7話 新しい指針③
~帝暦250年2月 ローゼンブルク帝国ルミヤルヴィ辺境伯領ランジランタ市~
「これで契約は締結ですね」
「ありがとうございます。助かりました」
「何、娘の件もありますから」
ライトブラウンの髪をした20代の女性マルヤーナ・ルミヤルヴィ辺境伯代行は、母と同年代の黒髪の男性ライナー・ミュラーと握手を交わす。
「ですが、良いのですか?………恐らく帝都ともめる可能性もあるかと」
マルヤーナはそれを懸念していた。
「正直に言うと私も懸念してますが……妻と娘が決めたので」
ライナーは後頭部を掻きながら苦笑する。
「奥さんと娘さん?」
「私はここという時の判断で多く間違えて、赤字を背負ってはきましたが、地道な活動をしているので借金をある程度受け入れて商売を続けていく信頼だけが取り柄な男でした。私が成功したのはここぞという時の判断を妻や娘に託すことで大商会にのし上がったと言えます。二人を信じた方向に私が進んだだけですので」
「それはまた………」
そうやって伸し上がって来たのかという裏話である。分水嶺となるどっちを選んでもどう転ぶか分からない選択を、自分でない人間に選んでもらっているという事実に驚きだった。
「それに、フレデリク様の事はヴィルヘルム様やザムエル様からも聞いてます」
「父から?」
マルヤーナはライナーの言葉に疑問はなかった。
マルヤーナはヴィルヘルムから聞いていた。次期ボーデンフェルト伯を誰にするか決まっていないが、実は最も有力で最も有能なのが平民のライナー・ミュラーであるという事実を。彼の娘レーアか次期伯爵を継ぐ可能性があるという事も。
「ヴィルヘルム様は4~5年前ほどだったか、酷く悩んでいるようでザムエル様に相談しに来ていました。私もそこにいたので覚えてます」
「父が悩む…ですか」
「ええ。次の後継をトビアス様にするかフレデリク様にするかという話です。ヴィルヘルム様は幼い頃からトビアス様を引き取って英才教育を施し、ルミヤルヴィにとって不足ない後継に育てたと自負していました」
「そ、そうなんですか?あまり褒める姿を見たことが無かったから、父にそこまで評価されていたとは初耳です」
マルヤーナの知る父親は優しいが事政治や領地に関してはかなり厳しい。ルミヤルヴィの生き方を体現する人だからだ。
「ですが、アレクサンドラ様と仲の良いザシャ様の御子息の才能を前にトビアスで良いのかと悩んでいたようです。ザムエル様はどこに悩みがあるのかと聞けばヴィルヘルム様は口を閉ざしてしまいました。彼は幼い頃より育て、能力に不足も瑕疵もないトビアス様を外して、フレデリク様を後継にするのは間違っているんじゃないかと。まあ、聞いてしまえば、最初から後継のつもりで育てたトビアス様に一切問題が無いのに自分以上の可能性を感じるフレデリクに変えたいと思っている事実に悩んでいたんです」
マルヤーナは首を捻る。
「……ですが、4年前、トビアスと私に次期後継はフレデリクにするかもしれないから覚悟しておいてほしいと聞いてます」
そう学園を卒業する1年前の冬に父はそう言っていた。トビアスはフレデリクなら間違いないでしょうと強く頷いていたのを覚えていた。ただ、アレクサンドラ次第で後継が育つか怪しいから、二人の子供も次期ルミヤルヴィとして育てる旨を言い聞かされていた。
今となっては全て無に帰した話であったが。
「ええ。ザムエル様はヴィルヘルム様が悩んでいた内容を指摘しました。情と実利の狭間に揺れ動いているだけだろうと。あの冷静沈着で情で動くような人では無いと思っていたのだから私は驚きでした。本人に相談すれば良いとザムエル様はきっぱりとヴィルヘルム様を突き放してました。ザムエル様も分かっていたのでしょうね。あのヴィルヘルム様が情で揺らいでいると」
「父が悩んでいたなんて知りませんでした。では最後に私が結論を聞く前に、父はトビアスに相談していたと?」
「ええ。その後の話は聞いてませんがザムエル様からヴィルヘルム様がトビアス様に相談為された事を聞きました。笑顔で報告していたそうです。自分が思っている以上にトビアス様は理解していたと。トビアス様は情で揺れるとはらしくない。フレデリクの方が良いと思うのは当然でしょう!僕がヴィルヘルム様の立場なら悩みませんとキッパリヴィルヘルム様に説得したそうです。それ所か、フレデリク様は『勝つ為なら手段を択ばない強さがあるが、細かい機微に疎い部分もあるのだから、そのサポートを自分がすればルミヤルヴィはもっと良くなる』と。迷う必要ないでしょうと逆に叱られたと。自分が思っている以上に義理の息子になる予定だった男は立派に育っていた事に泣いて喜んでいたそうです。ザムエル様は優秀な後継をどっちにするかで悩むヴィルヘルム様は贅沢だと苦笑されていましたね。何せ私は妥協案の後継候補ですから。ハッハッハッ」
「そんな事が……」
自分の愛した男が大人達に高い評価を受けていた事実が嬉しくもあり、同時に複雑な思いもあった。彼が死ななければという思いがある。この3年、ずっと悔やんでいた。一緒に殺して欲しかったとさえ思っていた。
「その時に、ザムエル様も言っていたのです。私の娘をフレデリク様に嫁がせたいと。ヴィルヘルム様が後継に相応しいと思った男がいるのに、情と実利に揺れる程確かな才覚を持つ人間がいるという。大量に来ていた釣書を始末して向こうが動き出したらこっちも動くと」
「じゃあ、レーアさんの件は咄嗟の思い付きでもなく?」
「5年前のあの時に恐らく決めていた筈です。本人を見て確信したのでしょう。雷華の騎士と呼ばれるほどまでに成長した、かつてヴィルヘルム様の認めた才能を」
「そうだったんですか。アレクサンドラも本人も認めた以上、リッ君はどうしようもないでしょうし、確定という事でしょうね」
マルヤーナは納得する。あのヴェルザー西方伯がちょっとやそっとの事で自分の可愛い孫娘を差し出すなんて思いもしてなかった。後継候補筆頭の娘をだ。いくらルミヤルヴィ臣下の系譜と言ってもとは思っていたが、ヴィルヘルムとの間に既に話があったというなら、マルヤーナが口をはさむ話では無いだろうと頷く。
「ただ、ザムエル様はトビアス様の言葉をしっかり刻んでいたようです。フレデリク様は細かい機微に疎いと」
「そう言う所はありますね。あの子は幼い頃から神童と呼ばれ、強すぎる子だったから……」
「ロイエンタール伯をフレデリク様に会わせたいというのはそれです。トビアス様の代わりになりえる人材だと見ています」
「確かにトビアスもジーク君を高く評価してました。ヴェルザー西方伯が節穴でなければ彼が次のヴェルザーだろうとさえ」
「さすがに義父も節穴ではありませんが、あっちもあっちで人生の目標を達してモチベーションが下がってましてね」
「彼とは学園で知り合ってそれなりに付き合いはありましたが、まさかロイエンタールの血縁で、復讐をたくらんでいたなどとは思いもしませんでしたよ」
当時の姓はロイエンタールではなく、クリューガーと名乗っていた筈だ。実家は宿屋で、母親が死んでスラム街で育ったと言っていた。伸し上がる為にヘレントルに来たと子分たちに勉強を教えていたのを覚えていた。
最初にあった頃は子供ながらにインテリヤクザの親玉みたいな子という印象だった。
ロイエンタールの革命の指導者として頂点に立ち、子分たちが散々暴れたのを耳にしてマルヤーナは酷く驚いた覚えがある。
「ええ。ですが、それ以上望んでいないし、自分の血さえ汚らわしいと思っているくらいです。それほどロイエンタールを恨んでいますから」
「ジーク君の才能がこの世から消えるのは確かにトビアスも勿体ないと思うでしょうね。彼のモチベ―ションが上がれば良いんでしょうが……」
「難しいでしょうが、ロイエンタール領で起こった奇蹟を見れば、彼の政治力は間違いないと確信してます。ヴィルヘルム様とザムエル様が認めた才能が合わされば………ルミヤルヴィ王国再びというのも夢ではないかと」
「!」
マルヤーナは壮大な夢を語られて絶句する。
確かにそうだ。フレデリクはそれを出来る血筋がある。ルミヤルヴィとローゼンブルクの血統がありローゼンブルクからの文句を蹴りつけるだけの血がある。その血を持って独立するという話は悪くない。今となってはルミヤルヴィにとってローゼブルクとのかかわりは邪魔でしかないのだから。
「ヴェルザーも同意しているのですか?」
「ロイエンタールが増長したのも帝国の影響なんですよ。それをザムエル様もジークも、いや、ジークフリート伯もよく分かっている。関係を切りたくても難しい。奴らはルミヤルヴィの穀物と、ヴェルザーの資金力を当てにしてますからね」
ライナーは忌々しそうにぼやく。マルヤーナも理解しているから頷くしかできない。
「確かに」
「それが……フレデリク様は今回の戦争で紫鷲騎士団を滅ぼしました。彼らの有責で。独立のチャンスが一気に広がったんですよ」
「ああ!」
マルヤーナは気付いてしまう。騎士団は領地を守ると同時に、帝国への反乱を抑止する集団でもあった。だが、今、ルミヤルヴィとヴェルザーにはどちらも騎士団がいない。
二領が独立したいと言った時、差し向ける手勢が存在してないのだ。どこの領地も内部反乱を恐れて騎士団を出せない状況だ。その恐れが無いのはリヒトホーフェン北方伯位だが、あそこは北部国境にあるメルシュタイン王国に内乱の兆しがあり飛び火する可能性を懸念しているし、時に海底迷宮のスタンピードの余波を受けるから迂闊に動かせない。
「フレデリク様には是非ヘレントル高等学園に行って、帝国の縮図ともいうべき状況を見て欲しいと思っている。恐らく我々にとって好ましい決断をすると思います」
「もちろん、私もそれは同じです。彼は帝国事情を詳しくはないですから。他国を歩き回った所為で、外から見た帝国の歪さを感じていたようですが」
マルヤーナは空を見上げる。トビアスの代わりに生き残った理由はアレクサンドラとフレデリクが領地をどう導くのかを見届ける為に残された余生なのだと感じるのだった。
***
そんな頃アレクサンドラとレーア達がいる大部屋にはシルッカが来訪していた。正確にはラーナスト家が来訪し、ラーナスト伯夫妻やランジランタ伯夫妻、それにヘンドリカとマルヤーナが話をしていて、子供たちは子供達の部屋で話をしていた。
正しくはフレデリクがリビングでアルノルトと話していたのに、次々と来訪者が来て子供部屋にされたというのが正しい。
「やーん、相変わらず可愛いなぁ。リッ君は」
シルッカは久しぶりの再会にフレデリクを抱きしめていた。昔と変わらぬ行動にフレデリクは逃げようとしていたが逃がしてはくれなかった。
それどころか昔と違って出るところが出ているので、胸の谷間に顔を押し付けられてフレデリクは窒息しそうになり、必死にタップしてムームーと息苦しさをアピールしていた。
「シルちゃん、リッちゃんが死んじゃう」
アレクサンドラはフレデリクがシルッカの胸の谷間に挟まって死にそうにしているのに気づいて止めに入る。
「ぬう、ルミヤルヴィの人達が羨ましい」
ストーンと自分の絶壁を見下ろして両手で自分の胸の平具合を嘆くレーアだった。
「あははは。ごめんごめん。何か久し振りでリッ君も随分男らしく…男………、ごめん。お姉ちゃんお世辞が下手で」
シルッカは男らしくなったねと言おうとしたが、かつてよりも女っぽい色気が出てきているフレデリクの美しさを確認して言葉に困る。
ちなみに端で見ていたエルッキは人を殺しそうな目でフレデリクを睨んでいた。フレデリクとしては自分に非はないのにと理不尽さを感じていた。
「男らしく無くて悪かったよ!冒険者をやって火竜王討伐に駆け回った三年で僕を初見で男だと気付いた人間はほとんどいなかったからな」
「「「「「だろうね」」」」」
皆が呆れるようにぼやくのだった。
「ところでリッ君ってどこ行ってたの?火竜王を追いかけてたって事は被災地を巡ってた感じ?」
シルッカはフレデリクに訊ねる。
「んーと、最初は神聖女神教国やサンブランク公国辺りを移動してたんだ。半年ほど修業しながら火竜王の情報を集めて、襲撃しに行っては返り討ちにあったんだ。半年した頃にヘギャイアでアルノルトさんと出会ったんだ」
「へえ」
皆がチラリとアルノルトを見る。
「その後、3人でヴァイスフェルト、グロスクロイツ、ダラーナス王国付近でうろちょろしてた火竜王を追いかけてたんだ。ダラーナス王国崩壊事件を目のあたりにしたからね。あれは僕もどうにかしようと思ったけど手の施しようもなかった。そこで会ったのが双刃の勇者レオン。その後砂漠付近に居を置いた火竜王を警戒しつつギレネに滞在した時に、2~30年に一度起こるとも言われている大災害、複数同時多発ダンジョンスタンピードとかち合ってね」
「アレはビビったな。そしてギレネが小さな巨人と呼ばれる理由を見た。アレに対処する騎士達の強さは白狼騎士団や黒虎騎士団に勝る質の高さだった」
とアルノルトが思い出すようにつぶやく。
「ただその頃に僕も賢者に到達して魔物襲撃に対処できたから協力したんだ。そこでギレネ女王様から勲章を貰ったんだ」
フレデリクは<異空間収納>の魔法で勲章を取り出す。
「これってお父さんが持ってた奴」
「ホントだ。領主様が式典に出るとき胸に必ずつけてる」
アレクサンドラとシルッカが勲章を見てぼやく。
「そうなの?僕は式典系に参加した事ないから分からないけど……この手の奴ってヴィフレアやサンブランクでも貰ってたからそういうものなのかなって思ってた」
「普通は貰えねえよ。実際、そいつは俺達も貰ってねえし」
「違うのは貰ってたでしょ?」
「俺が貰ったのは戦士に送るギレネ黄金剣勲章だ。お前が貰ったのは国家に最も貢献した将軍に送られる白金翼勲章だ。英雄王でさえもらえず、ヴィルヘルム様のみが国外の人間で唯一手にしている勲章だ」
「そんな凄いのだったんだ」
「あのグシャグシャの複数同時スタンピードの中、兵士達の混乱を正し、命令系統を整えて将軍達に指示を出し現場で複数同時スタンピードの中で攻略法を見つけ出し、しかも本人が流砂王の迷宮を突き止めて、戦い生還しているんだ。過去最大の戦果を挙げたと言っていたのは決しておべっかではねえだろうに」
呆れるようにぼやくアルノルトだった。
「完全に英雄じゃないか」
アルノルトの説明にジルフィアは呆れたようにぼやく。
「結果的にそうだっただけで、綱渡りしまくりだったからなぁ。二度と関わりたくないと思う位大変だった。ヘンドリカ様がルミヤルヴィに嫁げたのも、あの土地の気風が凄くルミヤルヴィに似てたんだろう。まさに魔神の眷属の最前線を生きる国って感じでね。熱さ寒さは真逆だけど」
フレデリクは勲章を<異空間収納>の中に戻す。
「恐らく、フレデリクの名は帝国以上にギレネで名が響いているだろうな」
とアルノルトはぼそりとぼやく。
「伯母さまも、リッちゃんの事を手紙に書いてくれていればこっちが気付いて連絡取れたのに」
「うぐぅ」
「ルミヤルヴィの事を聞かれると誤魔化すように逃げてたからな。フレデリクも知ってただろうにアレクサンドラの母はギレネ女王の末妹だってのは」
「知ってたからこそ、ルミヤルヴィで姪や妹が死んだなんて話を聞いたら、火竜王討伐どころじゃなくなるから避けてたんだ」
「サーシャ。本当にこのヘタレで良いの?」
サラはジト目でフレデリクを見ながら訊ねる。
「リッちゃんがヘタレなのは幼い頃から知ってるよ。5歳の時の事件だって両親の眼が怖くて引きこもってたんだから。ちゃんと話して目を見れば何も問題ないのにね。リッちゃんは強くて優しいけど、そういう人に対して臆病な所が可愛いの」
「完璧すぎる人間より人らしい方が親しみやすい」
アレクサンドラとレーアはうんうんと頷き合う。
「うううう。嬉しくない」
「その後どうしたの?」
「竜王の領地に行って討伐許可を貰いに行った。師匠が死ぬほど激怒したんだよ」
シルッカの問いにフレデリクは肩を竦める。
「俺もあれには驚いた。怒りの感情なんて無いんじゃないかってくらい穏やかなミロンが、怒り狂ってたからな」
「何があったの?」
「僕らが複数同時スタンピードに対処していた時に火竜王はギレネ南部にある街を滅ぼして去りやがった。今回のスタンピードラッシュを狙って攻めて来た人間と同じことをドラゴンがしたんだよ。あり得ないでしょ」
流石の女性陣も端の方で話を聞いていたエルッキも絶句する。
「さらに言えば、僕が流砂王を引き連れて外に出て来てたからね。火竜王が協力してれば倒せるチャンスだったんだ。そのチャンスにこっちの領地を攻撃だよ。師匠の怒りは仕方ないと思った。そのまま竜の領域に乗り込んだ。竜王が俺にダメージを与えたら話を聞いてやろうとかいうからさ。師匠が神殺しの氷魔法で一瞬動きを止めて、僕が神殺しの雷魔法で叩きつけたら、『殺す気か!痛いわ!馬鹿垂れ!』ってめっちゃ怒ってさ。師匠も師匠で人の親なら子供の面倒位見ろって怒っちゃってさ。1時間くらいまともな話し合いにならなかったよ?」
「つーか、竜王強すぎだから。あれ殺す方法ねえよ。火竜王をとどめ刺した魔法を食らって痛いの一言だからな。どんな耐性してんだ、あいつ」
「というか、竜王に耐えられたから、あの魔法はドラゴンに効かないっていう思い込みを持ったのが問題だったよね。嵌めた次の時にさっさと使ってれば火竜王を苦労せず勝てたよね」
「確かにな。というか、フレデリクに聞いた限りじゃ、多少の犠牲に目を瞑って、殺す事に集中してたら、ヴォルフとヴィルヘルム様だけで勝てただろ」
「同感。だからこそ悔しかったのもある。街中でアレを放ったら犠牲者は3桁どころじゃなかったし、守られた側の僕に言える事なんて無いけどさ。父さん達がアレより弱かったって勘違いされるのが腹立たしい」
フレデリクは溜息を吐く
「それで火竜王を倒したと?」
「いや、その後にヴィフレアでもう一度戦って3万人いる都市の被害を4桁に抑えて、守りに手を焼いている隙に奴に逃げられたんだ。もはや対抗法がある程度積み上がっていたからね。その後再び奴が東部に移動したから帝都経由で討伐計画をアルノルトさんに伝えて陛下から討伐許可を貰いに行ってたんだよ」
「そういう意味では、初対決でヴィルヘルム様やヴォルフはリンノイトゥスと言う大都市で3桁に抑え込んだというのは化物じみた成果だったな。アイツはいつも俺を軽々と上に行きやがる」
アルノルトはチッと舌打ちをする
「そこで僕はアルノルトさんに話が有ったんですよ」
「その為に呼んだんだっけか。ガキどもがたくさん来て有耶無耶になっていたが…」
アルノルトは子供だらけの部屋で辟易としていた。
「アルノルトさん。今年の夏、一緒に西部迷宮攻略に挑みませんか?」
「あ?」
「流砂王の時とは違う。西部迷宮を統べる魔神の眷属、樹竜王ヘリスは膨大な資料と父との戦闘経験から弱点等を全て割り出しています。父が残し、そして父が一人で勝てなかった魔神の眷属を僕らと一緒に倒しませんか?」
「……正気か?」
「父の穴を埋められる人材がいません。領主様の穴は僕が埋め、フリッツさんの穴を埋める存在がこの領地に育っている。無論、足りない人材はまだまだいますが、父の代わりに最前線で魔神と戦える人材はこの世界で早々いない」
「俺にヴォルフの穴を埋めろと?」
「別に超えて貰っても構いません。むしろ、最前線で押しとめるだけならば同等以上の働きを期待できるのではとも思ってます。ただし、命の保証は一切しません。場合によっては僕は自分の命も勝利の秤にのせて勝ちに行くつもりです。どうでしょう?」
「くっ、くくくく。ヴォルフがお前を天才だと口にしていた意味は理解していた積もりだがな。堂々と父親越えを口にするのか?」
「どうでしょう。父さん達で為せたかもしれないけど今言った所で、ですからね。師匠を帰したのは失敗でした。夏に西部迷宮攻略に挑むとだけ連絡を入れようと思いますが連絡が行き違う可能性が高いので師匠は計算に入れません。」
「急ぐ必要があるのか?」
「スタンピードラッシュの後で魔物の量が減ってるはず。アレは10年おき位ですからね。1年や2年で平常には戻らないでしょう。チャンスでもある筈なんです。強力な手札が火竜王で減らされてますが、それでも向こうよりこっちの方がマシな筈です。3年でヴォルフ・ズワールト以外の駒の穴埋めは成った。いや、成して見せる。故にこそのスカウトですよ」
「お前とのかかわりもヴォルフとの因縁も火竜王で終わりだと思っていたんだがな」
「やりませんか?」
「いーや、おもしろい。話を聞かせろ」
アルノルトはニヤリと笑い、フレデリクはまとまっている資料をどさりと置く。
「領主様が残してあった資料があってね。実は僕もリンノイトゥスの隠し倉庫の話は知ってたんだ。そこにプランが全部入ってた。事細かに3年前の攻略計画の全容が分かった。そこに僕が懸念点を埋めて………そうだね。これを成せば雷華の騎士と胸を張って言えるだろう。僕は英雄達の届かなかったその先に進むつもりだ」
「これをヴィルヘルム様が?」
「うん。こっちに来てから時間を見て探して一日で全部読んだ。流砂王との戦闘経験からして妥当な想定だと思う。僕が気付いたところも追記してある。もう僕は頭に全部入れたし、それは原紙を読みながら書いたものだから貰っちゃっていいよ」
西部迷宮攻略の後継、ヴィルヘルムが本当の意味でのバックアップを作っていたことを理解する。
フレデリクはこっちで打つ手は全て打ったとし、ヘレントルで神聖魔法も使える魔導師を摑まえないと、と考えるのだった。




