椀盛4
本当に、気をしっかり持たないとこの話は何度でも違う結末に私を連れてゆこうとするのである。
「それにしても、この物語の犯人はいないと言ってましたよね?それで祖父江進一の物語が作れるのでしょうか?」
ナツメは不思議そうに私を見た。
「うん。基本、『悪霊』に完璧な結末なんて作れないと思うわ。ある意味、不可能殺人ってやつなの。」
「不可能殺人…最近、密室殺人の代わりに使われる用語でしたわね?」
「うん。でも、そういう意味ではなく、この話は完璧な1つの回答を導き出すことが出来ない、犯人が決定できない物語なのよ。
まず、作中作者が登場して、その作者が祖父江の手紙を加工して発表している手紙しか読者には提示されないってこと。」
私はため息をつく。私だったら、これを保険に好き勝手に物語を作って面倒になれば作者の次元で適当な終わりを考えると思う。
「そうですね。提示された資料の信用が不確かなら、物語は成立しませんもの。」
ナツメは少しがっかりしたようにため息をつく。
「うん。でもね、この話、何度も否定しようとするんだけれど、そうして、何度も読むたびに、何か、自分にしか分からない回答が見える気分になるの。
今だって、乱歩のブロマンスの話から、それなら横溝先生の小説に乱歩先生の考えたトリックのヒントがあるんじゃないかって、『本陣殺人事件』を本棚からひっぱり出して読みたくなるのよ(T-T)
でも、それはやっちゃいけないのよ。それすると、また、違う結末に連れてゆかれるんだもん。
本当に、この話ってゲームのシナリオみたいなんだわ。分岐をうまく踏まないとクリヤーできない。」
私はため息をつく。そう、考えてはいけない。『本陣殺人事件』を再び開いたりしたら、何を見つけてしまうのか分からない。
「ええ?じゃあ、あの物語には続きがあるんですのねっ!」
ナツメはなんか嬉しそうに叫んだ。
「いや、ないから。少なくても今の私は持ってないわ。」
私は素早く否定して急いで祖父江犯人説を考える。分岐を間違えたらいけない。すかさず話をする。
「そうなの、祖父江進一は怪しい行動をするのよ。彼は文化部なんだけど新聞社に勤めているの。だから、こんな面白そうな事件に9月に遭遇したら絶対、年末の新聞や雑誌の特集の為に口止めされているはずなのよ。それが大阪の友人に、手紙でネタを送るなんてすると思う?この辺りからこの手紙が怪しいと思ってしまうのよ。」
私は早口で話した。そう、祖父江進一は怪しいのである。降霊会の仲間の曽根子が死んで49日も経ってないのに殺人の話を面白おかしく友人に手紙で書いてみたり、会のメンバーと曽根子の遺体に精虫がいたかどうかなんて話したりするサイコパスな人物なのだ。みたいな説明を私はナツメにしていた。
「確かに、怪しいですわね。曽根子の死をそんな風に冷淡に話すなんて、その割には友人の岩井担にはまるで恋文のような書きよう…祖父江進一は同性愛者なのでしょうか?」
と真顔で私を見るナツメに、「そっちですか???」と叫びたくなるのをグッと抑えた。
「知らないわよ。そんなことは。それに、同性愛者でもなんでも、普通は知り合いが亡くなったら悼むものよ。それが生前、仲が良くない間柄でも。」
私はため息をつきながら、乱歩先生が本当に適当に書いていたのじゃないかと疑った。
「あら、それを言ったら、祖父江の話にのって来た熊浦だって酷いと思いますわ。そう考えると、なんだか乱歩先生の物語っぽくない気もしますわね。」
ナツメはそう言ってため息をつく。
「やめて、新しい分岐を増やすの。物語の作者が別人で、乱歩先生が名義貸ししていたとか、そんな物語まで追加したくはないわ。まずは祖父江進一の犯人説を考えましょう。」
私は話した。
そう、祖父江の手紙は、なんだか怪しげで違和感がある。
そして、こうしてナツメと話していると、なんだか素人作家の下手な小説だったのではないかという気持ちが込み上げてくる。でもっ。寄り道は十分したんだからもう、いいの。




