19.大魔王は魔王からの嫉妬と羨望に慄いています(前編)
わたくしはヴァランタンと共に、クロードの馬車を借りて王都へと向かった。
おかしくない!? こういう場合って、ケルベロスが背中に乗せて行ってくれるものだよね!?
ヴァランタンは様式美をなんだと思っているのかしら?
勇者に人を乗せられるタイプの獣人の仲間がいたら、乗せて走って行ってもらうものでしょ!? きっとそうだよね!? そうに違いないわ!
わたくしだってケルベロスにライドオンしたいのよ!
ヴァランタンが「最終決戦のために体力を温存したい」と言うから諦めたけれど、ちょっと嘘っぽいと思う。
フェルディナンだってフェンリル姿で王都まで走っていこうとしてたじゃん。
恥ずかしがり屋さんで甘え慣れていないから、人を乗せるなんて緊張しちゃうのかな……。
ああ、緊張しているケルベロス、想像するだけでかわいい……。
うんうん、無理しなでいいのよ。
ゆっくり仲良くなっていこうね。
わたくしは想像の中で、腕をいっぱいに広げて、ケルベロスの頭を三ついっぺんに抱きしめた。
クロードの馬車の御者は、サンソンが担当していた。サンソンにはドラスの町の守りを任せたかったのに、断られてしまったのだ。
サンソンからは『俺も勇者だから、いざとなったら、かわいい女勇者ちゃんを助けに行ける距離にいたい』と切れ切れに言われた。
それより町の守りをお願いしたいと言い続けたら、サンソンの表情がどんどん険しくなっていって、『アァッ!? てめぇら、この俺の言うこと聞けねーの!?』と凄み始めた。
サンソンの説得は、それ以上は無理だった。
王都のそばまで行ってみると、噂通り薄桃色の結界が王都を包んでいた。
当初の予定では、王都に到着したクロードの馬車は、クロードの友人が王都に所有している館へと向かうことになっていた。
クロードが友人にお金を払って、館を使用人ごと借りておいてくれたのだ。
わたくしたちはその館で数日間休んで、長旅の疲れを癒し、すっかり元気になってから、デジレに挑むことになっていた。
御者役が予定外のサンソンで、結界の効果がわからないことを踏まえると、予定通り馬車で結界に突っ込むことは不安だった。
わたくしとヴァランタンは、いろいろな意味での安全を考えて、サンソンと馬車には王都の外で待っていてもらうことにした。
わたくしとヴァランタンは装備を整えると、馬車馬の横に立っているサンソンに見守られながら、薄桃色の結界の内側へと歩いて行った。
結界はわたくしたちを阻むことはなかった。
わたくしたちは王都を囲む防壁に設けられた守衛所の検問も、辺境伯からの書状を見せることで難なく抜けて、王都へと足を踏み入れた。
わたくしは魔王に嫁ぐためにこの王都を発った時には、もう二度と王都には戻れないだろうと覚悟していた。
それが今、その魔王とこうして並んで、わたくしはこの地に立っていた。
「ここはドラスの町だ。気をつけろ、魔王城が近いぞ!」
防壁に設けられたトンネルを抜けると、すぐに若い男が声をかけてきた。彼のすごいNPC感には覚えがあった。
わたくしたちはドラスの町にいるはずの若い男を凝視した。
「ニコル!? なぜここにいる!?」
ヴァランタンが若い男に呼びかけた。
「ここはドラスの町だ。気をつけろ、魔王城が近いぞ!」
ニコルと呼ばれた男は、困惑したように繰り返した。
まさかニコルはこれしか話せないのだろうか。この世界でそれでは、あまりにもニコルが気の毒だった。
ふと気づけば、まわりの景色もドラスの町だ。
道端には、黒く変色したレンガが積まれていた。緑色のドラゴンに焼き尽くされたのだ。
これから壁として積まれる予定だったのに、無残にも焼け焦げていて、これでは使い物にならないだろう。
せっかく敷きなおされた石畳も、ドラゴンの巨体の重みで割れてしまっていた。焼け焦げた黒い小石が、土の上に転がっているようにしか見えない。
「どういうことだ……?」
わたくしとヴァランタンはあたりを見まわした。
わたくしたちは王都に来たはずだ。




