隠者
克也の本当の理由なんてわからない。でも、ひっそりと研究して自己満足で完結するというのもなんだか寂しい気がした。そして、そこには限界もあると思っていた。
「私、ひっそりと自己満足で研究するとか、隠者の生活なんて嫌だわ。」
そう、私の父は自分の不幸な、そして、自称、壮絶な人生を世間に認められたがった。でも、どうにもならないまま死んでしまった。
「まあ、人それぞれだよ。注目を浴びるというもの、鬱陶しいものだからね。」
山臥は少し憂いながらも輝いていた。山臥の人生は父とは正反対の華やかなものなのだろうと思った。
「そうね。でも、例え隠者だとしても、どうしても見たい資料に手が届くためには有名になる必要もあると思うんだよね。」
私は自分の活動を思って渋い顔になる。図書館にも閲覧できない所蔵の本とか、神社仏閣なんかでも、一般公開が限られているものなど、いつも資料が手に入るとは限らない。そして、Webで小説書いてるくらいでは取材のオファーなんて小っ恥ずかしくてできるものでは無い。
でも、トップランカーになったら、選考に通過したら、少しは知名度が上がって、普通の人が見られないさまざまな資料を見る機会も増えると思うのだ。
「見たい資料?そんなものがあるの?」
「あるわよ。例えば、普通は刑務所なんかいけないじゃない?水族館の裏側とか。でも、小説家になったら取材とかでお願いも出来るんじゃないかと思って。」
「水族館?克也さんが??」
「いや、水族館はいいけれど、あの人、なんか神社とか調べているでしょ?そういう所って一般観覧が限られてるじゃない?」
私の言葉を山臥は肩をすくめて聞いていた。
「卯月さんは克也さんの研究の内容を知っているの?」
少し挑戦的に、それでいて揶揄うように私を見る。
「知らないわ。でも、なんか日本の歴史関係だと思う。あーあ。克也が何を考えようとプロットは変えないと。」
私はぼやいた。
「プロット?」
「うん。私、昔見たSFミステリーみたいなの書いてみたかったんだよ。ほら、昭和にドラマ化された『超科学ミステリー』みたいな話。」
私は懐かしい特撮ドラマを思い出していた。超常現象のような不思議な事件を科学の力で解決する人気ドラマだった。
「ああ『超ミス』懐かしいよね。ああ、そういうの、書きたいのか。頑張れよ。」
山臥は他人事のようにはげますが私はそのプロットを現在、捨てたばかりである。
「いや、書かないよ。我々の克也は隠者なんだから。引きこもって出てこないのよ。」
私はため息をつく。
「どんな内容で考えていたの?」
山臥は興味を持ったみたいに聞いた。
「別に…世界の不思議を、まあ、ほぼ、日本の話であるけれど、人気の動画配信者と不思議な反思を解明してゆくような話を作りたかったんだ。」
私はため息をつく。
「いいじゃない。書いたら。俺、読むからさ。」
山臥は軽口を叩く。そういって、私の話なんて読んだことはないんだから。
「ありがとう。でも、他の未完を先に書くのよ。克也の話もいい感じに終わらせないと。」
私は深くため息をつく。
克也の話は…私がトップには行けないだろうからベストエンドにはならないとは思っていた。でも、こんな終わり方だとは思わなかった。さて、どう結末をつけようか。
「終わりね。」
「うん。丁度、今なら派手なイベントもあるし。」
私は苦笑する。
「派手なイベント??」
「12月19日に3Iアトラスが地球に接近するんだって。で、人類滅亡ネタがまたネットを騒がせてるから、それでなんとか考えてみるわ。」
私は疲れたように言った。まあ、本当に疲れていたが。




