3.魔王って何人もいるものなんだ……?(後編)
最後まで書けましたので、今日からしばらく朝昼晩で三話ずつ投稿させていただきます。
よろしくお願いいたします!
うん、まあ、ずっと一緒にいてもらえるかと思ってテイムしようとするとか、わたくしからのプロポーズみたいなものと思われたんだろうけど……。
従魔になってもらうのと、夫になってもらうのとでは、だいぶ違いましてよ……。
「シャンタル嬢?」
魔王ヴァランタンさんが心配そうにわたくしを見上げてきた。
侯爵令嬢に転生して、腰巻とブーツと武器しか身に着けていない、半裸の美男の魔王からプロポーズしてもらうことになるなんて、まったく考えたこともなかったわ……。
「わたくし……、まだジョブは侯爵令嬢ですし、レベル一なのです……。魔王様とは釣り合いませんわ……」
なんとか断ろうと、理由をひねり出してみた。
ステータス画面のジョブに侯爵令嬢と書かれていたんだから、魔王ヴァランタンさんと対になる靴の勇者じゃないかもしれないじゃん?
「シャンタル嬢、私が最も腹立たしく思っているのはそこだ。未覚醒の勇者、しかもレベル一を、魔王城前に捨てるとは! しかも、勇者の方には私に嫁げと言い含め、装備は木の棍棒と絹のドレス。一方、私の城は攻められていた。この私に、未覚醒のレベル一の勇者を殺させようとしているのは明らかだ! 勇者もこの私も愚弄している所業である!」
「あ……っ」
今度はわたくしが頬を染める番だった。
魔王ヴァランタンはわたくしが国から捨てられたと、正しく理解していた。
この世にもはや頼れる者もなく、討伐するべき相手の前に立たされている、レベル一の哀れな勇者。
それが今のわたくしだ。
「案ずるな、シャンタル嬢。私があなたを娶り、庇護する。あなたにとっては望まぬ婚姻だろうが……。それで国に対して、あなたは務めを果たしたことになる。同時に、我が庇護下にいれば、あなたの命を狙う者も、そう簡単に手出しはできないはずだ」
わたくしは心の底では魔王ヴァランタンも疑っていた。
王様が魔族に心を操られているか、肉体を乗っ取られているような感じだったから、この魔王だってきっとそいつらと同類だと思ってしまっていた。
魔族の王と婚姻なんて冗談じゃない、くらい思っていた。
この魔王はあいつらとは違う。
わたくしが婚姻を望んでいないと知った上で、勇者であるわたくしを娶る必要なんて少しもないのに、それでも……、それでも、この方はわたくしを娶ってくれようとしている。
親兄弟ですらも、王様を恐れて、王命のままに木の棍棒と銅貨五十枚しか持たせないで、わたくしを送り出したというのに……。
この方だけは、わたくしを守ろうとしてくれている。
「魔王ヴァランタン様、大変な失礼を申し上げました。お許しください」
この方に向かって、釣り合わないなどと口にした自分が恥ずかしい。
ヴァランタンは、わたくしが魔王との婚姻を嫌がっていながら、その力だけは欲してテイムしようとしていたことも正確に把握していた。
それでもヴァランタンは、こんな身勝手なわたくしを庇護するために娶ると言ってくれていたのだ。
高潔なのは、わたくしではなく、このヴァランタンだ。
「気にすることはない。……人間の勇者、しかも小娘が、敵対しているはずの魔王に嫁ぐのだ。不安に思っていることはわかっていた」
わたくしは、頬に一筋の涙が流れるのを感じた。
この方は魔族ながら、人以上に相手の立場に立ってものを考えることのできる方だ。
こんな立派な方は、人でもなかなかいないだろう。
「泣かないでくれ……。無理強いするつもりはない」
ヴァランタンがわたくしの手を放そうとした。
わたくしは両手でヴァランタンの手を捕まえた。
「わたくし、靴の勇者として、王様を討ちたいのです……。おそらくあの王様は、何者かに操られるか、乗っ取られるかしています。今のわたくしはレベル一の無力な勇者……。どうか、お力をお貸しください……」
ヴァランタンは立ち上がり、わたくしを抱きしめてくれた。
変な誤魔化しなんかしないで、最初からこう言えていたらよかった。
――と思った、次の瞬間だった。
ヴァランタンは、わたくしと身体の位置を入れ替えると、わたくしを背中に庇い、背負っていた細身の長剣を抜いた。
高い金属音が聞こえて、わたくしは思わずヴァランタンから離れた。
わたくしはヴァランタンの向こうに、漆黒のフード付マントを身にまとった、人型らしき魔物が浮かんでいるのを見た。
「余と戦おうというのか、魔王ヴァランタン」
魔物は不快な笑い声をもらしながら、ゆっくりと地上へと下りてきた。
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