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雷華の騎士 ~やがて支配帝(ハーレム帝)と呼ばれる男~  作者:
第1章 雷華の騎士とルミヤルヴィの姫
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6話 ルミヤルヴィの戦争⑨ ~ハッキライネン伯~

 ハッキライネン伯はランジランタを取り囲んでいた。

「思ったより堅いな」

「ランジランタはリンノイトゥスから逃れるための衛星都市であり避難用の都市ですから。籠城する機能は高いと思われます」

「忌々しい。あともう少しで私が辺境伯へとなり上がれると言うのに」

「伯爵閣下。元白狼騎士団は本当に傘下に入るのでしょうか?彼らは帝都でも持て余して追放されたような連中ですよ」

「問題ないと言っただろうが。奴らは権力に反発した連中だ。誰が権力者であっても気にする訳が無いだろうが」

 苛立たし気に口にする。

「折角のチャンスなんだ。神が俺に機会を与えてくれたに違いない。スタンピードラッシュで領軍は縛り付けられていてベルトハイムと両面作戦どころか、ルミヤルヴィ領軍は手も足も出てない」

 神って、その神様は魔神では無いだろうか?

 一瞬、配下の貴族が首を傾げるが、この30代と若い伯爵が腕を組んでランジランタの城壁を攻めようとする自軍を眺めていた。

「先代はなんと?」

「領主様に罰当たりなとか怒っていたがな。頭の固いジジイのいう事など話にならん。4年前に始めた領地整備のプロジェクトを後ろ倒しにされてこっちは迷惑を掛けられているのに、更に領地の利益まで奪おうとする始末。もはやあの愚かな姉妹とは話す必要はない」

 リンノイトゥス崩落、ザルムの不作とルミヤルヴィは多くの税金を何も使えない状況が続いていた。

「我が領は着々と戦力を上げていた。バイマールやグロスクロイツも我らを新しい辺境伯へと望んでいる。忘れたのか?我が軍備は彼らから流されているものだからな。ルミヤルヴィはカイヴォス経由で無ければ武器が手に入らない部分があった。故に領主はカイヴォスからラーナスト伯に武器の行方を問えばどこの領地が武器を集めているのか簡単に察されてしまう。そしてラーナスト伯はルミヤルヴィの親族故にこちらにつかぬ」

「そうですな」

 うんうんと頷く反乱軍に回った同僚の貴族達だった。

「なるほど、故にベルトハイムとの共同戦線を持ち掛けた訳ですね?」

「さすがはハッキライネン伯」


「いつまでも俺達が下でいると思っているのか?尊き血を持つのは我らも同じよ。平和ボケした愚かなガキどもは我がルミヤルヴィ領にいらぬのだ!さあ、攻めろ!ルミヤルヴィ打倒はあともう少しだ!」


 ハッキライネンは叫び兵をさらにランジランタへと攻めさせる。


「閣下!問題が発生しました!一時軍を下げるよう指示を願いたい!」

「何を馬鹿な事を言っている!そんな事が許されるとでも…」

「南方リンノイトゥスより魔物の群れが大量発生!恐らくスタンピードがルミヤルヴィ領軍を突破したと思われます」

「そんなもの我が軍で蹴散らし……」

 人間どころか砦よりも巨大なサーペントを筆頭に魔物の集団が南方の森からどかどかと現れる。

 想像をはるかに超えた魔物の襲来にハッキライネン伯のみならず、反乱貴族達は一気に震え上がる。

 あんな化物集団が迷宮にいるなどと考えてもいなかったため、驚き声を失ってしまう。


 直に我に返ってハッキライネン伯は大声で指示を出す。

「一時撤退だ!南部を取り囲んでいる部隊はこちらへ退け!」

「はっ!」

 慌てて走り出す部下達に、ハッキライネン伯は額の汗をぬぐう。

「これがスタンピードか。アレ程の魔物が存在するとは予想外だな」


 だが、実際にはそれ以上の魔物がいて、それを抑える為に突破を許さざるを得なかった実情がある事を彼らは知らない。

 この30年、ヴィルヘルムはスタンピードを他領までほとんど侵攻させてはいなかった。侵攻させても追って魔物を魔法でもって撃滅していた事実があった。逃げ惑う領民たちの前で雷の嵐を降らせて魔物を悉く駆逐していた。故にこそ領民たちは雷華の賢者をよく知っていた。

 30代半ばに差し掛かる彼ら若い爵位を継いだばかりの貴族達が知らぬのも当然だった。

 スタンピードの脅威を見るのは領都リンノイトゥスのみであったからだ。これが溢れて他領を襲うなどそれこそ遡って15年は無かった。ヴォルフがこの領地の騎士団長として赴任してから、一度もリンノイトゥスの治める範囲の外に魔物を出したことが無かった。


 40代より上になると魔物に襲われるのが当然、スタンピードが発生すれば毎年のように街を滅ぼされて逃げることになった。それこそ火竜王みたいな災害があちこちにあったのだ。

 それを収束させたヴィルヘルムを誰もが尊敬していたし主と認めていた。多少の税金を増やされても文句が言えないのに、安定して帝国の基準である4公6民を基本にしていた。

 だが、生まれた頃から安定した政治に感謝する者などいなかった。魔物に襲われず、安定して税収があり、不作の時は中央から補助を出してくれるのが、当然の事だったからだ。

 この3年、リンノイトゥスが崩壊し、後継が立つ事で政治がガタガタになってしまった。

 安定していたのが当然として生きていた彼らにとって不満が非常に募るのも当然だった。


 反乱をたきつけたのは他所の大貴族であるが、大義名分を与えられると知ればこの不満をぶちまける矛先はルミヤルヴィ本家になる事に何のためらいもなかったのである。


 ルミヤルヴィ領軍の防衛部隊が走り出すのが見える。彼らは籠城の為に、魔物と戦うよう南側へと集まりだす。

 その中に軍人とは思えないドレスを着た少女も現れる。

 緑の髪をしている少女だった。



「アレクサンドラ・ルミヤルヴィを発見しました!」

「目視できる場所まで来たと言うのに手も足も出ぬとは」

「何であんな場所に?」

「恐らく魔物の対処の為かと。優秀な魔導師でもあるという事ですから」


 周りが軍議とも呼べない話し合いをしてハッキライネン伯は頷く。

「チャンスだ!奴らと魔物を潰し合わせろ。あれほどの魔物だ。ランジランタの砦を崩すかもしれん。崩れたらそのまま突入だ!」

「ですが、魔物に襲われたら」

「魔物にとって軍人も住民も判別は付くまい!無視して住民を囮にして我々は一気に攻め落とす!」


 ハッキライネン伯の言葉に全員が頷き合い、チャンスだと声をあげて再び攻める準備を差せるように命令を出すのだった。

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