6話 ルミヤルヴィの戦争⑫ 終戦
フレデリクはアレクサンドラ達の居た場所へと戻る。
「終わったよ。全員降伏したハッキライネン伯も地団太を踏んで悔しがっていたが他の貴族達もみな戦意を失い戦える状況じゃないからね」
「リッ君。いや、フレデリク様。……何という魔法を覚えて来たんですか………」
ニクライネン伯爵は溜息を吐きながらフレデリクを見る。
自分達が知らない間に覚えたという魔法は、このルミヤルヴィを何度となく救ってきたヴィルヘルムだけの18番<天地雷華>という超大規模殺戮魔法だった。
「領主様程じゃないですよ。領主様はアレを敵味方選別して敵だけを殺せる。僕はただ使えるだけで効果範囲を全て殲滅する魔法ですから」
そうフレデリクは幼い頃に見せて貰った魔法と違う事を説明する。ヴィルヘルムがかつて使った<天地雷華>は魔物だけを殺し人間は殺さないと言う生殺与奪の権利を持つすさまじい魔法だった。その理屈だけは知っていた。
フレデリクはそれを制御できるほどの能力は身についてなかった。
「え。ちょ、ちょっと。大丈夫なの?」
「スタンピードと戦う皆を信じてます。ルトガーさんなら魔法の制御が甘いから即座に撤退指示出すでしょう。そして撤退指示が出て逃げ遅れる愚鈍な連中はあの場にいません」
それはフレデリクが幼い頃から顔を出して共に戦う訓練をしていた仲間に対して信頼から来るものだった。彼ら白狼騎士団がどれほどが出来るかを知っている人間はこの場にはいない。
「……地方の領民の多くはあの魔法に救われている。ヴィルヘルム様の魔法に歯向かうなんて事はしない。傭兵も戦うことなく殺されると分かればさっさと逃げる。つまり、まあ、僕がやったのは虎の威を借りただけですよ」
ヴィルヘルムの域に達したわけでも無いフレデリクは、見た目と威力だけを真似た魔法を恥ずかしそうに評する。
「アーちゃん。戦争は終わる。兵士たちに呼びかけて。上から見てたけど、西部迷宮に行っていた領軍も半数は戻って来る。彼らに投降者の管理を任せよう」
「うん」
***
フレデリクはアレクサンドラと共に城の外に出てハッキライネン伯を拘束してルミヤルヴィの衛兵に丁重に扱うように言いつつ、ハッキライネン軍の兵士をどうするかをてきぱきと指示を飛ばしていた。
そんな中、元白狼騎士団の男たちがフレデリクの前で膝を突いて臣下の礼を取る。
「フレデリク様、ご帰還の事、誠にお慶び申し上げます」
彼らの代表の如く先頭になって跪くゲオルクの姿にフレデリクは顔を歪めていた。
「ほら、坊が引いてるじゃないの。いつも通りで良いと思うけどねぇ」
ゲオルクら真面目な元帝国騎士達は臣下の礼を取るが、ルトガーは呆れたように溜息を吐いて、後から歩いてやってくる
「フレデリク様がザシャ・フォン・ローゼンブルク様のご子息であると自覚した以上、帝位継承権第3位であらせられる事も知った筈。であれば…」
「辞めてください。亡き父の同僚に跪かれても困ります。僕は未来の仲間であって皇帝になるつもりはないんだから」
フレデリクは呆れたようにぼやくが、ゲオルクは真面目で規律に厳しい。確かに皇族と分かった以上、隠さなければ良いならこうなる事は明らかだった。
「それに君達、もう騎士じゃないんだからね?」
ハッハッハッと笑い飛ばしながらフレデリクの頭を乱暴に撫でるのはルトガーだった。
「でも坊はちょっとやりすぎだねぇ。僕らを殺すつもりだったのかい?僕が撤退指示しなければ全滅だったよ?」
「何言ってるんですか?ルトガーさんがいて、僕の未熟な魔法を制御しきれてないことくらい分からない筈がないでしょ。早々にルトガーさんは撤退指示を出すだろうし、それで逃げれない愚かなメンバーがルミヤルヴィ領軍や白狼騎士団にいる筈ないじゃないですかに」
フレデリクが呆れた様子でぼやき、誰もが空いた口がふさがらなかった。
「そう言われるとこっちが叱りにくいんだけどねぇ」
ボリボリと頭を掻くルトガーだった。少し照れているようでもあった。
「魔法に関してはLV10の頂に立ったとしても、領主様やルトガーさんほど魔力操作が得意な訳では無いですからね」
「僕はこの域に立つのに30年を擁してるし、ヴィルヘルム様だって若き雷華の賢者と謳われた頃は使うのが手一杯だったと聞いてるよ。今、フレデリクに肩を並べられたらこっちが落ち込むよ」
「戦争はどうなってるんだ?マルヤーナ様とアレクサンドラ様は無事なんだろうな!」
奥の方からずかずかと走ってフレデリクの襟首をつかんで訊ねてくるのはオットーだった。当時の細身だった子供の体形だった面影はなく、分厚い筋肉がついて立派な戦士の姿になっていた。
「何で僕に聞くのさ。僕がここに来たのほとんどついさっきだからね?風魔法で空飛んで1日かかる距離を1時間くらいでぶっ飛んできた僕が、すぐ近くのリンノイトゥスにいた人が聞く事じゃないよね?」
「空を……飛ぶ?」
「風魔法LV7まで身に着けたから空くらいは飛ぶよ?もう、大変だったんだから。おかしいな、火竜王倒して何もかも終わった気になってたのに、終わった後の方が忙しいって何なの?」
フレデリクは呆れたようにぼやくのだが、隣にいたアレクサンドラはぼそりと呟く。
「リッちゃんがお仕事しなかったからだよ」
「はい、僕が全部悪かったですね。くそう」
幼馴染に後ろから刺されるような一言を言われ、フレデリクは文句を言えなかった。
「でも、……帰って来てくれてよかった」
凄く安心したようんアレクサンドラは口にする。
「………。まあ、覚悟はしてたけど……随分減ったね」
フレデリクは頷きつつも元白狼のメンバーを見て痛々しそうな顔をして訊ねる。
「死亡者、退役者、騎士団に戻った者で総計525名が離脱し、513名が残ってる。だが、まだ半分はここにいるよ」
「そっか。そうだね。」
「人生の先輩から一言言っておくとねぇ。僕は君と同じで一度逃げているからね。任務も何もかも放り投げて。だからねぇ、気持ちはわかるけど逃げるのは後で後悔しかしないから辞めた方が良いよ」
「そうですね」
フレデリクは人生の先輩に指摘されて溜息を吐くしかできなかった。アレクサンドラにもルトガーにも自身の心内を読まれてしまい、激しい羞恥だけを残すのだった。
「でもよく帰って来てくれた。我らの未来の大将」
ルトガーはそう言って昔のようにくしゃくしゃっとフレデリクの頭を撫でる。
フレデリクはやっとルミヤルヴィに戻って来たのだと実感をするのだった。
***
戦争は終わり貴族牢にハッキライネンとその寄り子の貴族達が滞在していた。貴族牢とは言うが、牢というには普通の部屋ではあるが、ランジランタの一室に軟禁されているだけである。
「は?」
ハッキライネン伯爵、30代前半の若い貴族である。彼は自棄になっていた。
現領都ランジランタを制圧し掛けて、ほぼ勝利が確定した状況から魔法一つで引っくり返されてしまったのだから。
さっさと殺せと軟禁場所で口にしていたが、アレクサンドラが下した結論は
「だから伝えました。責任を取って爵位を後継に譲り隠居する事」
あまりにも甘い断罪だった。
「馬鹿な!そんな事が通るとでも……」
アレクサンドラについてきたのはフレデリクとルトガー、それにヘンドリカとニクライネン伯爵だった。
「最初から私が辺境伯になるには無理があった。代わりに担ってくれる人がいるなら伯爵がやってくれても問題はないと思ってた。私もお姉ちゃんも皆に言いたいことがあるならいくらでも行ってきて欲しいと伝えたけど、それは辺境伯の座に相応しく無いから降りて欲しいという話でも良かったのに」
呆気にとられるハッキライネン伯爵は開いた口が塞がらない。そこで慌てて我に気付きだったらこのまま譲っても構わない筈じゃないか、と思って口にしようとする。
「だ、だったら」
「認められないねぇ」
ルトガーが呆れたように突っ込む。
「!?」
「良いかい?ルミヤルヴィは現状でもスタンピードに対応して領軍が戦ってる。彼らが通せば魔物に襲撃されるのは君の領地かもしれない。僕らはそれを守る為に戦っているし、この3年で2桁の死傷者が出てる。しかも共に戦うならともかく、手が離せないスタンピードラッシュ中で領地を奪いに来る奴らを僕らが信用するとでも?」
ルトガーはいつものようにやんわりとやる気なさげな口調だが、呆れたような物言いだった。
「やり方さえ間違えなければ譲っても良かった。ですが、そのやり方は認められません。私たちは自分達で戦えなくなったから帝国の傘下に与した元王国。代わりに戦ってくださる領兵の皆さんを蔑ろにする事は出来ないのです」
「だ、だが…しかし……」
ハッキライネン伯爵はチラリチラリとルトガーの方を見る。逆に、ルトガーは怪訝そうに目を細める。
フレデリクはコホンと咳払いをしてから、ハッキライネン伯の方を見て
「そこら辺はバイマール伯家の元嫡子が纏めるから貴殿は心配しなくてもよい。戦争で勢い余ってアレクサンドラを殺せ。後継者を失い、領都を確保すれば貴殿がルミヤルヴィ辺境伯だ、バイマール侯爵閣下が貴殿を推薦しよう」
と怪しげな声音で口にする。
「な、何故それを!?」
「やっぱりね。バイマールの人間に唆されていたか」
フレデリクがハッキライネン伯爵に言葉を差し向けると、案の定驚きの声が返ってくる。
「ウチのクソジジイか。まさか僕がこういう形で使われる羽目になるとはねぇ」
ガリガリとルトガーは頭を掻いて溜息を吐く。
「どういう事?」
アレクサンドラは首を傾げる。
「バイマール候がルミヤルヴィを得ようとして動いた結果だって事だよ」
フレデリクはアレクサンドラに諭すように口にする。そして続けるように状況説明をする。
「ヴィルヘルム様無しだからこそ、自分の傀儡領を作ろうとしたんだろうね。領主に反乱をするには領主の血縁を神輿にしなければならない。そう言う法律がある。かなり遠縁だけどハッキライネン伯はルミヤルヴィの人間が降嫁した事あるし」
「そうだねぇ」
フレデリクの指摘にルトガーが頷く。
「そうなの?」
アレクサンドラはコテンと首を傾げる。
「他領の傀儡領にされるのを拒否する為に、放浪してたヴィルヘルム様が戻らざる得なかったからね」
ニクライネン伯爵が説明を加える。
「若い者は知らぬだろうし私も父からのまた聞きだがね。ヴィルヘルム様は子を成しにくい身だから貴族の責務を果たせぬとして出て行ったのだ。それでも戻る羽目になる程の窮地だったらしいよ。ヴィルヘルム様は多くの伝説を残しているが、実の所、最も多く偉業を成したのはルミヤルヴィ辺境伯としての働きだったと私は思うよ」
「そうですね」
冒険者時代の伝説を目撃した妻ヘンドリカが頷く。
「この戦で勝ってもアンタは領主殺しの罪を背負わされ、他の大貴族に首輪を掛けられて辺境伯をさせて貰うか、或いはアンタと同盟した貴族が代わりに使い捨てられるか、少なくともこうして負けて生き永らえるよりも最悪な人生を送るだろうね」
フレデリクは呆れたようにハッキライネン伯を見る。
「中央のクズどもは本当に知恵の回る嫌な連中ばかりだからねえ」
「バイマール候とグロスクロイツ候の反応から、多分アレクサンドラ様を殺してから奴らはゲームをする感覚で、どっちの陣営を領主にさせるかって話をしてたんだろう」
「ありそうだ。胸糞悪い話だねぇ。僕がそれに一役を担うとでも思ったのかい?それに巻き込まれて反乱に巻き込まれて犯罪者となった無辜の民を殺す後処理が嫌だから、僕はこの地に左遷させられたんだ。あの爺さん達は変わってないねぇ」
ルトガーは眉間を押さえ首を横に振り、深々と溜息を吐く。
帝国中央の裏話を話すフレデリクとルトガーに、ハッキライネンは愕然とする。自分も駒の一つにされていただけに過ぎない事実を。
「そういう訳で哀れなあんたは極刑する意味も価値もないし、何だったらあの爺の悪行の証拠でも持っているならさっさと出してくれれば嬉しいね」
「しょ、証拠?い、いや、我らが武器を調達していたことを知られると後に足を引っ張るだろうと……証文も何も……。飢饉で食糧支援をする際に我が領が厳しそうだからと色々と頂いた時だけは……」
「武器の供給証拠はなし。これ完全にいつでも切られる状況じゃん」
「皇帝陛下の勅とはいえ可哀そうだからと物資の支援をしたけどそれ以外は知りません、みたいな話だ」
ハッキライネンがしどろもどろに話すと、フレデリクは額を抑えて空を仰ぎ、ルトガーは肩を竦める。
「ハッキライネン伯、貴方の罪は詐欺にあって多くの民を傷つけた事。故に責任を取って引退してもらいます。貴方を生かすのは彼らにとって証拠を残す為。それに……」
アレクサンドラはフレデリクに視線を向ける。
「責任を取るのは私も同じだから」
「責任を取るってどうするつもり?」
「私は近いうちに引退して、ルミヤルヴィ法に基づき第3継承権を持つリッちゃんに次の辺境伯を継いでもらう」
「「!?」」
フレデリクとハッキライネン伯だけが驚きの顔を見せる。
「だ、第三?」
「第一継承権のシルちゃん、第二継承権のイスト君、第三はリッちゃん。シルちゃんは辺境伯になる気はないし、イスト君はカイヴォスを守らせるつもりで育てられてる。リッちゃん以外の人達は放棄してるから」
「放棄も何も貴族とさえ教わってないんだけど………」
「ごめんなさいね、リッ君。でも、今回の件が無くてもリッ君が生きていたならどちらにしてもリッ君に継がせるのは決定事項だから。うちの人とトビアス君が協議して決めた意見だから」
ヘンドリカのきっぱりと有無を言わせぬ言葉にフレデリクは空を仰ぐ。
火竜王への復讐を終えて、フレデリクは人生の岐路にいきなり立たされることになる。そんなの聞いてないと言いたいが、黙っていた人たちがこぞって火竜王に殺されている以上文句も言えない。
父はキングを教えなかったと言った。そのキングが実は自分だったなんて思わなかった。
せめて、そこら辺は教えておいてよ父さん。
フレデリクは亡き父への文句を心の中で呟くしかできなかった。
ピヨッ!
あとがき担当のヒヨコだぞ。ピヨちゃんと呼んでくれ!
これ以上を欲しても両軍被害は無益に拡大する一方だ…!!!まだ暴れ足りねェ奴がいるのなら 来い…!!!ヒヨコが相手をしてやる!!!
ヒヨコ界の四皇赤雛とはヒヨコの事だ!
ルミヤルヴィ戦争がやっと終わったぞ。そして第1章もおわったのだ。この戦争を終わらせに来た………
ピヨピヨ。まあ、ヒヨコが終わらせた訳では無いがな。
どうだったろうか?この話は雷華の騎士から帝国貴族となって貴族として戦う訳だな。まあ、雷華の騎士と呼ばれるようになったのは火竜王討伐直前だったからほぼほぼ雷華の騎士としての活躍が描かれることになろう。
第1章はハーレム王に俺は成る!という感じでは無かったが第2章からは学園生活にスライドする事になるぞ。ヒヨコでは描かれなかったがヘレントルの中での活動も描かれることになろう。ハーレム帝と呼ばれる羽目になった男の過程も徐々に分かっていくことになるだろう。
ヒヨコの世界では迷宮が全て攻略済みで攻略過程はあまり描かれて無かったから、活動中のヘレントルや迷宮がどんなだったかもわかる事になるだろう。
乞うご期待だな。まあ、作者もストックを全て吐き出してせっせと書いていくことになるのでペースは落ちる事になると思うが。ヒヨコ第三部の続きも早くしてほしいしな。作者の尻を突くのがヒヨコの仕事だ!
それでは次回予告だぞ。次回のピヨちゃんは『ヒヨコマーチから始まる異世界競走曲』だぞ!皆、見てくれよな!
※次回予告はヒヨコの出鱈目です。本作品とは一切関係ありません。




