第007話 幕間 婚約??
ビアンカのお菓子禁止でアイリスが膝から崩れ落ちる一幕があったが祝賀パーティーは恙無く終えた。
各国から来た王族と高位貴族達はアイリスの美容魔法を知らなかった者達もその噂を聞き是非自分達も受けたいと願い、急遽城に部屋を用意されて残る事になった。
勿論シャルロッテは予見していたので部屋を用意する準備はさせていたのだが、貸しを作る為にも想定外だったと言う事にしたのだ。
まあアイリスは無許可で美容魔法を引き受けた事を後でシャルロッテに叱られ更に涙目にさせられていたのだが。
「全く、あの魔法の価値は立派な外交の武器になると言うのに……」
「ははっ、まあ良いではありませんか。若返るかの様な魔法なんて一回受けたらまた受けたくなるモノです。今後のアピールにもなるでしょう?」
難しい顔をするシャルロッテをダールトンが諌める。当然リアースレイ精霊王国からもパーティーに参加していて元アデール王国商工ギルド長のダールトンはその代表として来ていた。
「それ以上の希少価値、付加価値を付けたかったのよ。分かるでしょ?」
「まあ、ですがあの方のなさる事ですからね。――ところでシャルロッテ様は公爵位を得られたのですね。おめでとうございます」
「……有り難う」
「シャルロッテ様は爵位を得る事に抵抗があった様に思えたのですがね」
「そうね。裏で動くには邪魔だったし家族の寄生が鬱陶しかったのよ。でも懸念だったアデール王国との戦争は解消されたし、家族との関わりも国を越えればね」
――解消と言うかアデール王国は国ごと消滅してしまったんだけどな。
ダールトンはシャルロッテが10歳の頃から20年以上その為に動いていた事を考えると背筋に冷たいモノが走ってしまう。
「それで公爵位ですか。確かにあの方を抱え込むにはそのくらいは必要ですかね」
「……そうね、でもまだ繋ぎ止めには弱いかしら」
アイリスはビアンカに雇われる時に便宜上シャルロッテの義弟として戸籍を作っている。つまり現在アイリスはレンリート王国公爵家の人間となっているのだ。
ただそれでも取って付けた様な地位だ。アイリスの引き抜き対策としては不十分と考えていた。
「それで婚約、ですか」
シャルロッテは王女となったビアンカに婚約者が居ない事とアイリスを繋ぎ止める為にも2人を婚約させてはどうかと王妃になったエウレカに提案していた。エウレカとしても美容魔法やリアースレイ精霊王国との関係に有益なアイリスを手離す訳にはいかないと賛成したのだった。
しかしすんなりとは行かなかった。
「いやちょっと待て! アイツは俺達と同年代、親子程の年の差があるんだぞ!?」
「そのくらいの年の差なんて貴族には珍しくないでしょう? ……見た目は寧ろ逆ですし」
「ぐっ! ……いや、ビアンカはどうなんだ!?」
「私には負担が大き過ぎますわ」
ビアンカは王女になった以上婚約者が必要なのは理解していたしアイリスの事は可愛い弟? 妹? みたいに思っていた。けど婚約者として考えるとどう考えても振り回される未来しか見えなかったのだ。
「だっ、だよな!?」
「でもビアンカの婚約者は必要だし、アイリスちゃんの繋ぎ止めも必要なのよ?」
「なら、……シャルロッテを側妃に付けて下さい」
母がその気になっているのなら抵抗は無意味だろう。となると自分への被害を抑えるにはと考え、導きだした答えがコレだった。
「まあっ、それは良い案ね! シャルロッテの事は私も心配していたのよ!?」
「……いや、アイツこそ親子くらいの年の差がある様にしか見えないぞ?」
「貴方、女性の年の事を言うなんてデリカシーが無いですよ?」
「そう言う問題じゃないだろ? 強引に押し進めるとシャルロッテの反撃が怖いぞ!?」
「シャルロッテならそのくらい想定内でしょう?」
「ほっ、本当に大丈夫か!??」
娘もやりたくないがあんな不思議生物のトラブルメーカーを身内にしたくないと言う気持ちで止めに入るグランツであったのだが、ここに来てシャルロッテまで巻き込む事になりそうで青ざめるのだった。
「まあ私の事は想定の範囲内よ。エウレカ妃から結婚について散々言われて来たからね。後はアイリスちゃん次第かしらね」
「…………そうですね」
ダールトンは色々な言葉が頭の中を駆け巡ったが口に出さなかった。何れも地雷としか思えなかったし、シャルロッテが婚約をどうとらえているのかが分からなかったからだ。
「それより、……今後についてね」
「ええ、許可は簡単に取れましたよ『リアースレイ連合国』への参入は」
「ふう、……流石アイリスちゃんね」
大陸の西の端にあるとされる『リアースレイ精霊王国』とは当時奴隷として使われていた獣人やドワーフ、エルフなどが建てた国だ。
普通ならそんな国など認めずに周辺諸国が寄って集って滅ぼすのだろうが、奴隷にされた者達が『精霊神』に救いを求め、その精霊神の名の下に国が成ったとされている。
そして便利使いしていた奴隷が居なくなった所為で各国が大混乱に陥った。
重労働の多くが奴隷で賄われていたのだ。代わりに庶民に仕事をさせようにも庶民ですら奴隷の仕事など出来るかと反発が起き、その混乱で滅んだ国も数多くあった。
そんな中それを成したリアースレイ精霊王国は『禁忌の地』とされ、近しい国々の者達は逃げ出していった。
その後も奴隷制度が崩壊して各地で戦乱が起こったが、わざわざ『禁忌の地』の近くで成り上がろうとする者達は居なかった。
その空いた領地は長年放置されていたのだが、初めは権力者の横暴を嫌った庶民達が農家として細々と居付き、その後国を追われた盗賊などが流れて居付く様になり治安が急速に悪化していった。
リアースレイ精霊王国としては自国の領土でもないのだが、万が一盗賊が国でも起こしたら自国に被害が出るかも知れないと言う事で盗賊を討伐する事になる。
そして盗賊を討伐はしたものの、その領土をリアースレイ精霊王国に取り込む事はしなかった。住みついていた農家の人間達も取り込む事になるので他種族から人間を入れたくないと反対される事になったのだ。
そこでまた盗賊などが住み着かない様に、その領土を『リアースレイ連合国』として同盟国に貸し与える事にしたのだ。
通常は数十年安定して同盟関係を築けたら出て来る話しである。
アイリスの名を使ってゴリ押ししたが、シャルロッテは元々の目的である旧アデール王国のレンリート伯爵領への脅威排除は達成している。
その延長線上であるレンリート王国の安定もほぼ達成出来ているので、今のシャルロッテはリアースレイ精霊王国への純粋な興味で動いている。
リアースレイ連合国に参入出来ればリアースレイ精霊王国の情報を得られる機会もあるだろうし、他の同盟国との距離を縮める絶好の機会だろうと言う私欲に走った目的だ。
「ふふっ、ちょっとワクワクしちゃうわね」
「……そ、……そうですか」
妖艶な笑みを浮かべるシャルロッテに対し、内心アイリスとの組み合わせに怖気づくダールトンだった。
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