4.勇者なのに魔王に守ってもらっています(後編)
わたくしの目の前に、緑色の半透明のステータス画面が開いていた。
ステータス画面には、『魔王ヴァランタンが仲間に加わりました』という一文が表示されていた。
「これは一体……?」
ヴァランタンの方を見ると、ヴァランタンの前にもステータス画面が開いており、『侯爵令嬢シャンタルの仲間になりました』という文字が並んでいた。
「令嬢の……仲間……?」
ヴァランタンがわたくしを見たので、わたくしはうなずいてみせた。
令嬢の仲間って、お茶会に参加してそうなイメージしかないけどね……。
「まさか、勇者の仲間になったのか、ヴァランタン?」
デジレの顔が嘲りに歪んだ。
「わたくしは勇者ではなく侯爵令嬢でしてよ、王様」
わたくしはデジレに笑いかけた。
「人間の王とは、この魔王に向かって面白いことを言う」
「あら、王様ですわよね? わたくしは侯爵令嬢でしてよ。初対面の魔族の方なのですか? なぜ侯爵令嬢であるわたくしを、勇者などとお呼びになるのかしら?」
わたくしはまだ覚醒していないらしいので、ジョブは侯爵令嬢だ。
ここで初めて会った魔族ならば、わたくしを勇者とは見抜けないはず。
「そうだな、シャンタル嬢は侯爵令嬢だ」
今度はヴァランタンが、笑顔でわたくしにうなずいた。
「なにを言っている? そのような誤魔化しは、この魔王デジレには通用せぬ!」
わたくしはデジレを挑発するために、悪役令嬢を意識した嘲り笑いを浮かべた。
戦いにおいては、感情的になった方が負けると聞いたことがありますもの。
「ヴァランタンも貴様を勇者と呼んでいたではないか!」
「あらあら、おかしいですわね。あなたの言動を見ていた限りでは、魔王ヴァランタン様が侯爵令嬢を勇者などと呼んでいたら、ばかにしてきそうなものですのに……」
わたくしはまた悪役令嬢を意識して、悪い顔をして嫌味を言ってやった。
怒らせすぎてもいけないけれど、なにかうっかり言うかもしれないと思うと、ついつい演技に力が入りますわ。
敵の情報なんて、どれだけあっても良いものですものね。
「なかなか言うな、シャンタル嬢。『鼻持ちならない令嬢』にジョブチェンジできそうではないか」
ヴァランタンが冗談を言ってきた。
わたくしにはヴァランタンが、一緒にデジレを挑発してくれているのだとわかった。
「ヴァランタン、たしかに愚かな令嬢の好みそうな面構えに化けておるわ」
デジレは剣を持っていない左手を、ヴァランタンに向かって突き出した。その手のひらから、魔法陣の一部のような模様がすごい勢いで飛び出てきた。
ヴァランタンは戸惑ったようにデジレをただ見ていた。
魔法陣の一部のようなものはヴァランタンに絡みつき、白い光を放った。
わたくしは内心で焦りながら、ヴァランタンの身体が変化していくのを見ていた。
光が収まると、ヴァランタンがいた場所には、一頭の黒い魔物が立っていた。
「きゃああああ――!」
その姿を目にした時、わたくしは絶叫せずにはいられなかった。
ひどく興奮すると同時に、一部だけ妙に冷静な頭が、考える。このようにヴァランタンの秘密を暴き、わたくしとヴァランタンを引き離そうとするなど、デジレはずいぶんと焦っているようだわ、と……。
「どうだ、侯爵令嬢! あの禍々しい生き物を見よ! あれこそが、ヴァランタンの真の姿であるぞ!」
デジレが得意げに叫んだ。
わたくしは必ずやこのデジレを討つと、改めて決心した。
わたくしとヴァランタンはもう仲間だ。
いつの日か、わたくしとヴァランタンが信頼関係を築けて、ヴァランタンがわたくしにこの姿を見せても良いと思った、その時にこそ、わたくしはヴァランタンにこの秘密を打ち明けてもらいたかった。
たしかに魔王デジレは人の心をもてあそぶ。
わたくしは、このデジレを決して許しはしない。




