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雷華の騎士 ~やがて支配帝(ハーレム帝)と呼ばれる男~  作者:
過去編 神童フレデリクの始まり
29/36

2話 フレデリクとアレクサンドラが友達になる日

~帝暦239年11月 ローゼンブルク帝国ルミヤルヴィ辺境伯領リンノイトゥス~


 フレデリクは神童と呼ばれるようになったのは4歳ごろだった。母やヒルデガルトと一緒に病院に顔を出す事が多い。特にヒルデガルトとくっついていつも行動をするようになっていた。


 そんなある日のズワールト家では夕食を終えて、フレデリクの父ヴォルフはまったりとしていた。

「あなた、ちょっと相談があるんだけど」

「なんだ?」

「フレデリクの事なんだけど」

 夕飯の片づけをしながらザシャは夫に相談をする。ヒルデガルトにはフレデリクをお風呂に入れて貰っていた。

 ヴォルフは佇まいを正して妻を見る。

「何か問題でも?」

「あの子、ちょっとヒルダちゃんに依存し過ぎな気がするのよね。あの子が普通の子とちょっと違う事もあるけど」

「そうだな」

 神聖魔法を既に覚えているのもそうだが、薬のレシピだとか大事な血管を傷つけちゃめーなのって言ってたー、とか言って自分の頸動脈を触って説明する辺り、ザシャが弟子に指導した内容を覚えているのが分かる。

 ヒルダは家族の中でも孤立してしまいこの家に来ていた。それ故に自分と同じようにするまいとフレデリクの面倒を見ていた。

 結果、両親の愛情を受けてフレデリクはすくすくと育っていた。そして、大好きなお姉ちゃんにべったりである。

「ヒルダちゃんだって来年には出て行くのよ。このままべったりじゃダメでしょ」

「帝都の学校には通うもんなぁ」

 ヒルデガルトは11歳、来年から義務教育が始まる。帝国は12歳になる年から3年間の義務教育があり、ヒルデガルトはその年齢になろうとしていた。彼女は義務教育どころか既に医療の高等教育をパスして医療魔導師資格を持っている天才であるが、受ける必要が無くてバイマール嫡流で皇族の血が入ってる以上、世間体からしてもヒルデガルトが学校に入らないのは拙い。

「フレデリクにもそろそろ他の世界を見せるべきではないかしら?」

「でもフリッツの所のエルとはそれなりに仲良くしてるだろ?」

「まあ、そうだけど」

 フレデリクにとって数少ない友人ではある。それ以外にいないと言うのが正しいが。

 フレデリクがあまりにも見た目が美少女然としていて、男達からちょっと距離を取られているからだ。

 両親が偉いから平民の中に入ると逆に孤立してしまう。


「ああ、そう言えば……領主様も似たような事を言ってたな」

「ヴィルヘルム様が?」

「アレクサンドラ様もあの年で随分利発なんだそうだ。ただ、むっつり考え込む感じらしくてな。感情表現が希薄なんだそうだ」

「そうなの?」

 ザシャは小首をかしげているとヴォルフは説明を続ける。

「家の外に自分から出たがらないし、家族とトビアス様くらいしかまともに話せないらしい。本ばかり読んでいて心配しているようだ」

「コミュニケーション能力がどっちも欠けているわねぇ」

「ああ。それに再来年はトビアス様とマルヤーナ様が学園に行くと本格的に一人だろ?ヘンドリカ様も心配なさっている。エメラルドブロンドの子供は変わり者が多いから仕方ないと領主様が自分もかなり変わり者だったと笑い飛ばしてはいたがな。ヴィルヘルム様以外は皆が不安に思ってる」

「あの人は特別すぎるからよ。アレクサンドラ様は女の子よ。友達がいれば良いんだけど」

「無理だろ。ルミヤルヴィのお姫様と肩を並べられる人間がルミヤルヴィにいる訳ない。トビアス殿だってマルヤーナ様には丁寧に話しているくらいだ」

 夫婦でどこの家も似たような悩みがあるんだなぁと苦笑しているが、そこで気付く。


「フレデリクをアレクサンドラ様の遊び相手にしては如何かしら?」

「あ」

「実際の立場としてのつり合いは逆の意味で取れているでしょう?あの子も出て行くヒルダちゃんに依存しなくなるし丁度良いんじゃないかしら?」

「お互い、姉にべったりでは困るだろうしな。それもそうだ。……領主様に話してみるか」




***




 それからしばらくしてフレデリクはアレクサンドラの遊び相手として城に通う事になる。

 リンノイトゥスの城を通され、

 リンノイトゥスの城主ヴィルヘルム・ルミヤルヴィの前に出るフレデリクは緊張していた。お貴族様の前、それ所か領主様の前に出るには、一介の平民にはかなり重圧であった。


「噂は聞いていたが、ザシャ様によく似たなぁ」

 ヴィルヘルムはワシワシとフレデリクの頭を撫でる。


 様?何故領主様が僕のお母さんを敬称で呼んだんだろ?

 フレデリクは不思議に首を傾げる。


「お、気付いたか。賢いな。ザシャ様はかなり上流の家柄を飛び出しているからな。まあ、その内分かる事だろう」

 フレデリクは何も言えずそれに触れるのは良くない事なのだろうと納得する。

 家の事を聞いても親には微妙にはぐらかされているが、どうやらここでもそうらしいと幼い時分で理解する。疑問に思ったことを何でも聞くようになったが、最近では聞く相手を選別するようになっていた。

 その点ではヒルデガルトは何でも相談できる相手だから大好きだった。


「さて、ヴォルフに聞いていたと思うが、フレデリクには娘の遊び相手になってもらいたい」

「遊び相手」

「まあ、この領地では一番偉い奴の子供だからな。友達なんて作りたくても頭を下げてしまうから中々友達が出来んわけだ」

「僕、平民ですけど」

「ははははっ!真面目だなぁ。まあ、今の帝国ならその位の方が良いか。とはいえ、覚えてないだろうが、1歳くらいまでアレクサンドラと一緒に育てていたんだけどな」

 フレデリクは思い出そうとするがよく覚えてなかった。

「ザシャ様は帝国最大の治療院、いや病院経営をしているからな。しかも収益の半数を帝国の孤児院に寄付している。貴い身分を捨てていながら、誰よりも民を守る貴族として振舞う方だ。そこに身分など持ち出すのは野暮だろう。帝国貴族共も見習って欲しいものよ」

 苦笑するヴィルヘルムにフレデリクが理解するのは、母が貴族を捨ててなお領主様に尊敬されているという事だった。

 だから選ばれたのかな?

 そんな事を考えていた。

「それに俺がフレデリクの名付け親だしな」

「ほわ?」

 幼いフレデリクは間抜けな反応をして、ヴィルヘルムに大笑いされるのだった。

 フレデリクが聞いた話はこんなだった。


 父は帝国で手柄をあげて、一番人気の低い辺境の地ながらも帝国騎士団長に就任した。母が貴族としての復権を求めず、本当に苦しんでいる人を助けたいという事で帝都を離れたいと言う意向からだったそうだ。

 貴族になっても礼儀も何も知らない父に騎士とは何か礼儀とはどうして必要なのかを0から説明して立派な騎士に育てたのが領主様らしい。これは父からも聞いていた話だった。

 それで父は子供が産まれる際に母と名前を悩んでいた所、領主様に名付け親を託したらしい。

 フレデリクという名は領主様が付けたそうだ。


 フレデリクはなるほどと頷く。

「ルミヤルヴィがローゼンブルクに参入する前はルミヤルヴィ王国だったんだがな。この居城リンノイトゥス城塞を建造したルミヤルヴィ初代国王フレデリクからあやかった名前だな」

「そんな名前を平民の子につけないでください!」

 フレデリクは自分の名前が予想以上にとんでもない事を知り即座にヴィルヘルムへ突っ込み、ヴィルヘルムは大笑いするのだった。

 ルミヤルヴィにそう言った敬意はないらしく、むしろフレデリクさんがいっぱいいた時代もあったと言う始末にフレデリクは目を白黒させるのだった。

 帝国の文化で教えてるザシャと違い、ルミヤルヴィの文化で教えるヴィルヘルムの違いを、この頃のフレデリクに理解しろと言っても理解できるものでないのは仕方なかった。




***




「アレサ。フレデリク君よ。」

 アレクサンドラの母ヘンドリカと姉マルヤーナは子供部屋で本を読んでいるアレクサンドラの前にフレデリクを連れて行く。

 フレデリクの前には緑銀髪をした可愛らしい少女がいた。背はフレデリクと同じくらい、読んでいる本は絵本とかではなく百科事典だった。

 感情がどこか感じさせない少女で、フレデリクは変な子の遊び相手に選ばれたのだろうかと感じる。

「フレ……フリッちゃん?」

「フリッツさんと紛らわしいわね」

 ヴォルフの友人で、領軍の外征部隊の将軍を務めるフリッツ・ヤンカー=レフトラ子爵を思い出し、でかくてごっつい大男と小柄な美少女のような少年ではちょっとイメージが違う。

「じゃあ、リッちゃんで」

「えー」

 何だかいきなり変な綽名を付けられた、とフレデリクは思わず声を上げる。


「ダメ?」

 アレクサンドラは小首をかしげてフレデリクを見る。

「良いよ、じゃなくて、ええと構いません」

 フレデリクは丁寧な言葉に言いかえる。

 フレデリクは目の前の子が変な子ではあるが、悪い子じゃないのだろうと判断する。喜怒哀楽を感じさせないが相手の嫌な事をさせたくないと言う思いを何となく感じ取ったからだ。

「ロイヤルシルバーのブロンドとエメラルドブロンド、可愛いがこんなに並んで世界は滅ばないかしら」

 可愛いもの好きのマルヤーナは妹を抱きしめながらうっとりする。


 なんだろう、危険な場所に来てしまった。

 フレデリクは直感的に危険だと判断するのだった。


「確かに、可愛いわね。マルヤーナが着れなくなった水色のワンピースなんて映えそうね」

「アレサに銀を着せて、フレデリク君に緑を着せたらコントラストが」

「それも捨てがたい」

 マルヤーナとヘンドリカが妙な話でもりあがり、フレデリクは寒気を堪えるのに必死だった。まさか母のように女物のドレスを着せようとしたりはしないだろうか?

 フレデリクは遊び相手になって、二人には退場してもらった方が良いと判断する。


「ええとアレクサンドラ様、フレデリクと言います。遊び相手に仰せつかり参りました次第で…」

「アーちゃん」

「?」

「私はアーちゃん。リッちゃん、で良い?」

「ええと、その、流石に遊び相手といっても馴れ馴れしすぎる気も……」

 フレデリクはアレクサンドラに言われて困り果てる。


「内々だから良いのよ。外で慣れ合わなければ」

 とマルヤーナはアレクサンドラの言葉を肯定する。

 フレデリクは大丈夫かなぁと首を傾げるとヘンドリカは苦笑して肩を竦める。

「ザシャさんが尊い血筋の人で、家を飛び出して駆け落ちしたって事は聞いているでしょう?」

 ヘンドリカの問いにフレデリクは首を縦に振る。

 だからハトコに当たる貴族のお姉ちゃんがフレデリクの家に居候しに来ている事も知っている。ルミヤルヴィ辺境伯よりも格上のバイマール侯爵家の令嬢が家にいるのだ。

「確か夫に聞いたけど、ザシャさんってルミヤルヴィの血も引いてる遠い親戚だって聞いているわよ。であれば親戚なのだから、外では辺境伯令嬢と敬う必要はあるけど、内々なら構わないわよ」

「おかーさん凄い家の出身だったんだぁ」

「ザシャさんってそんなに凄い家柄なの?」

「立場的には私と似たようなものね」

 ヘンドリカは苦笑しながら肩を竦める。首を傾げる子供達だった。

 ヘンドリカは遠い国の王女で、幼い頃にヴィルヘルムが冒険者時代に遊んでもらった事があり、命を救ってもらった過去があるらしい。


 このローゼンブルク帝国において、大貴族は隣国一つほどの領地があり、一国一城の領主と言って良い。それが皇家、2公家、3候家、3方伯家の計9つもあるから大陸最大の国といえる。母は隣国のお姫様か、大貴族のお姫様という事になるのだろうと理解する。それも侯爵位以上だ。

 ヒルダ姉ちゃんもそう言えば大貴族バイマール侯爵家の令嬢だと聞いていた。母と同じ銀色の髪をしたはとこである。


「リッちゃん、こっち」

「は、はい。アレクサンドラ様」

「アーちゃんだよ」

「あ、アーちゃん」

 フレデリクは恥ずかしそうにその名を呼ぶのだった。

 同じ病院で同じ時期に生まれ、赤子の頃は一緒に育てられたものの、長らくあってなかったアレクサンドラとフレデリクの再会であった。


 そして、フレデリクは当たり前のようにリンノイトゥスの城塞に通ってアレクサンドラと一緒に本を読んだりする日々になる。

 二人は仲が良くなったと言うよりは何となく一緒にいる、本好きの友達、という感じになっていた。


フレデリクは帝暦235年生まれなので今話は4歳の頃となります。

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