第008話 レンリート王国での日常
アイリスはビアンカとシャルロッテとの婚約を仕事として認識していて深く考えずに受け入れていた。
実際に王女となったビアンカや公爵位を得たシャルロッテに近寄る有象無象を排除する為に虫除けとして必要だからと言われたのだ。相手は王族貴族だしそもそも恋愛的なアピールをされた覚えも無いのでそう言うモノかと思ったのだ。
ビアンカとの仲の良さもあるしシャルロッテが公爵になっても義弟の立場をそのままにしたのは虫除けにする為だろうと納得したのだった。――寧ろ狙われているのはアイリス自身なのだが。
(正式な婚約者が決まるまでの仮の婚約者って事だろ? シャルロッテ様はお目付け役かな?)
そんな事よりねぇね達だよなぁ。シャルロッテ様はフローディア公爵家となって俺はその義弟となった。そこでアイリスの家族も公爵家の人間として連れて来てしまおうと提案されたのだ。
戸籍を新たにする事でアイリスの妹アネモネの奴隷契約を解除しても良いと言われたし家族と一緒に住ごせると快諾した。勿論相手の了承を得てからになるが。
アイリスは毎朝精霊神社に行って患者の治療をしている。
巫女のオリビアがリアースレイ精霊王国に帰ってしまい、替わりの巫女が来ていないので高レベルの回復魔法の使い手は皆精霊神社で働いていたのだ。
そんな中でリリィ達の無尽蔵の魔力で高度な回復魔法を駆使するアイリスはその見目もあって巫女様みたいな扱いを受けていた。
「おお、腰の痛みが無くなりました! もう歩けないと思っていたのにっ! 有り難う御座います巫女様!」
「ん」コクリ
(一々否定するの面倒だけど、本物の巫女様に不敬じゃないかな?)
『そんな事で目くじら立てる様な者はおらんのじゃ』
『安心するなのー』
んー、なら良いか。
「あっ、あぁ、目がっ! 目が見える!? 凄いっ! 有り難う御座います天使ちゃん!」
「ん」コクリ
誰が天使ちゃんか。
コッチも面倒だから否定しないけど、天使ちゃんと言うのは前に治癒院で重体の親子を治療した時に呼ばれ出した呼び名なんだよね。
でも皆んながお菓子をくれるから有り難く頂く。
『『でも??』』
しかし送り迎えの馬車に護衛まで付けられてしまった。シャルロッテ様がお金を出しているらしいけど、俺が出してたら精霊神社の稼ぎを差し引いて考えると赤字じゃないかな?
そう思ってシャルロッテ様に聞いたら「精霊神社に巫女が居ないと言うのは民が不安になるには充分な理由なのよ。巫女様が来るまで、アイリスちゃんが代理をしてくれるのは治療費以上の意味があるのよ」と言われてしまった。
巫女様の代理と言われるとちょっとプレッシャーなんだけど、今の所問題は起きてないし、いざという時はリリィとネネェ任せにするしかないよね?
『任せるなのー!』
『うむ、まあ巫女並みの能力は持っておるから安心するのじゃ』
因みに護衛はミリアーナ達の傭兵パーティーをそのまま雇っている。コレット、ラビィ、ルルは護衛としては力不足だけどミリアーナとタニアさんは実力充分、更にナージャさんヴェルンさんも補佐について俺の専属みたいになっているのだ。
いちいち大袈裟なんだよなぁ。雇い主のビアンカお姉様が城に居るし、美容魔法の仕事もあるから毎日戻らないとイケないのは分かるんだど、何か非常に面倒臭い。
俺は未だにミリアーナ達傭兵パーティーには入れてない。ビアンカお姉様と契約中だし仕方ないんだけど、公爵家だとか巫女様だとか、何だか戻れない様な深みにハマってる気がする。
『今さらか、コヤツが一般人に戻れる訳が無いのじゃがの』ボソリ
『なのー』
まあビアンカお姉様やシャルロッテ様がそんな事する訳ないんだけど、仮初めとは言え分不相応な立場に不安を感じちゃうよな。
『楽観的なのか臆病なのか分からんの』ボソッ
ナージャはアイリスが毎日精霊神社に行き来するのは面倒臭がっていると、だから精霊神社に住めないかと話しをグランツ国王に持って行ったのだがエウレカ妃に却下されていた。
「なっ、何故ですか!?」
「他国の王侯貴族の女性達にも美容魔法を施すのよ? 城でないと難しいでしょう? 派閥や他国との関係強化にあの子は外せないのよ?」
祝賀パーティーでは主な王族の女性達に美容魔法を施し終えていて、それぞれ強固な同盟関係を築く事に成功していた。今はレンリート王国内の貴族女性達に美容魔法を施していて国内の有力者達への引き締めと結束強化に使われている。
飛空艇は基本的に王族以外使用出来ないので他国の貴族女性が美容魔法を受けに来るのは馬車となるのでまだ暫く先の話しだ。
「既に充分ではないですか!? 寧ろ週末だけ城に来て美容魔法を施す方が希少性をアピール出来て求心力に使えると思います!」
「……あの子はビアンカに懐いてるでしょう? 引き離すのは可哀想よ」
「それ、お前が美容魔法を受けたいだけじゃないのかエウレカ?」
「は? 何か言ったかしらグランツ?」ギロリ
「うっ、……い、いや何でもない」
――結局エウレカの強権によってナージャの提案は却下される。
ナージャのグランツを見る目は国王に向けているとは思えない程蔑んだ目になっていた。
妻のエウレカや娘のビアンカに近過ぎる珍妙なトラブルメーカーを城から遠ざけたいグランツであったが、国王とは言えレンリート家では発言権が低いままである。
因みにエウレカは毎日美容魔法を受けていて非常にご機嫌だ。グランツはアイリスのお陰と言う事に複雑な表情をしているのだが些細な問題だろう。
城ではユニコーンのキーちゃんも庭に住んでいて、アイリスは毎日キーちゃんに乗りに来ている。勿論キーちゃんの事は秘匿されていて極一部の者達にしか知らされていない。
数少ない楽しみだ。
「ヒヒーン!『あはははは、たーのしー!』」
あはははは、俺もたーのしー!
乗馬なんて怖くて出来ないと思ってたからねー! 格好良いし密かに憧れてたんだよー?
『……密、かに??』
『主もキーちゃんもご機嫌なのー。ネネェも楽しいなのー』
キーちゃんはご機嫌だが、以前の様な暴走をする事も無くなりナージャが付き添う必要は無くなった。
「はわわ、以前のびくびく怯えながらキーちゃんに乗っていた姿も大変可愛らしかったけど、楽しそうに乗るアイリスちゃんも大変可愛らしいです!」
……まあ、当然の様に近くには居るのだが。
乗馬に慣れていなかった頃のアイリスはキーちゃんにしがみついて涙目で乗っていたのだが、数を重ねる毎に慣れて来て今ではナージャの指導により姿勢良く乗れる迄になっていた。
――それ以外は全てキーちゃん任せではあるが。
「城をバックに自然の中を駆けるキーちゃんとアイリスちゃん。神秘的で可愛らしくて、もう堪りませんね!」
『駆ける、と言う程スピードは出しておらんがの』
『……と言うか撮影してるなのー』
『コヤツは何時でもブレないのじゃ』ジト目
当然ナージャは怯えてた頃の映像も残してある。普通なら黒歴史ものだろう。
精霊神社からの帰り道、今日はホリーの雑貨店に寄る事にした。
アデール王国でアイリスの同級生で仲の良かったホリー、エリカ、フランの3人は戦争でカントラス王国に避難していたのだが、今はレンリート王国の王都に戻っていたのだ。
巫女様の代理を務めるフローディア公爵家の人間と言う事で、護衛も付いている立場上アイリスは気軽に立ち寄れなくなってしまっていた。
(本当はもっと会いに行ってあげたいんだけどなぁ)
『謎の上から目線じゃの』
『相手が歓迎してると思い込んでるなのー?』
えっ? 迷惑、……だったの??
(……ショックなんだけど? ちょっと泣きそうだよ??)
『いや、歓迎しとるのじゃ』
何なんだよもー! 驚かせるなよー。
ウキウキと頭を揺らしながら笑顔でホリーの雑貨店に入って行くアイリスを何とも言えない表情で見つめるリリィとネネェ。
『――結局、……自分が会いたいだけなんじゃよな?』
『なのー。素直じゃないなのー』
「――と言っても店は荒らされてメチャクチャでしたけどねぇ」
「エリカも片付けやらされたけど、何でか他の店の手伝いまでやらされたのよ!?」
「2人はまだ良いわよ。私のお店なんて乗っ取られてしまっていたんですから」
ホリーの雑貨店は在庫が全て盗まれていた。エリカのデパートの洋服店も同様、だがどちらも片付けて新たに仕入れをして店舗を再開していた。
だがフランの女性服専門店は立地が良かった事もあり、ラージヒルド商業王国の商業ギルドに勝手に売りに出されて別の店となって営業していたのだった。
「でも国から補助金が出るんでしょう?」
「ええ、それに商工ギルドが新たな店舗を見繕ってくれましたし、来月には再開出来そうですわ」
「今までなら補助金なんて出して貰えなくて、そんなの夢のまた夢だったからねえー」
「良かったですねー?」
貰ったお菓子とジュースを皆んなで食べる。
話しはカントラス王国への避難からアイリスとの再会、戻って来てからのアイリスの評判へと続いていく。
コレット達も同年代だから話しも弾むだろう。……と思ったんだけど何故か俺の話しばかりになっていく。しかも何気に脚色されているし。それ何処の聖者様? って感じだよ?
『脚色、されておらんのじゃよなぁ』遠い目
『なのー』ジト目
まあ盛り上がっているから良いか。
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