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雷華の騎士 ~やがて支配帝(ハーレム帝)と呼ばれる男~  作者:
第1章 雷華の騎士とルミヤルヴィの姫
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7話 新しい指針①

~帝暦250年2月 ローゼンブルク帝国ルミヤルヴィ辺境伯領~


 ルミヤルヴィに起きた戦争は終結した。

 しかし、西部迷宮はスタンピードラッシュが終わったばかりにもかかわらずその4日後にスタンピード発生の予兆を確認される。

 魔物が外に出て来た事で再び調査へ行くこととなる。

 今度は、ルトガーやゲオルクらと共にフレデリクも西部迷宮へと向かう事となった。


 巨大な森の中にある周長300メートルは有りそうなトレントの死骸の下に広がる巨大な穴の奥に迷宮が存在する。

 その迷宮にフレデリクは先頭を歩く。

「フレデリク様、先頭は危ないですよ!」

 心配して声を掛けながら後ろから付いて来るゲオルクだった。

「頭ごなしにがみがみ言って来てくれないゲオルクさんとの距離感がつかみにくい」

 心配して付いて来るゲオルクにルトガーは苦笑する。

「あの男にとって皇族はそういう相手だからね。ザシャ様に跪けなくて如何すれば良いか困っていた程だから」

「母さんの護衛って事?」

「半分はね。陛下をぶん殴って死罪だったところを陛下はどうにか周りを説得して平騎士への降格と白狼への左遷で手を打ったんだ。ザシャ様は心根だけはルミヤルヴィに劣らず強い人だったから仕えるのにこれ以上ない相手だったしね。それに、陛下に嫁いで亡くなったゲオルクの妹は、学生時代のヴォルフ達のパーティメンバーだったんだ」

「そうなんだ」

「まあ、ヴォルフはあんな性格だから、言ってくれれば俺が殴りに行ったのに。降格?死罪?俺に誰が罰を与えんの?帝国騎士全員で掛かって来いよ、俺を殺せたらな。みたいなことを言う奴だからね」

「その父は知りませんが……。僕が物心をついた頃にはゲオルクさんいたし、父さんは騎士らしい騎士だったので」

「今のフレデリクの方がやんちゃな頃の父親に似てるねぇ」

 ハハハハとルトガーが笑う。

 フレデリクは父が自分ほどやんちゃだった姿がちょっと想像つかなかった。この1年であの双刃の勇者(悪党)にかなり毒された自覚があったからだ。

「前方に魔物の群れがいます!」

 一緒に歩く元白狼の迷宮部隊の隊員が声を上げる。

「前線はどう動くんですか?従います」

 フレデリクは剣を抜いて、話を切り止めて戦闘態勢に入る。

「使えるようになったか俺が見てやる。ついて来い」

 オットーが前に出て剣を抜く。

「えー」

 3年前まで格下だったオットーが上から目線で口にして、フレデリクは微妙な顔をする。

 現在のオットーはルミヤルヴィ領軍の迷宮部隊の第3隊長という立場にあった。腕っぷしだけで伸し上がった、孤児院育ちの男である。幼い頃にマルヤーナに見いだされて彼女を守る為に領軍に入り、駆け上がって来た為、辺境伯への忠誠心だけは高いのだが、フレデリクみたいなボンボンに嫉妬している面がある。


 奥から見えてきたのは体長2メートルはあろうかというジャイアントビー10体と体長4メートルはあろうかというアイアンスコーピオン5体の群れだった。

「魔法部隊は空のジャイアントビーを!下にあるアイアンスコーピオンは俺達が受けもつ」

「じゃあ、僕はジャイアントビーに行く!魔法部隊は僕の狩残しをよろしく!」

 フレデリクは一気に走りだし上空を飛ぶジャイアントビーにめがけて大ジャンプをする。すれ違いざまに一匹の頭を切り落としつつ、二匹目を剣で切りかかる。

 ジャイアントビーはフレデリクの剣を強靭な顎で受け止める。だが、ジャイアントビーの体躯に足を乗せて両手でジャイアントビーの首をねじり切る。

 そして死骸となって地面に落ちいくジャイアントビーを蹴る勢いで次のジャイアントビーへと襲い掛かるのだった。


 一方でオットー率いる陸上部隊が接敵する。

「俺が前方二体を引き付ける。抜けていく3体は頼む。」

「分かってるよ!」

「はああああああああああっ!」

 オットーは強烈な斬撃を飛ばして最初の一体にダメージを与えつつ、怯んだところで一気に頭を潰して一体目を潰す。

 その間に二体目が攻撃を巨大な鋏で仕掛けて来るが、その攻撃を避ける。

 オットーは二体目に切りかかるが、相手も馬鹿じゃないので巨大な尾でオットーの攻撃を叩きはらう。

「ちっ!」

 オットーは攻撃をどうにかアイアンスコーピオンの攻撃を避けながら懐に入り込み剣を頭にねじ込む。殺した後に剣が抜けなかったのでオットーは支援役に叫ぶ。

「剣を!早くしろ!」

「はっ!」

 支援役を務める部下の一人がオットーに剣を投げ渡し、オットーは剣を手に取ると抜けて行った3体のアイアンスコーピオンに切りかかる。5人で抑えていた所をオットーが加わりアイアンスコーピオンの群れを制圧するのだった。


「<ウインドカッター>!」

「<ストーンバレット>!」

 風の刃と石礫が3体のジャイアントビーを撃墜して最後のアイアンビーを倒すのだった。

「ごめんなー、3体逃した」

「いやはや、ヴォルフ様のような活躍だったよ。リックも大きくなったものだ」

 魔法部隊の男たちがフレデリクの頭をガシガシと乱暴に撫でる。

「ヴォルフさんなら一匹も逃さないだろうけどな」

「いや、父さんと比べられても困るから。ドラゴンを地面に叩き付けた剣士なんて後にも先にも出てこないんじゃないの?」

 フレデリクが肩を竦めて苦笑し、魔法部隊全員がそりゃそうだと大笑いする。


 そんな中、オットーが支援役の成人したばかりの若手に詰め寄っていた。

「遅い!支援役はもっとこっちの動きに対して即座に動け!お前が早く支援出来ていればジェイルさんだって怪我をする事もなかった筈だ!」

「も、申し訳ありません」

「ここは迷宮内部だ!もっと早く動けないと皆が迷惑する!」

「オットー、俺の怪我の事は良いから…」

「ですが…」

 怒っているのか叱っているのかといった感じのオットーは年長の部下に宥められるも、若い支援役の青年への説教が終わる様子はない。


「はいストップ」

 説教モードに入っていたオットーをフレデリクは止めに入る。

「まず一つ。ここは迷宮内だ。怒鳴って声を響かせるな。二つ、説教なら後にしろ。そして最後に三つ目。支援役に現場で文句を言うな」

「これは部隊を預けられているものとしての言葉だ。お前には関係ない」

「ならば元白狼騎士団長の息子としての言葉だ。支援役は戦闘技能を持つ人間に命を預けて自力では帰れない場所に来て支援している。逃げようと思えば逃げられる奴が、他人に命を預けて帯同してくれている人間に、出来る事以上の事を求めるな。弱者の心が分からないクズにはなり下がるなよ……と僕は父から教わってきている。で、オットーさん。アンタは弱者の心が分からないクズですか?」

「~!」

 フレデリクは父の教えをそのままぶつけ、オットーは反論も出来なくなる。

「オットー。焦るのは分かるがもう少し余裕を持とうか。僕の言いたいことはフレデリクが全部言っちゃったけど、周りに当たったりしちゃダメだよ」

 ルトガーがフォローに入り、オットーは悔しそうにうつむく。

「俺が何とかしなきゃ、ヴォルフさんの穴を埋めてルミヤルヴィを守らないといけないのに」

「一人で背負う必要はねえだろうに。気持ちは分かるけどな」

 オットーはうつむいて拳を強く握る。

 フレデリクは首を傾げると魔法部隊のメンバーがフレデリクの方にやって来る。


「オットーはトビアス様が死ぬ現場にいたんだ。巨大な炎の弾丸を前に身をすくませて動けなかった中、トビアス様がマルヤーナ様を庇って亡くなったどころかマルヤーナ様にも消えない傷を負わせてしまった。自分が死を覚悟して動ければトビアス様もマルヤーナ様も守れたと後悔しているんだ」

「相変わらず細かい事でごちゃごちゃと……くだらなすぎる」

 フレデリクはばっさり切り捨てる。

「おいおい」

 ルトガーが苦笑する。

「たかが普通の子供が英才教育を施されたトビアス様の代わりになれるはずがないだろ。僕を見るがいい。僕なんて帝都の英雄の子供だけど、そんな化物になれるとはこれっぽちも思って無い。なれなくても火竜王に復讐してきたんだ。僕なりに僕らしく多くの仲間を巻き込んで僕の力でね。迷宮内で背伸びしても命の危険があるだけだ。僕らは人間で、だからこそ無いものを皆でカバーする。そんなんじゃ安心して背中を預けられないんだけど?」

「!?」

 オットーはフレデリクを睨む。

「あ、魔物が来たよ。戦闘準備。うじゃうじゃと何でまあ尽きないだろうな、こいつら」

「ただ、この散発的な感じはスタンピードの予兆というより、スタンピードラッシュの生き残りって感じだねぇ」

「オットー、反省は後だ!行くぞ!」

「は、はい!」

 フレデリクが先頭で走り魔物を次々と殺していき、それにゲオルクとオットーが付いていく。


 3時間ほど潜って大量の魔物を狩って全員で帰り、滅んだリンノイトゥスの一角に集まり、滞在メンバーと交代する。崩れているがリンノイトゥスは領軍の一時滞在場所として使える場所だけを領軍の休憩地として利用していた。


「いやー、フレデリク一人いるだけで随分と楽になった」

「紅玉級冒険者だからな」

「3年前の課題はこなしてきたという事だねぇ」

 褒められながらもフレデリクは少し考え事をしていた。

「ですが、今後はどうするのですか?辺境伯になると聞きましたが」

 ゲオルクはフレデリクを見て訊ねる。

「もちろん、アレクサンドラ様にこれ以上の負担を掛けたくないから一時的に引き受けるけど、もう少し期間は空けたい。だからまだ保留で。ただ、先に言っておきたいことがある。回復役と前線で戦える戦闘役がもう一人ずつ欲しいな。西部迷宮攻略をしようよ」

「え」

 フレデリクがあっけらかんと言ってしまったので一瞬全員が意味を理解できなかった。

「父さん達が計画していた内容、ルトガーさんは知ってるでしょ?」

「ああ。だがねぇ、ヴォルフとヴィルヘルム様とフリッツという主要戦力が抜けてるんだよ。誰が代わりにやるって言うんだい?」

「神殺しの魔法は僕が持ってる。つまりヴィルヘルム様の代わりは僕がやる事になるだろう。フリッツさんの代わりはいるでしょ?父さんの代わりは無理でも前線で戦える人間と、その分もう少し回復役を増やしておきたい。一人だけ前線で戦えそうな人に心当たりがあって……嫌な顔されそうだけど、父さんに勝ち逃げされたとぼやいていた位だからさ。協力を求めれば行けるかなぁと。今度はさすがに僕の全財産を要求されそうだけど」

 フレデリクは百枚以上入ってそうな金貨の入った袋を取り出してじゃらじゃらと振る。

「本気ですか?」

 ゲオルクはフレデリクを見て訊ねる。

「アレクサンドラ様もマルヤーナ様も限界だ。ヴィルヘルム様が偉大過ぎたが故の反動で多くのモノを求められている。辺境伯を引き継ぐは方便だ。その前に西部迷宮を攻略すれば全てから解放される。それで再びどうしたいかを彼女達に選んでもらうべきじゃないかな?」

「本当はねぇ。全部片づけたうえで君たちに譲りたかったんだよ、ヴィルヘルム様もヴォルフもね」

 ルトガーは当時の事を振り返る。

「だろうね。だから僕がそっちを引き継ぐ。旅をしている間に金剛級冒険者には何人も会ってるしできれば師匠も呼びたいな。今となっては別れなければ良かったと思ったりもするが………仕方ない。いつ頃になるかは未定だけど、できれば皆に力を貸して欲しい。少なくとも夏に第一弾の西部迷宮攻略をしようと思う。」

「断る奴がここにいるとでも?」

「3年前の計画を再び動かすか」

「減った分の戦力を補充して再びか…」

「おもしれえ!」

「帝都の貴族共の権威に喧嘩を売ってやりたかったんだ!」

「一度は諦めたが……」

 元白狼騎士団の面々は盛り上がる。

 3年前の盛り上がりが戻ってきたようで誰もが活気に沸き立つ。


 フレデリクに多くの大人たちが集まり笑い合う。


 その集まりを少し離れて眺めるルトガーとゲオルクだった。

「もしかしたら僕達は本当に偉大な英雄の歴史の生き証人になるかもしれないねぇ」

「当たり前だ。ザシャ様の子でヴォルフとヴィルヘルム様がこれでもかって位、詰め込んだからな」

「僕らの真の皇の帰還か。これから世界が動き出すだろうねぇ。僕が死ぬ前にあの爺のほえ面が見れたら最高なんだろうけど」

「それ以前に、お前よりバイマール候が生きると思ってるのか?」

「あの爺は100歳くらいまで陰険なまま生き永らえそうだからねぇ」

「違いない」

 ゲオルクは想像して噴き出してしまう。


 オットーが二人の方に歩いて近づく。

「本当に出来ると思いますか?迷宮攻略」

「さあ、難しいけどあの子に案があるなら可能性はあるんじゃないかい?」

「ヴォルフさんや領主様、フリッツ将軍も抜きで?」

「ふっ……あの子はこの中で誰よりも才能に悩んだ男だよ。ヴォルフを殺した火竜王を誰も勝てると思わなかった。だが、ヴォルフ程の力が無いと胸を張って言える男が火竜王討伐を成した。しかも剣士だったあの子が魔法で殺したと聞いた。分かるかい?父親に憧れ父親を目指した子が、求める力が無いなら違う力を求める。悩まなかったと思うかい?かつて君よりはるかに若く優れた剣士が剣を捨てる意味を」

 ルトガーはオットーにとっても苦い過去を指摘する。

「!?」

「まあ、親がいなくなって冒険者をやっていたせいもあって、良い子ちゃんでなくなってしまったがな。誰に影響を受けたのやら」

 ゲオルクは複雑な口ぶりだった。当時のフレデリクは母親の礼儀正しさをしっかり持っていたが、今は若い頃のヴォルフに凄く似てしまっている。中身に関しては、ああ、やっぱり親子だなぁと感じる程度には。

「僕らを纏めるならあの位大胆な方がついていくだろうさ。ヴォルフがいた頃のような高揚が僕にもあるからねぇ」

「オットー。お前の三年が正しかったことを負けずに示して見せろ。恐らく、フレデリク様の計算ではフリッツ将軍の後釜はお前だ」

「……負けたりしませんよ、アイツには……今度こそ」

 オットーもまた負けじと心を燃やす。


 孤児だったオットーにとってフレデリクは気に入らない子供だった。敬愛するトビアスやマルヤーナに弟のようにかわいがられ、尊敬するヴォルフの息子で一身に愛情を注がれている。ただ、生まれの違いで周りに愛されるフレデリクが気に入らなかった。剣でなら負けないと思っていたがその剣でさえ勝てなかった惨めさに一生モノの屈辱を感じた。


 その気に入らないガキは火竜王に自分の剣が効かないとあっさり剣を捨て魔法で挑んだという。そしてより高みへと向かった。

 3年経ち、このルミヤルヴィで一番の剣士になったと思ったのに、フレデリクは魔法で領主様の頂にまで駆け上がっていたという。


 悔しくないと言えば嘘になる。

 何もかもを持って生まれたフレデリクはオットーにとって最も気に入らないライバルだったのだから。

 だが、オットーも気に入らないからと突っぱねるような事は出来ない。それ位には分かっている。いつまでも子供ではないのだから。

ピヨッ

あとがき担当のヒヨコだぞ。ピヨちゃんと呼んでくれ。

まだだ!まだ終わらぬよ!ヒヨコ界の赤い彗星とはヒヨコの事だ。


2章予定の話を1章に繰り上げた為に、1章がが終わると言っておいて終わらなかった今日この頃。

この物語は雷華の騎士を描きつつ、帝国が最も大変だった時期を描いているぞ。

 例えば、ヒヨコ伝説ではメルシュタイン侯爵領が存在するが、帝暦250年現在はメルシュタイン王国となっている。ケンプフェルト辺境伯領があるが、まだ帝国領になっていないのだ。ケンプフェルトと呼ばれるようになったのは帝国参入後の話だぞ。

 そこら辺の激動の歴史を追っていくこと位なるだろう。


 次回のピヨちゃんは『望まぬ不死鳥の冒険者』でお送りするぞ。


※次回予告はヒヨコの出鱈目です。本作品とは一切関係ありません。

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