52話 禁書庫
『気になるな』
俺は禁書庫の扉を見つめていた。
図書館の一番奥。
巨大な鉄扉。
分厚い鎖。
青白く光る魔法陣。
そして。
【禁書庫】
という文字。
どう見ても怪しい。
怪しさしかない。
隠し部屋。
封印された扉。
禁書庫。
そういう場所には大体ロクでもない物がある。
そして。
大体重要な情報もある。
俺は近付いてみる。
すると。
扉に刻まれた魔法陣が淡く光った。
ゴォォォ……
低い音が響く。
リリンが俺の後ろへ隠れた。
「ま、まおーさま……」
モエは逆に興味津々だった。
「開くの〜?♡」
ゼフィーは少し警戒している。
「お気を付けくださいまし」
『だな』
俺は慎重に前へ出る。
すると。
ピコン♪
スマホが反応した。
『ん?』
画面を見る。
────────────────
【禁書庫】
閲覧権限不足
現在権限:魔王領主Lv1
推奨権限:魔王領主Lv3
────────────────
『あっ』
駄目だった。
入れない。
ゲームだった。
完全にゲームだった。
『権限不足ってなんだよ』
さらに画面が切り替わる。
────────────────
禁書庫の利用条件
・領民人気70%
・領地ランク3
・図書館利用実績
────────────────
『なるほど』
つまり。
領地を発展させろという事らしい。
簡単には見せてくれないらしい。
俺は少し残念だった。
帰還方法。
混沌神。
魔王。
そういう情報がありそうだったからだ。
『まあ仕方ないか』
今は入れない。
だが。
条件は表示された。
つまり。
いずれ入れる。
その時だった。
モエが案内板を指差した。
「スケベちゃん♡」
『ん?』
「こっち見て〜♡」
そこには小さな説明文が書かれていた。
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禁書指定資料
・古代魔王史
・異界召喚記録
・神話級魔導書
・世界外観測記録
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『……』
俺は固まった。
異界召喚記録。
世界外観測記録。
思いっきり俺案件だった。
『見たい』
めちゃくちゃ見たい。
『絶対見る』
新たな目標ができた。
領地発展。
領民人気。
図書館利用。
全部上げる。
そして禁書庫へ入る。
俺が勝手に決意していると。
リリンが袖を引っ張った。
「まおーさま」
『ん?』
「こっちにもへんなほんがあります」
『変な本?』
案内された先を見る。
そこには一冊だけ。
妙に分厚い本が置かれていた。
表紙にはこう書かれている。
【はじめての領地経営】
『……』
『今の俺に必要なやつだ』
思わず手を伸ばしていた。
分厚い本だった。
辞書みたいに分厚い。
鈍器としても使えそうである。
『領地経営ってそんなに覚える事あるのか?』
少し嫌な予感がした。
だが。
今の俺は領主だ。
城がある。
領民がいる。
税金みたいな魔素徴収も始まった。
避けては通れない。
俺は近くの机へ飛び乗った。
リリン。
モエ。
ゼフィーも集まる。
図書館は静かだった。
高い天井。
並ぶ本棚。
窓から差し込む柔らかな光。
外の喧騒が嘘みたいだ。
俺は本を開いた。
────────────────
領地経営とは。
住民を豊かにし。
安全を守り。
未来を育てる事である。
────────────────
『おぉ』
思ったより真面目だった。
もっとゲーム攻略本みたいな内容かと思っていた。
ページをめくる。
────────────────
領地運営の基本
・食料
・衛生
・治安
・娯楽
────────────────
なるほど……
何のために必要なのか。
ちゃんと書かれている。
食料不足になれば不満が溜まる。
衛生面が悪ければ病気が増える。
治安が悪化すれば争いが起きる。
娯楽がなければ活気が失われる。
『なるほどな』
『領民人気ってこれか』
頭の中で線が繋がる。
人気。
満足度。
好感度。
名前は違う。
だが意味は同じだ。
領民が暮らしやすいかどうか。
それが数字で表示されているのだろう。
俺はページをめくる。
すると。
次の項目が目に入った。
────────────────
優秀な領主は全てを自分でやらない。
────────────────
『耳が痛い』
即座にそう思った。
続きを読む。
────────────────
代表者を任命せよ。
種族長。
村長。
隊長。
職人長。
信頼できる者に仕事を任せる事。
────────────────
『おぉ』
これは良い情報だった。
キャベツ。
まさに今やっている事だ。
ゴブリン達のまとめ役。
今後。
コボルトが増えたらコロ。
リザードマンが増えたらリザ。
そんな形になるかもしれない。
『やっぱ中間管理職って大事なんだな』
モエが首を傾げる。
「ちゅうかんかんりしょく?」
『偉い人と働く人の間にいる苦労人だ』
「大変そう♡」
『大変だぞ』
キャベツを見ながら言う。
今頃。
広場で胃を痛めているかもしれない。
少し同情した。
さらに読み進める。
────────────────
領地発展の近道
住民を増やす前に基盤を整えよ
────────────────
『あー』
納得した。
今の領地は。
城。
レストラン。
スーパー銭湯。
農園。
工房。
色々増えた。
だが。
住宅地はまだない。
村もない。
ゴブリン達は仮住まい状態だ。
まずは基盤。
その後で人口増加。
本はそう教えていた。
『焦るなって事か』
千人。
二千人。
そんな話を考えていた。
だが。
まずは三十人。
その三十人を幸せにする。
そこから始めろ。
そう書いてある気がした。
不思議だった。
攻略本を読んでいるようだ。
妙に納得してしまう。
その時。
リリンが隣で声を上げた。
「あっ!」
『ん?』
リリンが指差したページを見る。
そこには。
────────────────
住民満足度を上げる方法
・食事
・清潔
・安全
・交流
────────────────
と書かれていた。
「おふろあります!」
「ごはんあります!」
『あるな』
「じゃあだいじょうぶです!」
『そう単純でもないと思うぞ』
だが。
少し笑ってしまった。
確かに。
スーパー銭湯とレストランは。
かなり強い気がする。
少なくとも俺でも住みたい。
そんな事を考えながら。
俺は本を閉じた。
『なるほど』
『結構参考になるな』
攻略本。
説明書。
当たり前のようだが大切な事。
今の領地に足りないもの。
これから必要なもの。
意外と見えてくる。
そして。
本の最後には。
一文だけ。
大きく書かれていた。
────────────────
領地とは建物ではない。
人である。
────────────────
『……』
俺は少しだけ黙る。
城。
施設。
農園。
工房。
それらも大事だ。
だが。
本当に大事なのは。
そこに住む者達。
キャベツ。
コロ。
リリン。
モエ。
ゼフィー。
そして三十二人のゴブリン達。
『人か』
領民人気3%。
まだまだ先は長い。
だが。
少しだけ。
何を目指せばいいのか分かった気がした。
意外と学ぶ事がある。
時間がある時は図書館で読書も悪くないかもしれない。
ガチャで眷属を増やせない今。
頼れるのは今いる眷属と領民達だ。
眷属を増やせないなら領民を増やす。
生活を豊かにする。
領地を発展させる。
やる事は山ほどある。
『よし』
『しばらくは領地経営に力を入れるか』
領民人気3%。
まだまだ先は長い。
だが。
目指すべき方向は見えてきた。
俺は本を閉じる。
まずはゴブリン村の整備。
敵対反応の排除。
話はそこからだ。
そうして俺達は図書館を後にした。




