51話 豊穣農園と図書館
魔工房を後にした俺達は、次の施設へ向かっていた。
目的地は――豊穣農園。
名前からして農業施設だろう。
領地運営に食料は必須。
ゴブリン達も増えた。
数十人程度増えたところで、うちのレストランはデカいから平気だ。
三百人くらいは余裕で入りそうだった。
だが。
千人。
二千人。
そうなってくると話は別だ。
毎日大量の食料が必要になる。
肉だけでは足りない。
野菜も必要。
薬草も必要。
保存食だって必要になるだろう。
まだ当分先の話だ。
だが。
領民を増やすなら避けて通れない問題だった。
『食料問題か……』
どこの世界でも重要なんだな。
俺は歩きながらスマホの説明を思い出す。
豊穣農園
野菜
薬草
魔界作物
キノコ
プレイヤー知識に存在する現代作物も栽培可能。
『便利すぎるだろ……』
正直、ゲーム的な都合を感じる。
だが便利ならありがたい。
しばらく歩くと、城の外周近くに広がる広大な土地が見えてきた。
『おぉ……』
思わず声が漏れる。
広い。
とにかく広い。
畑らしき区画が規則正しく並び、中央には大きな水路が通っている。
さらに巨大な温室のような建物まであった。
『農園ってレベルじゃないな』
『完全に農業エリアだ』
リリンが目を輝かせる。
「わぁ……! みどりがいっぱいです!」
モエも感心したように口笛を吹いた。
「すご〜♡」
俺達が中へ入ると、淡い緑色の光が地面を流れているのが見えた。
魔力のようなものだろうか。
ゼフィーが説明する。
「土壌に魔力を循環させているようですわ」
「これなら成長も早いでしょうね」
『異世界でのんびりと農家をしてる人みたいにサクサク育つといいな』
俺はタッチパネルのような石碑を操作した。
すると、栽培可能な作物一覧が表示される。
栽培可能作物
・ジャガイモ
・タマネギ
・ニンジン
・キャベツ
・トマト
・ネギ
・薬草
・発光キノコ
・魔力麦
・火炎トウガラシ
『……キャベツあるじゃん』
モエが吹き出した。
「キャベツくん栽培できるね♡」
『やめろ』
『本人の前で言うなよ』
リリンはトマトを指差す。
「これ、あかくてかわいいです!」
『甘くてウマいぞ』
「ほんとですか!?」
食いつきが早い。
ゼフィーは発光キノコに興味を示していた。
「夜間照明としても使えそうですわね」
『なるほど』
俺は一覧を見ながら考える。
ジャガイモ。
タマネギ。
ニンジン。
これだけでも十分ありがたい。
カレーが作れる。
いや。
米がないか。
でもシチューやスープならいける。
それに。
スーパーストアならパックご飯やカレールーも売っているかもしれない。
『……いけるな』
ジャガイモ。
タマネギ。
ニンジン。
肉。
ルー。
全部揃えば普通にカレーだ。
レストランのビュッフェにもカレーはある。
だが。
自分達で作ってアレンジするのも面白そうだった。
辛口。
甘口。
具材違い。
魔界食材を混ぜてもいい。
『料理は自由度高いからな』
同じ料理でも作る人によって味が変わる。
それが面白い。
レストランにない家庭料理だってある。
俺の知識にある日本料理もある。
今後。
料理好きな領民が出てきたら。
ここで収穫した食材を提供して。
レシピ開発でもやらせてみたい。
保存食の研究もいい。
干し肉。
燻製。
漬物。
そういうのが作れるようになれば領地の力になる。
『同じものだけだと飽きるからな』
『食生活はバリエーション豊かな方がいい』
食事は毎日の楽しみだ。
領民が増えるなら尚更だった。
ゴブリン達を見て思う。
キャベツは周囲のゴブリン達をまとめていた。
しかも二日程度で三十匹以上。
かなり優秀だ。
『同種族で固めて管理するのは成功だな』
今後は眷属に周辺の同種族を、まとめてもらおう。
そんな感じで種族ごとに代表を置く。
その方が指示も伝わりやすい。
統率もしやすい。
領民が百人。
二百人。
千人。
そうなった時。
俺一人で管理するのは無理だ。
『中間管理職は大事だからな』
領主。
種族長。
領民。
そんな形が理想かもしれない。
まずはゴブリン村。
そこからだな。
その時、スマホに説明文が表示された。
成長速度
通常作物:3日
薬草:5日
魔界作物:2〜7日
『早っ!?』
三日で収穫。
ゲームだった。
完全にゲームだった。
だが助かる。
俺は畑の土を前足で触ってみる。
しっとりしている。
しかも暖かい。
地面そのものに魔力が流れている感覚があった。
『これなら本当に育ちそうだな』
リリンがわくわくした顔で聞く。
「まおーさま!」
「なにをうえますか?」
『まずは無難にジャガイモとタマネギかな』
「じゃがいも!」
「たまねぎ!」
リリンが嬉しそうに繰り返す。
モエは肩を竦めた。
「お肉は〜?」
『畑から肉は生えない』
「え〜♡」
「不便〜♡」
『お前の発想どうなってるんだ』
一通り見て回った後、俺はスマホを開いた。
すると、栽培エリアの割り当てができるらしい。
ゴブリン達を農業担当に設定すれば、自動で管理してくれるようだ。
『便利すぎるな』
領地運営ゲーム感がどんどん増していく。
魔王ストリートとは何だったのか。
そんな事を考えながら農園を出る。
次の目的地は図書館だ。
巨大な扉の前に立った瞬間、静かな空気が漂ってきた。
『おぉ……』
扉が開く。
中には――。
本棚。
本棚。
本棚。
そして本棚。
天井まで届く巨大な本棚が並んでいた。
『デカすぎるだろ』
リリンが口をぽかんと開ける。
「ほんがいっぱいです……」
モエはすでに欠伸をしていた。
「うわ〜♡」
「眠くなりそう♡」
俺は近くの案内板を見る。
図書館
・魔物図鑑
・魔界知識
・地図
・衣装情報
・テイム情報
・農業資料
・禁書庫
『農業の本もあるのか』
俺は適当に棚を探してみる。
すると、すぐに見つかった。
農業関連書籍
【魔界植物図鑑】
【薬草栽培入門】
【豊穣農園活用術】
『これは後でじっくり読むか』
今は施設巡りの途中だ。
だが、この図書館は情報の宝庫に見える。
魔界の歴史。
魔物の生態。
テイム情報。
地図。
もしかすると、元の世界へ帰る手掛かりすらあるかもしれない。
俺は巨大な書架を見上げながら小さく息を吐いた。
『思ったより本格的だな』
『これは一日じゃ見切れない』
静かな図書館の空気の中、俺達は次に読む本を探し始めた。
まず気になったのは魔界知識だ。
知らない事が多すぎる。
俺は適当に一冊抜き取る。
【魔界基礎知識】
『そのまんまだな』
パラパラとページをめくる。
魔界の地理。
種族。
文化。
貨幣。
食文化。
色々書かれていた。
『へぇ』
思ったより普通だった。
もっと世紀末みたいな世界かと思っていた。
だが実際は違う。
街もある。
商人もいる。
農業もある。
国もある。
戦争もある。
人間界とそこまで変わらない。
違うのは住民が魔族というくらいだった。
『魔界っていうより異世界だな』
その時。
リリンが別の本を抱えてきた。
「まおーさま!」
『ん?』
「これです!」
表紙を見る。
【魔界のお菓子図鑑】
『お前それしか見てねぇな』
「だっておいしそうです!」
ぶれない。
非常にぶれない。
モエは別の棚を漁っていた。
「おぉ〜♡」
「見て見て〜♡」
抱えているのは。
【最新ギャルコーデ特集】
『なんであるんだよ』
魔界である。
なぜかファッション雑誌が存在した。
しかも妙に充実している。
ゼフィーが小さく笑う。
「文化というものは世界が違っても似るのでしょうね」
『そういうもんか?』
「そういうものですわ」
本当だろうか。
少し怪しい。
その後。
俺は地図コーナーへ向かう。
そこには大きな魔界地図が置かれていた。
『おぉ』
今いる場所。
東地域。
黒樹海。
周辺エリア。
さらにその先。
見た事もない地名が並んでいる。
山脈。
湖。
遺跡。
魔王領。
都市国家。
『広いな……』
思っていたより遥かに広かった。
今の俺達が活動している範囲など。
ほんの一部に過ぎない。
世界はまだまだ広い。
その時だった。
ふと。
図書館の奥に目が留まる。
一般書架のさらに奥。
重厚な鉄扉。
鎖。
封印のような魔法陣。
そして看板。
【禁書庫】
『……』
『絶対あそこだろ』
俺は思わず呟いた。
こういう場所には。
大体ろくでもないものがある。
だが。
同時に。
重要な情報もある。
帰還方法。
魔王。
運営。
混沌神。
もしかしたら。
何か手掛かりがあるかもしれない。
『気になるな』
そう呟きながら。
俺は禁書庫の扉を見つめていた。




