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雷華の騎士 ~やがて支配帝(ハーレム帝)と呼ばれる男~  作者:
過去編 神童フレデリクの始まり
31/35

4話 悪漢撃退

「くそっ、ルミヤルヴィ如きが俺様を舐めやがって!」

 ディーター・フォン・ロイエンタールが舌打ちをしながらどかどかと城内を歩く。

「まさか魔法使いが…」

「油断して殴り倒されるなど恥を知れ!ラウズベッカーの名に泥を塗ったぞ!貴様の兄にしっかりと伝えるからな」

「も、申し訳ありません」

 ミハエル・フォン・ラウズベッカーは恥ずかしそうに俯く。

 ミハエルは歳の近い兄がおり天才的な剣士として名を挙げていた。帝都十剣に10歳で名を連ね、20代半ばにして隠居と共に弟が跡を継いだ。継がせた理由は後継を育てる為だったらしく、お零れで帝国十剣に入ったのがミハエルという訳だった。


「それにしても、大貴族序列8位の格下風情が、まさか俺の要望を無視して会わせもしないとは思わなかった。顔合わせさえすれば、あとは無理にでも関係を持つだけだ。責任を取るとでも言って、強引にでも婚姻にこぎつけられると思ったのにな」

「ロイエンタールの領地に連れてこさせるべきだったのでは?」

「それが出来たならこんな僻地に来るものか。田舎貴族が忌々しい。」


 そんな事を口々にしながら彼らはどすどすと帰途へと向かっていく。そんな中、小さい子供の声がどこから聞こえてくる。


 そこでディーターは足を止める。

「城内に子供の声だな」

「そちらに見えるのは城の書庫……ですね」

「ルミヤルヴィの子供か。アレクサンドラだと思うか?」

「可能性はあるでしょうが、書庫の前に男が一人立ってます。恐らく護衛かと」

「ミハエル。やれるな?」

「勿論です。失態を繰り返すつもりはありません」

 ミハエルは腰の剣に手を当てて、書庫の方へと向かう。

「ここは今お嬢様方がご利用なさっている。近づくものは容赦せぬぞ」

 書庫を守っている護衛が腰の剣に手を当てて男の前に出る。


 ヴィルヘルムに後れを取ろうと、帝国十剣の名は伊達ではない。帝国屈指の剣士の家系ラウズベッカーは書庫の前で護衛の任についていた男は、突然襲い掛かって来たラウズベッカーを相手に成す術もなく倒れるのだった。




***




 フレデリクとアレクサンドラはお互いにゴロンと横になりながら本を並べて一緒に読んでいた。

「アーちゃん、帝都の英雄のお話ってある?」

「んー、見かけないかも」

「その前吟遊詩人さんが歌ってたから気になったけど、ご本が無くて」

「リッちゃん。きっと新しいから無いのかも」

「でも領主様のご本はあるよ?」

「お父さん古い人?」

 アレクサンドラは古典と首を傾げるとフレデリクは暫し考えてポムと手を打つ。

「アーちゃん。そう言えば、お父さんが自分の父親みたいな人だって言ってた」

「いくら古くても私はリッちゃんの叔母さんじゃないよ!」

 膨れて文句を言うアレクサンドラに、フレデリクはくすくすと笑う。


 二人は手を繋いで本を探しに歩き出す。

 何だかんだと言ってお互いに同年代の友達がいなかったので、普通に仲良くしていた。二人とも一人でいる事が多い気質で、互いに遠慮せず勝手にするタイプだったからかもしれない。


 二人は一冊の本を大きい机の上で開いて並んで読んでいた。すると、外から人のもめているような声が聞こえてくる。

 ドサッと何かが倒れる音がして、二人は小首をかしげる。

「見て来る?」

「ん」

 アレクサンドラは頷きフレデリクはぴょんと椅子から飛び降りて、トテトテと歩いて入り口の方へと向かおうとすると、ガンッと扉が開かれる。


 奥からは見知らぬ大人達が現れフレデリクは何だろうと思って大人達を見上げる。

「エメラルドブロンド。いました、アレクサンドラです」

「くははっ、よくやった。ミハエル」

 一際太った大男、ディーター・フォン・ロイエンタールがずしずしと歩いて現れる。

 フレデリクは小走りにアレクサンドラの方へと向かう。二人で怯えるように後退ると


 ディーターはニヤリとアレクサンドラを見て笑う。

「俺が今日から貴様の婚約者となったディーター・フォン・ロイエンタールだ。お前を使ってやるから感謝しろ」

 意味が分からずアレクサンドラもフレデリクも小首をかしげるが、ディーターはお構いなしにアレクサンドラの腕を掴み引き寄せる。

「アーちゃん!?お、小父さん、何するの、アーちゃんを……」

「黙れ」

 ゴツンと殴られ、フレデリクは吹き飛び机に頭をぶつけ、作れの上にあった筆記用具入れが倒れて文房具が床に散らばる。


 ディーターは幼いアレクサンドラを組み敷くように押し倒して服を破る様に引きちぎる。

「いやっ!」

 アレクサンドラは慌てて逃げようとするが大人に押しつぶされるように組み敷かれてはどうしようも出来ない。

「アーちゃん!」

 フレデリクは友達が乱暴されていると思い、立ち向かおうとするがその前にミハエル・フォン・ラウズベッカーが剣を振るい、フレデリクは慌てて手を引っ込め足を止める。右手から血が流れる。

「いや、誰か助けて。お父さん、お父さん」

「アーちゃんを虐めるな」

 アレクサンドラもフレデリクも泣いて喚くがディーターは部下たちに声をかける。

「おい、スヴェン、ミハエル。そっちのガキを黙らせろ」

「お任せを」

 二人の大人がフレデリクを押さえつけようと近づいて来て、フレデリクは逃げる事も出来ずスヴェンに押さえつけられてしまう。


 フレデリクは必死に暴れるが大人の力の前では抜け出す事も出来なかった。

 嫌がるアレクサンドラを横目に男達がフレデリクを押さえつける。

「何かディーター様が子供を弄ぶ気持ちが分ってきた気がする」

「おい、ここで面倒を起こすなよ」

 スヴェンと呼ばれた男が妙な視線を押さえつけているフレデリクに向け、ミハエルが窘める。


 フレデリクは必死に逃れようとして手を地面を這わせると指先に当たったのは万年筆だった。

 そこでふとトビアスの言葉が過ぎる。「もしも何かあったらアレクサンドラ様を守るんだよ」という言葉にフレデリクはこの事を差しているのかは分からなかった。


 病院で母が教え子たちに医療を教えている事を説明している姿を思い出す。人間は繊細だから、治す事と壊す事は表裏一体なのだと説明していた。どこの血管が弱くてどこを切ると人は死ぬのか。そういった話を小さい頃から聞いてきた。


 フレデリクの中で逃げないとからアーちゃんを助けないとに意識が切り変わる。つかんだ万年筆を弱くもしっかりと握りしめ、1ミリの狂いもなくスヴェンの首筋に頚動脈を貫く。

「あがっ」


 スヴェンがフレデリクの上にぐったりと力が抜けて動かなくなる。

「おいおい、スヴェン。まさか、いきなり果てたとか言うなよ~」

 笑いながらミハエルはスヴェンに近づくと、スヴェンの首筋から大量の血が流れているのに気付く。

「お、おい。お前、何やって……」

「んしょ……んしょ……」

 動かなくなったスヴェンの下からフレデリクは必死に出てこようとしている。ミハエルは得体のしれない何かを見るように剣を抜いて構える。


「な、何だ、貴様は!」

「?」

 フレデリクは小首をかしげて相手を見据える。そして周りを見渡してアレクサンドラが大男に押し倒されているのを見て、慌てる。体の大きい肥えた男がアレクサンドラを下に敷き、自らも服を脱ごうとしているさまを見てまるで魔物がアレクサンドラを襲っているかのように見えた。

「アーちゃんを守らないと」

「このガキ!何をやった!」

「ひゃぁ」

 ミハエルは剣を振るがフレデリクは慌てて飛びのく。

 フレデリクは必死だった。トビアス様に命じられたのだからアレクサンドラを守らないといけないと思った。

 ミハエルが剣を振りかぶって切り殺しに来るが、フレデリクはパタパタと逃げて机の下を潜って体を隠す。床に散らばった筆記用具の中からペーパーナイフを手に取る。他にまともなものが無かったからだ。

 ミハエルは机を蹴り飛ばしてちょろちょろと逃げるフレデリクを追い詰めようとする。

「終わりだ!」

 小柄なフレデリクを斬るには腰を落として切らねばならず、剣を構えてフレデリクへと切りかかる。

 フレデリクは目の前の男が邪魔でアレクサンドラを助けられないと思っていたが、頭が自分の届きそうな場所まで下がった事で、どうしようもない状況からどうにか出来そうな状況に変わったと感じる。

 たわいもない子供を斬るだけの作業だが、ミハエルは同僚を倒した得体のしれない子供に切りかかった。フレデリクはそのまま走ると切られそうなので、足を一度止める。

「!?」

「えい」

 その足を止めた事が見事なフェイントとなり、ミハエルは空振り体を少しつんのめる。

 フレデリクは時間差で跳ねて首筋にペーパーナイフをあてがい刃を立てて思い切り強く引くと首筋から大量の血が噴き出す。ミハエルは悲鳴を上げながらも、フレデリクに襲い掛かろうとするが大量失血により意識を失ってしまい立てなくなる。


 フレデリクは障害となった二人を見ずに、アレクサンドラを襲っている巨大な相手を見る。フレデリクの様子を気にする事もなくパンツを脱ごうとしているので、フレデリクは背後から男に飛びつく。

「アーちゃんを虐めるな!」

 巨大な相手の首筋に噛みつき乳歯が折れるほどの勢いで髪切るのだった。




***




 物音をして慌てて駆け付けたヴィルヘルム達はその惨状が理解できなかった。

 入り口にいた護衛が切り殺されており、血相を変えて中に入ると、半裸にひん剥かれたアレクサンドラと血まみれのフレデリクが泣きじゃくって様子を確認する事も出来なかった。そしてロイエンタールからの客人3名がいずれも絶命していた。

 何をしたのかも分からず確認したくても子供たちが泣いて収拾がつくような状況でもなかった。


 リンノイトゥス城塞の裏手、迷宮前で訓練をしている白狼騎士団に直に情報が飛び、団長のヴォルフは状況を聞きつけて駆け付けた。

 フレデリクは既に家に届けられてザシャが病院を休んで息子を迎えていた。


 3名の殺害現場である書庫にヴィルヘルムとヴォルフがやって来ていた。

「状況が分らん。物音がして我々た駆け付けたら子供達は泣きじゃくっていて、ロイエンタールの連中3人が死亡していた」

「確かに不明ではありますが……」

 急所に的確な一撃を入れている。手練の暗殺者の手際にも見えなくもない。だがディーター・フォン・ロイエンタールの首には折れた乳歯が食い込んでいた。


「お前は息子に戦闘訓練なんかをさせたのか?」

「まさか。ザシャやヒルダちゃんにべったりで、剣を持たせたことも無いですよ」

 ヴォルフは首を横に振る。そもそも持てたとしても、目の前で倒れてるのは帝国十剣の一人でヴォルフでもそこそこ使えると認めるラウズベッカーの後継だ。子供が勝てるとは思えない。まして凶器と思われるのはペーパーナイフだ。

「だよなぁ。暗殺者の様な手際だぞ、これ。見ろ、遺体には急所に一撃以外、一切攻撃された跡がない。」

「ですねぇ。………あ」

「?」

「人体の急所ならあの子は知っているかもしれない」

「は?」

「あの子は赤子の頃はずっとザシャの背中で背負われて育てられてました。記憶力が良いのか、ザシャの真似をして生徒達に物事を教える真似をしたりするのですが……1~2歳ごろにいたライプニッツ女史に教えていた様子を見せたりしたんです。であれば、ザシャが患者の状況を説明しながら研修に来ている生徒達に説明しながら火急の対応をしている様子も見ていた筈。どこを切られると危険なのか、どこから処置すべきか、切ると危険な血管はどれか、ここから血を止めないと直に死ぬとか意識を失うとか、詳しく説明している姿をあの子は見ていた。そして………恐らく」

「覚えていて、襲われてどうにかしようとした結果、的確に敵を止める攻撃を実現………か」

「俺は腕一本で生きて来たので、知を甘く見ていた部分がある。ザシャに会い、ヴィルヘルム様に会い、知識は力になると知りましたが………」

「とはいえ、ショックだったろうし泣いて話にもならなかった。暫くはそっとしておいてやってやれ」

「でも、どうしましょう?息子の事は親が見ますが、この惨状をロイエンタールに説明せねばなりますまい」

「お前に泥をかぶってもらうが構わんか?」

「最初からそのつもりでしょ」

 ジトリとヴォルフはヴィルヘルムを半眼で睨む。

「分かったか?」

「良いですけど、人の息子を傷つけるようなやり方はどうかと思いますけどね。怒りますよ?こんな簡単に死ぬわけないでしょ。死ぬように放置したでしょ。大量失血で気絶したまではフレデリクでも、その後助けてやれば良いだけだ」

「助けたらどうなると思うか?娘を寄こせって話になるな。5歳の娘をだぞ?」

「なるほど。ウチの息子に手を出そうとしてたから俺が殺したって方が一番四方丸く収まるって事ですか」

「フレデリクには申し訳ないがな」

「まあ、ですよね。とはいえ、俺も少し驚いてますよ」

「?」

「中身は繊細で、頭でっかちで戦う人間としてはこれっぽちも期待してなかった息子だがまさかどうして、友達を守る為に戦える男だったなんて思いもしなかったのですから」

「確かにな」

 ヴィルヘルムも苦笑してしまう。

 フレデリクは皇族だ。将来、ルミヤルヴィの為に動いてくれるようになればという下心があった。賢い子だ。アレクサンドラと仲良くなればという思惑が無い訳じゃない。だが、戦える人間だとは思ってもいなかったのはヴィルヘルムも同感だった。

「際は違えど間違いなく、お前の息子だったな」

「まさしくですね。俺みたいなガサツなのがあの子に何を教えられるのかと思っていたけど、もしかしたらたくさんあるのかもしれませんね」

 ヴォルフは少しだけ嬉しくなって苦笑する。


「筋書きはこうする。フレデリクは目を引くような可愛らしい少女にしか見えず、ロイエンタールは幼女を強姦する変態の噂があり、アレクサンドラを嫁にと言って来るような頭に蛆が湧いたようなアホだ。だから、『息子を襲う豚がいたから、切り捨てたらロイエンタールだった』とでも言えば皆が納得する。そして、『まさか、その護衛が帝国十剣だとは思わなかった』とでもお前が言ってくれれば帝国十剣が死んでも丸く収まるだろ。お前相手なら強さなど何の指標にもなるまい」

 御前試合で帝国十剣序列二席の地位にあるヴォルフであるが、帝都内乱をたった一人の武力で収めた強さは誰もが認める所だ。ヴォルフの前では序列3位も10位も一般兵の差などたかが知れている。それ程までの実力者である。

「アレクサンドラ様が襲われたなんて公にも出来ませんしね」

「すまぬな」

「いえ、我が子の事ですから。それに、俺の悪い噂が息子を、アレクサンドラを守れるのですから。文句があるならレヒトラントが帝都の二の舞にする度胸はあるか?と囁いてやれますよ」

「お前も随分腹黒くなったものだ」

「ヴィルヘルム様に鍛えられてますからね」

 ヴィルヘルムとヴォルフは二人で笑い合う。

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