26.クリア後の世界(前編)
それから数年が過ぎた。
魔神城は地上の元の場所に戻り、わたくしとヴァランタンはすでに結婚式を終えていた。
今日は『ドラスの町モンスターランド』の開園の日だ。
ドラスの町は町長となったクロードの元、ついに大規模レジャーランドとして復活を遂げたのだ。
ランチタイム後の最初のパレードの先頭を歩くのは、魔神ヴァランタンと、このわたくし、英雄シャンタルだった。
ちなみに、この後に二回あるパレードの演目は、『辺境伯と令嬢ペトラちゃん』と『魔神城の美人メイドのナタリーとルイーズ』。『ケルベロスとフェンリルのワンワンパレード』は明日のランチタイム後だ。
せっかくパレードの主役を務めるというのに、ヴァランタンは黒地に金のブレードの縫い付けられた、いつものジュストコールを着ていた。魔神なのに、ただの美形の貴族にしか見えない。
わたくしはドラスの町に初めて来た時に着ていたドレスをイメージした、楚々とした水色のドレス姿だった。
わたくしがこのドレスなのだから、ヴァランタンは黒い毛皮の腰巻と、黒い膝丈のブーツでなくてはならないのに。
ヴァランタンは『絶対に装備しない』と言って、本当に装備しなかった。なんでよ!?
わたくしたちの後ろには、世界的にも有名な、あの伝説の『盗賊団を相手に無双した、最強の用心棒のダミアンさん』。
ダミアンはいつものように、『ダミアンさんの良き相棒』として知られているエドガーに抱っこされていた。
エドガーとダミアンコンビの横には、炎の中で滅びゆくドラスの町から魔王と勇者を救い出したことで知られる、『勇気ある奇跡のガルーダ』。ガルーダはクロードの指示に従って、よたよたとすごく歩きにくそうに、わたくしたちの後ろをついてきていた。
ガルーダが人間の言葉がしゃべれないのをいいことに、クロードがガルーダの活躍を盛りに盛って宣伝したのだ。今やガルーダは、魔神ヴァランタンと英雄シャンタルに永遠の忠誠を誓った、わたくしたちの第一の臣下みたいなキャラ付けがされていた。
わたくしたちに次ぐこの二大スターの後ろには、ダミアンと共に修行に励んできた弱い魔物たちが、星やハートのついた愛らしい武器を装備して続いていた。
かわいい彼らには、クロードが各地で売り出したファンブックによって、すでにファンがついていた。
「うおおおおお! 実物のガブリンゴちゃん! かわいいぜえぇぇー! ブーメラン投げてくれえぇ!」
「スライムちゃん、スライムちゃあぁん! こっちよ、こっちを向いてぇーっ!」
彼らと会えることを心待ちにしていたファンたちは、すでに興奮が最高潮だった。
クロード……、商売が上手すぎて怖い……。
さらにその後ろには、楽師とドラスの町の住民たちが、楽器を手にして続いていた。クロードにより楽師が呼ばれて、町の住民たちに歩きながら楽器を演奏する技術を教え込んだのだ。
「あのー、すみませーん!」
パレードを見物している人間たちの向こうで、人ならざる者の声がした。
わたくしたちがそちらを向くと、元は人間だったと思われる、頭部が完全に腐ってしまっている魔物がいた。
魔物は黒いマントから両腕を出し、こちらに必死で手をふっていた。
「ワタクシ、魔王アデマールと申します! こちらにラスボスを嬲り殺す、裏ボスの魔神様が降臨されたことを感じ取りまして、はるばる仲間の魔王と共にご挨拶に参ったのですが!」
どこかでなんとなく聞いたことのある魔王だった。たしか死体を操る魔王だったような……?
アデマールの後ろには、魔女っぽい魔物や、頭が馬の魔物、直立しているエビにしか見えない魔物などが、黒いマントを羽織って立っていた。
「魔神ヴァランタンは私だが、今はパレードの最中だ。今は人間たちと共に、この催し物を楽しんでくれ」
ヴァランタンが素敵な笑顔でアデマールたちに手をふると、アデマールたちは絶命するのかと思うような叫び声を上げた。
人間たちが怯えたような顔で、おそらく魔王の集団だろう者たちを見た。
すぐに園内自警団のバティストとガストンたちが、魔王の集団と人間たちの間に入った。
「はいはい、並んで並んでー! 押さないでください」
バティストたちは人間たちを整列させ、ガストンたち元冒険者が魔王の集団を人間から引き離してクロードの方に連れて行った。
アデマールたちもクロードにスカウトされるのだろう。もしかしたら彼らも、これからこのドラスの町で一緒に働くことになるかもしれなかった。
「ラスボスを嬲り殺す裏ボスの魔神……?」
わたくしは先ほどのアデマールの不穏な言葉を繰り返した。
そんな存在、転生前にどこかで聞いたことがあった気がするわ……。
この世界は、ラスボスであるはずのヴァランタンが倒されていないのにずっと平和だった。
ヴァランタンが裏ボスで、隠し要素的な存在だったのなら、倒そうが倒すまいが関係ない。
「なんだ、そういうことだったんだ」
アデマールのおかげで、ここ数年の心配事が晴れたわ。
わたくしは今日まで、ヴァランタンがラスボスなのか確かめるために、何度も『魔神』のスキルリストを見直してみていた。『魔神』のスキルにも、『大魔王』のスキルと同じような中二病の文章が並んでいて、結局なにが言いたいのかよくわからなかった。
「どうかしたか?」
「あなたが裏ボスだったということがわかったの。裏ボスなら倒しても倒さなくても問題ないでしょう?」
「ああ、まだそんなことを気にしていたのか。誰が挑んでこようが、私は負けない。たとえ私がラスボスだったとしてもな」
ヴァランタンが自信たっぷりな甘い笑みを浮かべた。
見物客たちが、ヴァランタンの笑顔に、また凄まじい歓声を上げた。




