21.傀儡の魔王と最強の大魔王(後編)
「てめぇ、いい加減にしろ! ぶっ殺すぞ!」
いきなりサンソンが吠えた。目が据わっている。
「ひっ! なんで!?」
「もういっぺんやってみろ! 死にてぇならよぉ!」
サンソンは完全にキレているように見えた。クリスティーヌがドライアド・フラワーで運ばれていく勢いが増した。
「どういうことなの!? スキルは発動したはずよ!」
「アァ!? 俺の顔して、俺に助けを求めて、気持ち悪いんだよ!」
「どういうこと!? わたくし、あなたの最も愛している相手の姿をしていたのではなくて!?」
サンソンが舌打ちをした。
サンソンの最も愛している相手が自分自身だったから、サンソンにサンソンの姿で哀れっぽく助けを求めてしまったということだろう。
愛する相手の姿になって襲いかかったりする戦い方なら、転生前にまあまあよく使われているのを見た戦法だわ。この世界を生きるクリスティーヌにとっては、もしかしたら斬新な戦い方だと思ったかもしれないわね。
「愛する者に化ける戦い方など、わたくし、生まれる前から知っていてよ!」
わたくしは事実をありのままに伝えることで、クリスティーヌを煽ってやった。
今のスキルはクリスティーヌにとっては、『危険な時には、これで身を守れるだろう』と思う程に、強いものだったはずだ。サンソンに効かず、わたくしにとっても既知のスキルだと言われたら、動揺して次のスキルを選ぶのに時間がかかるはずだ。
ドライアド・フラワーは、クリスティーヌを羽交い締めにした。クリスティーヌが暴れても、まったく拘束は解けそうになかった。
「俺はこのままお前らの戦いを見物しててやるぜ! 俺らを殺そうとしてきた王様をぶちのめせ!」
サンソンはわたくしとヴァランタンに拳を突き出して、応援してくれた。
わたくしとヴァランタンは、同じように拳を突き出すことで、サンソンの声援に応えた。
「人間どもときたら、まるで使えないではないか」
王様の背中が割れて、まるで脱皮するようにデジレが出てきた。デジレが出て行った王様は、デジレによってまるで脱いだ服のように、部屋の隅に投げ出された。
「なっ、なに!? なんっ!? えっ!?」
「あら? あなた、愛する方の本当の姿を、今初めてご覧になられたのかしら?」
わたくしはクリスティーヌに嘲笑を浮かべてみせた。
短い赤銅色の髪を横でわけ、青い目をしたデジレの精悍な顔は、人によっては好みだと思うかもしれない。
筋肉質な薄紫色の身体には、膝丈の黒光りするパンツのみが身に着けられていた。パンツのベルトのバックルには、禍々しい緋色の宝玉。腰には剣の鞘。
デジレの素肌には、初めて遭遇した日と同じように、大きな魔法陣の一部のような曲線と文字らしきものが、白い光を放ちながら不気味に這い回っていた。
クリスティーヌはドライアド・フラワーに拘束されたまま吐いた。自分が口づけを交わしていた相手が王様ではなく、身体中を魔法陣が不気味に這いまわる魔物だったと知ったためだろう。
「傀儡の魔王デジレというのが、あなたの愛した方の本当の名前ですわ。知っていらしたかしら?」
わたくしが問いかけると、クリスティーヌはまた吐いていた。
わたくしは涙目で咳き込むクリスティーヌを冷ややかに見つめていた。
サンソンはあれで少しやさしいところがある。クリスティーヌが吐きそうになっているのを察して、吐いたものが喉に詰まらないよう、クリスティーヌが下を向けるようにしてあげていた。
クリスティーヌはわたくしを魔王への嫁入りに平然と送り出した。勇者であるわたくしは、魔王に殺されてしまう可能性が高いというのにだ。
サンソンはあなたのような残忍な女にはもったいない男ですわね。
「ここからだ、ヴァランタン!」
デジレは腰の剣を抜くと、ヴァランタンに斬りかかった。
ヴァランタンは長剣で、デジレの剣を受けた。
デジレが剣技で最強の大魔王ヴァランタンに勝ることなどないだろう。
デジレにはまだ打つ手があるのか、それともこの場は逃げるつもりか。
「おい、聖女! ここで終わりか!? 貴様、それで良いのか!?」
デジレはクリスティーヌに話しかけた。
クリスティーヌが虚ろな目をして、ヴァランタンと戦っているデジレを見た。
「貴様の欲はそこまでのものか!? もっと欲深く、残酷な女だろう! 奮い立て、愛の聖女よ! 貴様の心も愛も、すでに穢れきっているだろう!?」
「ヴァランタン様、サンソン様、デジレを黙らせてください!」
わたくしが言うのとほぼ同時に、精気を取り戻したクリスティーヌが、なにかのスキルを使った。
ヴァランタンの身体が薄桃色に輝き、長剣を取り落した。
苦しみだしたヴァランタンを見て、デジレは勝利を確信したようで、憎たらしい笑みを浮かべた。




