3.魔王って何人もいるものなんだ……?(中編)
最後まで書けましたので、今日からしばらく朝昼晩で三話ずつ投稿させていただきます。
いつもお昼の投稿をお待ちいただいていた方は、お手数をおかけして申し訳ありませんが、一話前からお読みください。
どうぞよろしくお願いいたします!
魔王ヴァランタンさん、それにしても強そうだな……。
辺境領カエのご領主とも仲良しかはわからないけど、少なくとも一緒に行動する程度には親しいみたいだし。
この方、そう悪くなさそうじゃない!?
「魔王様、我が国の王が申し訳ありません。我が国の民……、いえ、元は我が国の民だった者たちを受け入れ、飢えを満たそうとしてくださっていたことに感謝いたします。靴の勇者であり、この国の護国王女である、このわたくしの命をもって、謝罪と感謝といたします」
わたくしは木の棍棒と革袋を投げ出すと、その場でひざまずいて、首を斬れとでも言うように、長い髪を前に垂らして首筋を晒した。
わたくし、転生前に小説や漫画やアニメでよく勉強していたので、知っていますわよ。こういう魔王ヴァランタンさんみたいなタイプは、潔く詫びてくるような相手に弱い……!
「命など差し出してもらう必要はない。それよりも、高潔なる靴の勇者よ、嫁いで来たという話について、改めて詳しく話をしてもらいたい」
魔王ヴァランタンさん、ごめんなさい! わたくし、別に高潔でもなんでもないけれど、倒したい相手がいるのです!
わたくし、転生前には乙女ゲームもけっこう好きでやっていたからさぁ……。こういう攻略対象みたいな相手がいると、とりあえず好感度を上げなきゃっていう発想になっちゃうんだよね……。
「ちょっと長くなってしまいますけれど……」
わたくしは、靴の勇者に認定されてから今日ここに至るまでのことを、なるべく詳しく話した。
話しているうちに、魔王ヴァランタンさんの機嫌がどんどん悪くなっていった。
表情は険しくなっていったし、腕も組み始めて、最後の方ではイライラしすぎて歯ぎしりしていた。
「スキルがなんであれ、勇者というのは魔王と対になる存在である。このダリオン王国の勇者であれば、魔王としてこの付近に君臨している私と対になる存在ではないかと思うのだ」
「そういうものなのですか……?」
「魔王がいるからこそ、勇者も必要となるのだ。私は……、あなたは私の勇者だと思う。もちろん、討伐は私以外に対しても、自由に行ってもらってかまわないが……」
本当に魔王様以外も討伐してよろしいのですか? わたくし、魔王様以外に討伐したい相手がいるのです、って言って大丈夫かなぁ……?
それなら、あなたはそいつの勇者だ、とか言われたら困りますわ……。
わたくしはほとんど魔王城前のこの地から、弱い魔物がいる始まりの村とか出発の町みたいなところまで、自力で戻れそうもなかった。
侯爵令嬢がレベル一のわたくしは、このままでは自力でレベル上げができない。
なんとか魔王ヴァランタンさんに仲間になってもらうとかして、レベル上げのために戦えそうな弱い魔物がいるところまで行きたかった。
仲間……! そうよ、仲間よ!
魔王ヴァランタンさん、仲間になりたそうにこっちを見てますわよね!?
あなたは私の勇者とか言っていますもの!
この魔王、テイムして従魔にしたらいいんじゃなくて!?
えっ、わたくし、天才!?
わたくしは片手を突き出し、魔王ヴァランタンさんに向かって「テイム!」と叫んでみた。
「靴の勇者よ……、残念ながら、勇者は魔物使いではない……。いくら『テイム』と叫んでみても、私を使役することはできない」
魔王ヴァランタンさんは、とても気の毒そうな目でわたくしを見ていた。
「そうなのですか……。ちょっといけるかなと思ったのですけれど……」
「なぜ勇者の身でありながら、突然、魔王をテイムしようなどと考えたのだ……」
「そうしたら、ずっと一緒にいてもらえるかと……」
魔王ヴァランタンさんの白い頬が朱色に染まった。
「靴の勇者よ……、すまないが、名前を教えてほしい。手紙にも書かれていたが、靴の勇者であることしか印象に残っていなくてな……」
まあ……、靴の勇者という単語を見たら、そうなるわよね……。他のことがちょっと頭に入って来なくなっちゃうの、わかるわぁ……。
「シャンタル・チェスナ、侯爵令嬢でございます」
わたくしはドレスのスカートを持って、優雅にお辞儀をした。
ちゃんとした挨拶がまだだったことを思い出したのだ。
魔王ヴァランタンさんはいきなりひざまずくと、わたくしの手をとった。
「私は魔族の身であるが、魔王の地位にある。身分は勇者と釣り合うはずだ。シャンタル嬢、どうか我が妻になってくれ」
わたくしは目を見開き、口を開けたまま、魔王ヴァランタンさんを見下ろした。
なぜプロポーズをされたのかわかるけれど、理解したくなかった。




