第021話 幕間 レンリート領のこれから
アイリスちゃんに領都で3日間治療をして貰い重中等症患者は居なくなった。重症の欠損患者はまだ再生しきってないけど、これは時間を掛けないと治療出来ないらしいから仕方がない。
治療を終えるまで領主屋敷で寝泊まりしたんだけど働いてる人達の身内に重症者が居た様で、アイリスちゃんを皆がキラキラした瞳で見ていて居心地が悪そうにしてる。
実益も兼ねて人気取りになれば良いかと思ったけどね。巫女様の居ない土地とは言え、まさか信仰の域にまでなるとは想定外だったわ。領民との関係はこれから構築していかなければならない課題だったんだけどね。
――私達にとってまだ見知らぬ土地だし、一応治安を考えてアイリスちゃんとは寝食を共にしていた。一時怯えられてしまった様だけどすぐに懐いて来たので問題ないだろう。
……一応、帰ったらナージャにでも聞いておこうかしら。
他の街町の重中等症患者については一旦レンリート王国に帰って次から改めてアイリスちゃんにお願いしようかと考えていたのだけど「今、する?」と言われて各街の治療をして行く事にした。
アイリスちゃんが帰りたいんじゃないのかと思って気を使ったんだけど、聞くと重症者の人達も居るだろうし早く治療してあげたいって事だった。
スタンピードの時の聖女騒動の頃からそう言う所は変わらないのよね。
――レンリート領には領都と5つの街があり、それぞれ近くに町がある。各街に飛空艇で行き治療して回ったが、治療は1回で終わらずそれぞれの街を2周して治療する事になってしまった。
と言うのも1周目で街の重症者を治療して、実力を見せ付けてからでないと近隣の町から傷病者を集めてくれないのだ。
まあ治療技術も回復魔法も拙い領地では上から聞いていても半信半疑どころかまるで信じていなかった様だし、移動も負担になるから傷病者にも拒否されてしまったのだろう。
だが2周目は過剰に崇められる祈られる。――神様に対して不敬じゃないかと思う程ね。大丈夫だとは思うけど後で巫女様に聞いておかないと駄目ね。
まあそんなこんなで結局ひと月も治療に掛かってしまった。
「今後はなるべく領都に傷病者を集める様にしないと効率が悪過ぎるわね」
「高品質のポーションを配備させて頂いたのですから、余程の重体でもなければ可能でしょう」
「シャルロッテ様から頂いた資料から魔法使いを集めて回復魔法を教えています。併用すればより効果が出るでしょう」
領主屋敷に戻って苛立ちを隠さずに呟くと家令のハーダンと執事長のムロークは充分な成果が見込まれると擁護する。実際治療の手立てが確立されたのは領民、特に兵士にとって大きく。これを成したシャルロッテもアイリス並みに支持を受けていた。
ポーションはアイリス特製の代物だ。今は巫女も来て副都の迷宮だけでは消費しきれなくなっていて、過剰分を此方に持って来たのだ。
回復魔法も以前レンリート領に来た時にその拙さを見て、シャルロッテはレンリート王国の治癒院で教えている回復魔法に関する一般的な知識をまとめた資料を持ち込んでいたのだ。
だが資料だけでは効果が出るのに数年単位の時間が掛かるだろう。
優れた回復魔法使いはレンリート王国でも重宝するし、行き来出来るのはアイリスだけで当のアイリスには人に教える適正があるとは思えないのが現状だ。
「武具の刷新も行っておりますので、そもそも重傷を負う者達が減っておりますからな。今までと比べれば感謝しかありませんよ」
これまで兵士はかなり拙い武器防具で魔物と対峙して来た。それをアデール王国国軍の余剰武具を配備して改善させた。いずれはこの領地でまともな武具を作れる様にしたいとも考えている。
「それで、何で不服そうに言うのよ」
「ボリスは引退していた先輩等が復帰したのでやり辛いとボヤいておりましたから」
大隊長のボリスがため息をつきながら報告したのでシャルロッテが突っ込むとハーダンが説明をした。
「下らないわね」
「いや先代の大隊長まで復帰してるのですよ? 大隊長の任を譲りたいのにシャルロッテ様が許可して下さらないから」
「当然でしょう? 何年も現役から離れていたのだし、いきなりトップを任せられる訳ないでしょう。それにミスした訳でもないのに一度据えた地位から引き下げるなんて有り得ないわよ」
「うぐぐ……」
ボリスの事だけなら兎も角、レンリート領全ての編成をし直さないと不公平になるのだから時間も掛かるし混乱も起こる。復帰した先輩に地位を譲りたい者達ばかりでもないでしょうしね。
「まあ、復帰したとは言え皆数年もすれば引退する様な歳なのだから上手くやるのだな」
「他人事だと思って……」
「他人事だ」
ボリスの妬ましそうな呟きをハーダンは切り捨てた。
現状レンリート領での課題は山積みだ。
領地運営は必要物資を飛空艇で運び入れた事で急場は凌げた。ただ、これからはレンリート王国にも利益が出る様にしていかないといけない。
兵士も武具やポーションで補強、強化は出来たけど自領で補修製造が出来ないとレンリート王国にとって負担でしかない。
回復魔法使いの育成はこれからだけど、リアースレイ精霊王国は魔力を尊ぶ国だから魔力の高い人材の発掘と育成は急務だ。
――この領地を他領に舐められない様にしないとイケないしね。
それと同時に重要なのが信用出来る配下だ。世話係の使用人は勿論、身を守る為には武官が、領地運営にも信用出来る文官も必要だ。
普通なら長い年月を掛けて信頼関係を築くのだろうけど、私達にはその時間が無い。……レンリート王国から連れて来たい所だけど、帰れなくなるのがネックなのよね。
「隷属の首輪を付けさせようかしら」
忠誠を誓わせておいて此方は信用しないと言ってる様なものだ。あのアデール王国ですらやっていなかった所業である。しかし外聞は悪いが手っ取り早いのも確かだ。
「それで宜しいのでは? 希望者を募れば幾らでも押し掛けて来るでしょう」
「確かに、シャルロッテ様はこの地に希望を齎して下さいました。アイリス様に至っては正に神の祝福を頂いた様なものです。そのお2人に仕える事が出来るならその程度の枷など誰も気にしないでしょう」
「ええ、お2人の御身を考えれば誰もが納得致します」
家令のハーダンと執事長のムロークは2人の下で働きたいと言う者達が連日屋敷に詰め掛けて来て対処に追われていたのだ。寧ろさっさと隷属の首輪で縛って従わせて欲しいくらいである。
「――他領にどう思われるかと言う懸念があるのだけど、仕方がないわね」
その後の話し合いの結果、シャルロッテとアイリスを守る兵を領兵から30人、領地運営に関わる文官を100人程雇う事になった。
因みに現在屋敷に雇われている使用人も全て隷属の首輪を付ける事になった。シャルロッテから「受け入れないなら他の仕事を用意する」と言われての決断である。
(いやソコは貴方達は信用しているわ。とかじゃないのかよ!?)
ボリスはちょっと引いていた。
「これでシャルロッテ様からの信頼を得られるなら安いものです」
ハーダン達からすれば他の仕事に就いてもシャルロッテに反抗したと見られる可能性を考えれば当然の決断である。
「一旦レンリート王国に帰るわ。ひと月以内に戻るつもりだから、それまでに人選はまかせるわね。――何かあれば飛空艇で手紙を寄越しなさい」
「畏まりました」
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