17.魔王が大魔王に魔王討伐を勧めています(前編)
ヴァランタンも、フェルディナンも、本当はデジレの目的をわかっていて、口に出さないのだろう。
わたくしだって、『勇者と大魔王なのだから、勇者のレベルさえ上がれば殺し合いを始めるはずだと思われているのでは』なんて、とても言えなかった。
「もうデジレを討ったらどうだ?」
と言い出したのは、フェルディナンだった。
「私も迷惑だとは思っている」
ヴァランタンは煮え切らない返事をした。
ドラスの町は二度も焼き尽くされており、迷惑とかそんなレベルではなかった。
「みんなで直した壁や石畳が、あいつのせいで台無しになったんだぞ! 迷惑どころではない!」
フェルディナンがわたくしの気持ちを代弁してくれた。
ヴァランタンを責めるような口調を聞きつけた町の住民や魔物たちが集まってきていた。
「なにを騒いでいる?」
辺境伯がみんなを代表して訊いてきた。
町の住民や魔物たちが心配そうに、わたくしたちを見ていた。
「ここにドラゴンを差し向けてきた、傀儡の魔王デジレを討とうという話をしています」
わたくしは自分の決意をこめて説明した。
ダミアンがやる気に満ちたジャンプを繰り返し、エドガーに抱えられて人垣の向こうに連れていかれた。おそらく、エドガーは『最強の用心棒がいなくなると困る』などと言って、うまくダミアンを説得してここに残らせてくれるつもりなのだろう。
「私とフェルディナンで討ちに行こう」
「フェルディナン様には、ここを守るために来ていただいたのでは?」
ヴァランタンの表情が険しくなった。
わたくしでは、ここの守りを任せるにはまだ不安があるだろう。
「俺様以外に、ここの守りを任せられるような魔王などないだろう。デジレ自身が来たとしても、俺様ならばここにいる者たち全員を守り切れる」
フェルディナンのような町の住民や魔物たちを守れるスキルを持っていて、人にも弱い魔物にも友好的な態度で、デジレに倒されない強さのある者。
どれか一つ、あるいは二つ持っている者ならば、それなりにいるだろうが、どれか一つでも欠けてしまっては役に立たないだろう。
三つすべてを備えているフェルディナンは、とても貴重な存在だった。
「だいたい、シャンタル嬢なしでは、デジレを倒しに行かれなかっただろう」
フェルディナンは透明な壁で顔を打った時のことを思い出したようで、鼻のあたりを手で押さえた。
わたくしのスキルによる不思議な力で、デジレ討伐は勇者抜きでは阻まれてしまうのだ。
「シャンタル嬢といえば、ヴァランタン、貴様も人里にはまだ早かったようだな。犬が人の口をなめるのは信頼の証だろうが、人の姿では、してはいけないのだぞ!」
フェルディナンが誇らしげにヴァランタンに教えた。
わたくしは少し考えて、それが先ほどの触れるだけの口づけのことを指摘しているのだと気づいた。わたくしは顔が一気に熱くなるのを感じた。
「ご領主に教わったのか。フェルディナン、その調子でよく学ぶと良い」
ヴァランタンは顔色一つ変えずに、鷹揚にうなずいた。
最強の大魔王様は、心も強いみたいですわね……。
町の住民や魔物たちに見られていたとわかって、わたくしはかなり恥ずかしいのに……。
「なにか違ったのか? どういうことだ? おい、ヴァランタン――」
ヴァランタンを問い詰めようとしていたフェルディナンが、ヴァランタンと共に天を仰いだ。
わたくしや町の住民や魔物たちが、つられて上を見ると、簡素な旅装に身を包んだ男が、青い空からゆっくりと降りてきているところだった。




