第010話 レンリート王国での、日常??
幾つもの重要な仕事が任されているアイリスであるが、精霊神社での巫女の代理や有力者達への美容魔法もその一つ。
その効果は既に表れていて、レンリート王国の有力者達は女性達の圧により全て王族派となっている。
精霊神社での治療も人々の心の安定に役立っている。
しかしシャルロッテがリアースレイ連合国に旅立ってから数日、アイリスの仕事は劇的に増えていた。
朝になると精霊神社に行って夕方王城に帰って来ると言うのは変わらないが、ポーション生成と魔骨へ清浄な魔力を込めると言う仕事が加わっていた。
王城では美容魔法を施してご飯と睡眠を取るだけになっている。
その為アリアとカチュア、それにキーちゃんも精霊神社に連れて行く様になった。
そうしないとダンスレッスンやキーちゃんに乗る時間も取れないのである。
シャルロッテは副都の迷宮を効率的に管理する為に国軍の訓練として低階層の雑魚狩り、高位の探索者を集めて深層の攻略をさせる様に指示していた。
これは緩んでいた国軍兵士の再教育と、新たに雇った国軍兵士の教育の為でもある。
他にも副都の迷宮を探索者の都市として作り上げ、上位のクランを育てて各地の迷宮に派遣させてスタンピードの予防をさせる。更に地上でもスタンピードの予防に傭兵として派遣出来る様に副都で傭兵ギルドと探索者ギルドを纏め上げる予定だ。
これで国軍の強化教育だけでなく、王家が自由に使える巨大な戦力を手元に置いた事になる。
少なくともそう見える事は反乱の芽を摘む事になるだろう。
副都の迷宮の深い階層から産出された高品質な薬草を高品質なポーションに生成する事は、巫女が居ない今アイリスにしか出来ない重要な仕事だ。
――怪我をした時に回復魔法の使い手が側に居る事は少ない。
と言うか回復魔法特化の魔法使いと言うのは早々居ないので、戦場では魔力は攻撃魔法に使うのが普通なのだ。
怪我をしたら血止め等の応急処置をしてからポーションを飲む。
ポーションには治癒力の増大に増血作用など、その時に飲み手が必要とする作用を促す効果がある。
特に高品質なポーションは臓器の保護、回復までしてくれる物まであるのだ。
アイリスの生成するポーションは薬草の品質を限界まで引き出したポーションになり、巫女の生成するポーション同様に希少な物とされている。
迷宮探索だけでなく、戦闘職に就く誰にとっても重要な一品だ。
そして迷宮の浄化。
副都の迷宮31階層はゾンビの階層である事がルトルートとアーダルベルト達によって判明している。
そう言ったゾンビや死霊系の領域は、ゾンビなら焼き払うか死霊系なら兎に角魔法を撃ち込んで排除するのが普通だ。
しかし迷宮でゾンビを焼き払うのは只でさえ臭いゾンビが更に臭くなる。肉も食えないし燃やしては骨も脆くなって魔骨(魔力を蓄える素材)としての価値も無い。
アイリスの仕事は30階層に出現する魔物の魔骨に清浄な魔力を込める事だ。
その魔力の浄化作用によってゾンビが弱体化、新たに発生し辛くなるのだ。
勿論階層全体の浄化ともなれば膨大な浄化の魔骨が必要で、31階層と言う深い階層に持って行くのも一苦労だ。
浄化が終われば上の階層から適当な魔物を引き込んでおく。そうするとその魔物が発生する様になるのだが、以降の階層もどうなってるか分かっていない。
――もしゾンビや死霊系の階層が続くなら、更に浄化が必要になってしまう。
「何時まで掛かるんだか。そもそもゾンビ階層の浄化なんてしなくて良いと思うんだけどねえ?」
ルトルートとアーダルベルト達は多額の報酬を提示され、結局レンリート王国に逗まる事になった。今は副都の迷宮で陣頭指揮を執っている。
「まあ30階層まででもしっかり間引きしてりゃ、スタンピードなんて起きないからな」
「だろだろー?」
「けど俺達クラスの上位の探索者にとってはより深い階層に潜れないってのは魅力が無いぜ?」
「そりゃ分かるけどよう。王都の目の前にある迷宮なんだぜ? わざわざ探索者を深く潜らせなくても国軍に狩らせりゃスタンピードを抑えられるだろ?」
「……て言うかアーダルベルトは面倒臭くなってるだけだろ」
「ルトルートだってそうじゃねえか。探索者を大量投入してっから魔物も少なくなってつまんねえしよう」
国軍が10階層までの雑魚狩りをしているのもあるが、30階層近くまで潜れる探索者だけでも数百人は来ているのだ。それが毎日の様に魔物狩りをしていれば魔物の発生も間に合わなくなると言うものだ。
「あ~あ、あの子供を連れて来れりゃ何度も行き来しなくて済むんだろうになぁ」
「無茶言うなよアーダルベルト。精霊神社での治療もあんだぞ?」
「城でも貴族に引っ張り凧って言うしなあ」
「連れて来たら貴族と民衆からも睨まれるな」
「そりゃ怖いねぇ?」
「あの子供はトラブルに愛されてる気がするんだよなぁ。連れて行った先で何が起こるか分からんぞ?」
「そりゃ、……怖いねえ」
貴族や民衆から睨まれると言われても飄々としていたアーダルベルトだが、アイリスの騒動に巻き込まれると言われて顔を青くするのであった。
「兎に角、大金貰ってる安全な仕事なんだぞ? これ以上文句言うなよ」
「はあ、シャルロッテ様からは逃れられないのかねえ?」
「…………」
アーダルベルトが副都の迷宮でボヤいている頃、王都の王城ではアイリスの泣き言にリリィとネネェが慰めていた。
…………聖女モードが辛い。
『主〜、泣かないでなのー』
『うーぬ。流石に酷使され過ぎとるのじゃ。巫女の代理でも大仕事なのに美容魔法までやらされとりゃの』
でも引き受けちゃったし、断り辛いんだよ? しくしく。
『ここに来て人見知り口下手の弊害か……』
『主、可哀想なのー』
重症患者を扱う巫女様の代理は技術的に、美容魔法はいっぱい人が来るから魔力量的に聖女モードが欠かせないのだ。
清浄な魔力に耐性が出来ているアイリスとは言えやはり人には過ぎた魔力である。毎日四六時中それにさらされていれば泣き言も出て来ると言うモノだろう。
『はあ、これでは剣の鍛練どころではないのじゃ』
『問題そこなのー?』
『まあポーション生成や魔骨に浄化の魔力を込めるのはリリィ達がしとるのじゃから、治療は巫女が来るまで頑張るしかないの』
うう〜。
精霊神社では重症患者のみの治療だが、迷宮探索が盛んになり重症患者が絶える事がない。僅かに空いた時間はアリアとカチュアとのダンスレッスンや音楽の練習に宛てがわれている。
アイリスはかなり真剣に練習に励んでいる。アリアとカチュアの親代わり? として無様な真似はしたくないからだ。
「はい。良いですね。3人共良く踊れてました。今日はここまでにしましょう」
教えているのはアデール王国の時から続いてビアンカに付いていた筆頭侍女のアリーニャだ。3人共慣れ親しんでいるので新しく人を付けるより良いだろうと本来ならビアンカに付く所をアイリスに付けたのだ。
「えへへ~、褒められちゃったね。アイリスちゃんアリアちゃん」
「うん。皆んな上手く踊れたと思う」
「ん、頑張った」
因みにアイリスの楽器や歌の練習についてはナージャが教えている。専門知識は無かったが、アイリス付きになる為に猛勉強してその地位を勝ち取ったのだ。
『まあ、……相変わらずじゃの』
『なのー』
探索者達によって副都の迷宮31階層まで頻繁に行き来されている為、ポーション生成の為の薬草は毎日高品質な物が大量に送られて来ている。
――と言ってもポーションに生成するのはアリアとカチュアとのお昼寝の時間にリリィとネネェでやって貰っているのだが。
聖女モードのアイリスが生成する品質にはリリィだけでは敵わなかった。だがネネェと組んで生成する事で何とか同等の品質を生成出来る様になっていたのだ。
『主がこれ以上の品質を聖女モードで引き出しておったらどうにもならんかったのじゃ』
『主は聖女モードだと、偶に精霊神様の力を借りちゃうなのー』
魔骨に浄化の魔力を込めるのも夜寝ている間にリリィとネネェがやっている。
アイリスの体を通して魔力が使われるのでアイリスの魔力関係の能力も日々強化されているのだが、消費魔力が多過ぎて全くと言って良いほど楽にならないアイリスだった。
精霊神社に巫女が居れば夜中でも対応して貰えるのだが、アイリスが日中しか居なくてもやっていけるのはアイリスが生成した高品質なポーションのお陰である。
重症患者でも高品質なポーションと詰めている他の回復魔法使いが居れば大抵対処可能だ。駄目な場合でもアイリスを呼ぶくらいの時間稼ぎは出来るのだ。
(出来なかったら精霊神社に押し込められていたんだろうなぁ)
『出来てしまうから城で美容魔法も使わされとるのじゃがの』
『自業自得ー? 自作自演ー?』
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