24.英雄たちの帰還
ヴァランタンはわたくしたちを抱えて飛び続け、ドラスの町まで連れ帰ってくれた。
ヴァランタンは朝日を浴びながら、ドラスの町の中央広場にわたくしたちを降ろすと、自分の城へと帰っていった。
魔神城となったヴァランタンの城は、ヴァランタンが戻ってしばらくすると、城ごと空高く飛び去って行ってしまった。
「さっきの魔物はヴァランタンか!? どういうことだ!?」
辺境伯がサンソンの胸倉をつかんで怒鳴った。
サンソンは両手で辺境伯の胸を突き飛ばした。
「俺のせいじゃねーし」
サンソンは舌打ちをすると、荷物袋から縄を出して、クリスティーヌの腕と足を縛り上げた。ハンカチも出して、口枷にした。
「この女はなんだ!?」
「こいつ? 愛の聖女様」
「あのデジレに騙されていた女か」
サンソンはひどく面倒くさそうに、大きなため息をついた。
「こいつさぁ、自分の意志で俺らのこと攻撃してきたんだよね。騙されてたってだけじゃねーんだわ」
サンソンはひどく残忍そうな笑みを浮かべて、クリスティーヌを地面に転がした。
クリスティーヌがデジレの正体を知った後、『愛』のスキルを使って浄化しようとしたのはヴァランタンだった。あのヴァランタンへの攻撃が『俺らのこと攻撃してきた』という受け止め方になるほど、サンソンはヴァランタンを仲間だと思ってくれていた。
「ヴァランタン様は魔神になってしまわれたのです」
わたくしが伝えると、辺境伯は魔神城が飛び去った方向に目をやった。
わたくしも辺境伯から空へと視線を移すと、はるか遠くにぼんやりと魔神城が浮かんでいるのが見えた。
「魔神とは?」
「おそらく、最後の敵です。これまでの流れを考えると、わたくしとサンソンが魔神ヴァランタンを討つことで、この世界に平和が訪れるのだと思います」
わたくしはサンソンを見た。
サンソンは激しく舌打ちをした。
「冗談じゃねーよ。別に裏切られたとかでもねーし。むしろ守ってもらったし。俺は討たねーよ?」
「わたくしだってヴァランタンを討つなど絶対に嫌ですわ」
サンソンは満足げに笑うと、地面に転がしているクリスティーヌの背中を爪先で軽く突いた。
「どうしてもラスボスが必要なら、この女でいいんじゃねーの? 俺は闇落ち聖女ちゃんなんて大好物だけどよ。ヴァランタンは勇者パーティーのメンバーだ。仲間のためなら、こんな性悪女に執着しねーわ」
「わたくしもラスボスが必要ならクリスティーヌを推したいところですけれど、すでにヴァランタン様がラスボスに選ばれてしまったようですわ……」
「選んだ奴、出てこいやっ! オラァッ! ふざけんなっ!」
サンソンは天に向かって凄んだが、なんの反応もなかった。ドラスの町の住民と魔物たちを、無駄に怯えさせただけだった。
「おい、シャンタル、このクソ女どうする?」
サンソンがわたくしを呼び捨てにしてきた。サンソンの中で、わたくしの立ち位置が変わったのだろう。女勇者ちゃんと呼んできていた頃のねっとりとした気持ちの悪い感じがなくなっていた。
「性悪ですので、ドラスの町に置いておけませんわ」
わたくしはサンソンに、ラストラトの洞窟の奥底には、魔王エーヴのいた空き部屋があるということを教えた。
わたくしとヴァランタンが行った時には、エーヴの魔力のおかげか、大理石のような石造りの広い綺麗な部屋に繋がっていたが、今はもしかしたらただの土の小部屋かもしれないことも伝えた。
「へぇ、なかなかじゃねーの。それなら悲鳴とか、まず外に聞こえねーだろ。ラストダンジョンみたいな雰囲気の洞窟なら、そうそう冒険者も来ねーよなぁ」
サンソンは獲物を狙う獣を思わせる笑みを浮かべた。
よかったわね、クリスティーヌ。世界を救った勇者様が、今、あなたを伴侶に選んだようですわよ。
普通に考えたら、『勇者が魔王に嫁ぐ』より、『聖女が世界を救った勇者に嫁ぐ』の方が、王道の美しいハッピーエンドですわよね。
「それじゃ、この闇落ち聖女ちゃんは、とりあえず俺がラストラトの洞窟に連れて行くわ」
サンソンはクロードから水と食糧をわけてもらうと、クリスティーヌを担いだ。ステータス画面を出して操作し、頭上にタンポポの綿毛のようなものを出して、空にふわりと浮かんだ。
「シャンタル、戻ったら一緒に魔神城に行くか?」
「いいえ、サンソン、自力で行けますわ」
「そうか」
サンソンは一つうなずくと、飛び去って行った。
やっぱりサンソンは、クリスティーヌにはもったいない男だわ。
「ヴァランタンのところに行くのか、シャンタル嬢」
「ええ、もちろんですわ。わたくしの婚約者ですもの」
わたくしもまた、ステータス画面を呼び出した。
わたくしの転生前の世界では、『大魔王からは逃げられない』という定説があった。
ヴァランタン、城を空に浮かべたからって、逃げられたと思ったら大間違いよ。
――この世界では、勇者からは逃げられない。




