第019話 治療とアデール王国の元貴族達、前編
此処はリアースレイ連合国のレンリート領と言う領地で、良く分からないけどレンリート王国の治める領地らしい。此処の領民は魔物討伐で怪我人が多いらしいのだ。シャルロッテお姉様はその治療に俺の力を借りたいそうだ。
全く、何事かと心配して損しちゃったよ。
対外的にはシャルロッテお姉様の弟と言う事でお金の心配も無くなったし、家族を公爵家で雇ってくれる恩もある。そのくらいお安いものだ。
難点があるとすれば幼女に変わってしまった事か。でも神様相手じゃ幾らシャルロッテお姉様でもどうにもならないしね。
此処では今後の対応も決まってないので、今回はお忍びと言う事にして俺に関する事はなるべく伏せて治療をする事になった。
本来公爵家の人間ともなると何人も世話係が付くんだけどそれも最低限にしてる。皆んなから女の子扱いとか怖気が走るもんね。有り難いよ。
『今までと対して変わらんじゃろ』ジト目
何でだよ、失礼な。
因みにネネェとキーちゃんは連れて来てない。ユニコーンのキーちゃんは大騒ぎになるし、置いて行くとなると聖素が足らないからリリィかネネェを置いて行かないといけなかったのだ。
執務室に入るとシャルロッテお姉様は正面の机に、俺は手前のソファに座らされている。
他に3人の男達が居て家令のハーダンさんに執事長のムロークさん、執事のベルガーさんと紹介を受けた。ハーダンさんムロークさんは40代でベルガーさんは30代半ばくらいかな?
ベルガーさんは元アデール王国の貴族の出で、他は庶民だそう。庶民を上に就けるのか。シャルロッテお姉様らしいと言えばらしいかな。
「ベルガー、説明をお願いします」
「領都の中等症者十数人と重症者数人は南門と南西門の兵舎に分けて集められております」
「重症者が数人? もっと居ると聞いたのだけど?」
「重症者全てを引き受けるのは看護の手が回りません。家族で世話が出来る者達はそのまま任せてます」
「病人は?」
「病が伝染る危険性があるので集めておりません」
「……他の街の傷病者は?」
「それも、集めておりません」
「……何故かしら?」
「重篤な重症者を癒やせる程の使い手を此処に永住させる訳が無いでしょう。仮にそうだとしても何人も連れては来れない筈です。それなら領都の治療だけで何十日も掛かるでしょうし、その経過を見て他の街から傷病者を連れて来れば良いと考えました」
――本当に重篤な傷病者を癒やせるのでしたらね。
と挑発的な物言いをするベルガーさん。シャルロッテお姉様を相手に自殺願望でもあるのかな? 怖いから俺が居る所では止めて欲しいんだよ?
「ハーダン。これは貴方の指示かしら?」
「いっ、いえ。ムロークがベルガーへ命じております」
「ムローク。私は領都へ集める様に言ったわよね? 確認もしなかったのかしら?」
「いえ。しましたが、ベルガーに言い切られまして。……申し訳ありません」
「ベルガー。元貴族の出なら上からの命令がどう言う意味を持つのか、分かるわよね?」
「それは、私の判断が間違えていると言う事ですか?」
「当たり前でしょう? 上位者の命令を無視したのよ? 特にトラブルがあった訳でもないのに、ね」
「……」
「その方が有能さをアピール出来ると思ったのかしらね? レンリート王国への当て付けにもなるし」
……何か気温が下がった気がするんだよ? 俺は何でこんな席に同席させられてるんだろう。
『怪我人の治療を任されとるのじゃから当然じゃろ』
いや、そうなんだけどね? その前のいざこざとかとかには巻き込まないで欲しいんだよ。
『どうせ蚊帳の外じゃろ』
結局ベルガーさんだけじゃなく監督責任としてハーダンさんムロークさんもシャルロッテお姉様のお叱りを受けていた。皆んな顔面蒼白だったよね。
『一番怯えとったのはお主じゃったがの』
自分のお腹を切っちゃうお人なんだぞ!? 当たり前だろ! 腹切りを命じられたらどうすんだよ!
『お主は何もしとらんから大丈夫じゃろ』
呆れる様に言うリリィ。命が掛かってると言うのに何を言っても真剣に取り合わない。精霊だし自分には関係ないとか思ってるんだろう。薄情な奴だ。
その後俺はシャルロッテお姉様と怪我人の治療の為に馬車に乗って南門近くの兵舎に向かっている。
領都の中央は領主街となっていて、領主屋敷や貴族屋敷がある。今は貴族が減っているので兵舎や役所として使われているそうだ。領主屋敷から馬車で貴族街を出て庶民町を通り1時間程かけると南門の兵舎に辿り着いた。
――それにしても、庶民町の道が酷い。
貴族街も庶民町も土の道なんだけど、庶民町は整地されてないからデコボコでお尻を破壊しに来たんだよ。シャルロッテお姉様に抱っこして貰って難を逃れたけどね。
やっぱりシャルロッテお姉様は優しくて頼りになるな。
『……さっきまで怯えとった癖に』
領都を囲う外壁まで行くと、3mくらいのレンガ造りで頑丈そうな外壁がそびえ立っていた。門の扉は木造で一見普通の両開きの門に見えるけど、閉めると重ねて固定出来る様になっていて頑丈にしているそうだ。木造りとは言え大きな扉は重いからな。
一方で門の側にある兵舎は一般家屋と同じ木造で余り大きくない。3階建てで2階3階は8人部屋が2つ、1階は普段食堂として使われているそうだ。
外壁には幾つもの門があって側に村があり、そこから農地が広がっていて魔物が出た時には兵舎から兵士が出て直ぐに対応出来る様にしているらしい。村人も門が近くにあるから直ぐ街の中に避難出来て安心なのだそう。
良さそうな造りのに、何で俺達の国ではやらないのかな?
『此処は他領との交易がほぼ無いらしいからの、街と街を繋ぐ中継の村を作る必要が無いのじゃろ』
ああ、……交易を無くすのは無理そうだね。
レンリート領にも回復魔法使いは居る。ただ腕は余り良く無く、精々治癒力を上げる程度に留まっている。
例えば魔物退治で良くある骨折だが、接骨して回復魔法を掛ければ10日程で動ける様になる。だが重症者となると噛み付かれて欠損したり、体当たりで内臓がやられたりとなりお手上げとなってしまう。
兵舎に居る重症者達も回復魔法は使われていたが、痛みが長引くだけで回復する事も出来ずに死が迫っている者も居た程だ。
そんな絶望感に駆られていた時に現れたのがアイリスであった。
2階の部屋に案内されると重症者が5人いた。
重症者の中には手足の欠損に加え、腰骨が砕けて動けなかったり内臓に大きなダメージを受けていたりする人達がいた。
『アヤツが一番の重体じゃの。内臓をやられとるのじゃ』
重症者からやった方が良いよね?
――と言う事でこの人達は何とか治したんだけど、流石に手や足が欠損している人達が居て生やすには血が足らなかった。なので彼等は一気に治療はしないで痛みを取るだけに留めている。後の再生は時間を掛けてゆっくりやって行くしかない。
だと言うのに大袈裟に、涙ながらにお礼を言われてしまう。
「痛くない! 痛くないです! ありがとうございます!!」
「おお、……何て神々しいのだ!」
「精霊様、精霊の御使い様だ!」
「「「精霊様に感謝を!!」」」
いや何で俺に祈るの?? いやちょっと、精霊の御使い様って何!? 皆んなに祈られるなんて恥ずかしくて耳が赤くなるんだよ??
『うむ。赤くなっとるのじゃ』
そんな報告要らないよ!? 意識したら余計赤くなるでしょ!??
中等症者達は骨折や小さな欠損が主で、コッチは全部治療出来た。特に失明した人や指を欠損していた人達からの感謝が凄かった。
「「「精霊様に感謝を!!」」」
……うん。それにしてもレンリート王国より反応が凄いのは何でだろう?
『巫女が居らんからの。此処までの怪我を治療出来る者が今まで居らんかったのじゃろ。そんな者達からすればこの治療は神の奇跡の様に映っておるのじゃろうな』
ああ、ちょっと納得。
――でも俺に祈らないで欲しいんだよ? 俺は神様じゃないんだからね?
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