第023話 帰還
レンリート王国に帰って来た。やっぱり此方はちょっと暖かいな。まあ薄っすらと雪が積もってるし寒いのは寒いんだけど。
王都の飛空場から馬車でフローディア公爵家のお屋敷に帰る。
漸くねぇねと家族に会えるな。女の子の姿だったらどんな顔して良いか分からなかったから良かったよ。
『コヤツ身長が縮んだままなの気付いてないのかの?』ボソッ
『歳の問題もあるなのー』ボソッ
「ヒヒン『リリちゃんが気付いてる訳ないじゃんかー』」
フローディア公爵家のお屋敷は王城近くにある一番大きなお屋敷だ。ウチの家族は皆んな此処で使用人として雇われている。
敷地内にある果樹園の手入れなんかもやるそうだ。お父さんは農業を続けたいと言ってたし、一応望みが叶ってるのかな? シュミル兄さん達も一緒だから心配はしてない。
お屋敷の敷地内を進んで正面でナージャさんがカメラを持って待ち構えてた。馬車からシャルロッテお姉様に降ろして貰う。何時もならナージャさんが飛び付いてやってくれそうなのにどうしたのかな?
「ア、アイリスお嬢様。お帰りなさいませ」
お嬢様? ああ、まだ男に戻った事が伝わってないのか。
「はわわ、可愛い可愛い。本当に小さくなってます。デカい(失礼)シャルロッテ様の側に居ると余計に感じます。それにしても小っちゃくなったアイリスちゃん、可愛い過ぎませんかね? ああ、でも小さくなったのはアイリスちゃん的には不本意だったのですよね? それなら小さいは言わない方が良いでしょう。女の子になったのはどうかしら? 気にしてる様なら、……でもでも可愛い服とか着せたいしそれは我慢して貰うしかないですね。ああでも早くお風呂にも入れてあげたい。添い寝もしてあげたいです、ああ勿論ダンスやリーフの練習もお相手させて貰って、ああ……、カメラにも新たなアイリスちゃんの愛らしさを撮り溜めなければなりませんね」ボソリ
何故かナージャさんはブツブツ言っていて全然近寄ろうとしない。
シャルロッテお姉様に手を引かれて歩み寄ろうとすると、ナージャさんは顔を引き攣らせて引き下がる。――俺の事嫌いになったのかな? 何だかショックなんだよ。
俺がショボーンとなってると「ちっ、違います! キーちゃんの聖素が強くて側に寄れないのです! ああ、でもキーちゃんのお姿も尊いです!!」と叫んでる。
そうか、キーちゃんか。このひと月レンリート領では警戒の為に治療以外ではシャルロッテお姉様しか側に居なかったからな。すっかり忘れてたよ。
「ヒヒン『森行くね〜』」
『ネネェも行くなのー』
ナージャさんに気を使ってかキーちゃんはスタスタとお屋敷の裏地に向かいネネェもそれに付いて行った。フローディア公爵家の裏地には小さな森があって、今はキーちゃんの住処になっている。
俺も良くキーちゃんに乗って走ってるお気に入りの場所だ。
リリィはキーちゃんと行かないのかと聞くと俺から目が離せないって、ははっ。全く、リリィは甘えん坊だな。
『リリィが甘えん坊!?』愕然
「はぁ~、可愛らしさに磨きが掛かってますね! 流石アイリスちゃんです!」
軽々と抱き上げられクルクル回るナージャさん。何が流石なのか分からないけど相変わらずで安心? したな。
「んふふ〜、ドレスをいっぱい注文してありますからね! もうすぐ届きますから色々着てみましょう。アイリスちゃん今から楽しみですねー?」
ニッコニコのナージャさん。ドレスって何? 初耳だよ? 俺が楽しみにしてたみたいな言い方は止めて欲しいんだよ? と言うか。
「アイリスちゃんは男の子に戻ったわよ?」
「…………え?」
シャルロッテお姉様の言葉にナージャさんは俺を抱き上げたまま固まった。
お屋敷に入るとねぇね達が待ち構えていた。両親にランディ兄さんシュミル兄さんの家族まで勢ぞろいだ。それぞれ使用人服や侍女服を着てる。本当にここで雇われてるんだな。
これからはずっと一緒に暮らせるのか。
「ねぇね〜」
ギュッと抱き締めてあげる。えへへ、ひと月振りだしな、ってあれ? 身長が、前は頭半分も差が無かったのに2個分以上ある??
『お主が縮んだのじゃろ? ナージャの時に何故気付かんかったのじゃ?』
あっ、そうだ! 背が縮んだままじゃん! 男に戻ったのに何でなの!? ねぇね固まってるし、これ俺に気付いてなくない? ちょっと涙目になりそう。
「ねぇね、僕、……アイリス」
「えっ、ええ。分かってるわよ。お帰りなさいリリちゃん」
ぎこちない笑みで俺の頭を撫でるねぇね。やっぱり俺の事分かってなかったのかな? ショックなんだよ?
『気付いてない訳ないじゃろ』ボソッ
「うわぁアイリスちゃん帰って来たんだね! 小っちゃくなっちゃって可愛いいいい!!」
うわぁ、……10歳のユミルより小さくなってるよ。トホホ。
『元より対して差は無かったじゃろ』
「本当だぁああ! どうやって小さくなったの!? すっごい可愛いよアイリスちゃん!」
マリエルは11歳だから抜かれてても仕方がないよな、うん。
『どう言う理屈なのじゃ?』
「うわぁ~、本当、すっごい可愛いわね〜」
セディナなんかは18歳だし元から俺より背が高いから余り気にならない。
それより頬を引っ張るな。スリスリするな。撫でくり回すな。抱き上げるな。クルクル振り回すな。――おじさんだぞ?
その後俺の専属侍女見習いになってるアリアとカチュアにも会った。挨拶もちゃんと出来てたっぽいよ。偉いね。
『出来てたっぽいって何じゃ』
だって俺本当のヤツ知らないもん。
『ナージャで見とるじゃろ』
えっ? ……抱きついて、頬をスリスリされて、抱っこされる?
『いやスマンのじゃ。アレは無しなのじゃ』
だよね。初めは出来る感じだったのに、何であんな風になっちゃったのか。
『……お主に性癖を壊されたからじゃろなぁ』遠い目
「アイリスちゃん。私達一度、村に帰ったんだよ?」
「ん」コクリ
「うん。お土産いっぱい持っていったの。すっごい喜ばれたよ?」
「ん、偉い」
故郷に帰ってたのか。あの村は貧しかったからなぁ。給金から色んな生活物資を送ってあげたから無事に冬を越えられるそうだ。偉い偉い。
「アイリスちゃんが私達を買ってくれたからだよ」
「うん。お金も貰えたから仕送り出来たんだもん。毎日食べるご飯もお菓子も美味しいしね」
「そもそもお菓子なんて村じゃ食べられないからね」
「皆んな羨ましがってたよ」
2人を侍女見習いとしてビアンカお姉様に貸す事になったんだけど、本来ならその給金は俺の利益になる筈だったらしいんだよね。でも2人が頑張って仕事したんだから放棄したんだよな。
借金返済に充てれば奴隷契約も早く解除出来るのに、手を伸ばして良い子良い子してあげると良い子良い子され返す。この辺はもうお約束だ。
もう1人の専属。侍女見習いじゃなくて専属護衛になってるミリアーナだが、俺を見てがっくりと床に手を付いて項垂れている。でも、それも仕方がない事だろう。
この仕事を終えたら傭兵として一緒にチームを組む予定だったからな。でもこの背丈だと力も弱くなってるし見習い仕事ですら厳しいと思う。実力差を考えればミリアーナ達とチームを組むのは難しいだろう。
ここまで来てこれは俺も悲しい。時間があったから俺の心の整理は多少付いてるけど今目の当たりにしたミリアーナには辛い現実かも知れない。
「ミリアーナ、……ゴメンなさい」涙目
「えっ?」
驚いた様に顔を見上げるミリアーナ。だけどちゃんと言わないとな。
「僕、弱く、……傭兵、……チーム……出来ない、……の」
ミリアーナは俺と傭兵チームを組む為に、わざわざ町を出て領を越えて国を越えてこんな所まで付いて来てくれたのにな。コレット達もそうだけど、本当申し訳ない気持ちでいっぱいだよ。
「ああ~。いやいや、アイリスちゃんの所為じゃないでしょ。私もちょっと混乱してて、受け入れるのに時間が掛かっただけだから、ね?」
ミリアーナにとってアイリスは女の子として見れる男の子と言う括りだった。つまり女好きのミリアーナの性癖の対象である。しかしアイリスが幼くなり過ぎて手を出せないと落胆していただけである。
(幾ら可愛くても、ここまで幼い見た目だと食指が動かないのよね)
実年齢を知っていたからこそ幼い少女に見えるアイリスでもギリギリ守備範囲に入っていたのだ。今は知っていても手が出ない幼児になっている。
見当違いの謝罪で涙目になっているアイリスに、流石に罪悪感がわくミリアーナだった。
楽器、リーフの練習はレンリート領でもやっていた。ナージャさんに見て貰って腕は落ちてないと褒めて貰った。まあシャルロッテお姉様の監視の目があったからね。……手を抜くなんてとんでもなかったんだよ。
でもひと月の間に講師になったナージャさんの腕が俺にも分かるくらいに上がっていて複雑な気持ちだ。
「商工ギルドのダールトン様に人を紹介頂いて教えて貰っていたのです。リーフを教える免許も正式に取得致しました」
ジャジャーンと免許証? を出すナージャさん。頑張り屋さんだよなナージャさんは。
『理由は私欲にまみれとるがの』ボソッ
「後は、……やはりダンスはドレスですよね?」
「ん?」コテリ
何を言ってるのかな?
「大丈夫ですよアイリスちゃん。作らせているドレスと身長は変わりませんから、充分着れますからね?」
――だから何で俺が望んでるみたいに言うのかな?
そしてそのダンスだけど、ヤバい事になってるんだよ?
アリアとカチュアだけじゃなくユミル達ともダンスの練習をしてたみたい。いっぱい練習したとか胸を張ってるし、ひと月もあったらアリアとカチュアとはとんでもない差が付いてるかも知れないよね。
どうしよう、子供にダンスを教えて貰うおじさんとか恰好が付かないよ。
『(今までも恰好なんて付いとらんのじゃが)今更どうにもならんじゃろ。諦めるのじゃな』
やだやだ! 只でさえ子供扱いして遊ばれるんだよ? 恰好つけて大人扱いして貰いたい!!
『その背丈じゃの。大人ぶってる子供としか見られんじゃろ』
ズガガーーーーン!!? 何て酷い事言うんだよ!!
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