13.最強の用心棒のダミアンさん(前編)
その翌日、わたくしとヴァランタンはまたドラスの町の中央広場に行き、フェルディナンが人間の町に馴染めるか見ていた。
そこへ、一台の馬車がやって来た。
裕福な商人のものと一目でわかる、金で装飾がされた茶色の馬車だった。二頭引きであることからも、乗っている者の財力がそれなりであることが窺い知れた。
「ドラスの町の冒険者ギルドのマスター、ガストンさんはいるかね?」
馬車から降りてきた臙脂色の山高帽とスーツ姿の中年男は、あたりを見まわした。
ガストンは町の者たちに、木の鎧を使って、鎧の装備の仕方の指導をしていた。
「ガストンは俺だ」
ガストンは人の輪から離れて男の元に歩いていった。
「ツコシの町とカシマヤの町、ザカヤの町で食堂をやっているクロードだ」
男は山高帽を脱ぐことで、挨拶に代えた。
ガストンはクロードを上から下まで見た。
「おお、聞いたことがあるぜ! なかなかのやり手だそうだな!」
「ジフィルの町で商人ギルドのマスター、エドガーさんの質屋が強盗団に襲われたらしいな」
「ああ、強盗団なら全員捕まって、ジフィルの町の牢屋にいる」
「強盗団を一人で全員のした用心棒のダミアンさんに会いに来たんだが、ここにいるか? ジフィルの町の冒険者ギルドに行けばいいのか?」
ガストンは困った顔をして、ヴァランタンに助けを求めるような視線を送ってきた。
クロードはガストンの視線をたどり、その先にいた、精悍な美男の人間に見える大魔王に笑いかけた。
「あんたが最強の用心棒のダミアンさんか! さすがに強そうだ! エドガー質店の宝物庫で寝ずの番をしていて、一人で強盗団を叩きのめしたんだろう? 商人の間じゃあ、あんたはちょっとした有名人だ!」
クロードはヴァランタンの前まで歩いてくると、握手を求めて手を差し出した。
「おい、そいつはダミアンではない」
フェルディナンが話を聞きつけて、魔物たちのトレーニングを中断して歩いてきた。
クロードは今度は、フェルディナンに向かって手を差し出した。
「あんたがダミアンさんか! 目つきからして違うな! 強盗団を相手に無双した男の目だ。底知れない輝きがある」
フェルディナンの目に宿っている底知れない輝きは、困惑していることによって現れているのだろう。
エドガーが本物の『ダミアンさん』を抱えて、クロードに近づいていった。
「俺のダミアンがどうかしたか」
エドガーはダミアンが褒められているのがうれしいらしく、満面の笑みを浮かべていた。
ダミアンは褒められたのが恥ずかしいのか、蓋をしっかり閉めていた。
「俺の……?」
クロードはフェルディナンとエドガーを見比べた。
フェルディナンは威嚇するように眉根を寄せた。
エドガーは抱えたダミアンをなでなでしていた。
「俺のかわいいダミアンになにか用か」
エドガーはダミアンを抱え直し、ゆらゆらと揺すった。
ダミアンは人見知りでもするように、エドガーの腕の中でじっとしていた。
「かわいい……のか……?」
「かわいいだろう?」
エドガーは心から不思議そうに訊き返した。エドガーのダミアンに対する親ばか的ななにかは、とうに常人の域を越えてしまっていた。
「かわいいでちゅね」
エドガーは腕の中のダミアンに笑いかけた。
フェルディナンは『うわぁ……』みたいな顔をして、エドガーを見ていた。
クロードはそんな二人を交互に見た。
「個人の趣味に口出しはしないが……」
わたくしは困惑するクロードがなにを考えているのかを察した。
恥ずかし気にうつむいて『かわいい』と告げるエドガーと、そんなエドガーに戸惑う『最強の用心棒のダミアンさん』と思われているフェルディナンといったところだろう。
クロードには、エドガーがなぜか大事そうに抱えている小ぶりな木の宝箱こそ、『強盗団を相手に無双した、最強の用心棒のダミアンさん』だとはわからないだろう。
「まあ、その様子では、ダミアンさんを借りることはできないかもしれないが……。ジフィルの町かドラスの町の冒険者ギルドには、彼クラスの用心棒が他にも所属しているのかね?」
クロードはガストンに目を向けた。
「エドガーはもう……、ダミアンとは離れられないだろうからな……」
ガストンはエドガーの腕の中のダミアンを見た。ダミアンはエドガーに抱っこされて、おとなしくしていた。
みんながうつむいているように見えるのは、話の中心のダミアンが、エドガーのお腹のあたりで抱っこされているからだった。




