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靴の勇者令嬢~ハズレスキル『靴』を持つ侯爵令嬢は、勇者として魔王に嫁ぎ、最強の旦那様と共に真の悪を倒します~  作者: 赤林檎


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18.花の勇者も追放されました

「花の勇者サンソン様」

 わたくしが呼ぶと、サンソンは、ものすごく得意げな顔をした。


「てめぇのことも、すげー美人だな、かなりかわいいな、とは思うけどよ。悪いな、俺、ちょっと闇が入ってるっつーか、病んでるっつーか、そういう女が好みなんだわ」

 わたくしは笑みを崩さないように精一杯の努力をした。ちょっと名前を呼んだだけで、なぜかふられたような話の運びになっていることについては、なるべく考えないようにした。


「わたくしは靴の勇者シャンタル・チェスナでございます。こちらの『勇者の鎧』をお譲りいただけ……」

「あん? てめぇも勇者かよ。ほしいならくれてやってもいいぜ?」

 サンソンはわたくしの言葉に言葉をかぶせてきた。

 サンソンの下卑た笑いは、貴族の令息のする表情とは思えなかった。


 ヴァランタンとフェルディナンが、わたくしを守るように両脇に立ってくれた。


「私が大魔王ヴァランタンだ。私になにか用だろうか?」

 ヴァランタンはわたくしの肩を抱いた。

 わたくしがヴァランタンを見上げると、ヴァランタンはわたくしにほほ笑んでくれた。ケルベロス姿も好きだけど、こうして見ると、やっぱり人型も素敵だ。魔族なのに、なぜか清潔感があるのよね。


「なんだよ、男かよ! しかも、かなりかわいい女勇者とできあがってんじゃねーかよ! なんなんだよ、あの王様!」

 サンソンの怒りは凄まじかった。



 サンソンはここに来るまでの苦難の道のりを、いきなり語り出した――。


 王様から『勇者の鎧』を渡されて、ご機嫌で仲間を募った。サンソンの目的は『大魔王ちゃん』だったので、強そうな剣闘士と魔法使いと僧侶を仲間にした。全員男なのは不満だったが、『大魔王ちゃん』のためだから仕方なく我慢した。


 仲間たちと共に初めての討伐に行く途中、冒険者ギルドから依頼されたいわゆる『お使いクエスト』をこなしたところ、『お花の配達はRPG』というスキルが開き、ステータス画面が出てくるようになった。


 初めての討伐の対象は、とある洞窟の奥に住んでいる『踊るレイピア』というレイピアのモンスターで、サンソンは血まみれになりながら、どうにか倒した。


 サンソンがスキルパネルを開き、チュートリアルに沿って最初のスキルパネルを開けると『勇者覚醒』だった。

 サンソンが花の勇者として覚醒したのに伴い、仲間たちも剣闘士は剣聖に、魔法使いは大魔導士に、僧侶は聖騎士になった。


 三人の強そうな仲間たちは、ランクアップをすると、まだレベル一のままのサンソンを残して洞窟から離脱していった。ランクアップさえしたら、レベル一の『花』というハズレスキルの勇者など、もう用なしだと言い捨てて。


 三人の仲間たちは、勇者が覚醒すると仲間たちもランクアップすることを知っていたようだった。だから、サンソンに対して、他のパーティーよりもはるかに親切にしてきたのだろう。


 サンソンは怒り狂い、魔物を狩りまくってなんとか自力で洞窟を抜け出した。洞窟を出てからも付近の魔物を狩りまくり、『花』のスキルパネルをどんどん開けていった。


『花』のスキルは、頭のてっぺんに花が咲くという、あまりにも格好悪いスキルだということがわかった。

 スキルをいろいろ使ってみているうちに、種飛花という春に咲く黄色い花を『進化』スキルを使って綿毛にすると、その綿毛によって空を飛ぶことができるとわかった。

 そして、今、ついにサンソンは、このドラスの町まで飛んできた――。



 サンソンの今のレベルは十らしかった。

 レベル十でどうやって、大魔王を倒して、改心させるための説得をすることができるのかしら……。


「そりゃあ、あんた、大変だったろう」

 武器屋のポールの母親が言うと、町の住民たちが同意するようにうなずいた。

 サンソンは町の住民たちを驚いた顔で見まわした。


「ドラスの町は滅んでしまっているが、また再建するつもりだ。それまでは我が魔王城、いや、今は大魔王城か、そちらにみんなで住んでもらっている。花の勇者も休んでいくといい」

 ヴァランタンがサンソンに笑いかけた。

 町の住民や魔物たちが、歓迎するようにサンソンのまわりに集まった。

 サンソンの頬がほんのりと赤く染まった。


「災難でしたな、花の勇者様。どうやら王様は、魔王デジレに身体をのっとられているようです。なにを言われたかわかりませんが、こちらに住んでいる大魔王ヴァランタンは、我ら辺境の民を苦しめたりはしていません。ご安心ください」

 サンソンは辺境伯に「お、おう……」と小さな声で答えた。


「落ち着かれたら、どうか町の者たちに、旅のお話をお聞かせくださいませんか?」

「そうです、花の勇者様。覚醒した時のお話など、ぜひ聞いてみたいです」

 ナタリーとルイーズが口々にねだると、サンソンは首から上を真っ赤にした。


「話……は、あまり……、得意じゃ、ない……、かな………」

 サンソンはここに来た時の勢いを完全に失い、うつむいてぼそぼそと返事をした。

 ナタリーとルイーズは戸惑って顔を見合わせていた。


「メイドさん……、嫌いじゃないぜ……? こんなド田舎にも……、まあまあ……、かわいい子、いるじゃん……。悪くねーな……」

 サンソンが切れ切れに言うと、ナタリーとルイーズはすごく自然にサンソンから離れていった。


「あの……、花の勇者様、わたくし、この『勇者の鎧』をいただいてもよろしいですか?」

 わたくしは遠慮がちな笑みを浮かべて、サンソンに改めて頼んでみた。目が少し潤んでいたりするといいなあ、なんて思いながら、『お願い!』という感じで両手を胸の前で握ってみた。


「いいよ……。俺……、かわいい子には、すげーやさしいから……」

「わあ、ありがとうございます! 花の勇者様って、すごーく、やーさしー!」

 わたくしは大喜びしてみせた。

 サンソンが満足げに「グフッ」と笑ってくれた。



 ドラスの町は、もう一人の勇者を得た。

『花』も勇者のスキルなので、使い方によっては大魔王を倒すこともでき……る……可能性は低いわね……。


 サンソンがわたくしの考えているタイプの勇者ならば、サンソンの持つスキルは、バフやデバフなどの補助魔法系であるはずだ。

 勇者が持っているのだから、ある程度は強力なもののはずなので、フェルディナンの助けになってくれるだろう。

 サンソンがドラスの町の守りなんていう地味な仕事を、引き受けてさえくれれば……。

 引き受けて……、くれるのかしら……?



 わたくしはついに勇者専用装備を手に入れた。

 今、わたくしが装備しているのは、魔法を跳ね返す『輝くドレス』だった。もしかしたらこのドレスのせいで、ドラゴンのお腹の中にいる時に、ヴァランタンの魔法がかからなかった可能性があった。

 勇者専用装備である『勇者の鎧』の性能はまだわからないけれど、少なくとも『輝くドレス』よりは守備力も効果も良いはず。


 これでデジレを討つ準備ができた。

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