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靴の勇者令嬢~ハズレスキル『靴』を持つ侯爵令嬢は、勇者として魔王に嫁ぎ、最強の旦那様と共に真の悪を倒します~  作者: 赤林檎


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16.闇属性の大魔王様と生まれながらの勇者(前編)

 わたくしは転生する前から勇者をしていた。

 ブラック企業で働きに働いた末に、夜中に会社の階段で足を滑らせて、打ち所が悪くて死ぬ。――そんな女にだって、楽しみの一つくらいあった。

 それが勇者が主役のゲームをやることだった。


「シャンタル嬢、『はい』と答えてほしい」

 わたくしの答えは『いいえ』に決まっていた。

 わたくしはこの世界に生まれてくるより、ずっと前から知っていた。『はい』という答えの先にあるのは、ゲームオーバーだけなのだと。


「あなたが『はい』と答えてくれたら、私があなたの世界のすべてになろう」

 わたくしは、なんかちょっと知ってるのと違う、と思った。

 ゲームオーバーはゲームオーバーでも、それは別な意味でゲームオーバーだよね!?


「あなたを私だけの世界に閉じ込めて、誰にも傷つけさせぬ。我が城の一室を、あなたの世界のすべてにしようか」

 ヴァランタンのいつもは黒い目が、濃い紫色を帯びている。闇堕ち感がすごい。


「ごめんなさい、ヴァランタン様……」

 たしかに、わたくしも悪かったわ。

 過保護なヴァランタンだもの。わたくしが変身したベビーシューズの紐を結びあわせた時点で、わたくしをあのドラゴンの口に放り込む気なんてゼロだったよね。

 それをフェルディナンが本当にドラゴンに投げちゃって、わたくしが飲み込まれちゃって、ものすごいストレスだったと思うよ。


「私が『謝ってももう遅い』と言ったらどうする?」

 えええ、『もう遅い』まで言っちゃう!? そこまで怒ってるの!? いやいや、待って!? わたくし、そこまで悪いことした!?

 ダミアンを助けて、ドラゴンも倒して、ちゃんと出てきたじゃん!?


「靴の勇者よ、そなたは大魔王の愛一つを胸に、これから我が元で生きるのだ」

 えっ、怖ッ! めちゃくちゃ怖ッ!

 ヴァランタンこんな人……じゃなくて、魔族だった!? 違ったよね!?


「シャンタル嬢、ダミアンを回収して出てくると言ったではないか……。それをドラゴンを内側から切り裂いて倒すとは……」

 ヴァランタンが瞳を元の黒色に戻してくれた。

 大魔王様は瞳の色も自由自在ですか!?


「ドラゴンがなかなか吐き出してくれないし、いろいろやってたらなんだか倒せそうだったから……」

 ヴァランタンはわたくしの乱れた髪をそっと整えてくれた。その指の繊細な動きから、ヴァランタンがどれだけわたくしを大切に思ってくれているのかが伝わってくるようだった。


「いきなりドラゴンが暴れまわり始めた時には、ドラゴンを口から裂いて、あなたを助け出そうと思ったのだぞ」

 そんなことできるの!? いくらなんでも強すぎでしょ!?


 ヴァランタンの瞳の奥に、紫色の炎のようなものが揺らめいているのが見えた。わたくしはヴァランタンが本気でやるつもりだったのだとわかった。


 この大魔王様、暴れるドラゴンを捕まえて、口から裂けるんだ……。


「この私でさえ聞いたことのないスキルであっても、『靴』も勇者に与えられたスキルだ。魔王も倒せるだろう力を秘めているはずだ。デジレに操られるようなドラゴン如き、倒せぬはずがないことはわかる」

 ヴァランタンは『靴』のスキルを高く評価してくれているみたいだけど、それ以上に、ヴァランタンの怒りのゲージが高い……! 高いどころか、満タンじゃない……!?


「だがな、シャンタル嬢。前にも言ったが、たとえ勇者でも、人間は死んだらそこで終わりなのだ。永遠の別離が待っている。人間は魔族とは違って、灰の中から甦ったり、肉片からまた人型になったりできないのだ」

 ヴァランタンの瞳からは、紫色の炎が消えていた。

 そこには、ただ漆黒の闇だけがあった。


「王様の前とか、教会とかでも、生き返らないの? 復活の呪文とかはないの?」

「生き返らない。そのような便利な呪文もない。どこの世界の話をしているのだ……」

「ないんだ……」

 わたくしの知っている世界の勇者は、王様の前とか教会とかで生き返っていたんだけどなぁ……。レベルが上がると、仲間を蘇生させる呪文を使えるようになったり。死者を生き返らせてくれる葉っぱまであったわ。


「あなたが転生する前の世界では、気軽に死者を蘇生させられたのかもしれないが、この世界では違うことくらい知っているだろう。あなたもこの世界で、その年齢まで生きてきたのだから」

「それはそうですけれど……」

 侯爵令嬢だった頃とは、あまりにもいろいろなことが変わってしまっていた。勇者として嫁がされる前には、ステータス画面などというものが出てくることからしてなかった。


「あなたを失いたくないのだ……」

 あの炎の夜に出会ったヴァランタンは、わたくしを同情から娶ることにしてくれたはずだった。

 ヴァランタンはいつの間に、こんなにもわたくしを大切に思ってくれるようになっていたのだろう……。

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