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リリャの魔法学園  作者: 夜て
黄金の翼
235/312

魔法の言葉

 放課後、ラウルが飛行場でトレーニングに励んでいると、マネージャーのメイニャから呼ばれた。なんでも、飛行部のコーチが来ているとのことだった。

 ラウルは急いで部室に向かった。


 部室の扉を開けると、そこにはケイン・ドットがいた。青い縦じまの模様が入った正装で身なりを整えては、椅子に長い足を組んで座り、手元には紙の資料に目を通していた。


「やあ、ラウルくん、久しぶりだね、とりあえず座り給え」


「お久しぶりです。はい、失礼します」


 ラウルがケインの前に用意されていた椅子に腰を下ろした。そして、彼の顔を改めて見ると、そこには熱心に資料に目を通しているケインの姿があった。

 鼻が高く彫の深い顔は東部出身者でよくみる顔だった。大人の色気を持ったおじさまで、動作のひとつひとつに染みこんだ大人の余裕が、子供にはまだない優雅な落ち着きを放っていた。

 そんな紳士みたいなケインなのだが、意外にも会って話すととても気さくで、彼に対して壁を感じたことは一度もなかった。それは彼の外見からはあまり想像できない明るさと親しみがそうさせていた。


「今は、ラウル君が部長なんだってね」


「そうです」


「大変でしょ?」


「まあ、それなりには」


「それなりね、うん、確かに部長はそれなりにやることが多いってクリスくんもぼやいてたね、ハッハッハッ」


 ケインの口元には笑みがあったが、目は常に手元の紙から視線を逸らすことがなかった。


「ところで、ラウルくん。単刀直入に聞くけど、相談したいことがあるんだってね、なんでも話してくれたまえ、私がどんな相談にでも乗ろう」


 心強い言葉に、ラウルは心置きなく、彼に抱えていた悩みを打ち明けることができた。

 五速がでないこと。

 飛行魔法の速度の上限を決める要因となるのがリングの数だった。

 ラウルはそれが四つで止まっており、五つ目が出ずに悩んでいた。

 そして、ゴールデンウィング杯で優勝するためには、五つ目のリングが必須なこともあり、ラウルは焦りを感じていた。

 五つ目のリング。それだけがいまラウルが考えるべきことだった。


「五速か、ラウルくん、まず一般的な認識なんだけれども、飛行魔法で五速が出せる魔法使いは、この大陸でも一割いるかいないかだ。いいかい?君の四速ですら、この大陸全体で三割ほどしかいないと思ってくれた方がいい、後はみんな三速が中央値であり限界というのが長年のデータから分かっていることだ」


「では、私に五速は出せないとケインコーチは言いたいのですね」


「いいや、違うよ。最初にいっただろ、これはあくまで傾向というものだ。さらに、学生の内で五速を出せるようになる人物となると、これこそ、本のごく一部でさらにその五速を維持して飛ぶ人間など数えられるほどしかいない。去年のゴールデンウィング杯を見ればわかるだろう。三十五人中、五速を最後まで維持できていたのは、五年生でいうとクリスくんとラーグストくんだけ、他は六年生の十人ほどだ」


 ケインコーチは紙の資料を目の前のテーブルに置く。


「そして、情報によると去年の優勝者であるラーグストくんは、今年のゴールデンウィング杯には出ず、クリスくんも同様だ。五速を維持できる選手はおらず、去年の六年生も卒業しいないということだ」


「だから、四速のままでいいと?」


「いいや、まだ私は結論をだしていない。それどころか、結論を出すのはいつだってわたしではなく選手である君たちさ、そうだろ?ラウルくん!」


 ケインがラウルに期待を寄せるようにウインクをかました。この見た目にそぐわないお茶目なおじさまはそれでも、彼の言う事だけは信用に値するに相応しいだけの知見があり情報通だった。


「君は今年のゴールデンウィング杯で優勝したいんだよね?」


「はい、今年か来年には必ず、そのために俺は…」


「うーん、ラウルくん、今のはダメだ」


「え?」


 ラウルは冷や水を掛けられたようにケインの顔を見た。


「来年はない」


「それはどういうことですか?」


 来年はないということが一体どういうことなのか?ケインがそこまで言うのだから何か理由があるはずだった。


「ラウルくんだけじゃない、ほかの可能性のあるヒルクくんや別の選手たちもそうだ。今年、優勝を狙うしかない。その後はもう、ゴールデンウィング杯のトロフィーは君たちの手に入らなくなると思った方がいいだろう」


 その発言の意味がラウルにはまったくといっていいほど分からなかった。それはレース自体が中止になることをさしているのだろうか?それとも、また、去年のように謎の強豪選手たちが現れて優勝をかっさらっていってしまうのだろうか?


「ケインコーチには何が見えているんですか?」


 たまらず質問をする。

 ケインは不安げなラウルの顔を見ると、気持ちを落ち着かせようと彼に言った。


「悪いね、不安にさせるつもりはなかったんだ。こんな予言めいたことを言っているが、あくまで私の集めたデータを基にした将来の予測でしかないから、信頼性は低いものだと思ってもらっていい、ただ、そうなる可能性が無いわけではないと言いたくてね」


 そこでケインが立ち上がると、部室の玄関扉まで行きそっと開けて、近くに誰もいないことを確認すると、再びラウルの前の椅子に戻って足を組んで座った。


「だが、ラウルくん、私は今年、君に優勝の可能性を一番に見出しているんだ」


「え、私にですか?」


 ケインは深く頷いた。


「君は、ある意味で唯一の対抗手段かもしれないポテンシャルを秘めているんだ。だから、どうか、自信を持って諦めずに今年のゴールデンウィング杯まで飛び続けて欲しい」


 もとからそのつもりだったが、ラウルは黙って耳を傾ける。


「私からラウルくんにアドバイスできることは、今のまま続けて欲しいそれだけだ。特別な訓練もいらない。今の適切な練習量を毎日欠かさず繰り返すだけでいい、それだけで君は今よりも強くなれる、それは間違いないよ」


 ケインからラウルへのアドバイスはそれ以上はなかった。

 その後、ラウルはケインに飛んでいることを見てもらった。

 飛び終わりケインの前に降り立ったラウルが彼の所感を尋ねた。


「どうでしたか?」


「素晴らしい綺麗な飛び方だ、カーブの曲がり方も直線の伸びも文句のつけようがない、完璧だ」


「本当ですか?」


「ああ、私は飛行の評価に関してだけは嘘をつかないと決めているからね」


 大絶賛の言葉をもらったラウルだったが、それが逆に不安で、何か少しでもアドバイスは無いかとケインに執拗に尋ねるラウルだったが。


「君ほど自分の飛び方を理解している子はなかなかいないよ、これは間違いないく私のこれまでしてきたアドバイス通りに練習を積んで来てくれた結果でもある。ありがたいよ。後はこのまま反復と継続を欠かさないことだ。とにかく、今の君はゴールデンウィング杯までその調子を保ち続けることだけだ」


「ですが、私は…」


 といいかけたところで、ケインは、ラウルに向かって人差し指を自分の口元に持っていき静かにという意思を伝えた。


「そこまでいうなら、一つだけ約束しましょう」


 ケインは夕暮れに染まり始めて来た飛行場を見渡すと、ラウルに振り返った。


「もしも、私の言いつけを守ってくれたのなら、ゴールデンウィング杯当日に最後の助言を与えましょう。それまでは、ラウルくんは、適切な練習量で決して無理をせず、私のメニューを続けてください。それができたら…」


 ケインのその時の目はこちらのすべてを見透かすようなそんな洞察力に満ちた瞳をうっすらと引いた笑みと共にこちらを見つめていた。


「私があなたに魔法の言葉を授けましょう」


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