前夜祭 イブ
2025年12月18日4時
私は居酒屋の前にいた。最近、忘年会は少なくなったというけれど、それでも12月は混んでいる。そして、山臥と飲むなら、早めに始めて早く切り上げたいという気持ちもあった。
これが運命というものだろうか?
2025年12月19日 3Iアトラスが地球に接近して人類が滅亡するとネットの動画が騒いでいる。
今日はその前夜である。
何だかんだと小説を書いていたけれど、忙しなく生活していると、あっという間にこの日になった。こうなると、恐怖や不安なんて感じないものである。
そんな事より、クリスマス、正月と色々と考える事がある。もう、滅亡予言なんて考えていられないのである。
クリスマスのチキンの予約とか、ケーキの受け取り時間の確認とか、もう、年の瀬なのである。
日本の年神様を迎える準備で海外の、マヤの神様の予言を考える時間なんてなかった。
とはいえ、小説を書いている手前、そこは年内に終わらせたい気持ちもある。ここに来て山臥と会うというのも運命めいた気持ちにもなった。
「何してるんだよ。早く入りなよ。」
山臥が店から出てきて声をかける。
「わかってるわよ。」
私は店に入った。今回は久しぶりのメンバーの忘年会である。と、言っても、みんなが来るとは限らなかった。
山臥の酒癖の悪さで女性は来ないだろうし、克也もクリスマスを過ごせって言ったっきり連絡はなかった。
こうなると、登場しない方が幸せなのかって気もしてくる。
居酒屋の奥の席で私達は注文を始めた。山臥は遠慮なくビールを頼んで飲み始めた。まあ、他のメンバーは来るかどうかがわからないからまあ、好きに飲み食いを始めるのが我々風でもあるのだけれど。
「そういえば、小説、どう?」
山臥が口火を切ってくれたので私は安心して話し始めた。
「頑張ってるわ。でも、気がついたら、明日。というか、あと数時間で人類が滅亡する日になってしまったわ。」
私は深くため息をついた。なんだろう?この大晦日に歌番組を見ている時のような感覚は。
「そうか。19日、明日だったね。で、小説は完結できたの?」
「できないわよ。もう。出来て居たら、こんな顔をしてないわよ。そして、今日は最終日にかけて少し頑張るから、アンタもみんなが来るまでスマホを見てもいいわよ。」
私はスマホを取り出した。全く、こうなると時間との戦いである。出来るだけ、なんかオチをつけたいところである。
明日からはクリスマスソングを聴きながらロマンスものを書くのだから。
「そうかい?でも、それじゃ、寂しいじゃないか。まあ、どうなったのか教えてくれよ。」
山臥はコミカルに聞く。
「そうね。望むところよ。この作品、アンタをモデルの登場人物が出てくるとPVが少し上がる気がするの。」
そう、なんだか知らないが、私の書いているミステリー考察は少しだけ読まれているようだった。
「そうか。それは良かった。君はその原稿料で牛丼でも食べてくれたまえ。」
山臥はウインクを投げてくる。が、アンタの登場ぐらいでは20円のチョコすら難しいのがこの世界なのである。
「ありがとう。まあ、何か軽いものを頼みましょうよ。私、遥香さんに連絡してみるよ。」
私がそういうと、山臥は漬物を頼んだ。
私はホットのウーロン茶を頼む。年末は運転者はソフトドリンクが1つサービスになる。
そして、私は今ままでの色々を話し始めた。
マヤ暦について調べたり、彗星の話をしたり。
「こいうの、不謹慎だと思うし、東北は地震の確率が高くなってるんだって。こんな時に書く話題でもないとも思うし、本当に明日何かあったら嫌だなって思いもあるんだけれど、今回はネットの人たちも言葉を選んで投稿しているわ。私も、自分の防災意識を上げながら、彗星と地震とデマについて書いておこうと思ったの。」
私は運ばれたウーロン茶を飲んだ。
「デマ?」
山臥の合いの手は的確である。
「そう、今回、なんで彗星の接近と地震が関連づいたのか、一つの可能性にたどり着いたわ。」
私は山臥を見て、一度、深呼吸をした。そして、彼にこう聞いた。
「エレニン彗星って知ってる?」と。




