26.クリア後の世界(後編)
「女王様! 平和をありがとう!」
一人の男性客が、わたくしにお礼を言ってくれた。
わたくしもヴァランタンに負けない良い笑顔で、声のした方に手をふった。
デジレが倒されるまで長い沈黙を守っていた護国王女の称号は、ヴァランタンを元に戻した後もさらに活躍した。
この国の王様が、崩落した城から死体で発見されると、王様の唯一の養女であった護国王女であるわたくしが、王位継承権第一位として即位することになったのだ。
わたくしは月の半分ほどは、『空飛ぶシューズ』となって王都に飛んで行き、女王としての勤めを果たしていた。
政治の方は、あの「ここはドラスの町だ。気をつけろ、魔王城が近いぞ!」しか言えないかと思われた、NPC感しかなかったニコルに任せていた。
あのニコルには政治家としての素晴らしい才能があったのだ。
女王となったわたくしに、あのニコルがいきなり「国を統べるとは、民を安んずること」などと、この国のこれからの在り方について彼の考えを語り始めた時には、なにが起きたのかと思った。思わず「普通にしゃべれたんだ!」と言ってしまったわ。
『国政』スキルの持ち主のニコルは今や、この国の筆頭大臣だった。城の再建から治水、商業から外交まで、なんでも上手くやってくれていた。
「おい、てめぇら! 楽しんでるんだろうなぁ!?」
空からサンソンが、綿毛を飛ばしながら降りてきた。
ふっくらスズメたちが、三人目の英雄であるサンソンのまわりを、歓迎するかのように飛び回った。
観客たちが歓声を上げ、魔王の集団がまた絶命しそうな叫び声を上げた。
このパレードの演目は『この世界に平和をもたらした三英雄』だった。
わたくしたち三人のパレードは不定期開催で、運が良ければ見られるものとなっていた。
クロードによると、そういうランダム要素は、人が何度もこの地に足を運ぶ理由の一つとなるそうだ。
「よう、元気そうだな、二人とも」
「サンソンも元気にしていたか?」
「俺は元気。闇落ち聖女ちゃんが『行かないでー!』とか泣くから、空から登場することになったわ」
サンソンはどこか得意げに言った。目立つのが好きなサンソンは、空からの登場も実はそんなに嫌ではなかったはずだ。
「かなり盛り上がったから、きっとクロードが喜んでいますわよ」
「俺は、まあ、また、こうやって登場してやっても……、別にいいけど?」
サンソンが顔を赤くして、切れ切れに言った。
パレードが終わると、サンソンはクリスティーヌへのお土産の『ダミアンケーキの詰め合わせセット』を買って、ラストラトの洞窟に戻っていった。
クリスティーヌはサンソンの許しが得られないので、おそらく永遠に『ドラスの町モンスターランド』には来られないだろう。
お土産といえば、この『ドラスの町モンスターランド』では、わたくしたちに武器をくれたポールが、武器と防具の店をやりつつ、預り所とお土産屋もやっていた。
ポールは四つのカウンターを走り回り、『ダミアンケーキの詰め合わせセット』を売ったと思ったら、来園者から預かっていたお金を返してやり、大量の薬草を買い取っていたかと思えば、氷結のブーメランを売っていた。
ポールはエドガーから、商人ギルドのマスターもやってほしいと言われていた。これ以上働いたら、ポールは死んでしまうのではないかしら……。
エドガーはエドガーで、人見知りなダミアンの相棒の仕事がとても忙しそうで、商人ギルドのマスターとの掛け持ちは辛そうだった。
あの一度は滅びた町が、人手不足に陥るほどに復興したのだ。
ドラスの町は今や『奇跡の復興を遂げた町』として広く知られていた。
「我が妻よ、あなたと出会って、この地に私の理想郷ができた」
ドラスの町モンスターランドには、魔神城へと続く隠し通路があった。『怖いモンスター屋敷』というアトラクションの裏にある隠し階段を降りると、隠し通路に入れるのだ。
わたくしとヴァランタンはパレードを終え、隠し通路を使って魔神城へと帰っていっていた。
「あなたは我が至宝だ」
ヴァランタンがわたくしを抱き上げた。
過保護なわたくしの旦那様は、わたくしが長く歩くと疲れることさえ気になるようだった。
わたくしはいつものように、ヴァランタンの首に腕を回した。前はお姫様抱っこをされるなんて、恥ずかしくてたまらなかったけれど、今ではもうすっかり日常になってしまっていた。
「わたくしがこの地に嫁いできた時には、完全に滅んでいたところから、よくここまで復興したわね」
「ああ、そうだな」
焼け落ちるドラスの町の片隅で、靴の勇者であるわたくしと魔王ヴァランタン、二人の運命が交差した。
あの日から、本当にいろいろなことがあった。
「これからも私と共に、ドラスの町を見守っていってほしい」
「ええ、もちろんよ」
わたくしは『常時メンテナンス』と『常時靴磨き』のスキルのおかげで、デジレを倒してから年を取らなくなっていた。
気のせいかと思ってサンソンに相談したら、サンソンも『自動水やり』と『自動肥料追加』のおかげで年を取らなくなったと言っていた。
このスキルの効果がいつまで続くかわらないけれど、わたくしは他の人間よりもゆっくり年を取っていけるようだった。
永遠に近い年月を生きるヴァランタンのそばで、わたくしもまた永遠に近い時を生きられるのかもしれない。
わたくしは靴の勇者。
愛するヴァランタンと、どこまでもどこまでも遠い未来まで、きっと共に歩んでいきますわ。
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