかった。


「フレデリク様はどのような扱いになるのでしょうか?」

「次期ルミヤルヴィ当主として扱うよ。私の未来のお婿様」

「そうでしょうね。元よりそうなって3年前に来る予定でした」

 シモンはそこら辺を聞かされていたという。フレデリクはなるほどと理解する。

「だからリッちゃんを主として仕えて」

「もちろんでございます」

「そういう訳にはいかないよ。僕もお仕事するし」

 フレデリクとしてはいきなり領主になると言われて困惑する。分かっていたが自分のことくらい自分でやりたかった。

「ですが、ドレスを着るにも人手は必要ですよ?」

「ニナちゃん、僕に何を着せるつもりなの!?」

「あ」

 そう言えば、ニナちゃんはボクにドレスを着せる(あっち)側の子だった。

「ご安心を。執事は決して邪魔は致しませんので」

「むしろ邪魔してくれて良いのに!」

「お嬢様方に逆らわない口実なので」

「そっちが本音だろ!やはりルミヤルヴィに僕の味方は居なかった!」

 フレデリクは愕然とするのだった。


 こうしてフレデリクはヘレントルにあるルミヤルヴィの屋敷で生活をすることになった。


 で、僕の味方はどこにいるの?

 フレデリクは思うが、そこに味方はいなかった。

 そもそもフレデリクの周りに、アレクサンドラトヒルデガルト以外に女装させようとしない女性勢力なんて存在しなかったのだから。




***




 フレデリクの朝はランニングから始まり素振りをしてから朝食をとる。目覚めの準備といった所か、これは火竜王討伐の時も続けていた習慣だ。

 当時はそれに加えてアルノルトやレオンとの訓練時間まで入るので、ある意味で剣術の修行は切り止めても、彼らを相手に手合わせをする事で技量を高めていた。

 11歳で剣術レベル7になった天才フレデリクが火竜王討伐を終えた時点でレベル8までしか上がってない辺り、魔法重視の修行だったのは確かである。


 この屋敷は執事のシモンを含む4人の使用人がこの屋敷の管理を行う。その内の一人がニナでもあるが、学生を重視するので実質3人で屋敷の管理とアレクサンドラとフレデリクをサポートする。


 さて、新生活であるが、通う予定のヘレントル高等学園では様々な講座を選べる。

 ただし、1~3年生の中等部は義務教育が大半を占めるらしく、4~6年生の高等部は共通講座と冒険者講座、家政講座、騎士講座、経営講座、医療講座、魔導講座など様々な立場の人間が学べる。

 アレクサンドラは経営講座と魔導講座を既に選択済みだとか。

 初等部から通っていたメンバーは決まっているらしい。レーアは家政と経営、ジルフィアは冒険者と経営、サラは冒険者と剣術などである。

 フレデリクが一つ決めているのは医療講座だ。魔法は人類最上級レベルに到達した者の、使い方や使い道、傷跡を消すなどといった高度な技術を知らないから(正確には途中で騎士を目指した為、母の技術を受け損なったから)と西部迷宮攻略をするにあたり、スカウトできる人間がいるか見る為でもあった。


 フレデリクはアレクサンドラと一緒に学園へと向かっていた。学園への編入試験とその手続きがあったからだ。それで希望講座をどうするか考えていた。

「講座の中でも色々とあるし先生も違うから学ぶ内容は違うよ。」

「そう言えばやりたいことって今更ないんだよな」

 医療以外で必要としていないのだ。強いて言うなら戦闘能力であるが、剣術だけに絞りたくもなかった。

「花婿修行?」

「僕に何をさせる気なの!?……ま、まあ、学びたいものがあったらそれをやれば良いか」

 アーちゃんが職員室をノックして中に入る。

「失礼します」

「失礼します」

「アレクサンドラさん、どうしたんですか?」

「編入希望者を連れてきました」

「ああ、今日編入試験を受ける予定の男の子ですね。………ええと、どこに?」

 アーちゃんに声を掛けた先生はきょろきょろと周りを見る。

「あの、僕なんですけど」

「………え?………男……?」

 嘘でしょ、みたいな顔をされていた。

「ええと」

「分かった!お兄さんが遅刻したから妹さんが替え玉で取り敢えず誤魔化そうとしたわけね。でも本人じゃないといけないのよ、こればかりはね」

「いや、本人ですってば」

「何を言ってるの!女の子はどうやっても男の子にはなれないのよ!」

「僕、男ですから」

「僕って言えば男の子扱いされると思ったらだめよ。どこからどう見ても、女の子だから!先生の目は節穴ではないのよ!」

 とんでもない節穴だと思います。

 フレデリクは心の中で叫ぶが先生は熱くなっているようで斜め上な事を訴えて来る。

「良い?貴方のような美人さんが男の子だったら、この世の全女性のアイデンティティが失われるじゃない!そう言った嘘、先生は許しませんよ」

 試験前からとんでもない壁が立ちはだかった。

 フレデリクは凄く困り切った顔で、職員室の入り口に入って早々、女性教員に止められて理不尽な事を言われていた。

 だが、そんな困ったフレデリク達の前にスキンヘッドのいかつい大男が近づいて来る。


「どうしたんだい、マリア教師」

「あ、エーベルバイン先生。それが、この少女が今日編入試験を受ける予定のフレデリク君だと言うんです」

「このしょ………プッ、プッくくっ……い、いや、クッ………、そ、その、間違いではないよ。彼女、いや、彼がフレデリクで間違いない」

 エーベルバイン先生と言われた大男は腹を抑えて笑うのをこらえながら、肯定する。

「どう見ても女子じゃないですか?」

「いやいや、間違いない。3年前にヴォルフ先輩から手紙をもらっていた。ザシャ様にそっくりな息子が来年度からウチに来るって。3年遅れではあるが………ヴォルフ先輩と同じ銀の目以外はザシャ様そっくりだな。女と間違えるとへそ曲げるから要注意だと言われていた」

 いかつい先生は爆笑するのを堪えながら説明をする。


「僕の両親を知ってるんですか?」

「私はヴォルフ先輩の一つ下でな。この年代であのお二方を知らない奴はいない。ヴォルフ先輩は低位貴族や平民からすれば憧れだったからな」

「憧れって……」

 目の前の人も貴族だと思われるが平民にあこがれちゃダメでしょ。

 フレデリクはげんなりとぼやく。

「今の帝国は権力ばかりで下の人間は良いように使われる。やり方は褒められたものじゃないが、権力の弱い陛下やザシャ様を守る為に圧倒的な暴力で我々が畏れる貴族達を蹴散らしていたのがヴォルフ先輩だ。先輩の活躍は胸のすく思いで見ていたものさ」


 父さん、何やってたんだろ?暴力って………。

 フレデリクは少し引きつって曖昧に笑う。


 すると、フレデリクの裾を摘まんでアレクサンドラが耳元に口を近づけてくる。

「リッちゃん。多分、この学校ではヴォルフ様の話はあちこちで聞くと思うけど……」

「この学園だと有名人だったの?」

「ルミヤルヴィではお父さんに教育されてまともな騎士になった姿であって、当時のヴォルフ様は私たちの知る面影は全くないって聞いてるよ」

「………父さんや母さんが学園時代の事をぼやかして話していたのはその所為か」

 フレデリクは大きく溜息を吐く。


 せめて全てを話しておいてほしかった。ギリギリまで話したくなかったという事情は聞いていたが、知らせておくべき内容だ。お陰で、あと来年で成人する歳になったにもかかわらず、親の事を全く知らないお子様が一人出来上がってしまった。

 帝国中が知る有名人を息子が知らないってどういう事だ?


「先生。リッちゃんは両親からそういう話を聞かされず平民の子供、としか聞いていないまま火竜王の騒動で行方不明だったから」

「そうなのか?」

 エーベルバイン先生は顎に手を当てて少し困った様子を見せる。


「ま、ありそうだな、あの人なら。さてと、フレデリクはこっちだ。編入試験を受けてもらう。アレクサンドラ君はどうするかね?」

「学園図書館でリッちゃんの試験が終わるのを待ってます」

「学園図書館?」

 聞きなれない言葉に僕は首を傾げる。

「あっちの大きい建物だよ。本がたくさんある。試験が終わったら呼びに来てね」

「わかった。でっかいなぁ。良いなぁ」

 職員室から見えるのは円柱形上の巨大な建物。あれが図書館とは思いもしなかった。

「入学したら一緒に行こうね」

 フレデリクとアレクサンドラは小さい頃から一緒に本を読んだりしていた。フレデリクはそれがどこか懐かしくもあった。

「うん。でもなぁ、大丈夫かなぁ。この3年、勉強なんてまともにしてないんだけど」

 だが、フレデリクは試験の事が心配になる。

「リッちゃんなら問題ないと思うよ?」

 アレクサンドラはそんな事を言うが、受ける身としては不安であった。


「まあ、この学校は冒険者学校だからな。共通科目と実技として戦闘能力と魔法も見る。まあ、魔法は使えたら、だがな。基本的に入学自体はできる。何せ学費は入学後の冒険者活動で稼がねばならないからな。ヴォルフ先輩などは100人分の学費を一人で稼いでいたし、入学時は勉強が0点でも実技だけでトップ入学していたらしいからな」

「うちの父は何してるんだろ」

 ある意味で伝説的な事をしているらしいと知るフレデリクであった。

「帝国民以外の識字率は低いから仕方ないだろう。ヴォルフ先輩は他国人だったからな。そういう訳で入学は問題ないし、実力次第では勉強がダメでもルミヤルヴィ嬢と同じクラスにはなれるさ」

「ところでアーちゃんのクラスは?」

「A組だよ」

 アーちゃんはポツンと口にする。

「今年の4年生は12クラスある」

「5クラス増えました?」

 アーちゃんは首を傾げる。とすると去年までは7クラスあったのだろうか?


「ああ。義務教育が終わり、冒険者になる為、遠方から来ている生徒も多いからな。毎年、4年生から増えるんだ。義務教育をする初等部と上位の学問をする高等部で分けられているのはその変だな。ヴォルフ先輩もその時期に編入している。フレデリクはこの時期になったのはどうしてだ?」

「まあ、色々と事情がありまして」

「……まあ、良いだろう。両親が亡くなり大変だったろうしな」

 フレデリクは目の前の剣士が中々強そうなので戦力になるかスカウトすべきかを頭の勘定に入れるのだった。


 フレデリクは教室に入ると、そこには幾人かの人がいた。

「今日が編入試験の最終日でね。入学が決まっているからクラス分け試験の最終日だ。初等部出身は12月に受けている」

「アレクサンドラ様がA組っていうのはそういう事ですか」

「魔法学がトップで総合成績が次席だからな」

 聞いてはいたが当然かもしれない。聞けば自身が指揮を執ってキングサーペントを討伐したという。火魔法LV9まで到達したのは血の為せる業ともいえるが、学生レベルで言えば圧倒的強者である。

 トビアスは首席だったというし、ヴィルヘルムの教育の賜物かもしれないとフレデリクは少し思うのだった。

「ま、入学できるなら何でもいいか」

「そんなに気にしなくて大丈夫だよ。お父さんは義務教育に入る11歳の日までに、義務教育課程はすべて終えているから。リッちゃんはちょうどいいタイミングだと思うよ」

「は?」

「それじゃあ、図書館で待ってるね」

「わ、分かったー」

 フレデリクは頷いてアレクサンドラを見送り、試験の教室へと入る。




***



 暫くして試験が始まる。

 アレクサンドラが言った通り、ヴィルヘルムらルミヤルヴィの教師たちに習った場所が出てきていた。時間はかかったものの、フレデリクは当時を思い出しながら試験に取り掛かる。

 大して時間もかからず次々と答えを記入していく。

 半分の時間も使わず100問ある国語、算数、歴史、魔法などの共通試験をあっさりと記入していく。


『問100 帝歴233年に起きたフェルトブルク内乱でフリードリヒ皇帝を支えた騎士の名を答えよ』


 ここで初めてフレデリクは誰からも教わっていない問題が出てきた。それはあえて両親に伏せられた事実だった。


 父さんの馬鹿!


 フレデリクは乱暴に父親の名前を書きなぐるのだった。

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