22.靴と魔王はどちらが強い?(前編)
わたくしは開いたまま放置されていたコマンド画面を操作して、紳士靴になった。サラリーマンが通勤で履いている、ごく普通の茶色い革靴だ。
この革靴に『機能性追加』で『手を使わずに履ける』を付与した。
わたくしとサンソンは、これでもパーティーを組んでいる仲間だ。
サンソンは一人で魔物だらけの洞窟から這い上がってきた猛者であり、あれでクリスティーヌが吐く時、喉に詰まらないよう気を使っていたような男だ。
わたくしはそんなサンソンが、わたくしがどうして欲しいのか察することができると信じた。
「くっそ! ふざけんな! 負けるじゃねーか!」
サンソンが叫んだ。
デジレの前で、ヴァランタンは立っていられなくなり、頭を抱えて座り込んだ。
サンソンはクリスティーヌを解放すると、靴になったわたくしを乱暴に拾い上げた。
「自分だけ靴になって『完全防御』かよ! てめぇ、ふざけんな! 俺はどうするんだよ! 死ぬだろうが!」
サンソンはわたくしの持っていないスキル名を挙げつつ、靴となったわたくしをデジレの足元まで持っていって、デジレが履きやすいように置いてくれた。
サンソンはその場でデジレにひざまずき、首を垂れた。
「魔王様、この薄情な靴の勇者を捧げます。俺を配下に加えてください」
サンソンは命乞いをしながら、コマンド画面を操作して頭に白い薔薇を咲かせた。その薔薇もまたドライアド・フラワーだった。
サンソンは、白いドライアド・フラワーを使って、苦しむヴァランタンを拘束した。
デジレからは、自分の側に寝返ったサンソンが、ヴァランタンの動きを封じたように見えているだろう。
「クソどもが! 俺は生きていてぇんだよ! ふざけんな!」
サンソンの叫びは真に迫っていた。元仲間から洞窟に置き去りにされた時、サンソンはきっとこんな風に絶叫して、自分を鼓舞したのだろう。
ヴァランタンの全身が、ほんのり白く光っていた。
サンソンに訊ねなくたって、あの光がなにかわかる。あれは回復系の魔法の輝きだ。
サンソンもわたくしと同じで、ヴァランタンを傷つけたりはしないもの。
「『花の勇者』か。なかなか使えそうではないか。良いだろう」
「ありがたき幸せに存じます。靴の勇者は今、『完全防御』をしており、我が力及ばず、申し訳ございません」
「ハッ! なにが『完全防御』か!」
デジレは足元に置かれた、いかにも無害そうなただの茶色い革靴を、右足で踏みつぶした。
デジレの右足が触れた瞬間、『手を使わずに履ける』が発動し、デジレの右足は履き口から靴の内側へと飲み込まれていった。
「なっ、なに!?」
デジレは革靴を脱ごうと片足立ちになった。サンソンがデジレを突き飛ばし、左足に革靴を押しつけると、また『手を使わずに履ける』が発動した
「きっ、貴様! 卑怯な!」
「知らないのか、傀儡の魔王。花は擬態して生き延びるんだ」
サンソンはコマンド画面を操作した。白いドライアド・フラワーが消えて、今度は黄色い花を咲かせた。
「蜂蘭花。遠くから見ると、メスのミツバチがとまっているように見える蘭の花だ。この姿でオスのミツバチを誘い込み、花粉をばらまいて種を永らえてきた」
「そんな植物のことなど聞いておらんわ!」
デジレは床に転がって、革靴を足から脱がそうと履き口を引っ張っていた。
絶対に脱がされるものですか! わたくしは『サイズ変更』をして、デジレの足にしっかり革靴を密着させた。
「わからないのか、魔王。花も生き残りをかけ、生存戦略を練るんだよ。俺は花の勇者らしく、生き残るために裏切者に擬態しただけだ」
サンソンはさらにコマンド画面を操作して、また銀のドライアド・フラワーを咲かせると、クリスティーヌを拘束した。
クリスティーヌは「放せ! 放しなさい!」と叫びながら暴れた。
「放すわけねーだろうが! てめぇの頭の中、お花畑かよ!?」
クリスティーヌはサンソンに嘲笑され、さらに暴れながらサンソンを口汚く罵り始めた。
わたくしは脳内に浮かぶコマンド画面を操作して、『知っている靴』から童話に登場する靴を選択した。
「ウグオオオォォ――ッ!」
真っ赤に焼けた鉄の靴は、デジレを絶叫させた。
この靴は、白雪姫の継母である王妃が、白雪姫と王子の結婚披露宴で履かされた。
王妃はこの靴を履いて、死ぬまで踊らされたそうよ。
デジレ、知っていて? 靴は時には残酷な拷問の道具にもなるのよ。




