飯
私はナツメの話を大人しく聞いていた。彼女は言った。
「申し訳ありません。このお話は、昨年の物語の続きを書くために始めたのですから、まずは、先年、読者様が親しまれた物語をお聞きするべきだったのです。」
読者様が、親しまれた…
「う、うん。」
「そこで、『ミステリー大賞』のお話をお伺いしたいのです。」
ナツメはやる気満々で私を見る。
「あ、はあ。」
と、私は話し始める。
お伺いされるような、そんな話と言われると恥ずかしいのだけれど、ブックマークも貰ったのだから、親しまれた物語ってことで話をしよう。うん(//ー//)
そして、話した。この話は結構、昔から書いていること、去年、なんか克也の逆鱗に触れたみたいで出禁を食らったこと、ついでに、この話は克也の研究を世に知らしめて、なんか、普通ずじゃ調べられない、そんなところに行けるチケットをゲットすることを目標としていたけれど、そんな物はいらなかったことを話した。
「その、夢のチケットとは、どのようなもの、なのでしょう?」
と、ナツメに聞かれて悲しくなる。そんなものは私の想像なのだから。
「夢よ、夢。ほら、小説だし。でも、書籍化作家になったら、出版社と関係が出来るし、取材とか、そういうのが有利になるって思ったんだ。」
ああ、そうね。私にも、書籍化作家になる事をガチで信じていられた時期があったんだわ。恥ずかしい。
「まあ。確かに、書籍化しましたら、担当の編集者の方にお話をして、取材が可能になりますわね。」
と、マジレスするナツメが、辛い。
「まあ、そういうのは、難しいし、ああ、その前に作品を投稿しないといけないんだよね。だから、ここは空想の想定で話をしてるんだ。でも、昔、そんな素人特派員カードとかそういうのを特典にしていた雑誌とか番組があった、気がするんだよね。まあ、子供の頃の事だから、それがフィクションだったのか、現実だったのか、忘れてしまったけれど。」
と、私は子供の頃を懐かしんだ。当時、新聞記者とか特派員とかが子供の憧れの仕事だった。
「まあ。素敵ですね。それで、何か、不思議なお話?人類の滅亡とかのお話をするのですね?」
と、ナツメに聞かれて混乱する。
私も、本来、去年の話を完結させたかっただけだから、それほど、懐石料理について考えてはなかった。
なんか、適当に、向附とか、順番に並べて説明すればいいと思ってたんだ。
でも、結構、懐石料理って、深いよね。」
と、ため息が出てくる。ああ、日本人が時間を守るのって、なんだかわかる気がする。
利休、この人のこだわりってすごいと思う。
飯、1つにしても、こんなに手間と演出をしてるなんて思わなかった。
懐石料理の飯は、会の初めに、湯炊きした飯の、蒸れる直前の柔らかいところを3口ぐらい見せるところから始める。
これって、米の国に住んでいると、どれだけ大変かわかる。
多分、茶会が決まってから、米の選別、そして、炊く数時間前に洗米、浸水して、ザルで水切りをして、会が始まる、まさに直前に炊き上げるということを計算してやらなきゃいけない。
炊き立ての飯は、炊いてから30分ぐらいまでの状況を後から再現はできない。
だから、一発勝負で、その時間に全てを合わせて作らなきゃいけないのである。
利休という人は、『あなたがやってくるのを数時間前から考えてご用意しておりました。』と、これみよがし、ではなく、気持ちを込めて演出しているのである。
この炊き立てが出てくるのを知っていて、遅れてなんて来られようもない。
そして、そんなことになれば、他の客にも迷惑がかかるし、もてなす方も大変だけれど、遅刻した方だって、飯の状態で待たせたことが丸わかりだから、頑張るしかない。
ついでに、昔のことである。生魚を扱うのだって簡単ではないと思う。
これも、最低でも1日前に釣り上げた新鮮な鯛をその日に合わせて昆布締めにしないといけない。早くても、遅くても、刺身の状態がよろしくない。もう、料理というより雑技団のようである。
「そう、ですね。でも、それほど考えなくてもよろしいと思うますの。だって、卯月様はライトノベルを書いていらっしゃるのですし、近年では海外の方もお読みになられるとか伺いましたわ。
海外の方が、茶道の細かい約束事を守るのはとても難しいですし、何か、工夫をしないといけませんわ。ですから、卯月様も、好きに書かれたらよろしいのですわ。そして、茶を楽しんでください。そして、この世界を作り上げた利休と、数百年、それを守り続けた人達を思ってくださればよろしいと思うのです。」
ナツメの話を聞きながら、私はなんて答えるべきかを悩んだ。
なんだかワールドワイドな野望を見ているようだけれど、ナツメさん、私の作品は海外の人までは届いてないと思いますからっ。




