23.魔神と英雄(後編)
23.魔神と英雄(後編)
わたくしたちの前にステータス画面が開いてきた。
『魔王デジレを倒し、世界を平和にしました』
こうやって表示されるということは、デジレは完全に倒されているわね。
強化されたデジレと再戦ということはなさそうでよかったわ。
『おめでとうございます』
お祝いの言葉を見ると、終わった感がすごい。
いろいろあったなぁ……。
『世界を救った者たちがランクアップしました』
えっ!? ランクアップ? ここで?
わたくしはヴァランタンとサンソンを見上げた。二人も困惑したように仲間たちを見ていた。
わたくしたちの身体が薄緑色に輝きだした。
画面が切り替わり、『ジョブが変更されました』に続いて、わたくしの前にあるステータス画面には『ジョブ:靴の英雄』と表示された。
サンソンのステータス画面を見ると、『ジョブ:花の英雄』と表示されていた。
不安に思いながら、ヴァランタンのステータス画面も見てみると、『ジョブ:最強の魔神』という表示が見えた。
「すげーな。大魔王がランクアップすると魔神になるのか。もう神じゃねーかよ」
ヴァランタンはどこか慌てたように鎧兜一式を脱ぎ、戸惑ったように自分の手を見つめた。
ヴァランタンの視線の先で、人のものと変わらなかった指が変形し、尖った爪が生えてきた。
ヴァランタンの身体が少しずつ大きくなり、元々の顔のある頭の横に、ケルベロスの頭とドラゴンの頭が追加された。
「なん……なの……?」
この世界、ちょっと待って! ランクアップしても、容姿を変更する必要はないんじゃない!?
ヴァランタンの服が破れて消え、爬虫類っぽい身体が現れた。いかにもドラゴンのものっぽいしっぽまで生えてきていた。
「おい、やめろ! これ、ヴァランタンと戦う流れだろ!?」
ずっとヴァランタンを大魔王としか呼ばなかったサンソンが、きちんと名前を呼ぶほどに動揺していた。
「ラスボスとかいらねーよ! 仲間と戦う流れとか、やめろ! なんでだよ!?」
サンソンがわたくしの気持ちを代弁して、上や左右を見ながら怒鳴っていた。
わたくしはなにも言えないまま、ただヴァランタンを見ていた。
この世界はあまりにも残酷で、わたくしはどうしたら良いのかわからなかった。
城が激しく揺れだした。
わたくしはこういう流れを、転生前から知っていた。
崩れゆく城からヴァランタンが逃げ出して、残った仲間で討伐しに行くんですよね。
これって、王様に成り代わっていたデジレが死んで、デジレの魔力で維持されていた城が崩れているという、定番の展開ですかね。
城に入るまでに見た王都の街並みは普通だったのに、デジレは城だけ壊した上で、魔力で復元していたの?
そんなことってある?
ヴァランタンはひどく悲しそうな目をして、わたくしとサンソンを見てから、なにかを決心したように唇を引き結んだ。
ヴァランタンがさらに全身に力を入れ始めた。
まさか、ここで戦闘開始になるのかと不安になりながら見ていると、ヴァランタンは頭が八つある蛇っぽい和風なドラゴンに変身した。
いきなりの第二形態に驚いていると、ヴァランタンはわたくしとサンソンを守るように、八つある頭と長い首を、わたくしたちの頭上に伸ばしてくれた。
サンソンがクリスティーヌのところに走っていき、クリスティーヌを抱きかかえてドラゴンの下に戻ってきた。
「おい、ヴァランタン、大丈夫かよ? 岩とかすげー当たってんじゃねーか!」
サンソンはヴァランタンを心配しながら、うっかりクリスティーヌの胸を触ってしまっていた。
「うおっ!」
小さく叫んだサンソンには、ラッキーチートがついていますもんね。サンソンにとってのみラッキーなことが次々と起きても不思議じゃないですよね。うんうん、わかります。
クリスティーヌにとっては、ラッキーでもなんでもないでしょうけれど、それはクリスティーヌの問題よね。
「うん、まあ、悪くねーな」
自分の手を見ながら「グフッ」と満足げに笑うサンソンは、最高に気持ち悪かった。戦闘中のあのちょっと格好良かったサンソンとは、ギャップがすごいわ。
玉座の間の天井が完全に崩落した。
なぜいきなり城がここまで壊れたのかなんて、考えるだけ無駄だった。この世界は淡々と様式美に則って、ヴァランタンをラスボスに仕立て上げようとしているのだろう。
「グッ!」
頭が八つあるドラゴンが小さく鳴いた。さすがにこれだけの岩が当たったら痛いのだろう。
「ヴァランタン……!」
わたくしがドラゴンに呼びかけると、ドラゴンの身体が紫色の炎に包まれ、膨張していった。
八つある頭は西洋風に変化し、胴体がワニっぽくなり、背中にコウモリっぽい翼が生えた。
「第三形態……!?」
わたくしは転生前からのベテラン勇者なので、ラスボスはダメージが一定に達すると次の形態に変身することは承知しております。
崩落する城から降ってくる瓦礫にずっと当たっていたら、ダメージだって蓄積するだろう。
「ここで!? なんで!?」
第三形態は、おそらく最終形態だろう。
圧倒的な大きさは、ラスボスと呼ぶにふさわしい。
この展開の速さはなんだろう?
ヴァランタンは後足で立つと、鋭い爪のある武骨な前足で、わたくしとサンソンとクリスティーヌをそっと抱えた。
背中にあるコウモリっぽい翼を大きく羽ばたかせて、ヴァランタンは玉座の間から夜空へと逃れた。
わたくしたちの眼下に見える城は、すごい勢いで瓦礫の山と化していった。
城内には人の姿がなかったので、城の崩落に巻き込まれた者は、おそらくいないだろう。
「ヴァランタン様、助けてくださったのですか……」
わたくしはヴァランタンを見上げた。
今のヴァランタンは大きすぎて、見えるのはワニの腹側のような模様だけだった。
ヴァランタンからの返事はなかった。




