引重
引中は懐石料理の焼き物を入れる器の事である。重箱のような形をしていて上にお新香、下に焼き物を入れる。でも、今回は味噌おでんを鍋で提供することにしたので引重は省かれることになった。
ので、小説を考えなきゃいけない。
まあ、そろそろ、向井編の解決をしないといけない。
「向井編の解決って、どうなるのでしょう?」
ナツメに聞かれて私は苦笑する。まさか、焼き物がなくなって時間稼ぎが出来て無いから思い浮かんで無いなんて言えないわ。
「うーんと、『幽霊作家』は秘密クラブで目覚めた文月のところで止まっているのよね。
で、向井はいなくなってるの。
向井は、ここで実在する、『悪霊』のモデルの『誰か』に会いにいってる設定なんだと思う。」
私は当時を思い出してそういった。
「あの、ここでそんな話、ネタバレしてもいいのでしょうか?」
ナツメは心配そうに私に言ってきた。
「まあ、あれから1年も経っちゃったし、まあ、いいわよ。」
それでその展開になるってわけでもないのが『悪霊』の恐ろしいところである。
「そうですか。では、ズバリ聞きますが、降霊会の誰のモデルに会いに行ったのでしょう?」
ナツメ、ズバリと聞いてくる。
「いや、なんていうか(//ー//)知らないんだ。」
ああ、それは本当。
「はあ?知らないって、どう言うことですの???」
ナツメ、叫ぶ。
「展開がこの一年で変化して、私もどの分岐の話につながるのか、まだ分からないのよ。」
情けないが仕方ない。
「なんですか、それ。でも、向井編を完結するって、決めていましたよね?」
ナツメの追求は探偵のように鋭くなる。
「うん。でも、それを本編で書くのは文月だし。ここでの向井の回答はある程度、書かれて置いてあったのよ。設定では。
で、秘密クラブで文月と話している間に『ある事』に気がついて向井は姿消すのよ。」
素直に現在の流れを話した。
「それ、『ある事』って、説明できます?」
ナツメの追求は厳しい。
「もちろん、それはないわ。」
私は正直に話した。
「抜け殻同然の文字の羅列を貴女もするのではありませんね?」
ナツメ、私の味方ではないのだろうか?厳しいな。
「だから、この話は文月が向井のシナリオを完成するところで終わるから、向井の向かった先の話はなくてもいいのよ。」
「そんな!!!」
ナツメ、そんなに知りたいのか?
「いいじゃない。それを追っかけると、文月編が書けなくなるんだもん。」
「UFOが登場するって話、ですよね?」
ナツメは少し嫌そうに私をみる。
「そうですよ。そして、そこからが、あっしの出番になるんですからね。懐石料理のメニューをちゃっちゃと書いて、早くバトンをタッチしてもらわないと。」
と、やってきたのはUFOの古本である。
「まあ、ひどい。アナタの出番なんて当分ありませんわ!この話はワタクシと卯月さんの女子トークで人気なのですから。」
と、頑張るナツメに「どのあたりに人気なんでしょう?」と自虐的に聞いてみたくなる。
「何を。すでに一汁三菜は作ったのだから、あとは、吸い物 八寸 湯で終わりじゃねぇですか。いつまでも卯月さんを独り占めはいけねぇな。」
UFOの本は喧嘩腰にいう。
「悪いね。少し、落ち着いてくれる?なんにしても、あと少しで『幽霊作家』を終わらせないといけないし、それに、」と、UFOの本を睨む。「それに、アンタ、UFOの記事なんて1950年代以降、なんの情報もないじゃない!1918年にナチスがUFOの研究なんて本当にしてたの???もう、それがクリヤーできなきゃ、話なんて作れないじゃない。」
私は叫んだ。そう、1918年にナチスのUFO研究をしたってUFOの本に書いてあったから、私はそこから話を盛ってみた。が、それに関する情報がネットを探しても出てこないのである。
「何、おっしゃってるのかね、姐さん、1933年のイタリアのUFO墜落事件をしらねぇんですか?」
と、UFOの本は自慢げに言った。
「はあ?アンタ、そんな内容、」
と、私の言葉をUFOの本は遮って続ける。
「ふっ、こんなもんは、現在、ネットで検索すれば簡単に出てきますぜ。
1933年ムッソリーニが墜落したUFOを回収したんですよ。回収チームのコードネームは『RS/33』」
「あ、アールエス スラッシュ 33…」
私は、いきなり登場するUFOの話に混乱した。『悪霊』を書かれたその時期に、そんな事件があったなんて!しかも、三国同盟のナチスの次にムッソリーニ、じゃあ、日本は???
「ちょっと!RS/33で検索しても補聴器とかトラクターの記事しか出てこないわよ!もう、帰ってよ。今は私の出番なんだから。」
ナツメがUFOの本を閉じてその上に座り込んだ。そして、私を見て、
「さあ、まずは向井編を考えましょう。もう、犯人はわかってるのでしょ?」
と、すごい形相で睨まれた。
「うん。祖父江進一が犯人なんだよ。犯人はね、わかってるんだ。でも、今回は経緯が分からないと話が進まないんだよね。」
私はそう言って苦笑した。




