13.最強の用心棒のダミアンさん(後編)
「あの……、ダミアンのような用心棒を借りたいというお話ですか?」
わたくしはこのままでは話が変な方向にいってしまうと思い、クロードに話しかけた。
「そうだ! 王都から旅してきた冒険者が、王都が妙な結界に包まれて、魔王が王宮をのっとったと話していた。俺がクエストを依頼するから、本当かどうか見てきてもらいたい。相応の報酬は出す。魔王絡みなら、並の冒険者では無理だろう。最強無双の用心棒のダミアンさんにお願いしたい」
ダミアンはかなり恥ずかしかったのか、エドガーのお腹にめり込みそうになっていた。エドガーはダミアンが褒められたのがよほどうれしかったのか、恍惚とした表情になっていた。
「最強無双……」
フェルディナンは心底嫌そうにダミアンを見た。
驚異の魔王フェルディナンにしてみたら、噛みつき宝箱程度の魔物が最強無双では納得がいかないのだろう。
「あんたもエドガーといろいろあるだろう。時間と距離をおくというのも、こういう時の一つの手だ。どうだろう、ちょっと王都に行って、どうなっているか見てきてくれないか?」
クロードはフェルディナンに言った。
「この孤高の俺様と、あの噛みつき宝箱狂いとの間に、なにがあると言うのだ!?」
「たしかにエドガーはダミアンにイカレちまってるが、その言い方はないだろ!」
フェルディナンとガストンはにらみ合った。
クロードはひどく驚いたような顔をして、エドガーが抱えているダミアンを見た。
「ダミアンさんというのは、あんたが抱えてるその木の宝箱か?」
「ああ、そうだ。ちょっと人見知りなところがあるみたいでね。どちたのー? んー? ご挨拶は?」
ダミアンはそっと蓋を開けて、クロードを見上げた。
クロードの顔がみるみるうちに赤く染まっていった。
「おい、これは儲かるぞ! なにをしているんだ、ドラスの町の商人ギルドのマスターよ! こいつらを金持ちの家の宝物庫に放り込め! 金だ! 金の匂いだ!」
「なにが金の匂いだ! 宝物庫に一人ぼっちで置けと言うのか!? かわいそうだろうが!」
クロードはエドガーの手からダミアンをひったくろうとした。エドガーはダミアンを離さず、クロードとエドガーはダミアンの取りあいになった。
「おいおい、人間ども、いい加減にしろ! 噛みつき宝箱は、本来はダンジョンや塔などに潜伏して、冒険者が開けたら襲いかかるタイプの魔物だ。群れたりしない」
フェルディナンが解説すると、エドガーはフェルディナンを睨みつけながら、激しくダミアンをなでなでした。
「こんなに甘えん坊なのに、そんなわけないだろう! 俺を見ると、飛び上がって抱かってくるんだぞ!」
「普通の人間が受け止めたりできるような魔物ではなかったはずなのだが……」
ヴァランタンが困惑してつぶやいた。
「貴様の人間好きが、配下にも伝播したのではないか!? 俺様もその噛みつき宝箱のように、軟弱になってしまうのか!? 冗談じゃない! なんとかしろ、ヴァランタン!」
ふと気づくと、フェルディナンの足元には、彼をトレーナーとして慕うスライムやガブリンゴ、他の弱い魔物たちが集まっていた。
魔物たちは心配そうに、うるうるした目でフェルディナンを見上げていた。
「おい、雑魚ども! ここはおかしな人間が来ている。危ないから、あっちに行っていよう」
フェルディナンは何匹かの魔物たちを抱えると、他の魔物たちを従えて、中央広場の隅に歩いていった。
わたくしたちはみんなで、フェルディナンと魔物たちを見送った。
「おい、あいつも魔物か!?」
クロードが指さした先には、『ミニオーク』というほとんどただの猪の魔物。ミニオークは煉瓦の積まれた荷車を引き、中年の女性たちに囲まれて歩いていった。魔物だと知らなければ、普通の猪が飼い慣らされて、荷車を引かされているようにしか見えなかった。
「ミニオークのことだろうか?」
「魔物なのか! ここはすごいぞ! 金の匂いがぷんぷんしてやがる!」
クロードは両手を広げて、天を仰いだ。
ミニオークと中年の女性たちが、足を止めてクロードを見て、誰からともなくまた歩き出した。
「どういうことだろうか?」
「さっきの凄腕の魔物使いを呼んできてくれ! 俺はここをレジャーランドにする! 魔物サーカスに、魔物カフェ、魔物ふれあい広場に、魔物騎乗場! グッズも売れる! お菓子の箱に魔物の顔でも描いてやれば、普通のお菓子の何倍もの金で売ることができるぞ!」
エドガーが片手を差し出した。クロードはエドガーの手を、そして、目を見て、その手を硬く握った。
「俺もここを人と魔物の共生の町にしたいと思っていた」
「このかわいい魔物たちは、町から一歩も出させない! ここにしかいない、かわいい魔物たちとの触れあい! ここを他にはない特別な場所にする!」
エドガーはダミアンを足元に下すと、クロードとがっちり抱き合った。二人はお互いの背中を叩きあい、見つめあってから、離れた。
「食堂はもう軌道に乗ったので、すでに部下に任せっぱなしでな。俺は新しい儲け話を探していたんだ。魔王と王宮の様子を見に行ってもらうのも、そのためだった。もう魔王も王宮もどうだっていい! エドガー、ここに我らの楽園を築こう!」
「ドラスの町の商人ギルドのマスターとして、クロード、あんたを歓迎する!」
「ありがとう! 俺の儲け話を求める旅は、ここで終わりのようだ」
わたくしはクロードの言葉を聞き、ヴァランタンのスキル『旅が終わったと気づかぬのか』のことを思い出した。
どうやら『旅が終わったと気づかぬのか』は、欲望にまみれた者を呼び寄せて、自分の配下にするスキルのようだった。
「よし、先行投資だ! 飯のことは任せろ! クロード食堂グループが、未来の楽園のスタッフを飢えさせない! 武芸の稽古などやめさせろ! ダンスやパレードや楽器をやらせるんだ! 魔物の出る危険な道のりを越えてでも、ここに来る価値があると思わせてやる! このクロードが、ここを奇跡の巡礼地に変える!」
わたくしは遠い目をした。
ラッキーチートで強化された『旅が終わったと気づかぬのか』の効果が凄すぎるわ……。
わたくしはドラスの町が、辺境領カエにありながら、『王都モンスターランド』みたいな名前の夢の国になりそうな予感に震えた。




