第014話 心の嘆き
キーちゃんにスリスリされて起こされた。キーちゃんは馬と違って髪をはむはむしないから良いね。……別に馬が嫌いな訳じゃないよ? 乗るのは怖いけど可愛いと思ってるよ?
でもそんな事よりねぇねだよ? 悲しくて怖くて涙が止まらないんだよ?
「ねぇねに、ヒック、嫌われるぅ〜、うう〜」
「アネモネさんはこんな事で嫌いにならないわよアイリスちゃん」
シャルロッテお姉様に膝抱っこで頭を撫でられるけど、その優しさが俺の心をやわやわにするんだよ? 余計涙が止まらなくなるんだよ?
「でもぅ、……僕、頼れるお兄ちゃんだったのにぃ、うえぇえーーん」
「「「『『えっ??』』」」」驚愕
(コヤツは何を言ってるんだ?)
(この子は何を言ってるのかしら?)
アイリスと接点が少ないグランツとエウレカ、心の声である。――と言うかビアンカとシャルロッテも固まっているので同様だろう。
シャルロッテお姉様の膝の上に乗せられて慰められるけど駄目だ。何時もの様に大人の男として振る舞いたいけど全然無理。皆んなのイメージが壊れちゃうかもだけどこんな事態じゃ仕方ないよね?
だって8歳の女の子って何? まるで子供じゃん?
『イメージ、変わってるなのー?』
『いや変わらんじゃろ』
「ヒヒン『変わんないねー』」
此処に居る面々は泣く子供に慣れてない。
シャルロッテは子供に懐かれる事は無かったし、エウレカやビアンカも人に任せる立場の人間だ。
飛空艇スタッフもリアースレイ精霊王国側の者達だからアイリス絡みでは頼りたくない。
「ナージャを連れて来れれば良かったわね」
アイリスがグズる時は大抵ナージャに任せていた。何だかんだ言ってもナージャはアイリスの扱いに慣れているのだ。
ビアンカは連れて来れないと分かっていても呟かざるを得なかった。
「ナージャが居たらあの場でどう暴走するのか分からないわよ?」
だがシャルロッテの言葉にビアンカとエウレカは苦い顔をする。より幼くなったアイリスに愛情が爆発するのか、アイリスを泣かせた事に怒りを爆発させるのか分からないのだ。
2人にはリアースレイ精霊王国に喧嘩を売るナージャの姿が幻視されてしまった。
「……何方にしても、あの場に居なくて良かったな」
「「「……ええ」」」
珍しくグランツの言葉に皆が同意したのだった。
「それにしても、人間の性別を変えたり幼くさせてしまうとは、正に超常の力だな」
グランツはシャルロッテの爆乳に寄り掛かり、ようやく泣き疲れて眠ったアイリスを羨ましそうに見て呟いた。
「そうですね。飛空艇に巫女様に今回の力、まざまざとその力を見せ付けられたもの。私達も気を付けないと駄目ね」
「ああ、……そうだな」
――出来れば関わりたくないのだがな。
謎生物はこれからも色々と引き寄せそうだし、シャルロッテは嬉々としてそれを受け入れるだろう。グランツはアイリス、……が枕にしているモノを見ながら同意した。
「ところで、ソレは本当に女の子になってるのか?」
「ええ。正真正銘女の子になっているわよ。グランツ陛下」
「……確かめたのか」
「グランツ。何時までシャルロッテの胸と会話してるのです?」
「うぇっ! いっ、いや見っ、見てないぞエウレカ!?」
――ガッツリ見てた、と言うか確かに胸と話してた。
普段から見ないように気を付けていたのに疲れの所為で無意識にやってしまった。3人の女達に囲まれ背筋を冷たいモノが伝う。
「グランツ。後でゆっくりお話ししましょうね?」
エウレカは柔らかく微笑むが、目が笑ってない。
ビアンカも父親である俺に蔑んだ視線を向けてくるしシャルロッテの顔は怖くて見れない。まるで女同士で結託されているかの様だ。何故俺は爪弾きにされているのだろうか。
――国王だぞ? と言うか3人の視線が厳しい。自業自得とは言えあの魔乳が悪いだろ!? 一々俺を誘惑して来やがって!!
えも言われぬ緊張感の中、取り敢えず向こうの出方を見る事になった。
大巫女様や王族が出て来る様なら帰るのは不味いと考えたからだ。
「シャルロッテ様。商工ギルドのダールトンが参りました」
それから十数分後、ダールトンが供を連れて皆が乗る飛空艇にやって来た。供の者達も権力者として立場ある者ではないと言う事でそのまま受け入れられる。
「……シャルロッテ様、迅速に会談を許して頂き有り難う御座います」
「そこはグランツ陛下に、ではないかしら?」
「――っ、誠に失礼致しました。グランツ・アル・レンリート陛下」
「……良い。それより話しを」
(まさかアレからずっとシャルロッテ様がアイリス様をあやしていたのか?)
ダールトンは初めにアイリスに挨拶をしようとしていたのだが、シャルロッテに膝抱っこされて寝ていた事に驚愕して礼を失してしまっていた。
シャルロッテには幼い頃から散々振り回されていたので泣く子供を自らあやす様にはとても見えなかったのだ。
「あれから中央領の精霊神社へ連絡を取った所、精霊神様の御力が働いたと言う事です」
「……精霊神様……? と言うとあの、リアースレイ精霊王国の主神の」
「はい。流石に事が大き過ぎるので、説明の為に中央領の精霊神社へ来て巫女様に説明を受けるか、同じく中央領にお住まいの領主様を此方に呼び付けるかの何方かを選んで対応して頂きたいのですが、宜しいでしょうか」
(これだけの超常現象を起こす相手だものね。――覚悟はしていたけど、直に聞かされると流石に来るわね)
シャルロッテは超常の存在が相手となる事に難しい顔で思案に暮れる。だがどの様な策も神を相手にしては下策になると考え無策で行くしかないと結論付けた。
――その姿が不機嫌そうに見えて、ダールトン一行は先の魔力の威圧を思い出し怯えていたのだが。
「――領主様、と言う事は貴族か王族になるのかしら?」
「貴族になります」
「大国の貴族を呼び付けるのは不敬と思われないかしらね?」
「通常はそうなるでしょう。しかしアイリス様がおられますから、寧ろ此方から領主様の所へ出向いた方が精霊の愛し子の価値を理解していないと思われてしまいます」
(精霊神社だけなら神様と直接対峙する、何て可能性も考えられたけど。此処に領主を呼び付けるでも良いと言うのなら権力者側から直接話しを伝えたいと言うだけなのかしらね)
「ふぅ、……巫女様に会いに行くしかないわね」
(判断材料が足りない。でも結局、精霊王国に近付くには精霊神社に行くしかないのよね)
「良いのシャルロッテ? アイリスちゃんが取られちゃうかも知れないわよ?」
「それは領主様とお会いしても変わらないですよエウレカ妃様。領主様を呼び付けるのはアイリスちゃん以外の、私達に対しては悪印象を与えかねないですもの。となると此方から出向く精霊神社一択となりますわ」
「……うーん。確かに、そうなるのかしら」
「それに精霊王国は清廉潔白で通ってますから。その様な無体な真似はしないと思いますよ、お母様」
「ビアンカ。貴女は甘いわ。清廉潔白なだけでは国は成り立たないのよ?」
「お母様。それを成り立たせるのが精霊神様の御威光と隔絶した技術力なのです。――ねえダールトン様?」
ビアンカの甘い考えを窘めようとするエウレカだが、結局行くしかないのならとダールトンを通してリアースレイ精霊王国を牽制するビアンカだった。
(ビアンカは随分と成長してるわね。これならレンリート王国の姫としても上手くやれそうかしら)
「……リアースレイ精霊王国は、確かに清廉潔白、正義の国を宗としております。……今回の件、私としては真摯に事が進むよう願っております」
話しを振られたダールトンは答えない訳にいかず、だがこれが精一杯の言葉だった。
こうして一行は再び中央領に降り精霊神社へ向かう事になる。
(いや、俺の意見が聞き入れられないのは良いのだが、せめて誰か聞くくらいの恰好は付けてさせてくれよ)
――国王グランツ、心の嘆きを置いてけぼりにして。
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