公式大会 前編
『あの子の為に飛んでいる』
『他人のために飛んでいるのか?ふざけた理由だな』
『飛ぶ理由は人それぞれだろ』
『ではなぜ焦らない?お前はヒルクに負けたんだぞ?』
『逆に聞くが、焦ってどうする?俺は自分にできることを続けるだけだ、それに続けていれば勝てることも知っている、お前は続けるということの素晴らしさを知らないんだな』
『続けていたお前はこうして結局負けているのにか?おい、この事実をどう言い逃れをする気だ?言ってみろよ』
『最後に勝てばいい』
『なぜ最後に勝てると言い切れる?』
『俺は勝たなくちゃいけないから、そのために、俺は俺のできる今の最大限の努力をする』
『それでもお前が最後に勝つという保証なんてどこにもないことに変わりはない。勝ち方も見えていないやつが勝てるわけがない。いいか、お前は負けるんだ。決して勝てやしない』
『それを言ったら、俺が勝たないという保証も誰もしてはくれていないだろ?』
『都合の良いことだけを並べても結果は変らないぞ』
『未来を変えるために今できることをやるのが今の俺の役目なんだ』
『無駄だ、後悔するだけだぞ』
『後悔しないために今を生きているんだ』
自問自答を終え目を開ける。ラウルの眼前には広いグラウンドに飛行用の2500メートルのトラックが用意されており学生の飛行選手たちが、そのトラックを周回している姿があった。
魔法学園アジュガの飛行部は、今日、ウィング協会が主催する公式大会に参加していた。
部長のラウルは、他校の代表たちと共に今日の公式大会に関するミーティングに参加していた。参加校にはあのアスラ帝国魔法学園リベンの飛行部の姿もあった。
赤と黒を基調とした軍服のような制服は見ていてそれだけで威圧感があった。
ミーティングが終わり、ラウルは自分の学園の拠点に戻った。アジュガの本部であるテントの前で、飛行部たちを集め今大会のレースのルールを部員たちに伝える。参加校を伝えるとみんなはやはりアスラ帝国の魔法学園であるリベンが参加していることに対して、嫌悪感を抱いていた。
リベンはゴールデンウィング杯で顕著であったが、あまり真っ当とは言えない飛び方をすることで有名だった。しかし、それ以上にゴールデンウィング杯での優勝者の輩出も一位であり、その飛行能力はアスラ帝国の軍事力にも直結し、帝国を下支えしていた。要するに学生と言うよりはもはや彼らは軍人のようなもので、その心構えの違いが生徒たちを威圧してやまなかった。
リベンの話しを、みんなの前でしているちょうどその時だった。
大柄な男が、アジュガの飛行部のミーティングに堂々と乱入して来た。
その大柄な男は話しをしていたリベンの威圧的な赤と黒の制服を揺らし、周りをじろじろと見ながら入って来た。みんな彼の乱入に委縮してしまい、誰も彼と目を合わせようとしなかった。
「あの、今、私たちはミーティング中で、邪魔をしないでもらえますか?」
ラウルだけが彼を見据えることができた。
「ラウルか…フン、貴様などすでに俺の敵ではない。俺はあの頃の俺とは違う。いま、貴様に用はない。俺はお前をすでに超えたんだ!」
「あの何を言ているのかわからないんですが、用があるとかないとかではなく今は大事な部内のミーティング中でして……ん、あれ、ちょっと待って下さい、何で私の名前を?」
「貴様が俺を知らないのも無理はない、あの頃の俺は有象無象のひとりだった…」
その帝国の飛行部員の大男は、なぜかラウルのことを知っていた。ただ、ラウルからすれば、彼のような大男一度見れば知っていそうなはずなのだが、見覚えがまったくなかった。
「だが、今の俺は違う。勝利の女神を目にしたこの俺にはラウル、お前にだって勝てるんだよ」
「勝利の女神?」
「さあ、会わせてもらおうか、俺の勝利の女神リリャ・アルカンジュに!!!」
静まり返った。その大男はこの群衆の中かから彼女が姿を見せるのを待ちに待っていた。
しかし、いつまで経っても現れないこの現状に、彼も次第に眉をひそめ始めた。
「おい、リリャさんはどこだ?」
「リリャなら、ここにはいませんよ」
ラウルが大男に答えてやった。
「どういうことだ?まさか、飛ぶのをやめたのか…」
「そうじゃないです。ただ、彼女は我々飛行部とは別の場所で特訓中で、だからここにはいないんです」
「な、なんだと………」
大男は大きなショックを受けながら、先ほどの威勢など見る影もなく、肩を落とす。
「どうして、そんな、せっかく会えると思ったのに…」
沈んだ背中を見せ、皆の前から去ろうとしていた大男にラウルが声をかけた。
「彼女はゴールデンウィング杯に来ます」
大男が立ち止まる。
「俺は、彼女に言われました。次のゴールデンウィング杯で優勝するって、だからお互いに敵同士だと」
ラウルのその言葉が、彼の迫力を一瞬にして取り戻させた。
「なに?」
「彼女は常に私たちの想像を超えて来るような選手です。だから、あなたも彼女のことを知っているなら、覚悟しておいた方がいいですよ」
大男は、ラウルをまっすぐ見据えた。飛行部たちが彼の本性をむき出しにした恐ろしい相貌から伸びる視線から目を逸らしていく。
ラウルだけがその力強い視線に応えていた。
「良く聞け、これから言う俺の名前をラウル、あんたは忘れるな!」
それは宣戦布告のようなものだった。
「俺の名はボォードン・エンダー。今年のゴールデンウィング杯で優勝する帝国の飛行選手だ。かつてあんたに負けて一度レースの道を降りた俺が、もう一度ここに戻って来たのはリリャがいたからだ」
迫力ある宣言に、その場にいた者たちは震えあがっていた。
「俺は今日、あんたを克服する」
「ボォードンさん、覚えておきます」
ラウルはその乱暴ものにも丁寧に返した。
「今日は俺が勝つ、俺だけが勝つ、ラウル、俺と当たるなら覚悟しておけ!」
魔法学園アジュガの飛行選手たちを震え上がらせたボォードンは去っていった。




