第011話 シャルロッテの帰還と巫女の派遣
シャルロッテがリアースレイ連合国レンリート領に旅立ってから10日、リアースレイ精霊王国からの輸入品と共に飛空艇で戻って来たシャルロッテは直ぐ様国王であるグランツと面会していた。
「あぁ〜、リアースレイ連合国はどうだったシャルロッテ?」
「レンリート領については大体掌握したわ」
「えっ、早っ! もうか!?」
「元々の統治者達の教育が行き届いていたのよ。反抗的な者も居ないではないけど、少しお話ししたら直ぐに分かってくれたわ」
(お話しって、シャルロッテが言うと何とも不穏に感じるんだよなぁ)
「教育ねぇ。シャルロッテがそこまで言うなんて、アデール貴族の係累共とは思えんな。優秀なら此方でも使うか?」
「……はあ、――馬鹿ね。皮肉に決まってるでしょう?」
「うん?」
「精霊王国の監視の目もあるからアデール王国程ではないけど、圧政を敷いて反抗心を削り取っていたのよ。私達が新たな統治者だと言っても表向きには反抗心を見せない程にはね」
統治が楽になるのと善政を敷く事はイコールではない。
シャルロッテの言葉を素直に受け取るグランツを見下す様に見て説明するシャルロッテだった。
「それと、近い内に正式にリアースレイ精霊王国との同盟を結ぶ為にレンリート王家として連合国に向かうわよ」
「あっ、ああ。(何故か)エウレカから聞いてるぞ」
「なら良いわ。往復で2日は掛かるし、日程についてはエウレカ妃に聞いておいて頂戴」
「……ああ」
(国王って、……この国で何番目に偉いんだっけ?)
レンリート領に移住していたアデール王国の貴族の係累達。彼等はリアースレイ連合国のレンリート領に永住するとして再び向こうに連れ戻す事になる。
リアースレイ連合国でも傲慢に振る舞っていた者達も多く、その者達はレンリート領で見せしめとして処刑する為に連れ帰る事になったのだ。
使えそうな者達は現地で借金奴隷の文官として働かせる。レンリート王国では彼等の本家が処罰されているので、連座の処罰として連れて行く事になっている。
「シーラ、子供達の方はどうかしら?」
「まだ反抗的な子供もいますが、学院の情報は多少手に入ってます」
処罰対象の貴族の係累には当然子供達もいる。
子供だからと言って見逃せば担ぎ上げ様とする者達が出て来るので本来なら見逃せない。
――しかしリアースレイ連合国に移住させれば別だ。
そんな有象無象に飛空艇は使えないし、陸路でリアースレイ連合国に行くには何年掛かるか分からない。そもそもリアースレイ連合国の国境は封鎖されていて担ぎ上げたくとも会える事すらないのだが。
「やはり学院に通わせますか?」
「そうね。……ふふっ、運の良い子供達よね?」
「――そうですね。ですが我々に反抗的で、害を成そうとする子供も居るかも知れません」
「その辺は向こうで教育していくしかないわね。駄目なら駄目で使いようがあるし」
リアースレイ連合国には連合国中の優秀とされる子供が通う学院がある。
重要な情報収集の場だと考えるられるが、王族以外は永住しなければ飛空艇でリアースレイ連合国に行けないのでレンリート王国から代わりの子供達を連れて来るには選別する時間が足りなかったのだ。
「学院に詳しい彼等をそのまま通わせる方が情報収集もしやすいでしょうし、仕方がありませんね」
「商工ギルドから詳しい情報を得られれば良かったのだけど、連合国とは余り関わりを持っていないのよ」
リアースレイ精霊王国からするとリアースレイ連合国は統治したくないから同盟国に貸した土地だ。
当然大っぴらには誰も関わりを持とうとしない。リアースレイ精霊王国が定めた法律を遵守させる為に人を派遣している程度で、商工ギルドですら直接商いをする事も無かった。
シャルロッテが学院に注目したのには訳がある。
リアースレイ精霊王国とリアースレイ連合国の間には大河が流れていて、リアースレイ精霊王国側から突き出た小島の様な場所が連合国の中央領となっている。
「連合国の行政機関は全てその中央領にあるのよ。当然学院もね」
「中央領で情報収集を行うには今の所学院しか無い訳ですね。……あら? そう言えば大河で分かれているのなら精霊王国は連合国を放っておいても害は無かったのでは?」
「元々は地続きだったらしいわね。けど連合国やそれ以外の国から物乞いに盗賊、他国の間者や果ては兵士まで連日押し寄せて精霊神様の怒りを買ったそうよ。――大地を割って大河にしてしまったって話しね」
「……恐ろしい程の力ですね」
それから数日、リアースレイ精霊王国からようやくレンリート王国の精霊神社へ新たな巫女が派遣された。
「始めまして。レンリート王国の精霊神社に派遣される事になりました巫女のイーリスと申します」
んふふ〜。ようやく新しい巫女様が来たんだよ?
これで精霊神社での治療とポーション生成から解放されるんだよ!?
「ん、……アイリス」
皆んなが挨拶する中で俺も挨拶する。
精霊神社で治療の合間にダンスのレッスンを受けていると、巫女様が来たって言われてお出迎えをしたのだ。
アリアとカチュアは可愛いドレスを着てるけど、俺は巫女服なんだよ? 急な患者が来た時にドレスで治療はどうなの? って事らしい。巫女服ならそのまま治療しても問題無いからね。
でもそれなら男物の何か良さげな格好良い服で良いと思うんだよね?
『フワッとした意見じゃが、似合わんじゃろな』
『主がカッコ良いとか滑稽なのー』
失礼だな。まあドレスよりは巫女服の方がマシだから良いや。
『……ポジティブじゃの』
『ポジティブなのー?』
新しい巫女様のイーリスさんは紫の髪と目をした色白の女性で、ぱっちりとした目をしていて快活そうに見える。巫女は老い辛いらしいから実年齢は分からないけど、見た目は20代後半くらいかな?
「ああっ、……ようやく会えましたわ。精霊の愛し子。オリビア様の言われた通り何て愛らしいのかしら」
「……ん?」コテリ
何か頬を染めて頭を撫でて来る。徐々にスキンシップが激しくなって抱き締められて頬をスリスリされる。
……何かナージャさんみたいだな、この人。
「厳しい争奪戦となりましたが立候補した甲斐がありますわ」
?? 何言ってんだこの人?
「立候補とは、どう言う事でしょう?」
「ふふっ、以前コチラで巫女をしていたオリビア様から精霊の愛し子が大変可愛らしかったと伺っていたのですわ」
アリーニャさんが聞くと胸を張って答えるイーリス様。
オリビア様か、……まあオリビア様から見たら俺なんてまだ子供らしいからな。もしかしたら聖女だの天使だのと影で言われているのも影響があったのかも知れない。
『影でじゃなく真正面から言われてたなのー』
『現実を直視するのじゃ主よ』
「それなら納得です! アイリスちゃんは確かに可愛らしいです!」
「えぇえぇ! 我々巫女も精霊神様から加護を頂いておりますが、愛し子となると更に上の大巫女様相当となるのです。それがこの様に可愛らしい姿をしていると聞かされては、此処への派遣を巡って他の巫女達との争奪戦になるのも当然の事ですわ! その所為で此方へ来るのが少々遅れましたが仕方がありませんわね!!」
ちょっと何言ってるのか分からないな。
何故か意気投合したイーリスさんとナージャさんが俺を撫でくり回しながら頭上で語り合ってるんだよ?
「それにこの子の精霊も、アイリスちゃんとお呼びしても宜しいかしら? アイリスちゃんの精霊もこの子に似てとても可愛らしいのですよ?」
『ふふん。見る目があるの。流石は巫女と言った所か』ドヤ顔
『ネネェも可愛いなのー♪』ニッコニコ
ご機嫌だなお前達。まあ俺とキーちゃん以外で精霊を見れる奴なんて居なかったからな。テンション上がるのも無理ないか。
「まあ、そうなんですか!? 是非とも見てみたいです!」
「ふふっ、それは精霊神様の加護を頂いた巫女の特権ですわね。私のお友達の精霊も下級精霊ですが皆可愛らしいのですよ?」
確かに、オリビア様の精霊は可愛いけどリアル志向だった。
けどイーリス様の連れて来た精霊は人型も魔物も皆んなぬいぐるみっぽい。
「ああ、そちらも見てみたいです。私も精霊神様から加護を頂けないでしょうか」
「精霊神様の加護はリアースレイ精霊王国の者にしか与えられません。アイリスちゃんがいじょ、――特別なのです」
今異常って言おうとした?
「でしたら巫女様のお力で、とかは如何でしょう」
「ふふっ、精霊見たさにそんな事を言う方は初めてですね。残念ながら巫女にその様な力はありませんよ?」
「うう〜、……残念です」
イーリスとナージャからすれば他愛のない趣味の会話だが、アリーニャからすれば神様の力をくれと言っている様なモノだ。不敬にも程がある。
アイリスの側に日々居る事で超常の力を目の当たりにして来たアリーニャにとって、神様は既に想像上の存在ではなくなっていた。
それはもう顔面蒼白にもなると言うモノだ。王城に帰ればナージャにはとんでもない説教が待っている事だろう。
「ええっ? アイリスちゃん毎日精霊神社に来ないのですか!?」
「巫女様の代わりをしていたのですから、巫女様が来たらその役目も終えてしまうのです」
「それではこの子に会えないではないですか! 何とかして下さい!」
「何とかと申されましても……」
「巫女の力を十全に発揮する為にも! 私達は精霊神社から出る事が出来ないのですよ!?」
『巫女が戻ったから守りの結界も張られたなのー』
守りの結界?
『精霊神様が巫女を守る為に張られる結界なのじゃ。悪意を跳ね除ける効果があるのじゃ』
ああ、そう言えばそんな事言ってたな。神聖教会や商業ギルドも手を出せないとか。
『それじゃな』
その後、尚もすがるイーリスにアリーニャも困り顔で城で相談すると言う事になった。
「巫女様と仲良くなって情報を引き出すなんてナージャも中々ヤルわね。これからも巫女様と仲良くさせて精霊王国の情報収集と橋渡しをして貰いたいわね」
「シャルロッテ様! それは余りに危険です!」
シャルロッテの発言に慌てたのはアリーニャである。
神や巫女の怒りに何処で触れるか分からない現状で、可愛いに妥協出来ないナージャは最悪の人選だ。
「アイリスちゃんを連れて行けば大丈夫よ。偶に巫女様を労う為にお茶をする。と言うくらいならあの子も受け入れ易いでしょ?」
「……巫女様とナージャの暴走に対するストッパーがアレとなる訳か。――そもそもの原因がアレなのだがな」
「ふふっ。まあ巫女様の派遣が遅れたのもあの子の人気が原因の様ですしね」
「……何でシャルロッテは楽しそうなんだよ」
グランツがシャルロッテの案に苦虫を噛み潰したような顔をして呟き、それを見たアリーニャは首を横に振りため息をつくしかなかった。
「はぁ。――巫女様の身分を考えると安易に断れない話しですし、仕方がありませんか」
「アリーニャも一緒に行って貰うわよ? それと一応ナージャにも話しをしておいてちょうだい」
「分かりました」
「もっと、……まともな巫女様を寄越せなかったのか? 精霊王国は」
「あの子を巡って争奪戦になっていたそうですから、他の誰でも変わらないでしょうね」
「また、あの謎生物か。……何でアヤツはこう次々と問題を引き寄せるんだ」
面白そうにするシャルロッテに対し頭を抱えるしかないグランツであった。
明日から15時10分と21時10分に投稿します。
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