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靴の勇者令嬢~ハズレスキル『靴』を持つ侯爵令嬢は、勇者として魔王に嫁ぎ、最強の旦那様と共に真の悪を倒します~  作者: 赤林檎


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15.靴はドラゴンを倒せるか(後編)

 わたくしはドラゴンの胃と思われる場所に落っこちた。すぐに『その他の履物』でローラースケートになり、胃液に浸かりながら、ドラゴンの動きにあわせて小さな車輪であちらへこちらへと移動した。


 大魔王の渾身の『つよつよ』が効いているおかげで、わたくしは胃液によるダメージを受けることもなければ、臭気にやられることもなかった。


 わたくしがダミアンを見つけた時、ダミアンは蓋をしっかり閉じた状態で魔法金属化していた。わたくしはなんとかダミアンの横まで移動していった。


 わたくしはまた『その他の履物』を使い、エーヴと戦った時に素材だけ使用した少し大きめな鉄下駄になった。さらに、大きさはそのままで、お風呂掃除用ブーツに『デザイン変更』をした。

 シリコン素材で軽いお風呂用ブーツは、胃の内側で転がって逆さまになり、わたくしが考えていた通り、ダミアンをすっぽり内側に納めた。

 わたくしはダミアンに覆いかぶさったまま、今度は『サイズ変更』を使って、ダミアンがお風呂用ブーツにぴったりはまり込む大きさまで、徐々に小さくなっていった。


 お風呂用ブーツでダミアンをがっちり捕まえると、わたくしはまた『デザイン変更』で超厚底ロングブーツに変身した。靴底が重たい超厚底ロングブーツは、ダミアンごと横倒しになった。


 わたくしは右足と左足の履き口が向かい合わせになった時、『デザイン変更』を使ってスケート靴になった。

 このスケート靴の底についている、ブレードだったか、エッジだったか、そんな名前の刃のような部分でドラゴンの胃を傷つけたら、ドラゴンもわたくしたちを吐き出すはずだった。


 わたくしはダミアンを保護したまま、胃の内側をあちらこちらへと滑っていった。胃の内壁に刃が当たることがあったが、ドラゴンの胃はこんな程度の刃では傷つかないらしく、特に吐き出される気配がない。


 ダミアンはフェルディナンの『かちんこちん』で魔法金属化しているけれど、わたくしにはヴァランタンの『つよつよ』が届いているのだろうか。わたくしはあれから一度も紫色に光っていないので、届いていない可能性が高い。


 わたくしはこのままでは、ダミアンより前に自分が消化されてしまうのではないかと心配になってきた。


 わたくしたちが吐き出されたら、ヴァランタンがドラゴンを倒すという段取りはわかっているけれど、このままではいつ吐き出してもらえるかわかったものではない。


 ……こんなところで死ぬわけにはいかないわ!


 わたくしは『サイズ変更』を選択した。サイズ欄に、以前はなかった『日本一の杉げた』サイズが追加されていた。どうやら変身したことがある靴などのサイズになれるようになっているみたいだわ。


『日本一の杉げた』サイズではいくらなんでも大きすぎるだろう。四メートルくらいあったはずですもの。

 しかし、他に選択肢はなかった。

 わたくしは『日本一の杉下駄』サイズを選択した。スケート靴がドラゴンの胃の内側でどんどん大きくなっていった。



「ウガアァーッ! グファアアーッ!」


 胃の内部にまで、ドラゴンの悲鳴が聞こえた。


 わたくしはスケート靴の素材をすべて鉄に変更した。

 鉄のスケート靴はどんどん大きくなり、巨大なスケート靴の刃が、ドラゴンの身体を切り裂いていった。


「グウゥゥオォォオオ――ッ!」


 断末魔の叫び声が聞こえて、ドラゴンの身体が大量の金貨に変わった。

 わたくしは人間の姿に戻り、魔法金属化の解けたダミアンを抱えて、金貨の山の頂上に座っていた。


「シャンタル嬢!」

 ヴァランタンが金貨の山を登って、わたくしの元にやって来た。さすがに金貨の山は足場が悪いのか、最強の大魔王様なのに、たまに転びそうになっていた。


「ヴァランタン様、すみません。わたくしがドラゴンを倒してしまいました」

 ヴァランタンはわたくしをダミアンごと抱きしめた。

 ダミアンが恐る恐るといった感じで、ゆっくりと蓋を開けた。


「ダミアン!」

 エドガーが呼ぶと、ダミアンはわたくしの腕から飛び出していった。エドガーがダミアンをキャッチして、しっかりと抱きしめた。


 ヴァランタンはわたくしを離すと、片手でわたくしの頬に触れた。

「シャンタル嬢、私はあなたの婚約者だ」

「はい……」

「口づけしても?」

 わたくしは返事の代わりに目を閉じた。

 ヴァランタンはわたくしの唇に、ほんの一瞬だけ触れて、すぐに離れた。


「耐えられぬ……」

 わたくしは目を開けて、ヴァランタンの苦悩に満ちた表情を見た。


「ヴァランタン様……」

「私は魔王の頂点に立つ大魔王。私は待っていた、あなたのような者が現れるのを……」

 ヴァランタンは今度は許可などとらずに、わたくしに触れるだけの口づけをした。


「もし、あなたが望んでくれるならば、私がデジレを討ってくる。世界のすべてをあなたに捧げてもよい」

 わたくしはまたヴァランタンに抱きしめられた。


 わたくしは転生前の遠い記憶を呼び覚まされていた。


「どうだ? 冒険などもうやめぬか?」


 わたくしは最強の大魔王ヴァランタンから、こんな様式美に満ちた問いかけをされるなんて思ってもみなかった。

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