20.花の勇者の元仲間
わたくしたちが、照明のほとんど消された薄暗い玉座の間に入っていくと、いきなり頭上から雷撃が降ってきた。
ヴァランタンが背負っていた長剣を抜き、魔法による雷を切り裂いた。
「よう、サンソン! 新しい仲間は、もう一人のハズレスキル持ちの勇者と、妙な鎧の魔物か」
女性に好かれそうな華やかな顔立ちをした三人の男たちが、わたくしたちを見て笑い出した。
ヴァランタンを妙な魔物などと呼んだということは、最強の大魔王が攻めてくるということは知らされていないのだろう。
「おいおい、サンソン、まさか剣聖と大魔導士とパラディンのパーティーに勝てる気で来ちゃった?」
「その頭に生えてる気持ちの悪い花はなんだよ? 妙な花を頭に咲かせるのが、『花』のスキルか? そんなのよく使う気になるな。俺には恥ずかしくて無理だわ」
装備などを見た感じ、剣聖、大魔導士、パラディンと思われる順番で、彼らはサンソンを貶していた。
サンソンはちょっと気持ちの悪い男だけれど、彼らほどには醜悪ではない。
わたくしの前に、戦闘中用の黒いコマンド画面が出てきた。
『剣聖、大魔導士、パラディンが現れた』と表示された。
「あいつら、モブすぎて名前も書いてもらえてねーじゃん」
サンソンが自分の前にあるコマンド画面を見て、かすれた声で言った。
わたくしには悔しさがサンソンの声をかすれさせているとわかった。
わたくしも仲間であるサンソンを罵られて悔しいわ。
「花の勇者様、こやつら、どうしましょう?」
ヴァランタンは、彼らが自分の正体を知らないと判断したのだろう。わざと手下の魔物のような丁寧さで、サンソンに話しかけた。
サンソンが片方の眉を上げて、ニヤリと笑った。
「気持ちだけもらっとくわ。ありがとな、大魔王」
サンソンが小声で言った。
ヴァランタンは小さくうなずいた。
「俺の後ろにいていいぞ! こんな奴ら、俺一人でいたぶり尽くしてやるからよ!」
サンソンが元仲間の前に進み出た。
レベルが十しかなかったはずなのに、なんでこんなに自信たっぷりで言えるのか不思議だ。
元仲間たちはレベル十などはるかに超えていそうに見える。
わたくしとヴァランタンは防御することにした。
わたくしは盾を構え、ヴァランタンも剣を鞘に戻して両腕を身体の前で交差させた。
サンソンにとっては、この元仲間こそがラスボスかもしれないのだ。
今はサンソンの気が済むようにやってもらおう。
サンソンがやられそうになったら、その時には、すぐに助けに入るわ。
「いたぶり尽くす? はぁ!? なにを言ってるんだよ! できるものならやってみやがれ!」
パラディンがサンソンの前に立った。盾すらも構えていない。
サンソンはコマンド画面を操作し始めた。頭上の花が変化し、どこかクラゲを思わせる白い花になった。
「うはっ、気持ち悪いスキルだな! それは触手か? 顔の前まで垂れてるぜ?」
パラディンはサンソンを指さして笑い出したが、徐々にサンソンに向けていた指が震えだし、震えは腕に伝わり、身体を折り曲げた。
「おい、どうした?」
剣聖がパラディンに近寄ろうとして、途中で同じように痙攣し始めた。
部屋の奥に立っていた大魔導士もまた、緋色の絨毯に片膝をついて震えていた。
「しびれくらげ花」
サンソンは厳かに言い放つと、わたくしたちをふり返った。わたくしたちに影響がないことがわかると、何度かうなずいていた。
サンソンは轟雷の剣を掲げた。激しい落雷が、サンソンの元仲間たちを襲った。
「うぅぅっ、うおぉっ」
最も苦しんでいるのは剣聖だった。雷耐性が低い装備なのだろう。他の二人も程度の差こそあれ、痛みに苦しんでいるようだった。
「悪い魔王の仲間に遠慮はいらねーよなぁ」
サンソンは大魔導士のところへ行き、頭を踏みつけて地面に転がした。
大魔導士はほとんど抵抗できないまま、サンソンに腹を蹴られた。
「悪い……魔王だと……。我らは……聖女様をお守りする……王様直属の護衛兵士となったのだ……。人間を裏切った……闇落ち勇者に……こんな……」
大魔導士は涙目でサンソンを見上げていた。
サンソンは足を代えて、大魔導士を蹴り上げた。
「『闇落ち勇者ちゃん』とかたしかに大好物だけどよ」
サンソンはまた轟雷の剣を掲げた。雷が倒れている三人を襲った。
サンソンが再びコマンド画面を操作して、紫色の歪な水玉模様がついた、毒々しい黄色の花を頭上に咲かせた。
「毒蛾の花」
かつてサンソンを洞窟の奥に残して立ち去った元仲間たちは、喉を掻きむしり、泡を吹いていた。
サンソンは冷めた目をして、かつて自分を見殺しにしようとした元仲間の間を歩きまわっていた。
サンソンはわたくしとヴァランタンの前まで戻ってくると、元仲間たちを見下ろした。
「まっ、俺も死んでねーし。ここまでにしといてやるからよ。俺の前に二度と現れるんじゃねーぞ!」
サンソンは戦うことをやめた。サンソンの頭上にある毒蛾の花が、はらりと散りながら消え去った。
「隣町まで行かれたら、毒消しの粉が売ってる。必死で走っていけば、なんとか死なないで済むんじゃねーか?」
サンソンの元仲間たちはよろよろと立ち上がり、何度も足をもつれさせ、時に転び、床を這いながら、玉座の間を出て行った。
これがレベル十なの!? 違わない!? ちょっとこれは強すぎでしょ!?
わたくしはレベル百あたりが最高レベルかと思っていたけれど、サンソンだけ百段階評価じゃなくて十段階評価で、もうレベルがカンストしてるとかなの!?
「次また余計なことをしてきた時には、容赦しねーからよ」
サンソンは元仲間の去った扉に向かってつぶやいた。
わたくしとヴァランタンは防御の姿勢をやめ、サンソンの元に歩いて行った。
戦闘が終わったのにステータス画面が開いてこないのは、おそらく倒さずに逃がしたからだろう。
「運良く俺の用事が片付いたわ。『勇者』スキルいいよな! 主人公補正とラッキーチートがあるもんな!」
サンソンに笑いかけられて、わたくしは慌てて自分のスキルリストを確認した。たしかにラッキーチートと主人公補正があった。
わぁー……、このパーティー、ラッキーチートと主人公補正を持ったメンバーが三人もいるんだぁ……! すごすぎない?
勇者、勇者、大魔王というメンバーも強すぎだよね。
ただの剣聖、大魔導士、パラディンで挑むのは、ちょっと無理があったかもね。
「なに? 女勇者ちゃん、知らなかったの? 俺が勇者のこと、いろいろ教えてあげるよ?」
「ありがとうございます」
わたくしは笑って誤魔化しながら、サンソンから離れた。
ヴァランタンがさりげなく、わたくしとサンソンの間に入ってくれた。
サンソンは時々、妙に距離が近くなることがあるのよね……。悪い人ではないんだけど、やめてほしいわ……。
「――まったく、使えぬ冒険者どもだったわ」
玉座の間の奥で、王様の声がした。




