相手
ああ、何だこうなるんだろう?
頭を抱えながら、それ度も仕方ないとビールをうまそうに飲んでいる山臥を見つめる。
結局、オカルト話を学生時代から世話になっている駅前の喫茶店にいるのは辛くて居酒屋に逃げ込んだ。
ここなら学生もいないし、半個室である。
私の小説で稼げる金を考えると大赤字ではあるが、運転手をする代わりに飲み代は山臥が出すというのだからまあ、仕方ない。
こうして書き続けて完結したら、私は原稿料で飲み会を出来るくらいもらえるのだろうか?
この居酒屋が店じまいする前にそれが叶うとしたら、多分、早期入店、放題コース二時間3000円で行けると思うんだけれど、それでも原稿料で賄うのは無理そうだな。
「何を考えてるの?サイコロステーキ頼む?」
山臥は楽しそうにメニューを見せる。
「そうね。肉、食いたいわ。」
私はおしぼりで手を拭いた。最近は、居酒屋も運転手を確認してソフトドリンクを頼むのに抵抗がなくなったからその点はいいなって思う。ポットサービスでお湯を頼んでお茶と焼酎とかを頼むと安くていい。まあ、焼酎をボトルで頼まれたくはないから山臥と来る時は頼まない。
「じゃあ、シーザーサラダと一緒に頼もう。」
山臥は自分がお金を出すと決まった時は、注文奉行になる。そして、いい感じにつまみを頼んでゆく。
私はそれをぼんやりと見つめていた。
「相変わらず、あんたってマメだよね。」
私がしみじみしていると、山臥は嬉しそうに微笑む。
「生涯、モテ男でいたいからね。」
ウインクをしながら山臥はチャーミングに笑った。
「うん。きっとアンタは行けると思う。」
私はしみじみと言った。そして、自分は生きてるうちに小説を完結できるのか心配になってくる。
「どうしたの?」
山臥は心配そうにきく。こういう時、本当に心配そうに聞いてくるところにモテ男の小技を感じる。
「別に。小説を完結させようと思って。そして、私の克也の今後を考えないといけないなって思ったの。」
私はため息をついた。
私は複数の未完を抱えてるけれど、中でも克也をモデルにした話は、本人もいいと言って書いていたもので、意外なことに割と読まれていた。
そして、私はそのうち、SFミステリーものとして公募に貂蟬しようと考えていた。
「克也さんの話ね。まあ、気にしなくていいんじゃないかな?一応、仮名でしょ?本人も文句を言ったりしないと思うよ。」
山臥は気軽にいう。
「まあね。そうだとは思うけれど。でも、私も考えてた克也像と違っていて少し考えるんだよね。」
運ばれてきた炭酸を飲んだ。昔は、炭酸だけを頼むと変な目で見られるか、酒を入れてるんじゃないかと疑われたけれど、炭酸水も現代では飲み物として承認されたなって思いながら。
「何だい?その克也像って。」
「なんていうか、克也さんって、意外とオカルト研究家なところがあって、図書館で調べ物をしているらしいのよ。で、私、それをどこかで発表したいんだって思っていたの。」
そい言いながら、誰かに認められたがった父を思い出していた。父のイメージがそんなことを考えさせたのかもしれない。
「そんなこと、前にも言っていたね?って、実は克也さんが好きなだけじゃないの?」
山臥のからかいを聞きながら、このノリを年老いても持っている山臥に興味を持った。何でも恋愛に関連づける、その会話の構成。忘れていた。と、咄嗟にメモする。
「好き、というなら、Mr.ミステリーの関口さんの方かな。私、白状すると、これで人気になって関口さんのミステリーライブに執筆で貯めたお金で行こうと思ったの。克也を連れて。沢山のミステリーファンから貰った小銭でライブに行けたら、関口さんと話が出来るかもしれないとか思ったんだよね。」
私は自分に酔うように言った。
「それなら、小説より動画サイトで頑張った方がいいんじゃないかな?俺のスマホにも検索かけけると出てくるし。」
山臥はスマホを取り出す。私より使いこなしてそうなのが少し腹立たしい。
「小説ですら大変なのに動画なんて無理だから。いいのよ。どちらにしても、もう、その野望はついえたのよ。克也は本物の隠者なんだもん。ただ、自分の知識欲のために研究に没頭できる人なのよ。キャベンディッシュのの様な…」
「キャベンディシュ…ああ、ヘンリー・キャベンディシュか。でも、彼は女性嫌いだったはずだよ?」
山臥はいい冗談でも言ったみたいに肩をすくめた。
「すごいわね。さすが大学出。キャベンディッシュで漫画のキャラとか聞いてこないもん。」
私は尊敬の眼差しで山臥を見た。
ヘンリー・キャベンディシュは、18世紀の富豪で科学者である。彼はすごい発見をしまくっていたがそれを公表などはしなかった。
「ふふ。そんなことはないよ。卯月さんだって、時々、俺でも知らない人物や物事を話すじゃないか。」
山臥は穏やかに笑う。この顔を見ながら、こういう奴だから多少の悪酔いでも付き合ってしまうんだと肩をすくめる。正直、こんな話、他の誰もついてきてはくれないのだ。
「そうだね。アンタはいい友人だよ。まあ、酒飲んで。」
私は山臥に酒を勧めながら、ホストに依存をする人の気持ちを空想した。普通と違うところに興味があると話が合う人間を見つけるのは金鉱探しのように難しいのである。
山臥はビールを飲み干して、赤ワインを頼む。そして、この店の人気メニューの高原チーズの盛り合わせを注文した。




