気楽に懐石
懐石料理…
平たくいうと、お茶をより楽しむために空腹を適度に満たして腹具合を調整して万全の体調でお茶を楽しむ、みたいな感じものらしい。
だから、腹一杯にはならない程度の量に調整されている。
懐石料理の元になったのが、利休の茶懐石をルーツに持つので茶道と関係があるらしかった。
利休…ああ、それで私、懐石料理の本なんて持っているんだ。
私は利休の物語も書こうとしてそのままにしている。はぁ。
まあ、それはともかく、懐石料理の本はとても綺麗でお話し好きのキャラのようだった。
私は早い段階で書籍化作家にはなれないだろうと思っていた。だから、せめて、自分の本棚の書籍を1つでも売りたいと思っていた。
古本屋に売りに行けばいいと思うかもしれないが、私の持っている本のほとんどが古本屋の100円コーナーの本。普通ならこの先はない本たちなのである。
フリマの時のように、私の売り口上でそれらの本に価値がついて誰かに待ってもらえたらいいなって、そんな夢を見たこともある。
あるけれど、まあ、世の中、そう簡単でもない。
誰でもWEBで小説家になれる現在、主人公の誰もが幸せを約束されるわけではない。
誰かが優勝したら、誰かが落選の涙を流す。それが現実なのである。
そして、書いて投稿すれば、誰もが人気のもになれるとは限らない。
シンデレラなみに頑張っても、皆んなにフェアリープリンセスがくるわけではないのだ。
それに気がついたら、自分と折り合いをつけて決断を迫られる。
この本も、いつか、再生紙として転生する未来が待っているのだろう。
「あまり、上品な表現ではありませんけれど、まあ、よろしいですわ。皆さんのお茶や懐石というものを知っていただければ、素晴らしい茶道の世界の入り口を作り出せますものね。」
と、本に話かけられて少しもの寂しい気持ちになる。
この本の前の持ち主は、きっと、お茶や茶道を愛していた人なんだろうと思う。
そして、令和の現在に古本屋にあるという事は、何がしかの人生の岐路があった、という事なんだろう。
持ち主が20世紀に手にしたその時から、現在までこうして大切に本棚に置かれていたものらしいから。
「………そうだね。たくさんの人に、とは、いかなくても、少しでも懐石料理に興味を持ってもらえるように頑張って描くよ。」
私は少し悲しくなりながらそう言った。いつか、あなたは私と共にこの世から去る日が来るけれど、あなたを愛してくれた初めの持ち主に誇れるように、素敵な作品を残しましょう。と、心の中でつぶやいた。
それから、未完になりませんように。と、芸術の神様に祈ることも忘れなかった。
「ええ。ですから、それほど気負わなくても良いのですわ。最近ではイングリッシュ・アフタヌーンティとやらが流行りのようですけれど、日本にも素晴らしいお茶の文化があるという事を発信するのです。」
使命感にもえる懐石の本の精を見ながら、そういえば、私は懐石料理の事は何も知らないなって思った。
「そうね。まあ、あの銀のスタンドはなんだか、少女心をキュンキュンさせるものね。」
「仕方ありもせんわ。あちらは女性を中心として始まりましたもの。でも、利休の侘び寂びの世界は、日本ブームの近年では負けないほどの注目度がありますのよ。」
「で、抹茶ラテなんて茶会に出されたら、それでもいいの?」
と、私は飲み物コーナーの抹茶ラテを見た。そして、ここがスーパーであることを再認識する。
小説を書くために色々とやっていて、外でこうして脳内会話も可能になってきていた。相変わらずAIとの会話はあまり上手ではないけれど。
「そうですね。海外の方にはお茶は少し苦く感じられるようですから…私の意見を言わせれもらえれば、これからの茶道も階層や多様性があっていいと思うのですわ。英国のハイティとアフタヌーンティのように。」
本の精は夢見るようにそう言った。
「ハイティ…って、上流階級の茶会のこと?」
と、私がスマホで検索すると、本の精はため息をついて肩を下ろした。
「逆ですわ。アフタヌーン・ティが上流階級の茶会で、ハイ・ティが庶民の茶会です。」
「そうか。なんか『上質』なんてつくと凄い感じにおもったのよ。まあ、それで、これからどうするの?」
私の質問に本の精は嬉しそうにくるりと回る。
「旬を探すのですわ。茶道にかかわらず、日本の文化には全て、季節という感覚が滲んできますから。そこから、貴女のオリジナルのもてなしの心を育てるのです。近年ではSNSで自動翻訳されて日本のネットで呟くと、世界中に発信されるようですから、懐石料理を投稿したいと考える方々もいると思うのです。
ですから、1番大切なのは『単語』です。言葉を知ればそこからなんでも検索で出来る世の中なのですもの。」
本の精の言葉を聞きながら、今回の作戦を思い出していた。
とりあえず、懐石料理の大まかな説明と、料理の種類については、ちゃんと説明する。後は、それを懐具合を考えながら、一品づつ夕飯のおかずとして作ってみる。それを作品にする。と、いうものだった。
「うん。じゃあ、スーパーを回ってみようか。」
私は本の精と買い物かごを手に魚コーナーへと向かう。
懐石料理の初めの一品は向附というらしい。




