16.闇属性の大魔王様と生まれながらの勇者(後編)
わたくしのレベルアップを告げるファンファーレが鳴り響いた。どうやらこの世界的には、先ほどのヴァランタンのセリフで、イベントムービーが終わったみたいな扱いのようだ。
レベルがかなり上がって、スキルポイントもたくさん付与された。
わたくしはヴァランタンに見守られながら、この場ですぐにスキルパネルを開けていった。
『靴磨き』
『常時靴磨き』
『メンテナンス』
『常時メンテナンス』
靴磨きってなんだろう……。どう綺麗になれるのかな? 常時ってなんなの……。
靴のメンテナンスなんて、パンプスのヒールの底に付いているゴムみたいなのが外れちゃった時に、新しいのを付けてもらったことしかないよ。常時メンテナンスされるって、どういうことなんだろう?
「おい、ヴァランタン。あのドラゴンはなぜ、突然この町を襲ってきたりしたのだ!?」
フェルディナンが呼びかけてきて、ヴァランタンは表情を引き締めた。
スキルパネルを開き終えたわたくしは、ヴァランタンに手をとられて立ち上がった。
「デジレが差し向けてきた。ラストラトの洞窟にエーヴがいてな。勇者パーティーを見て興奮しすぎて、口を滑らせていた」
「ああ、エーヴはなぁ……。そういうところあるよな……」
あれって勇者パーティーに興奮して、うっかり言っちゃっただけだったんだ……。元からああいう性格で、わざと挑発するために言っているのかと思っていたわ。
「ああ。勇者パーティーが来たと、ものすごい喜びようだったぞ。その気持ちはわかる。魔王となったからには、一度は勇者パーティーに訪ねてきてほしいものだからな」
「俺だって魔王だ。勇者パーティーに訪ねてきてもらいたかったのに、貴様が俺を呼び寄せて、もはや勇者の仲間みたいな扱いではないか!」
「そう文句ばかり言うな。ここの暮らしは楽しいだろう?」
「楽しいわけあるか! おい、デジレはなんでこの町をドラゴンに襲わせたのだ?」
フェルディナンは顔を真っ赤にして、話を変えた。
魔王って、勇者パーティーに訪ねてきてもらいたいものなんだ……。いつかは戦ってみたい強い奴みたいな感じ?
ヴァランタンもわたくしが強くなったら、いつか戦ってみたいと思っていたりするのかしら?
「エーヴは理由までは言っていなかった」
「俺様がヴァランタンについた……というか、配下にされたから、自分もエーヴを仲間に引き入れた上に、俺様を排除しに来たのか?」
「その可能性が高いな」
「俺様はデジレにどれだけ侮られているんだ……。この驚異の魔王フェルディナン様が、あんな普通の緑色のドラゴンにやられるわけないだろう……」
フェルディナンはひどくショックを受けていた。
たしかに、あのドラゴンはフェルディナンに傷一つ負わせていなかった。あのドラゴンでフェルディナンを排除することは無理だろう。
「お前が町の住民や魔物たちを庇いながら戦ったら、多少の戦力ダウンにはなるだろう。あのドラゴンでも魔王を倒せると思ったのだろうか……」
「せっかく町の住民や魔物たちがいても、ドラゴンでは人質をとったりはできませんわよね。ドラスの町にエーヴ、ラストラトの洞窟にドラゴンを配置するなら、まだわかりますわ」
「あいつはなにがしたいんだよ……」
わたくしたちは考え込んだ。デジレがやっていることの意味がわからない。
「私がシャンタル嬢を連れて町を離れているうちに、この町が襲われていた。私が仕組んで町を襲わせたと、シャンタル嬢に誤解されるようにしたかったのだろうか?」
「エーヴがうっかり黒幕を吐かなかったら、そんな風に思われるような状況だったのか?」
「そんなこと少しも思いもしませんわ。普通にデジレがやっていると思うだけですわ」
「だよなぁ……。そんな風に思わせたいなら、もっと他にも、なにかしら細工する必要があるだろうな」
わたくしたちはまた考え込んだ。デジレはなにがしたいのだろう。デジレにだって、なにかしら考えがあるはずだった。
わたくしはエーヴとドラゴンと戦うことで得たもののことを思った。
たくさんレベルが上がり、大量のスキルポイントを得て、スキルパネルを開けることができた。
わたくしは確実に強くなっていっていた。
わたくしはデジレが魔王として初めて、わたくしの前に現れた時のことを思った。
あの直前まで、わたくしとヴァランタンは会話していた。
『この私に、未覚醒のレベル一の勇者を殺させようとしているのは明らかだ! 勇者もこの私も愚弄している所業である!』
あの時、ヴァランタンはこう言って怒っていた。
魔王は勇者と戦うことが一つの目標であるようだった。
わたくしのレベルが上がっていけば、いつかはヴァランタンと互角の力を得ることもあるだろう。
わたくしが勇者として『最強の大魔王ヴァランタン』と戦うに足る力を得た時、ヴァランタンは大魔王としての本能から、わたくしと戦うかもしれない。
デジレはおそらく、わたくしとヴァランタンがいつか殺しあうと考えている。その死闘の末に、どちらも瀕死のところ、あるいは瀕死の一人が残ったところに現れて、二人とも楽に倒そうという考えなのだろう。
わたくしがずっと弱い勇者のままでいたら、そのような未来はなかっただろう。
わたくしはたしかに『冒険』などというものをしてはいけなかった。
あるいは、ゲームオーバーになるとわかっていても、ヴァランタンに閉じこめてもらわなければならなかった。
わたくしは勇者。
魔王を倒す定めにある者なのだから――。




