7話 新しい指針②
暫くして、マルヤーナ達はアルノルトの護衛を込みでミュラー商会長を連れてランジランタにやって来るのだった。シルッカも一時避難という事でエルッキ達と共にランジランタへとやって来ていた。
「良かったアレサ。心配したのよ」
「大丈夫だったよ」
ヒシッと抱き着き合う姉妹を見て、ジルフィアはフレデリクに視線を向けると、フレデリクは首を横に振る。
全然大丈夫じゃなかった筈だ。
出るのを一時間遅くしたのを後悔するところだった程だ。
「相変わらずだな、サーシャは」
「ジルフィ、大丈夫だったの、帝都では」
サラはジルフィアに訊ねるとジルフィアはフレデリクを見て苦笑する。
「冒険者ギルドでフレデリクにあってな。帝国会議でフレデリクによって嘘をまんまと証明されてイザーク卿が大恥かくのは中々に痛快だった」
「で、マルヤーナさんと一緒にこっちに来たという訳か」
「ああ、そういう事だ」
サラは次いでジルフィアの隣にいたレーアに視線を向ける。
「レーアまで来たの?ヴェルザーの商人の娘だってのは知ってるけど」
「ルミヤルヴィが大変らしいのは聞いて、偶々。あと、籠城明けで商機だから、たくさん物資を売りに来たよ」
「たくましいわね」
「あとアレサにも話があって、お父さんと一緒に」
アレクサンドラとマルヤーナは再会を喜んだ後、マルヤーナはレーアの父でもあるミュラー商会長ライナーを使用人に連れてランジランタ伯の元へと向かわせる。
戦争後の壊れた城壁とか諸々の話を必要としていたからだ。現場に出て確認した方が早いからというのもあった。
アレクサンドラはレーアとも会って互いに表情乏しい顔ながらも小さくタッチをする。
「来年も一緒に通えそうで何より」
「うん」
「サラは大丈夫だろうか。来年同じクラスになれるか、の話だが」
ジルフィアは首を傾げる。
「不穏な事を言わないでよ!……冒険者系の点数はトップだったから大丈夫な筈」
サラは引きつって呻く。
「高等部に入ると専攻講義の成績比率が高くなるから、ジルちゃんに勝てるチャンスが来るかも」
「確かに。基礎教科だけだと無理だけどこっちの得意分野の成績点が上がればあわよくば」
魔法系の得意なアレクサンドラと経済系の得意なレーアは専攻の点数比率が上がるとどんどん強みが出て来る。
「ふっ、ヴァイスフェルトの名に懸けて受けてたとう」
勉強だけならずほぼすべての成績をトップに立つジルフィアは圧倒的成績優良者だった。魔法では専門魔法使いの中でも中の上をキープする成績で基礎学科がすべてパーフェクトだから総合だと早々に負けないのがジルフィアである。
仲が良く競い合える友達がいる状況がアレクサンドラは手に入れていたんだという事をフレデリクは知って少し安心する。
ルミヤルヴィではどうにも浮いていたからだ。
お姫様だから迂闊に話しかけられないうえ、人見知りだから本人も話もかけられない。勉強で競うような相手もいない。
これだけの仲間に囲まれるようになったのが、3年の月日の経過を感じさせる。
「それに、来年はジルちゃんも厳しいと思う」
「ほう?」
「リッちゃんなら勝てる!」
「ゴフッゴフッ…何言ってんの。僕は学校には…」
「来年度からはリッ君も通ってもらうわよ」
フレデリクは否定しようとするとマルヤーナが肯定する。
「何ですと?」
「あら。両親が通って欲しいと言っていた学校に通わないとかないでしょ?」
「義務教育課程はお父さんに全部習ってるから問題ないよ」
3年前確かにヘレントル高等学園にアレクサンドラ様と通う約束をしていた事をフレデリクも思い出す。
「でも、あそこって冒険者学校だよね?僕が?今更じゃない?」
「「「まあ、確かに」」」
皆でフレデリクの首にかけた冒険者証に視線を向ける。冒険者学校に紅玉級冒険者が通う意味とは?と思うのも考えものだった。
「でも、まだアレサが狙われる可能性はあるから護衛として行って欲しいな。サラさんもいるけど、リッ君がいると安心が段違いなのよ」
「まあ、分かったよ。ただ、ルミヤルヴィの方は大丈夫なのかが心配なんだよね」
「そこは……あとで相談させて。ここではやれないから」
「わかった」
マルヤーナは話を区切って城の方に来客を連れて行く。
「でもレーアはどこでこの男と知り合ったの?」
「傭兵達に襲われた時に助けて貰った」
「お前はそういう月の下にでも生まれたのか?そう言えば私もリューネブルクの連中に襲われた時だったな」
「私もハッキライネン軍と戦ってた時ね」
女性三名からフレデリクはジトリとした視線を向けられる。
「僕ね、こんな容姿だからそういう目で見られることが多いんだよ。性的な男の視線って気持ち悪くない?」
フレデリクの問いに4名の女性がうんうんと頷く。
「か弱い女性を襲うのを見ると一種のトラウマまで頭によぎってね。とにかく目に付いちゃうんだよ。通りすがりの雑踏の裏通りだろうとそういう事で女性を食い物にする男って、僕はすぐに見つけて、気付けば相手が地面に叩き伏せてるかな」
「リッちゃんは女性の味方だから」
「ギリギリ男性だしな」
うんうんと頷くジルフィアだった。
「ギリギリ男性って何なの!?100%混じり物なしの男性だよ!?」
ジルフィアに茶かされてフレデリクは抗議するのだった。
「何か、冒険していた間、あちこちで女を誑かしてそうね」
「それはないと思う」
レーアはサラに対し首を横に振る。
「何でよ」
「同じ馬車にリリーも乗っていたけど、リリーは私が男性の冒険者だと言っても『どこからどう見ても女性!』って譲らなかった。助けられた女性は多分同性に助けられたと思ってる」
「そう、だからリッちゃんは異性をあちこちで助けてあげても助けられた女の子は同性に助けられたとしか思わないんだよ!」
レーアとアレクサンドラの言葉にフレデリクは肩を落とす。
「あちこちで僕は女の子だと思われてたのか……」
「い、いやそんな事は無いぞ。私は男だと思ったからな。大丈夫、1人いたら50人はいるものだ」
「ジルちゃん。それゴキブリの話」
「僕が男だと認識してる人はゴキブリだったのか。良いんだよ、別に。もてたくてクズ男を股間を蹴って来たわけじゃないから。そっか、僕は女の子という認識しかされてなかったのか?」
フレデリクはずうううんと小さく丸くなって落ち込むのだった。
「ん、そう言えば………男?」
サラは思い出すようにフレデリクを指差して訊ねる。
「男だけど」
「あ、あああああああああああっ!?」
サラは思い出したように顔を真っ赤にさせて慌てて胸元を手で隠す。何事だろうと全員が首を傾げる。
「み、……見たよね?」
意味を理解できず誰もが首を傾げている中、フレデリクは彼女と出会った時を思い出す。上半身裸にされて男に組み敷かれていた……
フレデリクはハッと気付いて慌てて目を逸らす。
「えと、その、全然見てなかったと思う。それどころじゃなかったし。覚えてない覚えてない」
「嘘よ!私の下着見てたでしょ!」
「下着なんてつけてなかったろ!胸まるだしだったし!」
「やっぱり見てたし、覚えてたじゃない!死ね!」
「うわあああっ」
サラは剣を抜いてフレデリクに襲い掛かるが、フレデリクは逃げて攻撃を悉く避ける。
バタバタと逃げるフレデリクをサラが追いかける。
「リッちゃん、誤魔化し方が下手だから……」
「素直だと言ってあげような」
ジルフィアは苦笑する。
「ところでサーシャ」
レーアはアレクサンドラを見て異なる話を振る。
「お祖父ちゃんがフレデリクに第二夫人を押し込みたいらしい。私になったけど良いよね?」
「んー……。良いよ」
「そんなに簡単に決めて良いの?自分の婿になる相手の第二夫人だろ?」
「そもそも私が嫁に行くから権利ないし。ルミヤルヴィの為にもリッちゃんには子供をたくさん作って欲しい」
「なるほど。……カルラに色々教わらないと」
「そうだね。カルラちゃんは詳しいから安心」
下ネタで有名なクラスメイトの名を挙げて、うんうんと頷くアレクサンドラだった。
「それは辞めろ!」
ジルフィアは無垢な二人が今時女子の猥談に参加させてはならないと頭を抱えるのだった。
女子のまとめ役でもあるジルフィアは実の所苦労人なのである。A組女子からは最も信頼されている女子と尊敬されている女子、それがジルフィアとアレクサンドラなのである。
「でも、リリーは知ってるのか?」
「教える予定はないけど……学校に行くときに教えたら凄く楽しそう」
「お前なぁ。それは辞めてあげろ」
いつも眠そうな表情でポヤンとしたアレクサンドラと、表情が乏しくクールで小動物っぽいレーア。普段から何を考えてるか分かりにくい二人であるが、割と似た者同士である。見た目のスタイルで言えば非常に女性的に育ったアレクサンドラと出会った頃から成長が無いレーアとでは全く違うが……どちらも自分の得意分野に関しては圧倒的に強みがある。
真面目一辺倒なアレクサンドラと異なり、割と友達を振り回すレーアは小悪魔的な所があった。
「でも、A組に入れたかどうか本人も緊張して始業式の結果待ちだから、そこで投下すれば緊張もほぐれると思う」
「それでクラスが違ってたらアイツ泣くぞ?」
「大丈夫。……クラスが違ってたら説教するから。年末テストで1週間付きっ切りで勉強を見てあげた恩を返せと」
「そう言えばそうだったな。学年末試験で共通科目2位のレーアに付きっ切りで勉強を見て貰った友人がA組昇格出来たかは確かに私も興味深い所だ」
「リリーちゃんなら大丈夫だと思うけど」
「そう言って去年も上がれなかった」
レーアが溜息を吐く。
「というよりもレーアは本当にあれで良いのか?」
「私達は選べる立場じゃないでしょ?」
「む」
平民であるはずのレーアの言葉に、ジルフィアはレーアの本当の立場を知る数少ない友人として理解して頷く。
「お祖父ちゃんが嫁に出したいと言わせた相手で、サーシャの婚約者。前にも言ったけど、私に見込める最高の相手だと思っただけだよ」
「そう思った根拠は?」
「私に届いた釣書を見たら納得すると思うけど。ちなみに皆、第3以降の夫人候補で」
「………」
「通りすがりに何の見返りも求めず悪漢を倒し、私がミュラー商会の娘と知ったら、ボーデンフェルト伯に取り次いで欲しいと正しく私の素性を知ってる人だった。頭も良い、紅玉級冒険者で腕っぷしも確か。少なくともジルフィの婚約者よりは数段良いと思う」
「そこは否定しないがな」
苦笑するジルフィアだった。
「何より可愛い」
「それもある」
アレクサンドラの言葉にうんうんと頷くレーアだった。
「それに………学園も帝都も大きく揺れる筈。絶対に大変なことになると思うから。ジルちゃんも」
「だろうなぁ。アレサの敵対派閥の総大将とかになるのか?辞めて欲しいがな」
ジルフィアは苦笑せざるを得なかった。
帝国には皇帝の後継候補はアーレント伯家の血を引く長男エーリヒ、ザルム公家の血を引く次男エトヴィンの二人である。アーレントは失脚し長男は病気の為リヒトホーフェンへ療養するという態で帝都から去り、事実上、次期皇帝はザルム公家のエトヴィンだと周りが言っているし、それ以外の選択肢が無い。
ジルフィアの婚約者のエトヴィンは皇太子に任命されていないが、次期皇帝筆頭と呼ばれている。
だが帝国は暗黒時代を経て帝位継承権の高い人間は得てして王族であり殿下なのである。
そこに第三位にフレデリクという選択肢が出てしまったらどうなるか。聖皇女ザシャ様と帝都の英雄ヴォルフの子でもある。帝都に火種を放り込むようなものだ。
レーアやアレクサンドラは深く考えていないが、ジルフィアやヴェルザー西方伯は間違いなくそこまで考えている。下手をすると滅んだフェルトブルク大公家を再び作る流れになりかねない。
「疲れた。サラさん、しつこいんだもん」
フレデリクが戻って来る。遠くで大の字になって息切れしているサラがいた。
「ウチの学年で男子を含めても一番タフなサラを振り回すとは」
「学生レベルと比べられても困るけど」
フレデリクは困惑する。確かに年齢はアレクサンドラと同じだが、フレデリクはあくまで現役紅玉級冒険者である。
「私達の旦那様は紅玉級だから」
「達!?達って何?」
「さっき、レーアちゃんを第二夫人で引き受けた」
「何故だろう?僕の知らない間に、何かが囲われている。まだ僕アーちゃんと婚約もしてないんだけど」
フレデリクは首を傾げる。
「大丈夫。私はちゃんと知ってる」
「ちゃんと知ってる?」
「うん。リッちゃんは私の頼みを断れない事を」
「最後は脅しじゃないか!」
「そもそもリッちゃんはどうせ、婚約を引き受けても、西部迷宮を攻略してアレクサンドラ様が誰でも好きに人を選べるような立場になれば良いとか、考えているんでしょ?」
「え」
「人の全裸をこれ以上ないほど見ているくせに責任を取らないとは言わせない」
アレクサンドラの言葉に死体の様にぐったりしているサラが立ち上がってフレデリクに切りかかる。
「やはりか!私の全裸だけでなくサーシャまで毒牙にかけるか、この変態男!」
サラの斬撃をフレデリクは両手で白刃取りをする。
「フレデリク、それは責任を取らないと」
「なるほど、無理やり既成事実を作れば………」
ジルフィアは呆れたような視線をフレデリクに向け、レーアに至っては不穏な言葉を呟く始末だった。
「っていうか、サラさんの全裸は見てないから!ちょ、待った。待った。いつの話!?覚えが無いよ!?」
「毎晩のように一緒の布団に入って朝を明かしたというのに……」
「って、それ8歳くらいの頃だよね!?めっちゃ子供の頃だよね?それカウントしたらダメな奴!」
「朝大きくして私に見せつけておいて」
「大きくなるのは生理現象だけど見せつけた記憶はないよ!
「あ、それはリッちゃんが寝てるのをいいことにこっそり脱がして見ただけだった」
「それ責任取らせる側じゃなくて取る側だから!」
「仕方ない。じゃあ、私がリッちゃんを汚した責任を取ろう」
「それなら………!???………………何も変わってない!?」
フレデリクはサラの剣を掴んで押し合いをしながら嘆くようにうなるのだった。
「フレデリク、諦めろ」
「馬鹿な!勇者語録にもあった。『諦めちゃいかん。諦めたら世界終了だよ』と」
「今の時代に持ち出す人間を見たのは初めてたぞ!魔神の襲撃でサーシャの無茶を同列するな!」
「何でこうなった!くそう、ウチの両親も領主様も勝手すぎる!絶対に確信犯だから!」
フレデリクは泣き言をいうのだった。
「貴族の婚約ってこうやって囲われるんだ」
「絶対に違うからな、レーア」
貴族相当であっても平民育ちのレーアは何故か納得し、ジルフィアは顔を引きつらせて否定するのだった。
そういう訳で、フレデリクはルミヤルヴィに帰って早々に二人も婚約者を得る羽目になったのだった。
ピヨッ
あとがき担当のヒヨコだぞ!ピヨちゃんと呼んでくれ!
雷魔法のコツは簡単だ。左手は添えるだけ。ヒヨコ界のリバウンド王とはヒヨコの事だ!
その前、痩せていたのに随分太ったね、とか言うでない。そっちのリバウンドでは無いぞ?ヒヨコが太ったと思うなら、きっと湿気の問題だ。ヒヨコの見た目の9割は羽毛で決まるからな。
水に濡れると鳥ガラとか言ってくれるなよ?鳥もヒヨコも大体そんな感じだからな。
さて、本編に出て来た勇者語録とは何か?かつて魔神を倒して世界を救った異世界の勇者・沖田駿介が残した迷言集だ。漫画の名言をパクリ、異世界の後世に残してしまった奴の黒歴史集と呼んで差しさわり無いぞ。
ちなみに残したのは文武両道な初代ヴァイスフェルトことシュテファン君だ。彼は頭が良い血筋らしく、言われた事は忘れない。今回出て来たジルフィア嬢も血筋なのか賢い子らしい。
ちなみにあのポンコツ勇者は音楽を残したため、地球の音楽をすべて勇者作として伝わっている。ショパンもベートーベンもアニソンもゲームのBGMもJ-POPも全て駿介がが作った事になっている。奴も覚えたものは忘れない上に、指も手も足も思う通りに動かせるという、素がチート野郎なので奴の勇者伝説はつまらないから作者に構想段階で捨てられる始末。何せ数学の未解決問題を『俺の貯金箱』とか言っているくらいだ。初代ヴァイスフェルト君と暴走してやらかした科学無双失敗の過去もあるらしいから、この物語でもちょろちょろ出て来るだろう。
それじゃあ、今回のあとがきはこれまで。
次回のヒヨコ伝説は『ダンジョンにヒヨコを求めるのは間違っているだろうか』でお送りするぞ。それではまたな!
※次回予告はヒヨコの出鱈目です。本作品とは一切関係ありません。




