23.魔神と英雄(前編)
わたくしの身体――いや、胴付長靴が紫色に輝いた。
ヴァランタンが『つよつよ』で胴付長靴を強化してくれたのだ。
わたくしがヴァランタンを見ると、ヴァランタンはまだ立ち上がれていないものの、もう薄桃色に光ってはいなかった。
サンソンを見ると、ドライアド・フラワーではなく、睡蓮のような花を頭に咲かせていた。
サンソンの前にクリスティーヌが目を閉じて仰向けに倒れていた。おそらく、サンソンが花の香りで眠らせているのだろう。
ヴァランタンが剣を杖にして、ゆっくり立ち上がった。
「『浄化』を使うとは……。大魔王でなければ死んでいたぞ」
ヴァランタンは愛で清められそうになっていたのね。
失礼な話だわ。クリスティーヌの方が、よっぽど浄化されないといけないわよ。
わたくしはコマンド画面をまた見つめた。
今、この『真っ赤に焼けた鉄』でできた胴付長靴はデジレに傷つけられ、少しずつ曲がっていっていた。今こそ、よくわからない『常時メンテナンス』を使って、胴付長靴の修理をしたら良いのではないかしら?
実戦でいきなり、よくわからないスキルを使うのも危険な気がしたけれど、もうやるしかない。
『常時メンテナンス』を発動させると、デジレの腰のあたりで曲がってきていた胴付長靴が、どんどんまっすぐに戻っていった。
デジレの指で引き剥がされそうになっていた胸元の部分も、修復されてすっかり元通りになった。
「靴の勇者ぁ――! 貴様――! ウグゥオワアァァァァ――!」
デジレは自分の肉がえぐれることも気にせず、胸元の部分から胴付長靴を引き剥がしにかかった。
『常時メンテナンス』で修復するよりも早く、『真っ赤に焼けた鉄』が引き延ばされていく。
「シャンタル嬢――!」
わたくしは胴付長靴の肩ひもの部分に重みを感じた。わたくしが視線を上部に向けると、ヴァランタンがデジレの肩の上に立っていた。
「シャンタル嬢、見てはいけない!」
ヴァランタンの声が降ってきて、わたくしは視線を緋色の絨毯に向けた。どうしてだろうと気になったけれど、ヴァランタンはわたくしにとって悪いこと、不利になることなど言わない方だ。
――ザシュッ!
嫌な音がした。
「ウゴアァァ――ッ!」
デジレは短いけれど、これまでで最も恐ろしい悲鳴をあげた。
緋色の絨毯に大量の血が降り注いだ。絨毯が元の緋色とは違う赤黒い色に染まっていった。
突然、血が金貨に変わり、わたくしは胴付長靴から人の姿に戻った。
座り込んだわたくしの前に、ふわりとヴァランタンが降り立った。
サンソンもクリスティーヌを残して、わたくしのところにやって来た。
「怪我はないか、シャンタル嬢?」
長剣を投げ出したヴァランタンが、わたくしの前にひざまずいて顔をのぞき込んできた。ヴァランタンの視線は、わたくしの肩や胸元、お腹のあたりなどを確認していった。
「ええ、大丈夫です」
わたくしはヴァランタンに笑いかけた。
ヴァランタンは安心したようにほほ笑み返してくれた。
「すげー戦いだった。靴が弱らせたところを、大魔王の剣で脳天から串刺し」
サンソンがデジレが倒された状況を教えてくれた。
こうして聞いてみると、なんとも恐ろしい。
世界はやっぱり平和な方がいいわ。
「ヴァランタン様、デジレにとどめを刺してくださって、ありがとうございます」
「シャンタル嬢を殺されるわけにはいないからな」
ヴァランタンがわたくしを抱きしめてくれた。
突然、荘厳な曲が流れ出した。
まさかイベントムービー的なものはここまでで、エンディングテーマが流れ始めたとか?
えっ、待って! これって黒い画面の右下にENDとか出る流れだよね?
ENDって表示された後はどうなるの?




