54話 魔道遊戯館 ☆
闘技訓練館を後にした俺達は、最後の施設へ向かっていた。
目的地は――魔道遊戯館。
娯楽施設。
魔導カード。
ダーツ。
スロット。
パチンコ。
コインゲーム。
闘技ゲーム。
説明だけ見ると完全に遊び場だった。
『……わくわくするな』
施設巡りの中で一番楽しみにしていた。
食料。
生産。
知識。
戦力。
どれも重要だ。
だが。
人は遊びが無いと疲れる。
俺だって毎日仕事だけしていたら嫌になる。
領民も同じだろう。
『娯楽も領地運営の一部って事か』
魔王ストリートにも娯楽施設は存在した。
ただし。
あっちは完全にミニゲーム扱いだった。
カードゲーム。
闘技ゲーム。
コインゲーム。
遊べば少量のアイテムや魔晶石が手に入る。
そんなオマケ要素だ。
だが。
この世界では違う。
領民が実際に利用する。
息抜きをする。
交流する。
つまり。
ちゃんとした娯楽施設である。
『領民人気も上がりそうだな』
スーパー銭湯。
レストラン。
そして娯楽。
衣食住だけじゃなく楽しみも必要。
案外重要施設かもしれない。
そんな事を考えながら歩いていると。
やたら派手な建物が見えてきた。
『うわ』
思わず声が漏れる。
眩しい。
とにかく眩しい。
建物全体が魔導灯で照らされていた。
赤。
青。
紫。
金。
様々な光が点滅している。
入口上部には巨大な看板。
魔法陣がキラキラ回転している。
ゲームセンター。
カジノ。
アミューズメント施設。
その全部を混ぜたような見た目だった。
『怪しい店じゃん……』
「きれいです!」
リリンが目を輝かせる。
あっ…
パチンコ屋とかカジノとか知らないと
そういう感想になるのか。
ピュアだな、可愛い!
やはりリリンは癒しだ。
「おぉ〜♡」
モエは既にテンションが上がっていた。
「楽しそう〜♡」
ゼフィーは少し苦笑している。
「随分と賑やかですわね」
『だな』
どう見ても健全な図書館の対極だった。
巨大な扉が開く。
中へ入る。
そして。
『広っ』
またそれだった。
施設が全部デカい。
中は巨大なホールになっていた。
高い天井。
煌びやかなシャンデリア。
壁際には魔導ランプ。
床には光る魔法陣模様。
あちこちから音が聞こえる。
ジャラジャラ。
ピコン。
ガコン。
ドドン。
パァァァン。
『うるさっ!?』
思わず耳を伏せた。
賑やかだった。
とにかく賑やかだった。
完全に遊技場だった。
魔導カードで遊ぶテーブル。
ダーツ台。
スロット。
パチンコ。
コインゲーム。
闘技ゲーム。
さらには奥に酒場らしきカウンターまである。
『ラウンダーワンかよ』
いや。
カジノ付き。
酒場付き。
なんでもありだった。
リリンは早速カードコーナーへ走っていく。
「まおーさま!」
「かわいいです!」
見ればカードには様々な魔物が描かれていた。
スライム。
ゴブリン。
コボルト。
ドラゴン。
フェアリー。
ユニコーン。
イラスト付きで、かなり出来がいい。
リリンはスライムカードを手に取る。
「グミちゃんみたいです!」
『確かに』
丸くてぷるぷるしたスライム。
少しグミに似ている。
カードの下には攻撃力や防御力らしき数字も書かれていた。
どうやら対戦ゲームらしい。
『魔界にもカードゲームあるのか』
「たのしそうです!」
リリンは目を輝かせていた。
完全に遊ぶというより、集める側の顔だった。
一方モエは――。
「これやる〜♡」
スロットだった。
モエはレバーを引く。
ガコン。
ガコン。
ガコン。
絵柄が回る。
そして。
揃わない。
「むぅ〜♡」
もう一回。
ガコン。
ガコン。
ガコン。
揃わない。
「絶対イカサマ〜♡」
『二回で判断するな』
三回目。
ガコン。
ガコン。
ガコン。
キュピーン♪
突然派手な音が鳴った。
「おぉ!?」
モエが飛び上がる。
ジャラジャラジャラッ!
大量のコインが払い出された。
「出た〜♡」
「勝った〜♡」
『運がいいな』
モエは大喜びである。
その隣では、コインゲームが稼働していた。
巨大な台の中で、金色のコインが山のように積まれている。
奥から押し出し板がゆっくり動き。
コインが少しずつ前へ押される。
時々、球が転がり。
光る穴へ落ちると、派手な演出が発生する。
『完全にメダルゲームだな』
魔界なのに。
懐かしい。
妙に懐かしい。
もう魔王領だけ別世界になってるな……
リリンがコインの山を見て目を丸くする。
「おかねがいっぱいです……!」
『たぶん持ち帰れないぞ』
「そうなんですか……?」
少し残念そうだった。
分かりやすい。
その時。
近くの案内板が目に入った。
────────────────
魔導コインについて
館外への持ち出し不可
専用口座へ預け入れ可能
再来館時に引き出し可能
────────────────
『おっ』
『ちゃんと預けられるのか』
勝ったコインは施設へ預ける。
そして。
次回来た時に引き出して使う。
完全にメダルゲームだった。
「よかったです!」
リリンが嬉しそうに言う。
「なくならないんですね!」
『そういう事だな』
もし毎回、回収だったら。
誰も本気で遊ばない。
コツコツ貯める楽しみもある。
その辺はちゃんと考えられているらしい。
『やっぱりメダルゲームだなこれ』
巨大なコイン落とし。
ルーレット。
コインスロット。
どれも見覚えがある。
違うのは魔法で動いている事くらいだった。
「いっぱいためたいです!」
コインの山を見て目を輝かせている姿は。
どう見ても子供だった。
可愛いので黙っておく。
その横では。
モエが既にコインを投入していた。
『早いな』
「こういうのは勢いだよ♡」
いつの間にスロットから移動したんだ……
ガシャッ。
ジャラジャラジャラ。
大量のコインが流れ落ちる。
「おぉ〜♡」
モエのテンションがさらに上がった。
どうやら。
魔道遊戯館は領民だけでなく。
俺達も普通に楽しめそうだった。
さらに奥へ進むと、パチンコらしき台も並んでいた。
縦長の魔導盤。
中を魔力玉が弾かれながら落ちていく。
釘の代わりに小さな魔法陣が浮いていて、玉が触れるたびに軌道が変わる。
チカチカ。
ピカピカ。
音も光もやたら派手だった。
『パチンコまであるのかよ』
もう何でもアリだ。
ゼフィーはダーツ台の前に立っていた。
シュッ。
カンッ。
中心。
『上手いな』
「嗜み程度ですわ」
シュッ。
カンッ。
また中心。
シュッ。
カンッ。
また中心。
『絶対嗜みじゃない』
モエも呆れている。
「ゼフィー姉、何でもできるじゃん♡」
ゼフィーは涼しい顔だった。
その奥には闘技ゲームエリアがあった。
巨大な魔導スクリーン。
並ぶ専用筐体。
操作盤。
赤と青のボタン。
握りやすそうなレバー。
どう見ても対戦ゲームだった。
画面の中では、剣士と悪魔が戦っている。
ドガッ!
バゴォン!
派手なエフェクト。
魔法。
剣撃。
必殺技。
『格ゲーじゃん』
俺は思わず呟いた。
魔界版格闘ゲーム。
しかもキャラがやたら多い。
スライム。
ゴブリン。
リザードマン。
オーク。
悪魔。
ドラゴン。
魔王。
『魔王もいるのかよ』
嫌な予感がして、魔王キャラ一覧を見る。
断角王ガルンディアスはいなかった。
『よかった……』
いたら嫌すぎる。
俺は試しにスライムを選んだ。
相手はゴブリン。
開始。
ぷるん。
べちっ。
ぷるん。
べちっ。
スライムが体当たりする。
『地味だな』
だが、これはこれで可愛い。
リリンが後ろから覗き込む。
「グミちゃん、がんばってます!」
『これグミじゃないぞ』
「でもかわいいです!」
それはそう。
その時だった。
ウィーン……。
小さな駆動音が聞こえた。
『ん?』
振り返る。
そこには奇妙な機械がいた。
白い胴体。
複数の配膳棚。
丸い顔。
そして猫耳のような飾り。
顔の部分は黒い画面になっていて、青い光で表情が表示されている。
(^・ω・^)
みたいな顔だった。
『猫型配膳ロボ!?』
なぜある……
リリンが即座に反応した。
「かわいいです!」
機械はこちらへ近付いてくる。
棚には酒瓶。
小皿。
つまみ。
揚げ物。
燻製肉。
ナッツのようなもの。
色々乗っていた。
ピコン♪
画面に文字が出る。
────────────────
本日のおすすめ
魔界麦酒
ドラゴンジャーキー
激辛魔椒ナッツ
果実酒
────────────────
『居酒屋の店員じゃねぇか』
完全に配膳ロボだった。
モエが笑いながら覗き込む。
「かわい〜♡」
「これ撫でてもいいのかな♡」
モエが軽く頭を撫でる。
すると画面の表情が変わった。
(^ω^)
『無駄に高性能だな』
リリンは目を輝かせる。
「まおーさま!」
『ん?』
「ミケちゃんです!」
『今決めたのか?』
「ミケちゃんです!」
決定だった。
もはや反論の余地はなかった。
魔導配膳機はそのまま静かに移動していく。
酒場エリア。
カードテーブル。
コインゲームコーナー。
ダーツ台。
各所へ酒やつまみを運んでいるようだった。
『便利だな』
人手不足でも店を回せる。
レストランにもあったら便利そうだ。
いや、もしかしたら既にあるのかもしれない。
俺が知らないだけで。
奥の酒場エリアでは、カウンターに酒瓶が並んでいた。
赤い液体。
青い液体。
黒い液体。
光っている酒まである。
「大人の遊び場ですわね」
ゼフィーが微笑む。
肉料理。
燻製。
揚げ物。
酒に合いそうな料理も多い。
ダーツを投げる。
カードで遊ぶ。
コインゲームをする。
酒を飲む。
つまみを食べる。
『居酒屋とゲーセンとカジノが合体してるな』
妙に完成度が高い。
というか。
高すぎる。
正直。
かなり楽しい。
俺だって時間があれば入り浸りたい。
そんな場所だった。
だが。
だからこそ思う。
『これ危なくないか?』
モエが首を傾げる。
「なにが〜?♡」
『楽しすぎる』
「それは良い事じゃん♡」
『良すぎるんだよ』
俺は館内を見回した。
酒。
ゲーム。
飯。
全部ある。
しかも快適。
これ。
働かなくても遊べるなら。
絶対にダメになる奴が出る。
仕事終わりに来る。
↓
楽しい。
↓
毎日来る。
↓
そのうち仕事より遊び優先。
そんな未来が見えた。
リリンが首を傾げる。
「だめなんですか?」
『ほどほどなら良い』
『でも毎日遊んでばかりは困る』
領地運営。
農業。
建築。
警備。
誰かがやらなければならない。
全員が遊び始めたら終わりである。
『やっぱ有料だな』
モエが笑う。
「お金取るの〜?♡」
『当たり前だろ』
遊ぶには働く。
働いた報酬で遊ぶ。
その方が健全だ。
『給料みたいな制度も必要かもな』
今までは眷属だから何とかなっていた。
だが。
領民が増えるなら話は別だ。
不満がたまれば裏切りや暴動などが起きるかもしれない。
働く。
報酬を貰う。
生活する。
遊ぶ。
経済が回る。
その方が自然だった。
ゼフィーも頷く。
「良い考えだと思いますわ」
「価値の無いものは大切にされませんもの」
『だよな』
無料だと。
どうしても雑になる。
だが。
苦労して手に入れた金なら。
遊びも特別になる。
『領地通貨とか作るのも面白そうだな』
そんな事まで考えてしまう。
本当に。
領地経営ゲームみたいだった。
その時。
カタカタカタ。
ミケちゃんが酒と燻製肉を運びながら横を通り過ぎた。
「ミケちゃんです!」
リリンが即座に反応する。
もう完全に気に入っていた。
『そうだな』
「ミケちゃんです!」
二回言った。
大事な事らしい。
俺は少し笑う。
そして改めて館内を見回した。
酒。
料理。
ゲーム。
楽しそうな笑い声。
『……』
ここは。
いくらでも遊んでいられる。
一度入ったら出られなくなりそうだ。
だからこそ。
ちゃんと管理しなければならない。
楽しい場所ほど。
ルールが必要なのかもしれなかった。
その時。
ピコン♪
スマホが反応した。
────────────────
【魔道遊戯館】
領民満足度上昇
ストレス軽減
士気上昇
交流促進
────────────────
『なるほど』
この施設の役割はそこか。
遊び。
娯楽。
息抜き。
交流。
それらによって領民人気を上げる施設らしい。
食事だけでは足りない。
風呂だけでも足りない。
人は楽しみが必要なのだ。
『結構重要だな』
領民が増えれば増えるほど、価値が出る施設かもしれない。
ゴブリン達も。
一日中働くだけでは疲れる。
訓練だけでも疲れる。
休息も必要だ。
楽しみも必要だ。
リリンの笑い声。
モエの歓声。
ゼフィーの微笑み。
そしてミケちゃんの電子音。
それを聞きながら俺は思う。
領地とは、戦うだけの場所ではない。
暮らす場所だ。
だからこそ。
こういう施設も必要なのだろう。
やはりルールが必要だ。
どんなルールを作るべきか考えないとな。
そんな事を考えながら。
俺はさらに館内の奥へ視線を向ける。
館内の一番奥。
そこに。
ひときわ目立つ空間があった。
赤い絨毯。
金色の柵。
豪華な照明。
中央には巨大な円卓。
『あれは……』
ルーレットだった。
無人。
ディーラーはいない。
だが。
卓上にはタブレット。
賭け金入力画面。
数字。
倍率。
全て表示されている。
『自動式か』
どうやらタブレットで賭け金を設定すると。
ルーレット中央から玉が射出される仕組みらしい。
完全無人運営。
妙に未来的だった。
『なるほどな』
『これは面白そうだ』
そう思った瞬間だった。
奥から声が聞こえた。
「よぉぉぉし!!」
「そこだぁぁぁ!!」
『……ん?』
聞き覚えのある声だった。
やたら大きい。
やたら楽しそう。
そして。
妙に酔っている。
俺達は顔を見合わせた。
ゆっくりとルーレットコーナーへ近付く。
すると――。
そこにいた。
黒銀の長髪。
漆黒のマント。
折れた角。
赤金の瞳。
そして。
酒瓶。
『……』
『なんでいるんだよ』
『見なかった事にできないかな』
断角王ガルンディアス。
異世界の魔王。
かつて俺を混沌神と勘違いして殴りかかってきた張本人。
その魔王が。
顔を真っ赤にしながら。
ルーレットに全力で熱狂していた。
「赤だぁぁぁぁ!!」
「赤に入れえぇぇ!!」
『酔っ払いじゃねぇか……』
ギャップがヤバい……
本当に先日の魔王と同一人物か……?
運営に喧嘩を売っていた魔王とは思えない。
『……帰るか』




